
▲麗澤大学
情報システムセンター長
国際経済学部 教授
林英輔 先生
林先生は、1998年3月まで山梨大学におられ、1998年4月より流通経済大学、2000年4月からは現在の麗澤大学で教鞭をとっていらっしゃいます。 |
麗澤大学 林英輔教授
インタビュー実施:2001年4月16日 |
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ネットワークは人なり
記念すべき第1回のJGNプロジェクト紹介では「地域間相互接続実験プロジェクト」を推進しておられる千葉県柏市にある麗澤大学の林英輔教授を訪問しました。
林先生は、日本のインターネット黎明期から一貫してユーザーの視野を持った実践的ネットワーク研究者として活躍されておられます。林先生はもともとの専攻は計算物理ですが、リモートバッチシステムの時代からネットワークに関する苦労を重ねられた経緯を経て、ネットワークへ研究の焦点を移していかれたとのことです。「ネットワークは人なんですよ」と、おっしゃられる先生は、単なる通信の研究の延長だけではネットワークはできないとの考え方をもっておられます。ネットワーク分野の研究には豊富な経験と人間性が必要だということでしょうか。
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▲麗澤大学情報システムセンター内サーバールーム
地域IXとは:
IX(Internet eXchange)とは、複数のインターネットサービスプロバイダや学術ネットワークを相互に接続するインターネット上の相互接続ポイントのことを言います。高速道路で言えばジャンクションに当たります。
地域IXは、地域の情報を地域でルーティングして、インターネット全体の負荷を軽減しようというものです。

▲遠隔教育の実験にも利用可能な2画面のプロジェクター付き教室 |
日本における地域IXの誕生とJGNプロジェクト
日本における地域IXの産みの親である林先生にそのいきさつをお話していただきました。
山梨大学ご在籍時、地域企業等間のコネクティビティについて研究をすすめられ、山梨地域インターネット協会(YACC)というネットワークを構築してネットワーク間接続について研究に着手されました。そして、1995年10月のYACC設立1周年記念イベントにおいて、米国における地域IXの事例などへの研究を踏まえ、地域IXの重要性について講演されました。この講演を聞いた山梨県庁の担当者の協力も得て、学術系ネットワークのTRAIN山梨(Tokyo
Regional Academic InterNetwork)とYACCの相互接続を行う山梨地域情報ネットワーク相互接続機構(Y-NIX)を設立する運びになったそうです。これが日本の地域IXの誕生と言ってよいのではないか、とのことでした。
その後、富山県、岡山県などそれぞれ特徴のある地域IXが発展し、地域IXを互いに接続して実験を進めたいという流れが生まれました。 その際、ネックとなったのはバックボーンを如何に確保するかという問題でしたが、時期を同じくしてJGNの整備が開始されました。地域IXの研究者達にとって、JGNがニーズに合致しているのは明らかでした。そういう意味でも、JGNは、地域IXの発展にとって都合が良かったと先生はおっしゃっておられました。 さて、地域IXの研究者たちにとって、JGNを利用する形態についてはいろいろ地域による事情がありました。特に、JGNの運用前に新宿で開かれた会合には、地域IXの研究者はもちろん、インターネット黎明期からの有力な研究者や、東京のインターネット技術者などが一同に会し、会議場は大変な熱気につつまれたそうです。
この会合を経て、富山の地域IX等で活躍しておられる中川郁夫氏(インテック・ウェブ・アンド・ゲノムインフォマティックス株式会社)らの尽力もあり、「地域間相互接続実験プロジェクト」が立ち上がりました。いまでは、JGNプロジェクトの中でも屈指の広がりを持つものの一つとなっております。
地域IXプロジェクトの成果例とギガビットネットワークの利点
ネットワークの実証研究は、もともと研究成果になりにくい分野だと言われています。それでも、林先生自身の働きかけもあり、情報処理学会に分散システム/インターネット運用技術研究会が組織されるようにもなって、昔よりは論文として認められやすくなっているとのことでした。
査読論文として、山梨県立女子短期大学の八代一浩氏らの「地域IXを用いた通信環境改善手法の実現と評価」などがあります。この研究の内容は地域IX相互間のバックボーンが太ければ東京を経由するよりよくなるのは当然だが、実際には東京に行く回線の方が圧倒的に太く、通信速度だけを考えると地域IXのメリットは小さい。しかし、通信の安定性の視点で評価すると、回線は細くても地域IXの利点が現れることを、実証的に示しているということです。
地域IXは、通信ネットワークの技術的観点だけでなく、人を育てること、視野を広げることなど、社会的意義が大きいと林先生は強調しておられました。
また、今回JGNを利用できてよかったこととして、ブロードバンドにおける運用性の検証ができたことを挙げていただきました。例えば、MPEG2で圧縮したデジタルビデオデータを映像としてみる場合、伸長のために0.5秒かそれ以上の遅延時間を要するので、国体の映像中継のような片方伝送の場合の利用なら問題とならないが、講義やパネル討論などの対話型のやりとりを要する場合には、遅延のために興が削がれてしまいます。
このように、今後ネットワークアプリケーションの開発にとって、重要な意味を持つ、具体的知見の集積が進んでいるという指摘がありました。
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今後のJGNに期待すること
JGNの今後の発展に期待することとして、次世代ブロードバンド(Next Broadband)のテストベッドというコンセプトを挙げられました。
バックボーンを光ファイバーで構築し、アクセス網も光ファイバーという環境で研究を行っていきたいとおっしゃっておられます。オール光のネットワークになったとき、果たして、今使われているプロトコルのどこが問題になるか、など、今から問題の所在を予言しておられる先生方もいるそうで、このような研究のできるテストベッドが大きな意義を持つだろうということです。
今後の研究テーマ
林先生御自身が取り組みたい、都市間交流のネットワークという研究テーマについても伺いました。
現代の都市生活においては、市町村などの行政区域と住民の生活圏が一致しないケースがあります。それは、地域のネットワークは市町村単位で整備されていることが多く、住民の生活圏の境界とは一致しないためです。しかし、生活圏に一致させてネットワークを構築していこうとすると市町村の行政区域を超えて地域ネットワークを構築する必要性が出てくるのだそうです。 |
▲麗澤大学のキャンパスは芝生に覆われています。

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◆おわりに
緑の芝生が敷き詰められていて、欧米の大学を思わせる美しいキャンパスの中で、インタビューを行なわせていただきました。コンピュータを教育の中に積極的に取り入れるという麗澤大学のネットワーク環境についても案内していただきました。サーバールームでは、地域貢献型インターネットサービスを行なうNPO・柏インターネットユニオン(KIU)の機器も併設されていて、地域貢献への実践を通じたネットワーク教育の現場の一端を案内していただきました。
やはり、ネットワーク研究は、現場とのつながり、技術を持った研究者、回線の3つが確保されて、はじめて前進していくものだ、と、納得させられる取材でした。
貴重な時間を割いて丁寧な応対をしてくださいました林英輔先生、麗澤大学情報システムセンターのスタッフの皆様に感謝いたします。
文責:JGNウェブ編集部 |
関連リンク集
麗澤大学
山梨地域インターネット協会(YACC)
山梨県の地域IX:Y-NIX
情報処理学会「分散システム/インターネット運用技術」研究会
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