Vol.2 コンテンツロジスティックのためのインテリジェント・メディアハブ・プラットフォームの研究開発(JGN-G1107) バックナンバー

下條真司 教授
▲大阪大学 大阪大学サイバーメディアセンター副センター長
下條真司 教授

山口陽一氏
▲NTT西日本 山口陽一氏

吉田幹氏
▲新日鉄ソリューションズ株式会社 吉田幹氏

篠崎公則氏
▲NTT西日本 篠崎公則氏

 

*1 QoS (Quality of Service)
ネットワーク上で、帯域を確保し、一定の通信速度等の品質を保証する技術。
動画等が商品として配信されるためには不可欠な技術である。

大阪大学 下條真司教授
NTT西日本 篠崎公則氏、山口陽一氏
新日鉄ソリューションズ株式会社 吉田幹氏
インタビュー実施:2001年5月14日(於:NTT西日本ソリューションラボ)
◆はじめに

 今月は、大阪大学の下條真司先生を訪問し、コンテンツ配信の研究プロジェクトについて紹介いただきました。また、プロジェクトのチームメンバーであるNTT西日本の篠崎公則氏、山口陽一氏、新日鉄ソリューションズ株式会社の吉田幹氏にも同席いただきました。

 下條先生のグループの活動は、サイバー関西という団体を抜きに語ることはできません。
サイバー関西は、会社などの法人格組織ではありません。NPOの認定もまだ受けていない任意団体です。しかし、コンテンツとネットワーク両方を視野に入れたユニークな活動で有名な存在です。サイバー関西については、雑誌『Unix Magazine』(2000年2月〜連載中)での下條先生の連載記事がわかりやすく紹介されています。サイバー関西の活動、または、QoS関連など次世代インターネットの中心技術について興味がある人はぜひご覧ください。

サイバー関西の人的ネットワークはそもそもどのように広がったのでしょうか?

(下條教授) まず、APEC大阪会議(95年)のときに、インターネット利用の実験をやろうと、電通の岡持充彦さんが色々な人に声を掛けました。私は、前から面識があった朝日放送株式会社の香取啓志氏に声をかけられました。こういうプロジェクトにはキーマンが必ずいるものですが、電通の岡持氏、NTTの白波瀬氏、奈良先端技術大学院大学の山口英教授の3人がキーマンだったと言ってよいかと思います。香取氏は、朝日放送からMITのメディアラボに留学していました。

 人的ネットワークは、APECと、次のCOP3(97年)というイベントを通じて、ごく自然にできあがっていった感じです。不思議といえば不思議ですが。役割分担も自然にできていった感じです。いわゆる、同じ釜の飯を食った仲ですね。イベントを経て、お互いに相手のことを認め合い、できる人同士は強く結びつきます。そうでない人とはそれなりに(笑)。でも、サイバー関西では、排除は絶対にしないんです。やりたい人が手を挙げて幹事会で発言する形で運営されています。

COP3は大成功だったと聞きます。

(下條教授) APEC大阪会議のときは準備不足でした。例えば、根回しする時間がなくて、会議の内容を発信ができませんでした。そのリベンジをCOP3で果たせた感じですね。それにCOP3を主催した国連の連中はNPOとの付き合いが慣れていて、任意団体であるサイバー関西に仕事をまかせてくれた。これが大きかったですね。また、コンテンツについてよく理解している国連の情報発信担当が、非常に的確に指示を与えてくれたのも良かったと思います。

JGNの利用は98年あたりからでしょうか?

(下條教授) 98年の大型の補正予算で、通産省が次世代インターネット技術の開発、郵政省がJGNプロジェクトを実施するということになりました。通産省の予算では、開発費用が認められ、郵政省の予算では通信費用が認められたのでちょうどうまく組みあわせることができました。APECとCOP3とのイベントから学ぶことが多かったので、次は技術開発をやりたいというところだったのです。前から技術力が高いことを知っていたエニコム(現在の新日鉄ソリューションズ株式会社)に声を掛けてQoS*1サーバを作りました。吉田幹さんとはそのとき以来の付き合いです。
JGNにおける研究テーマはどういうものですか?

(下條教授) 最も単純に言ってしまうと、QoSとセキュリティ技術になります。この2つは、コンテンツ配信の企業にとって最も大切なものです。これがないとビジネス化ができません。

成果として強調できる点について教えてください。
(下條教授) まず、ポリシーサーバをIP上に実装して運用しているということになると思います。MPLSを利用ではなく、IPベースに実装して運用している例はほとんどないはずです。例えば、遠隔協調作業として、ノンリニアビデオ編集の実証実験を行ないました。
サイバー関西には、電通や朝日放送というコンテンツ系の企業が参加していますが、
   ネットワーク技術系の企業とカルチャーの違いを感じたエピソードなどありましたら教えてください。

(下條教授) 例えば、朝日放送の香取氏は、マスコミ業界の人間という雰囲気が少ないし・・、そういうカルチャーギャップはあまり感じません。

 あまりおもしろいエピソードとは言えませんが、最近はコンテンツが商品であるという意識が強くなってきて、コンテンツの取り扱いが難しくなりました。例えば、APECの時は、朝日放送のニュースをダイジェストして配信していましたが、番組を編集する権利を開放するなんていうのは、いまなら考えられません。絶対にOKがでないと思います。ビジネス化が目前に来ているので、そういう大らかさはなくなりつつあります。コンテンツ系の会社は、コンテンツそのものが商品なので特に厳しいです。

NTT西日本の貢献は大きいですか?

(下條教授) サイバー関西におけるNTT西日本の貢献は非常に大きいです。大きくなりすぎたくらい(笑)。例えば、JGNはバックボーンですから、足回り回線の確保が問題になります。そこでもNTT西日本の協力は大きいです。しかし、言うまでもなく、NTT西日本はスポンサーにとどまらず、研究における重要なプレイヤーです。

 また、白波瀬氏らがNTTスマートコネクトというコンテンツ配信に特化した会社を立ちあげました。アメリカではインクトゥミやアカマイなどコンテンツ配信系の技術開発を行なっている企業はいくつかありますが、日本では手薄になっているところです。NTTスマートコネクトは朝日放送を始めメディア系の企業にサービスを提供しています。

ビジネスが始まったことで逆に研究課題が見つかったところもありますか?

(下條教授) コンテンツ・ロジスティックのテーマもここから始まったと思います。やはりビジネスになると、具体的なテーマがいろいろ出てきます。

コンテンツ配信の技術開発というとストリーミングソフトを開発することですか?

(下條教授) 違います。ストリーミング再生ソフトには、RealPlayerやMicrosoftのWindowsMediaPlayerを使う場合が多いです。しかし、視聴者をカテゴリに分けて付加情報を流す技術とか、いろいろ技術開発が必要なテーマは多いのです。

(山口陽一氏) NTTスマートコネクトでも、最初は単純なストリーミングデータの配信だけだったのが、だんだんユーザの情報を戻す機能を付加するなど具体的ニーズに対応していく形でサービスメニューを充実させました。

話は変わりますが、関西でプロジェクトをやることに、メリット・デメリットはありますか?

(下條教授) 奈良先端技術大学院大学の山口英さんとも話すのですが、東京に呼ばれることが非常に多くて、移動時間だけでもバカにならないのです。オール関西で実験できることで、それが節約できるのがまず大きいですね。中央から遠いので情報が入りにくい面もありますが、雑音がなくてやりやすいと見ることもできます。

(吉田幹氏) 各家庭への足回り回線が100メガ(100Mbps)になるのはもうすぐです。九州工業大学の尾家祐二先生も指摘していることですが、現状のように何でも東京からの折り返すトラフィックばかりではバックボーンが破綻します。地域のものは地域で折り返す必要があります。だから、大阪も九州も地域内のトラフィックは地域内で処理する能力も必要だし、何よりもそれを運用する人が必要です。

今後、重点的に取り組もうと考えていることはどういうことでしょうか?

(下條教授) まずは、ブランドとしてのサイバー関西を育てていきたいです。
メーカーへのプレゼンスは割と大きくなってきて、サイバー関西で使われるということに積極的になってきています。今後はメーカー以外にも、コンテンツとネットワークの組み合わせのテーマならサイバー関西だと言われるように、ブランドを育てていきたいと考えています。

 

 

 
◆おわりに

 動画配信のためには足回りのアクセス網が必要だという指摘はよく聞きます。しかし、DSLで提供可能な1Mbpsの回線で配信される動画クオリティも案外高く(例えばマイクロソフトはVHSクオリティと呼んでいるほど)、さらにその先の100Mbpsとなるのもそれほど遠い先ではありません。その時ボトルネックはどこにあるのでしょうか?文字プラスアルファのメディアであったインターネットが、動画を中心とするメディアへ脱皮するために、必要な要素技術は何でしょうか?こういう疑問に正面から答えるための真っ当な取組を積み重ねている集団の自信と自負が感じられる取材でした。

 お忙しいところ協力していただけました、下條真司先生、篠崎公則さん、山口陽一さん、吉田幹さんに感謝いたします。

文責:JGNウェブ編集部

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