Vol.21 超高速バックボーンへの地域集約接続アーキテクチャとその利用に関する研究
               (JGN-P12543)
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岡村耕二 助教授

▲九州大学大学院情報基盤センター 岡村耕二 助教授

 

 

QGPOPのネットワーク構成図

▲QGPOPのネットワーク構成図(クリックで拡大)

 

 

▲佐賀大学理工学部知能情報システム学科 渡辺健次 助教授

▲九州産業大学情報科学部社会情報システム学科 下川俊彦 助教授

▲九州大学大学院情報基盤センター 笠原義晃 助手

▲(財)九州システム情報技術研究所 森岡仁志 研究員

▲(株)インターネットイニシアティブ 九州支店技術部  川島義博 氏

▲ルート株式会社 開発部  稲田文武 氏

〜九州ギガポッププロジェクトQGPOP〜
  九州大学大学院情報基盤センター 助教授 岡村耕二先生
  佐賀大学理工学部知能情報システム学科 助教授 渡辺健次先生
  九州産業大学情報科学部社会情報システム学科 助教授 下川俊彦先生
  九州大学大学院情報基盤センター 助手 笠原義晃先生
  財団法人九州システム情報技術研究所 森岡仁志研究員
  株式会社インターネットイニシアティブ 九州支店技術部 川島義博氏
  ルート株式会社 開発部 稲田文武氏
インタビュー実施:2003年 6月 12日(於:財団法人九州システム情報技術研究所)

◆はじめに

 JGNのアクティブな利用が多い九州で、とりわけ多様な活動を実施している九州ギガポッププロジェクト(以下、QGPOP)について、研究会の開始前の貴重な時間をいただいて、その活動について伺いました。

研究員のみなさん
▲後列 左から三番目 岡村先生、
順に 渡辺先生、川島氏、稲田氏
前列 左から二番目 下川先生、
順に 森岡研究員、笠原先生
QGPOPとはどういうものなのでしょうか?
(岡村)QGPOPの「POP」という言葉ですが、米国では、アクセスポイントと呼ばずに、POP(Point of Presence)という表現が良く使われます。これは、ISPが提供するアクセスポイントと同じものを指す場合も多いですが、相互接続点のニュアンスが強くなります。
 QGPOPの特徴は、複数のバックボーン回線への接続を可能とするアーキテクチャを採用している点です。通常のインターネット用のアクセス回線を利用しながら、ATMの仮想回線(VC)やMPLS、WDMなどを活用することができます。
 さらに、もう一つの特徴は、独立した自律システム(AS:Autonomous System)を構成しているので、他の研究ネットや商用ネットとBGP(Border Gateway Protocol)で外部接続することができる点です。
 インターネットの普及で日常的に利用できるネットワーク環境は整いましたが、その反面、インターネットを研究開発に使うことが難しくなってきています。次世代のネットワーク技術の研究開発には、研究者自身が自由にオペレーションできる環境が不可欠です。その意味で、特に低レイヤかつオペレーションが可能なテストベッドは重要であり、QGPOPはそのための要求条件を備えているといえます。
QGPOPのコミュニティとしての特徴はどのようなものがありますか?

(笠原)QGPOPの立ち上げに尽力された平原正樹さん(現CRL主任研究員)は、「住みやすい田舎」というキャッチフレーズをよくおっしゃっていました。例えば、オンラインカンファレンスも日常的に活用しますが、フェースツーフェースで膝をつきあわせた会議も行っています。最初はいろいろ試行錯誤をしたのですが、だいたい月に1回ずつオンラインとオフラインの会議を行うことが、QGPOPのコミュニティでの習慣になりました。このコミュニティがうまく運営されている秘訣はこういうところにあるのではないかと思っています。

(渡辺)QGPOPに関わっている人々は、私自身もそうですが、一度九州から離れて戻ってきた方が多いと思います。いろいろな地域で吸収してきたものが花開いている感じがします。

(岡村)関係者同士も雰囲気が良く、一般的な上下関係があまりないのも特徴だと思います。また、民間企業などが出資をしていないので、手作り感覚で運営しています。

QGPOPのこれまでの活動の経緯を教えてください。

(渡辺)QGPOPの立ち上げは平原先生が行いました。1989年頃にWIDEプロジェクトが九州に上陸する際に、村井先生と親交のあった荒木先生のところに話がきたのですが、その荒木先生の研究室に所属していた平原先生がネットワークの運用をしたことがありました。QGPOPのコミュニティの原点はそこにあるといえます。単純に使えれば構わないというサービスネットワークではなく、実際に研究者が触ることができて、オペレーションできるネットワークが必要だというところからスタートしています。

(岡村)「超高速バックボーンへの地域集約接続アーキテクチャとその利用に関する研究」として、TAOの公募事業としてスタートしたのが2000年の5月くらいです。その年の11月には当初のメインNOCを設置していた、九州大学、(財)九州システム情報技術研究所(以下、「ISIT」)、NTT天神が稼働を開始してコアが形成されました。その後、日本テレコム(株)との共同研究が始まり、九大とISITの接続を変更するなど、ネットワークトポロジは徐々に変わっています。さらに、大学、研究所、IT関連企業、放送局など多様な参加機関で構成されているのが特徴です。これまでにオンラインカンファレンスやモバイル実験、ストリーミング実験などを行なってきました。玄海プロジェクトという、韓国・釜山−福岡、釜山−北九州のネットワーク接続を行うものもQGPOPのコミュニティの流れを汲んで立ち上がったものです。

今日、参加してくださっている皆様の役割を教えてください。

(森岡)私はISITに所属しています。ISITには、QGPOPの代表である荒木先生がいらっしゃいます。また、平原先生もCRLに転属される前に在籍していました。私は、QGPOPの活動には途中からの参加で、主に無線系の実験を担当しています。

(川島)私はIIJとしてQGPOPの最初から参加しており、商用ネットワーク部分を担当しています。

(稲田)私は、荒木先生の研究室出身ですが、ルートの九州支社に配属されたこともありQGPOPに参加しています。現在、福岡モバイルブロードバンド(以下、「FMBB」)という実験プロジェクトに携わっており、FMBBもQGPOPのネットワークを活用して一体的な実験を行っています。

(下川)私は、主にコンテンツ配信の研究を行なっています。tenbinというDNSを活用したコンテンツ負荷分散配信ソフトウェアの研究開発を行なっており、これまでにライブユニバースやライブエクリプスの実験に参加しました。

(笠原)九州大学情報基盤センターで学内ネットワークの運営を担当しています。QGPOPは、初期の頃から参加しており、2001年に福岡で開催された第9回世界水泳選手権大会の際に実施したモバイルIP実験のリーダを務めました。

(渡辺)私は、1992年に構築されたKARRN(九州地域研究ネットワーク)というコミュニティに係わった関係で平原先生と知り合いました。その後、和歌山大学に移り、1999年に佐賀大学に帰って来ました。佐賀は田舎で目立った産業があまりないところですが、博多から30分の距離ということもあり意外と利便性は良いです。遠隔講義では、和歌山大学、宮崎大学、大分大学への教育でJGNを実際に活用しています。さらに、今年度からは長崎大学の講義も受け持つことになりましたが、すべて遠隔講義で実施しています。DVTSをベースにした講義システムを使用しているですが、板書情報をイメージとして送信する機能を追加した点が好評で常に活用しています。また、広島大学の相原先生、広島市立大学の前田先生と遠隔合同ゼミも行なっています。

ところで、佐賀はネットワークの研究に熱心というイメージがありますね。

(渡辺)やはり、ITで産業振興をしたいという想いがあります。佐賀銀行や佐賀新聞、佐賀テレビ、FM佐賀といった地元の有力なプレイヤーがお互い距離的に近いところにいるということもあり、実行力があるのではないでしょうか。
 また、マスメディアのネットワーク利用には様々な形態が考えられます。例えば、地方のテレビ局の放送を見たいと思っている人は全国各地にいるものと考えられます。そこにローカルニュースをインターネット配信する意義があります。QGPOPメンバーであるFBS福岡放送では、ボクシングジムと提携してテレビで放映されない試合の放映権を取得してインターネット配信を行ったりしています。

今後のQGPOPの活動はどのような展開を考えていらっしゃいますか?
(岡村)日韓でネットワーク接続をして様々な活用をしていくという点では玄海プロジェクトが立ち上がりました。このプロジェクトには自治体等の事務系の方が参加して“フォーマル”な活動が展開されています。対照的に、QGPOPではネットワーク研究者のコミュニティとして若手が中心になって自由な雰囲気の中で活発に活動していきたいと考えています。  
 
 
JGNに対する評価はどのようなものでしょうか?
(岡村)そもそもJGNがあったおかげで、QGPOPの活動を実施できたので、非常に良かったと思います。JGNはレイヤ2で利用できたこともあり、QGPOPが所有している自前のAS番号やクラスBのアドレスを活用しながら、自分たちでオペレーションを行える点はネットワークの研究において非常に都合が良かったと考えています。JGNv6については、イーサネットのインタフェースを実装しているため、いつでも思い立ったときにすぐ接続して研究できる点が良いと思います。
 また、東京から九州へワンホップでつながるという点も良かったと思っています。ネットワークの研究上は、任意の地点で論理的なパスが設定できることが望ましいので、この点も良かったですね。

(下川)私も、レイヤ2で利用できた点が研究の上では重要だったと思っています。また、広帯域で利用できるにも関わらず、JGNを無料で使えた点が研究上大きかったと思います。

JGNが人材育成に役立ったという例はありますか?
(岡村)例えば、ここにいる稲田さんの場合にも、大学在学中から今に至るまで非常に成長した良い例だと思います。

(稲田)ルータのオペレーションをする機会があったことは貴重でした。特に、第9回世界水泳選手権大会でルータのデバッグ等を担当して、スキルが上がった実感があります。やはり、自分で触れられる本物のネットワークがあるのとないのとでは、効果がまったく違います。

(渡辺)ネットワークの設計・開発は大手の企業が行う場合でも、運営フェーズになると地場の企業がオペレーションするケースが出てきています。こういう点を考慮しても、実際に運営できる自信を持った技術者を養成した効果は大きかったと思います。

今後のテストベッドに対する期待はどのようなものがありますか?
(渡辺)地方では、上流プロバイダの方針により受ける影響が非常に大きくなります。また、NAT(Network Address Translation)のネットワークではアプリケーションの開発が困難であるという問題があります。このような問題に影響されることなく研究できる点からも、継続的なテストベッドの運用を期待しています。

(下川)JGNについては、申請手続がもう少し簡素だとさらに良かったです。大学の事務局も人事異動が多いため、契約事務手続の説明をするだけでも結構大変ですから。

(岡村)私も手続が簡単になると良いという点に関しては同意見です。JGNは当初閉じたネットワークであって、限定されたことしかできないという誤解がありました。今後のテストベッドについては、利用規約等についてもう少し分かりやすく、使いやすくなると良いと思います。

(稲田)無線インフラによるアクセスが充実すると良いと思っています。

(渡辺)九州ギガビットラボ周辺の大学は積極的に活用していると伺っています。アクセスポイントの整備と、研究拠点の整備の両面で考えていただけると良いと思います。

 
  ◆おわりに

 インタビューが概ね終わると、韓国の研究者が合流してきて、俄然インターナショナルな雰囲気になりました。日本のインターネット黎明期からのスピリットを受け継いだ研究コミュニティがますます発展している様がよく分かりました。お忙しいところ、活発な発言をいただいた皆様に感謝いたします。

文責:JGNウェブ編集部

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