
▲ギガビットネットワーク
研究開発プロジェクトサブリーダー
高知工科大学教授(情報システム工学科長、情報システム工学コース長)
島村和典 教授 |
ギガビットネットワーク研究開発プロジェクトサブリーダー 島村和典 教授
高知工科大学教授(情報システム工学科長、情報システム工学コース長)
インタビュー実施:2003年4月24日(於:高知通信トラヒックリサーチセンター) |
◆はじめに
JGNの直轄研究を行っている研究拠点の高知通信トラヒックリサーチセンターでサブリーダーとして研究に従事していらっしゃる高知工科大学の島村和典教授をはじめ、加藤寛治研究員、高松希匠研究員、林秀樹研究員、神田敏克研究フェロー、菊池豊研究フェロー(高知工科大学助教授)、中平拓司さん(研究フェロー予定)にお話を伺いました。
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▲上段左から高松研究員、神田フェロー、島村教授、林研究員。下段左から中平さん、楠瀬事務員、加藤研究員 |
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通信・放送機構 高知通信トラヒックリサーチセンター(以下、高知RC)の設立について教えてください。
(島村)JGNの直轄研究で統括サブリーダーを務めていらっしゃる東京大学の青山先生もおっしゃっていたように、JGNというテストベッドを構築するにあたって、次世代のインターネットをどのように構想するか、また展開するかを通信・放送機構自らが研究を実施する直轄研究の枠組みの中で、幕張ギガビットリサーチセンター(以下、幕張RC)と同時に高知RCが設立されました。JGNという大規模なネットワークを活用して研究を行っていく上で、東京から離れた地域にも研究拠点が必要であると考えられたのではないでしょうか。また、高知RCが高知工科大学内に設置されている関係で、大学や企業とも連携して研究を行っています。
まず簡単に、高知RCでどのような研究が行われているか教えてください。
(島村)詳しくはそれぞれの研究員に話してもらいますが、P2P型共有仮想空間接続(加藤研究員)、パケットアセンブリの研究開発(神田研究フェロー)、ネットワーク制御(林研究員)、高機能テレビオンデマンドとデータベース分散(中平さん)、次世代のネットワークインタフェースカード(NIC)技術(高松研究員)など様々です。限られた人数の研究員の中で、主に次世代のアプリケーション研究とQoS研究に、フォーカスを絞った良い研究成果を出しつつあります。 |
▲Home Spaceの画面イメージ(クリックで拡大)

▲研究概要スライド1

▲研究概要スライド2 |
では、加藤研究員のP2P型共有仮想空間接続に関する研究から伺います。
(加藤)この研究は、コンピュータグラフィックスで作られ奥行きをもった空間内において、さまざまな情報を閲覧したり、他ユーザと音声や映像を使って会話することができる仮想現実感空間システムに関する研究です。高速ネットワークが実現する将来においては、ユーザ一人一人が個人の空間を持ち、それを用いて情報発信や他ユーザとの会話を楽しむようになることが考えられます。まさに、ホームページを空間の形とするいわゆるホームスペースの実現を目指しています。 膨大な数の個人空間が作成されるためには空間相互の連絡、リンク方式が鍵を握ると考えました。これまでは空間相互のリンクにおいても、ホームページで使われていたのと同様に頁をめくる形式のリンクが使われてきました。しかし、空間の場合には空間内をユーザが3Dアバタの化身をもって移動したり、他ユーザと会話したりといった時間経過と共に変化する情報が大きな割合を占めてきます。そのようなリアルタイム情報を獲得し、リンク先空間への移動を容易かつスムーズに実現する新しいリンク方式が必要になると考え実現しました。新しいリンク方式はドラえもんの「どこでもドア」に例えることができます。行きたい空間へ通じる「ドア」を空間内のどこにでも設置可能で、「ドア」を通してリンク先空間内の情景を見られるとともにウォークスルーによりリンク先空間へスムーズに移動できます。このリンク方式は双方向とすることによって空間同士を相互に接続する機能要素として使えることを確認しています。今後は、ユーザ端末がネットワーク上で互いにPeer-to-Peer接続して複数人で個人空間を提供し合い、相互に連結して共同の仮想空間を構築するシステムへと仕上げる予定です。
(島村)この研究は、未来のホームページになるという期待のもとに始めた研究です。マルチメディアの次はフルメディアになるだろうと考えました。さらに、フルメディアにおいては、コンピュータグラフィックも駆使するのが当たり前になるだろうと考えました。
Home Space構築に関する研究 |
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次に、神田研究フェローのQoSに関する研究について教えてください。
(神田)簡単に言うと、IPで流れるパケットのうち、細切れになってしまったパケットをもう一度一つのパケットに集めなおして、ルータの交換の負荷を軽減しようというものです。現在、インターネットで利用されている技術では、パケットサイズを細分化させる機能は実装されていますが、私が高知工科大学の学生たちと共同研究し、開発したようなパケットサイズを集約(アセンブリ)する機能は実装されていません。
例えば、イーサネットでは1,500バイトのパケットに分けて送信しますが、この1,500バイトより小さいサイズのものも少なくありません。しかも、さらに大きいパケットサイズを扱えるコアのネットワークでも、小さくなってしまったパケットを一つ一つ行き先を確認するため、プロセッサに対する負荷が大きくなってしまいます。トラフィックの伸びは、プロセッサの性能の伸びよりだいぶ大きいので、今後プロセッサの負荷を軽減する技術開発はますます重要になるだろうと考えています。
私たちが開発した、PASTA(Packet Assembly System by TAo) は、インターネットエクスチェンジ(IX)近傍などコアのネットワークでまず効果を発揮するだろうと考えています。また、VoIP(Voice
over IP)など高いリアルタイム性を要求するパケットについては、あえて集約せずに素早く素通りさせてしまう技術も実装しています。類似の研究は他の大学でも例がありますが、製品化レベルまで到達できたのはTAOの直轄研究だからこそですね。また、特許にも申請済みです。
QoSの研究とは
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たしか神田研究フェローは受賞されたと伺っています。
(島村)2001年度の、IEEEの国際会議で、CQRコントリビューションアワードという賞をいただきました。
神田研究フェローは、JGN運用開始時から平成14年10月まで研究員でいらっしゃいましたね。
(神田)はい。現在はPASTAを改良中ということもあり、引き続き研究を行っています。パケットにラベルをつける技術という意味で、MPLS(Multi Protocol Label Switching)とも似ています。しかし、MPLSはIPより低いレイヤの技術ですが、私の行っている研究はIP技術によるものですので基本的な部分から異なっています。なかなか興味深い技術ですので、国際標準に提案することも検討しているのですが、そこまでは手が回っていないのが正直なところです。 |
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林研究員の研究テーマも、QoSですね。「自律抑制型フロー制御によるネットワーク性能の改善」
という研究について教えてください。
(林)私の研究も神田研究フェローと同じQoSですが、アプローチが異なります。ネットワークの研究を大きく分けると、伝送技術の研究(<線>の研究)と、ノード技術の研究(<点>の研究)に分類することができますが、伝送技術については光技術を中心に進みました。一方、ノード技術についても、ギガビットルータが登場するなど非常に進展しましたが、逆にこの進展によって、ネットワーク内に高速ノードと低速ノードが混在する状況が生まれてきています。高速なルータだけでネットワークを構築するのが理想的ですが、現実的には一斉に低速なルータがなくなるわけではありません。特に問題になるのは、高速ノードに挟まれた形態で低速ノードが存在する場合に、送り手側が、最終的な受け手側のスペックだけを見て大量のパケットを投げてしまいます。私の提案は、送り手側が最終的な受け手側のスペックに加えて、隣の様子も少し配慮して送信するというロジックを組み込もうというものです。シミュレーション上ではとても良い成果が得られましたので、実証実験の準備を進めているところです。「自律抑制型フロー制御方式」として特許も出願しました。 |
▲高知RCには、スタジオ施設があります。(クリックで拡大) |
高機能テレビオンデマンド技術に関する研究とはどのような研究ですか?
(島村)この研究に取り組んでいる中平さんは、現在は高知工科大学のドクターですが、研究フェローとして戦力になっていただこうと考えている方です。高知県はつい最近まで、民放テレビのチャンネルはわずか2つしかありませんでした。したがって、東京などで放映される番組をうまく組み合わせて配信するニーズがあるのではないかと考えています。幕張RCと同様に高知RCにもスタジオ設備がありますから、高知県の放送局の方と連携して既存の設備を活用したいとも思っていました。今のところ、共同研究には至っていませんが、非常に高く興味を持っていただいています。
(中平)現在は、テレビオンデマンドのための基礎技術になる、分散したデータベースに関する研究を進めています。この分野は、コンテンツデリバリーネットワーク(CDN)と呼ばれる、ネットワークとストレージにまたがった研究領域です。現状の動画配信では、ネットワークが混雑すると配信品質を落としていきますが、ネットワーク上に分散配置されたコンテンツから配信を受けることで、品質を維持しようというものです。配信途中に品質が劣化したときに、複製がある他のサーバからユーザ端末までの経路のQoSを調べ、コンテンツの本来の品質が維持できる経路があれば、以後の配信をそのサーバにお願いします。あるいは複数のサーバが連携して各経路のQoSに合ったレートで配信を分担するといった処理を行ってコンテンツ本来の品質を下げずにユーザに提供できないかという着想です。 |
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高松研究員の研究テーマ「データ駆動型分散処理システムを駆使した超高速通信転送機構の研究」
とはどのようなものでしょうか。
(島村)簡単に言うと、次世代のネットワークインタフェースカード(NIC)を研究開発していると考えていただければ良いと思います。端末にビデオカメラを接続するだけで簡単に高品質な動画像の通信が可能になるようなものを目指して開発しています。
(高松)データ駆動型プロセッサ(DDP)は、並列処理コンピューティングの一種で、一般的なノイマン型プロセッサ(プログラムをデータとして記憶装置に格納し、これを順番に読み込んで実行する方式)に対する概念です。DDPは、データの中に、命令を組み込んであり、並列処理に係わるオーバヘッドを極小化します。ノイマン型プロセッサでは、一般的に複数のプロセッサを使ってパイプライン処理で並列処理を行いますが、どうしてもパイプラインストール(パイプラインが滞ること)が発生しますが、DDPではこのような現象は発生しません。私が研究対象に扱っている動画像伝送処理では、並列処理をいかに効率的に行えるかによって性能の違いを見ることできます。現在、動画像伝送に利用されることが多いMPEG等の配信形式に比べて、応答性が良いことが特長です。
超ギガビットネットワーク構築に関する研究 |
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高知RCの研究開発活動の自己評価はいかがでしょうか?
(島村)JGNの研究の拠点として、ブロードバンド時代のQoS研究と、アプリケーション研究にフォーカスを当てた研究を進めることができたと考えています。先ほど申し上げたPASTAやいくつかの特許などもありますが、残り約1年で様々な研究成果を集大成していこうと考えています。東北大学分室では、東北大学と共同でネットワーク計測に関する研究などを実施し良い成果を上げていますが、高知RCも高知工科大学内に設置されたことは良かったと考えています。なぜなら、社会人である研究者にとって学生との交流は刺激になりますし、卒業論文や修士論文の研究との連携で研究を進めることにも役立っています。
また、これまで高知RCには多くの方々が見学に来ています。JGN利用の広がりにも貢献できたのではないでしょうか。
将来の研究開発テストベッドに対する期待はいかがでしょうか?
(島村)JGNの場合、直轄研究によって研究のコアができ、公募研究や一般利用で広がりができたことで、JGNがテストベッドとしてうまく機能できたのではないでしょうか。ネットワークの研究は、実際に動くものを使いながら進めていくことが重要ですから、JGNのプロジェクトが終了した後も良い形で次の研究開発テストベッドに引き継がれることを期待しています。江崎先生を中心としたJGN上でのIPv6の研究など、内外からの評価が高い活動もぜひ残すべきではないでしょうか。 |
▲珍しい緑色の花を咲かせる桜(御衣黄) |
ところで、高知工科大学はずいぶんきれいなキャンパスですね。
(菊池)国立大学や県立大学では建物一つとっても規制が多いそうですが、ここは私立大学なのでキャンパスの美しさにはかなりこだわって整備しています。
(島村)高知工科大学は、公設民営の私立大学です。当初県立の工科大学として考えられたようですが、運営の自由さなどを考慮して、私立大学という形態をとったというのが実態です。橋本大二郎知事が自ら理事長を務めており、設立後も県からの財政支援を含めた支援は続いています。公設民営という形態は、会津大学に続いて全国で二番目です。会津大学や高知工科大学が成功しつつあるのを見て、後に続くところも多いようです。高知県は、一次産業が中心で産業構造が古いため、最近では、新規産業を興すべく、特にITには熱心に取り組んでいます。 |
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◆おわりに
お忙しい中、ほぼ半日以上を費やして研究内容や設備の紹介をしてくださった島村先生をはじめ、皆様に厚く御礼申し上げます。事務員の楠瀬さんによると、高知RCがある高知工科大学は、もともと林業試験所があったところでいろいろな珍しい木が植わっていて、キャンパスが美しいので、市内で結婚式を挙げた人たちが記念写真を撮りに大学に来るほどだそうです。もし、まだ訪問されていない方は、一度、足を運ばれてはいかがでしょうか。
文責:JGNウェブ編集部 |
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