QGPOPとはどういうものなのでしょうか?
(岡村)QGPOPの「POP」という言葉ですが、米国では、アクセスポイントと呼ばずに、POP(Point
of Presence)という表現が良く使われます。これは、ISPが提供するアクセスポイントと同じものを指す場合も多いですが、相互接続点のニュアンスが強くなります。
QGPOPの特徴は、複数のバックボーン回線への接続を可能とするアーキテクチャを採用している点です。通常のインターネット用のアクセス回線を利用しながら、ATMの仮想回線(VC)やMPLS、WDMなどを活用することができます。
さらに、もう一つの特徴は、独立した自律システム(AS:Autonomous System)を構成しているので、他の研究ネットや商用ネットとBGP(Border
Gateway Protocol)で外部接続することができる点です。
インターネットの普及で日常的に利用できるネットワーク環境は整いましたが、その反面、インターネットを研究開発に使うことが難しくなってきています。次世代のネットワーク技術の研究開発には、研究者自身が自由にオペレーションできる環境が不可欠です。その意味で、特に低レイヤかつオペレーションが可能なテストベッドは重要であり、QGPOPはそのための要求条件を備えているといえます。
QGPOPのコミュニティとしての特徴はどのようなものがありますか?
(笠原)QGPOPの立ち上げに尽力された平原正樹さん(現CRL主任研究員)は、「住みやすい田舎」というキャッチフレーズをよくおっしゃっていました。例えば、オンラインカンファレンスも日常的に活用しますが、フェースツーフェースで膝をつきあわせた会議も行っています。最初はいろいろ試行錯誤をしたのですが、だいたい月に1回ずつオンラインとオフラインの会議を行うことが、QGPOPのコミュニティでの習慣になりました。このコミュニティがうまく運営されている秘訣はこういうところにあるのではないかと思っています。
(渡辺)QGPOPに関わっている人々は、私自身もそうですが、一度九州から離れて戻ってきた方が多いと思います。いろいろな地域で吸収してきたものが花開いている感じがします。
(岡村)関係者同士も雰囲気が良く、一般的な上下関係があまりないのも特徴だと思います。また、民間企業などが出資をしていないので、手作り感覚で運営しています。
QGPOPのこれまでの活動の経緯を教えてください。
(渡辺)QGPOPの立ち上げは平原先生が行いました。1989年頃にWIDEプロジェクトが九州に上陸する際に、村井先生と親交のあった荒木先生のところに話がきたのですが、その荒木先生の研究室に所属していた平原先生がネットワークの運用をしたことがありました。QGPOPのコミュニティの原点はそこにあるといえます。単純に使えれば構わないというサービスネットワークではなく、実際に研究者が触ることができて、オペレーションできるネットワークが必要だというところからスタートしています。
(岡村)「超高速バックボーンへの地域集約接続アーキテクチャとその利用に関する研究」として、TAOの公募事業としてスタートしたのが2000年の5月くらいです。その年の11月には当初のメインNOCを設置していた、九州大学、(財)九州システム情報技術研究所(以下、「ISIT」)、NTT天神が稼働を開始してコアが形成されました。その後、日本テレコム(株)との共同研究が始まり、九大とISITの接続を変更するなど、ネットワークトポロジは徐々に変わっています。さらに、大学、研究所、IT関連企業、放送局など多様な参加機関で構成されているのが特徴です。これまでにオンラインカンファレンスやモバイル実験、ストリーミング実験などを行なってきました。玄海プロジェクトという、韓国・釜山−福岡、釜山−北九州のネットワーク接続を行うものもQGPOPのコミュニティの流れを汲んで立ち上がったものです。
今日、参加してくださっている皆様の役割を教えてください。
(森岡)私はISITに所属しています。ISITには、QGPOPの代表である荒木先生がいらっしゃいます。また、平原先生もCRLに転属される前に在籍していました。私は、QGPOPの活動には途中からの参加で、主に無線系の実験を担当しています。
(川島)私はIIJとしてQGPOPの最初から参加しており、商用ネットワーク部分を担当しています。
(稲田)私は、荒木先生の研究室出身ですが、ルートの九州支社に配属されたこともありQGPOPに参加しています。現在、福岡モバイルブロードバンド(以下、「FMBB」)という実験プロジェクトに携わっており、FMBBもQGPOPのネットワークを活用して一体的な実験を行っています。
(下川)私は、主にコンテンツ配信の研究を行なっています。tenbinというDNSを活用したコンテンツ負荷分散配信ソフトウェアの研究開発を行なっており、これまでにライブユニバースやライブエクリプスの実験に参加しました。
(笠原)九州大学情報基盤センターで学内ネットワークの運営を担当しています。QGPOPは、初期の頃から参加しており、2001年に福岡で開催された第9回世界水泳選手権大会の際に実施したモバイルIP実験のリーダを務めました。
(渡辺)私は、1992年に構築されたKARRN(九州地域研究ネットワーク)というコミュニティに係わった関係で平原先生と知り合いました。その後、和歌山大学に移り、1999年に佐賀大学に帰って来ました。佐賀は田舎で目立った産業があまりないところですが、博多から30分の距離ということもあり意外と利便性は良いです。遠隔講義では、和歌山大学、宮崎大学、大分大学への教育でJGNを実際に活用しています。さらに、今年度からは長崎大学の講義も受け持つことになりましたが、すべて遠隔講義で実施しています。DVTSをベースにした講義システムを使用しているですが、板書情報をイメージとして送信する機能を追加した点が好評で常に活用しています。また、広島大学の相原先生、広島市立大学の前田先生と遠隔合同ゼミも行なっています。
ところで、佐賀はネットワークの研究に熱心というイメージがありますね。
(渡辺)やはり、ITで産業振興をしたいという想いがあります。佐賀銀行や佐賀新聞、佐賀テレビ、FM佐賀といった地元の有力なプレイヤーがお互い距離的に近いところにいるということもあり、実行力があるのではないでしょうか。
また、マスメディアのネットワーク利用には様々な形態が考えられます。例えば、地方のテレビ局の放送を見たいと思っている人は全国各地にいるものと考えられます。そこにローカルニュースをインターネット配信する意義があります。QGPOPメンバーであるFBS福岡放送では、ボクシングジムと提携してテレビで放映されない試合の放映権を取得してインターネット配信を行ったりしています。
今後のQGPOPの活動はどのような展開を考えていらっしゃいますか?
(岡村)日韓でネットワーク接続をして様々な活用をしていくという点では玄海プロジェクトが立ち上がりました。このプロジェクトには自治体等の事務系の方が参加して“フォーマル”な活動が展開されています。対照的に、QGPOPではネットワーク研究者のコミュニティとして若手が中心になって自由な雰囲気の中で活発に活動していきたいと考えています。
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