Vol.4 ギガビットネットワークを利用した病院間リアルタイムコラボレーションの実用化に関する研究
              (JGN-P11471)
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原 量宏 教授

▲香川医科大学医学部附属病院医療情報部 
原 量宏 教授

岡田 宏基 助教授

▲香川医科大学医学部附属病院医療情報部
岡田 宏基 助教授

香川医科大学医学部附属病院医療情報部 原 量宏 教授
                          岡田 宏基 助教授
インタビュー実施:2001年6月26日(於:香川医科大学医学部附属病院医療情報部)

◆はじめに

 今回は、香川医科大学の原量宏教授を訪問いたしました。原先生は、産婦人科医としてコンピュータネットワークに早くから取り組んでこられ、TVなどの取材も多く受けておられます。医療はもともと専門家のネットワークで仕事していること、様々なデータを解析しながら仕事をしていることから、超高速ネットワークにより非常に強く影響を受ける分野であるとの認識をお持ちです。通信技術を利用する立場で、JGNとどのように係わってこられたかについて伺いました。

そもそもネットワークの利用はいつごろから取り組まれているのでしょうか?
(原先生) 私は産婦人科医ですから、母子手帳までさかのぼることになるでしょうか。母子手帳には60年以上の歴史があります。昔はあまり重要性を理解していただけなかったのですが、妊娠中から新生児期における母子情報が医療施設間でスムーズに活用できることは重要で、私はこの周産期(出産前後の期間こと)の情報の標準化に関する仕事をずっとやってきました。私が大学生だったころは学生運動が盛んで、大学医学部にコンピュータを入れるのに学生の反対があった時代です。私たちはその頃からコンピュータを使ってきました。周産期管理には、妊娠週数、血圧、体重、胎児の大きさなど、基本的には数値情報を扱えば良いので、コンピュータの処理に向いていたということも言えると思います。この5年の間に、日母光カード標準データフォーマットと胎児心拍数情報ファイルデータフォーマットが定められました。

 文部省の予算で、はじめは病院内での周産期ネットワークの臨床応用を行っていましたが、平成10年には香川県の補助で地域へネットワークを広げることができました。同時期にやはり文部省の予算により画像系を中心とした遠隔診断システムが香川医大に導入されましたが、やはり学内での整備にしか予算を利用できないため、十分機能を発揮することが出来ませんでした。そこで、通信・放送機構ギガビットネットワーク利活用制度に、香川医大と北大、東大、さらに地域医療機関を結んでの「ギガビットネットワークを利用した 病院間リアルタイムコラボレーションの実用化に関する研究」を応募したところ、幸いにも採択されました。

香川医大と東大の遠隔講義システム構成図

▲香川医大と東大の遠隔講義システム構成図(クリックで拡大)

高精細モニタ(左)と通常のモニタ(右)

▲高精細モニタ(左)と通常のモニタ(右)(クリックで拡大)

香川県の医療ネットワーク構成図

▲香川県の医療ネットワーク構成図(クリックで拡大)

遠隔医療の意義はどのようなものがあるでしょうか。

(原先生) 三つあります。一つは専門家のネットワークが組めることです。ある分野の専門家といっても、得意不得意があります。ネットワークを使って、より得意な専門家に聞くことができれば、診断がより確かなものになります。二番目は、離島、へき地など無医村の解消です。四国には離島も多く、主に自治医大出身の先生方を中心にご活躍されています。香川県にもたくさん島があります。私たちは、香川県からのサポートを受けてこの問題に取り組んでいます。三番目は、在宅医療です。具体的には、心電図情報を患者の自宅で取得し、医者に送信する実験に取り組んでいます。香川では特に寒川町を中心として、大川、長尾の三町が熱心で、CATV網を利用した自宅医療のシステムを運用して成果をあげています。

遠隔医療が可能になると、名医がさらに忙しくなるということでしょうか。

(岡田先生) そうですね。そういう側面はあるとおもいます。しかし、例えば、弟子が先生に質問しやすくなれば、その弟子がよい経験を積めることになりますね。だから、教育が進んで名医が増えるという考え方もできます。恩師に相談したい場合に移動しなくてもよいのは助かります。

遠隔医療の取り組みの中で、このプロジェクトが特徴的なのはどこでしょう。

(原先生) 私たちは、ネットワークの利用にはかなり早くから取り組んでいるのでいろいろあるのですが・・。例えば、遠隔医療と言っても、画像のJPEGファイルを電子メールに添付するレベルのものもありますが、私たちはDICOMという医療情報に関する規格を使って通信をしています。DICOMは画像情報だけでなく文字情報などを総合的に扱えることと、メーカーの独自規格ではなくオープンな規格である特徴があります。

 
  JGNを使ったメリットとしては何が大きかったでしょうか。
(原先生) 高精細画像を使った伝送実験を行いました。東大、北大、香川医大の間で遠隔講義の実験を行いました。DVCPROという放送業界でプロが使っているデジタル映像の規格がありますが、これを使いました。DVCPROはフレーム内圧縮を行いますが、MPEG2のようにフレーム間圧縮を行わないため大変に精細な画像が送られます。しかも遅延時間が短いので、質疑応答に使ってもタイミングが遅れが生じません。MPEG2で十分に精細だという人もいますが、医療の映像を送るにはこれくらいの精細さは欲しいところです。デジタルビデオの映像の規格としては、DVCPROとDVCAMの2種類の規格がありますが、今回はDVCPROを利用しました。我々がDVCPROの伝送で要したのは、帯域としては30Mbps(双方向で60Mbps)で、JGNによってこれが可能になりました。
 これまで私たちは、ISDNの回線を三本束ねて384Kbpsの帯域での動画伝送も行っていました。これくらいの帯域でも限定的には有用ですが、帯域が広くなると用途の幅が格段に広がります。現時点でハイビジョン対応のDVCPROの映像では、100Mbpsの帯域を必要としますが、将来JGNの帯域がさらに高速になることにより、日常的に利用できる様になると思います。
 実際に、CTスキャンで胴体の断面を撮影した映像を送信して、遠隔地で専門医が診断をする実験を行いました。病名を隠して遠隔地で判断できるかどうかを実験したのですが、見事に全て正解となり驚きました。送信する側で見てもかすかに見えるか見えないかというものを根拠にして、分析できるのですから。専門医の力を改めて認識しました。 (岡田先生) DICOMの形式は医者にとっては使いやすいものですが、どうしてもファイルサイズが大きくなります。病理の画像では数百Mbyteになり、こうしたものをストレスなくやりとりできることは医者にとっては非常にありがたい環境です。また、術中病理診断では、即時のやりとりができないと使えませんから、医療の現場では高速の通信を必要とするところはたくさんあります。胸部のX線画像を見る場合には、白黒の高精細モニタを使います。

(原先生) 遠隔講義は非常に好評でした。先生が直接行う授業以上に迫力があったと言われてしまったくらいで(笑)。

東大と北大と結んだのはどうしてでしょうか。

(原先生) JGNを利用して研究を行う上で、是非とも全国規模(遠距離)での実験、すなわち四国と本州、できれば北海道を結んでみたいと考えたのです。幸い私の母校(東大医学部)の大江医療情報部教授と北大の櫻井医療情報部教授とも個人的なつながりがあったこともあり、こちらからお願いして実現しました。
JGNとの接続に使う足回り回線はどのように確保したのでしょうか。
(原先生) 四国電力傘下のSTNetが当初から共同研究者として参画していただいており、こちらが安価に足回り回線を提供してくださっています。四国では、財団法人四国産業・技術振興センターという組織があり、四国の産業振興の促進を図っています。この財団も四国電力やSTNetがバックアップするなど、四国電力には四国の振興のために大所高所から考えるスタンスがあり、医療情報ネットワークの構築もそういう視点で見ていただいているのではないかと思っています。
 
  IPv6を使ったプロジェクトも実施されていますね。
(原先生) はい。
IPv6を使いたい動機としてはどのようなものがありましたか。。
(原先生) まず単純にはすべての医療機器がIPv6で動くかどうかを確かめたいということですね。たとえばDICOM対応の機器や在宅健康管理システムがIPv6の上でも使えるか等を実証したかったのです。また私たちの扱う情報は患者のプライバシーについて気を遣う必要があるので、IPv6のセキュリティ機能を使ってみたいと考えています。周産期の体重の変化をデモで見せるときにも、もっぱらメンバーの先生の奥さんのデータを使っています。もちろん了解を得てですよ。

(岡田先生) IPv6になって、例えば顕微鏡にもアドレスが振られるようになる可能性があると、遠隔操作も容易にできるようになるのではないかと期待しています。例えば病理学では、顕微鏡の映像を伝送したいことがあります。まず、プレパラートを現場で作らなければいけないのですが、これは技師の方でもできます。しかし、どの部位の画像を伝送するかについては病理学の専門家でなくてはわからないのです。けれども現場に病理学の専門家がいるなら遠隔地に画像を伝送する必要はなくなります。したがって、顕微鏡を遠隔操作するニーズは非常に強いと言えます。

  これから取り組んで行こうとされていることはどのような内容でしょうか?
(原先生) 電子カルテのシステムでは、体重などの数値情報は規格化されています。症例を書き込む場合にも、典型的なものは登録しておいて、リストから選択する形で入力する機能があります。これを自然に拡張してXML化したいと考えています。規格が決まると、第一段階としては医者本人にとって省力化され、第二段階ではそれをやり取りできるグループにとって便利になります。例えば、血液の検査会社は独自のフォーマットで結果を送ってきていたのですが、こういう独自フォーマットは短期的には顧客の囲い込みにつながるが、長期的にはオープンなフォーマットに乗り遅れる危険が大きいということがだんだん理解されてきました。さらに第三段階としては、症例データとして蓄積できるので統計的な価値が生まれます。
 他には、電子カルテとレセプトコンピュータのデータ(保険医療の点数計算等報酬データ)とを併せて管理するという動きも出てきました。
 
 
◆おわりに

 産婦人科医である原先生、内科医である岡田先生のおられる医療情報部は、病院の医学的な専門性にとらわれない特命チームとして、医療の情報化に取り組んでおられます。研究テーマが関心を呼んでいることは言うまでもありませんが、医療情報部の先生方の(医者らしからぬ?)フランクなお人柄が、新しいネットワーキングに大きく貢献していると実感させていただきました。 一方で、母子手帳という60年前からあるアナログなシステムにオープンネットワークの思想が含まれていて、それがXMLなどの現代的技術に繋がっている点も興味深く感じました。

 原先生、岡田先生に感謝いたします。

文責:JGNウェブ編集部

関連リンク集

香川医科大学医学部附属病院医療情報部
香川医科大学遠隔診断システム
かがわ健康福祉情報ネットワーク
(社)日本母性保護産婦人科医会
(財)四国産業・技術振興センター

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