Vol.6 通信・放送機構 幕張ギガビットリサーチセンター バックナンバー

青山 友紀 教授
▲東京大学大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻
青山 友紀 教授

 

 

NS8000
▲幕張RCには2.4Gbpsのコネクティビティが確保されています。写真はJGNと接続されているATM交換機(NS8000)
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MPLSルータ
MPLSルータ
▲幕張RC MPLSルータ
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幕張RC ディジタルミュージアム
幕張RC ディジタルミュージアム
▲幕張RC ディジタルミュージアム
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CEATECでのデモ
▲図 CEATECでのデモ「IPトラヒック・エンジニアリングとディジタルシネマ」概念図
資料作成:幕張ギガビットリサーチセンター(図をクリックすると拡大されます)

 

日食受信風景
▲幕張RC 高精細プロジェクタ ディジタルシネマを高精細な画像で再生できる。
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幕張RC スタジオ設備
▲幕張RC スタジオ設備
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ギガビットネットワーク研究開発プロジェクト統括サブリーダー 青山 友紀 教授
東京大学大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 教授
インタビュー実施:2001年9月27日(於:東京大学本郷キャンパス工学部三号館)
◆はじめに
 今月は、JGNの直轄研究の統括サブリーダである青山友紀教授を訪問し、幕張ギガビットリサーチセンター(以下、幕張RC)と直轄研究に関して紹介を頂きました。先日行われたCEATEC JAPAN 2001では通信・放送機構は、ブース展示を行いましたが、独立行政法人通信総合研究所と共に中心的な役割を果たしたのが幕張RCです。この展示を含め、JGNの未来について語っていただきました。
先生がJGN直轄研究の統括サブリーダーになられた経緯について教えてください。

 98年当時、同じ東大の齊藤忠夫先生(現 中央大学理工学部電気電子情報通信工学科教授、次世代超高速ネットワーク推進会議メンバー、JGN直轄研究プロジェクトリーダー)がJGNの全体を見られる立場で、私にもぜひ手伝って欲しいと声が掛かりました。TAO自らが行う直轄研究の幕張RCにおける研究推進が私の主担当になりました。

 98年当時は米国ではクリントン・ゴア政権の下、情報スーパーハイウェイとしてvBNS(very-high-performance Backbone Network Service)やInternet2が構築・運用されていました。日本でもSINET(Science Information Network:学術情報ネットワーク)やIMnet(Inter-Ministry Research Information network:省際研究情報ネットワーク)、WIDE(Widely Integrated Distributed Environments)などはありましたが、ギガビットクラスの研究開発用ネットワークがなく、やはり日本でも必要だと皆が考えていました。そこでJGNの構築に到るわけです。

直轄研究のテーマはどのように選ばれたものでしょうか?

 直轄研究では、TAO自らが実施する研究ですから、企業の研究とは違うものが必要です。私が直轄研究でこだわったのは、ネットワークとアプリケーションを同時に研究することでした。ネットワーク技術の研究者は、アプリケーションサイドからの要求を得て、技術革新を進めていくようなところがあり、ネットワークとアプリケーションは車の両輪です。いまでこそインターネット上でのQoS(サービス品質)の重要性は広く理解されるようになってきましたが、98年当時ではインターネットはベストエフォート型のネットワークであるということでネットワークのQoSに関与する研究はまだそれほど多くはなされていませんでした。幕張ギガビットリサーチセンターでは、エンド・エンドでのQoSの計測技術、ネットワークの状況に応じたダイナミックな経路制御技術、ディジタルシネマなどの超高精細画像によるアプリケーション技術の3本柱を立て、各々に専任の研究員を置いて、互いに連携しながら研究を進めています。CEATECのデモでも、ディジタルシネマの超高精細映像の伝送と、ネットワークに負荷を掛けたときの経路制御を組み合わせたものになっています。

エンド・エンドのQoSの測定に関するとはどういうものでしょうか?

 具体的には、遅延時間やパケットロスといった項目を測定するということです。通常のインターネットクラスでの測定はいろいろなツールが出回っていますが、ギガビットクラスではそのようなものはありませんでした。したがって、どのようなパラメータを測定すべきかの研究からスタートしました。測定の結果を制御に反映するのを目的としていますが、現状では、たとえばQoS測定の研究とネットワーク制御の研究はまだ各々の研究を独立して進める段階です。しかし今後はCEATECのデモで試みたように3つの柱を組み合わせて新しい研究成果を追求しうる段階に進めたいと考えております。
ネットワークの動的制御に関する研究はどのようなものでしょうか?

 QoSの保証には、完全保証型のIntServと、より実現性の高いDiffServがあります。航空機には、ファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミークラスの座席が用意されていますね。これと同じような発想をネットワークに持ち込んだのがDiffServの考え方です。インターネットのある部分で輻輳が生じたときには、ファーストクラスのパケットを優先的に転送しようというものです。IntServはネットワークの全体を見て利用する帯域を前もって予約するという発想なのでグローバルなインターネットに適用するのは難しく、DiffServの技術がまず導入されるだろうと思っています。もうひとつ重要な技術がMPLS(Multi Protocol Label Switching)で、ホップバイホップですべてIPアドレスでルーティングするのはルータの負荷が大きいので、入口のルータで「ラベル」という別のアドレスに変換し、出口のルータまではラベルだけを用いて転送することによってルータの処理量を軽減し転送効率の向上をはかる方式です。CEATECのデモではこうした技術を使い、ネットワークに負荷をかけてもファーストクラスのパケットはロスせずに良好な品質を保持するところを見てもらいたいと考えました。(左図参照)

アプリケーションの研究に関する研究はどのようなものでしょうか?
 アプリケーションの研究としては、超高精細画像を扱うことにしました。超高精細な画像を扱うアプリケーションとしてディジタルミュージアムとディジタルシネマの研究を進めています。ディジタルシネマで扱う画像はハイビジョンの4倍の画素数を有する超高精細動画です。ネットワークで転送する場合はMotion-JPEGの方式で圧縮し、たとえばCEATECのデモでは70Mbpsの帯域を使ってディジタルシネマのデータ伝送を行います。ディジタルシネマはNTTみらいネット研究所と共同研究で進めています。

研究で苦心されている点と課題について教えてください。

 ひとつにはJGNリサーチセンタでの専任研究者の数が少ないことです。ネットワークの研究にはある程度研究者の数が必要なのですが、例えば幕張RCには3人の研究員しかいません。また、企業等との共同研究は行っていますが、国との共同研究ということで企業側に特許等の問題等でヘジテイトさせる部分があり、期待ほどには活発になっていません。共同研究で生まれる特許を国と企業のどちらが所有するか等は問題になる部分です。高知RCの場合は、高知工科大学のキャンパスの中にあるので研究員と学生の交流も行いやすいのですが、幕張RCと東大ではかなり離れているのでやや不便な点があります。東大にもリサーチセンターの分室がありますし、私の研究室のミーティングには幕張RCの3人の研究者にも参加してもらっていて、研究内容の発表も行ってもらっています。今後は、学生が書いた論文の内容をJGNを用いてリサーチセンタと共同で実証するといった所まで進めたいと考えています。

 また、アプリケーションの研究としては、他分野の研究者にいかに協力いただくかということが課題です。ディジタルミュージアムの研究では、東京大学の青柳正則教授(東京大学元副学長・文学部教授 考古学)に参加いただいています。考古学では、発掘直後から出土品の変色が問題になっており、発掘直後の状態を超高精細なデジタル画像データとして保存したいニーズがあるそうです。青柳先生の発掘された遺物を超高精細画像で撮影し、その写真の提供をいただきながらディジタルミュージアムの研究を進めています。このように人文系などの他分野の研究者にいかに参画してもらうかは、アプリケーション研究の課題です。JGN全体では、人文系や医学系などの応用研究事例も増えてきていますが、もっと増えてもいいと思っていますし、直轄研究の中でももっと増やすべきだと考えています。

 ディジタルシネマに関しては、最近映画コンテンツ調達に係わる著作権の問題が大変厳しくなってきています。幕張RCの研究では、古いフランスの映画を研究目的に限定した利用権を購入して研究を行っています。以前は研究目的では無料でコンテンツを使わせてくれるケースもあったのですが最近はなくなりました。コンテンツ調達が困難になってきたことも課題の一つです。

 やや言いづらい点ではありますが、直轄研究は国の予算措置に基づくので、研究のテーマの変更等が行いにくいという問題があります。この分野は進展のスピードが非常に早く変化も激しいので、有意義な研究をタイミングよく行うという意味での難しさがあります。その意味でも民間企業との共同研究を進めるべきだと考えています。直轄研究において、リサーチセンターの設備を有効に使用するために様々なアイデアが必要です。また、研究テーマの見直しをタイミングよく行なえる仕組みが必要です。

 さらに、幕張RC、高知RC、東北大学分室、東京大学分室という4つの直轄研究を行うリサーチセンターの相互の交流をさらに進めようと努力しています。例えば先に紹介したCEATECのデモでは、東北大学で開発したトラヒック可視化ツールのJANI(JGN's Next Generation Network Information System)が使われています。リサーチセンター相互間の連携はますます重要だと考えています。

先生御自身で、JGNの意義をどのように見ておられますか?

 私は、もともと、研究開発用ギガビットネットワークはATMよりIPをベースにすべきだという意見を持っていました。ネイティブATMのネットワークとしてスタートしたのですが、ATMとIPルータを組合せるなどIPベースの技術を使う方向に修正が進みました。これはひとつの成果だといえると思います。

 JGNが登場するまで大学等で利用できなかった高速ネットワークでの研究が非常に進みました。特にアクセスポイントがある大学では無料で利用でき、有効に活用できたところが多かったはずです。アクセスポイントがない大学では、そこまでの回線を自分で用意する必要がありますが、それでも価値を認めている大学は多かったと思います。JGNは、一般利用という枠組みで、基本的には誰でも利用の申請を行えます。ネットワークの研究では、こういうオープンなスタンスが非常に有効だったと考えます。しかも、JGNは大学だけでなく企業も使えるところがよかったと考えています。また、公募研究という枠組みは、アクセスポイントまでの足回りを持たない研究者でも、研究の内容さえ良いと認められれば研究が可能になったという意味で大変良かったと思います。結果として、産官学共同の体制ができたところに意義があったと思います。これからIPv6がJGNで使えるようになるので(2001年10月から開始)、その成果を期待しています。

JGNの未来についての先生のお考えをお聞かせください

 まず第一に、JGNのプロジェクトは98年から5年間ということで実施されていますが、2003年に完全に終了というのではなく、何らかの形で継続できるようにしてほしいということがあります。JGNの良いところは引継ぎ、反省すべきは反省して、新しいテストベッドを作る必要があると考えています。技術的には、光(フォトニックネットワーク、WDMネットワーク)が重要だと考えます。研究体制としては、よりアプリケーションよりの研究者、理系より文系の研究者が多く参加できることが重要でしょう。さらには、米国等外国の研究情報ネットワークとの接続についての環境整備を望んでいます。
 
  ◆おわりに

 非常にご多忙のなかインタビューに協力いただきました青山友紀先生、事前取材に協力いただきました幕張RCの鈴木純司主任研究員、榎本正研究員、小倉孝夫研究員に御礼申し上げます。

文責:JGNウェブ編集部

  関連リンク集
幕張ギガビットリサーチセンター
東京大学大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻
 ・新領域創成科学研究科基盤情報学専攻 青山・森川研究室

Digital Alexandria (高品質な静止画像、高品質な動画像を世界で共有することを目的に設立する非営利組織) ※青山友紀教授、青柳正規東京大学副学長・文学部教授が参画している。
財団法人 テレコム先端技術研究支援センター(SCAT) 超高速フォトニックネットワーク開発推進協議会
NTTインターコミュニケーション1999年秋号 「新たな文化・社会の情報基盤としての次世代インターネット」 ※青山友紀教授と武邑光裕東京大学大学院新領域創成科学研究科助教授の対談
NTT-ATシンポジウム2000 基調講演(青山友紀教授)
 
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