No.5 コミュニティネットワークのためのアーキテクチャ・ミドルウェアの研究 戻る

石原謙 教授▲福井大学 桜井哲真教授

福井大学 工学部情報・メディア工学科 総合情報処理センター長 桜井哲真教授

インタビュー実施:2003年10月17日(於:福井大学 桜井研究室)

◆はじめに
 JGNの研究を通じて蓄積された動画像双方向通信技術を活用し、学内、近隣大学間でのネットワーク利用の普及に貢献していらっしゃる福井大学の桜井哲真教授を訪問しました。
 
  研究の概要

 福井県におけるネットワーク利用の普及を促進するため、その有用性を示し地域に根付かせることが必要でした。そのような状況の中、2001年に福井大学にJGNのアクセスポイントが設置されました。これをきっかけに、教育地域科学部の上田先生と協力して、高価な設備を必要とせずに教育にITを取り入れる方法に関する研究を開始しました。具体的には、JGNなどのブロードバンドネットワークを用いた理科遠隔授業の実験と教育用ストリーミングコンテンツに関する研究を行ないました。

 理科遠隔授業の実験では、大学の実験室で行なわれたレーザを使って光の速さを測定する実験をJGN経由などで配信し、県内の高校生に見てもらいました。単なる授業ではなく、高価な実験設備を利用した実験の共有である点と高校生が入れないレーザ光実験室を舞台にした臨場感一杯の体験をする点とがこれまでの遠隔授業の実験と異なる点です。この実験は、参加した高校生の評判も良くマスコミの注目も集め、新聞にも取り上げられました。

 教育用ストリーミングコンテンツに関する研究では、福井大学の授業を10分のビデオクリップ付き動画像データとしてコンテンツ化し、当研究室のホームページ上に公開しました。コンテンツの作成にあたっては教官が関与することなく、学生主導で行われている点が大きな特徴となっています。学科の全教官が公開対象になったため、TVや新聞報道がなされて、福井大学の教育改革の姿勢を示すものとして注目を集めました。

高品質TV会議システム
▲高品質TV会議システム
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これまでの成果

 教育用ストリーミングコンテンツに関する研究で作成したコンテンツは、当研究室のホームページ「覗いてみよう!情報・メディア工学科の授業風景」で公開されています。当初のコンテンツは情報・メディア工学科の授業のみでしたが、現在では建築や化学といった他の学部も積極的にこのページを通じて授業を公開しています。授業を公開した研究室に学生が集まり、研究室の活性化につながるといった具体的な成果が認められ、今後は全学を対象に授業公開が行なわれる予定です。この全学を対象とした授業公開の試みは、文部科学省からも高い評価を得ています。

 この他に、福井大学との統合が行なわれた前福井医科大学(現福井大学松岡キャンパス:16km離間)との遠隔講義やゼミでの利用を目的とした高品質TV会議システムの構築も行なっています。構築にあたっての作業はすべて当研究室によって行なわれています。

また、福井県内では6大学の単位互換制度が運用されています。多雪地域の福井では通学が困難なことが多いので、遠隔講義システムに期待されるものが多くあります。そのさきがけとして、福井大学−敦賀短期大学間での遠隔高品質動画像双方向通信による遠隔講義システムの実験も開始される運びとなっています。当研究室で構築した遠隔講義システムは低コストでの実現が可能であり、具体的な成果も見えてきているので、実験にあたって県からも積極的な協力が得られています。この遠隔講義システムの利用により、新しい学科・専攻の開設などに必要な教官の層を厚くすることが期待されています。

社会的貢献

 2003年4月から稼動している福井県全域をカバーする2.4Gbps帯域のネットワーク「福井情報スーパーハイウェイ(FISH:Fukui Information Super Highway)」の活用にあたって、広帯域ネットワークに適したコンテンツは教育機関に豊富に存在することを指摘したところ、福井県としても教育機関への動画像通信技術導入の取り組みが開始されることとなり、福井県大学ブロードバンドネットワーク研究会が立ち上がりました。

 また、大学からの研究費で実験設備を整備したビジネスベンチャーラボラトリを福井大学内に設置し、地元企業に開放しています。年々施設の利用率も高くなっており、ここを通じてJGNを利用した研究により蓄積された技術を地元企業に還元しています。ここでは、ブロードバンドネットワークを利用し、地理的に離れた場所で色、素材感を共有する技術の研究を地元企業と共同で行なっています。例えば、福井県の地場産業であるカーシート(生産量日本一)を対象に、5年後の会社設立を目指して研究を進めている方々もいます。

JGNについて

 JGNを利用した研究を通じて研究室に動画像の双方向通信技術を蓄積することができました。また、実験成果を積み重ねることにより、地域住民、大学、自治体などから高い評価を得ることができ、福井県内でのネットワーク利用拡大に大きな効果がありました。さらに、TAOを通じて信頼できる専門家との人的ネットワークが構築できた点も非常に大きな財産となっています。

 また、TAOの北陸IT研究開発支援センター(石川県辰口町)は実環境に近いネットワーク設備が充実していることもあって、いろいろと協力を仰ぎつつ積極的に利用させていただきました。

◆おわりに

 桜井研究室は、JGNを中心とした研究テーマの設定により、新設から4年目で30人の学生が研究に従事する学内最大規模の研究室に変貌したとのことです。研究室での活発な活動は、インタビュー後に見学した高品質TV会議システムのデモ準備の様子からも分かりました。人材育成の面からもJGNが大きな成果を挙げていることが実感できました。

文責:JGNウェブ編集部

関連リンク集

福井大学桜井研究室
福井情報スーパーハイウェイ

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