直轄研究で目標とすることは何でしょう?
まず第一に、研究したものを商用で使われるレベルに引き上げることです。これは最初にお話した通りです。第二にIPv6の研究コミュニティを作ること。第三に世界への貢献です。世界への貢献を言い換えると、IPv6研究におけるリーダーシップを日本が取るということです。
国際貢献には具体的な側面で見ると、@国際標準化への直接的な貢献、A新しいテストベッドを作ること自体が貢献、B運用を通じてわかったノウハウをグローバルコミュニティへフィードバックする貢献などがあります。例えばIPv6については既に日本に運用上のノウハウが集まりつつありますから、世界は日本に注目しています。これをさらに推し進めようということですね。
先生ご自身では、これまでのJGNへどのような感想を持っておられますか?
ネーションワイドであること、オープンであること、ギガビットクラスであることという条件を満たした、日本では画期的な研究ネットワークのテストベッドだったと思います。率直な言い方をすれば、JGNの登場で他の先進国並みのテストベッドが整備されたということではないでしょうか。JGNが契機となって多くの研究コミュニティも育ってきました。WIDEプロジェクトが行ってきたIPv6の研究もJGNの存在が大きかったのは誰もが認めるところだと思います。JGNがレイヤー2(OSI参照モデルにおけるレイヤー。レイヤー2はデータリンク層、レイヤー3はネットワーク層にあたる。ATMはデータリンク層のサービスであり、IPはネットワーク層のサービスである。)のサービスを提供したことで、レイヤー3を自由に組める環境が与えられたため、IPv6の研究には都合が良かったのです。レイヤー2という低い階層のサービスを開放したことがJGNで良かった点の一つに数えられて良いと思います。
これからのJGNへの期待・想いをお聞かせください。
2003年までのJGNでは、IPv6のネットワークが中心になっていくでしょう。ハンドメイドの技術をプライベートカンパニーのサービスレベルを満足させる水準に引き上げることが、直轄研究だけでなくJGN全体としても中心的な課題になっていくと思います。IPv6アプリケーションとしては、モバイル、情報家電、コンテンツ、Grid(スパコンレベルのマシンを網目状につないだ科学技術計算のためのインフラストラクチャ。例えばGrobal GRID Forumを参照)のようなミドルウェアなど様々な研究があります。JGNのIPv6テストベッドに様々なプレイヤーが集結して研究が進むと良いと期待しています。
2003年以降でのJGNの次では、ひとつには、ダークファイバを提供して、その上でレイヤ2レベルでの研究も行っていただくダークファイバでの研究を認めることも良いと思います。低い階層のサービスを開放したほうが、研究用テストベッドとしては魅力的だという教訓はさきほど申し上げた通りです。ダークファイバのテストベッドはヨーロッパで出てきています。もうひとつは、無線・電波です。研究から商用にスムーズにつなげることができるように両方を許容する周波数帯での無線のテストベッドがあると非常におもしろいとおもいます。研究と商用で周波数帯が変わってしまうと、ハードウェアの開発にもう一度コストがかかってしまうため、研究でも商用でも使える周波数帯があればメーカーにも魅力的に映るでしょう。有線系では、研究を商用につなげることが可能なので、非常に早い技術革新が起きました。無線でも同じようにできるようになると相当おもしろいことができそうだと確信しています。
前回青山教授もおっしゃっていたフォトニック技術は私も重要だと思っています。例えば、ルータのインプリメンテーションにおいては、メタルか光かでかなり違ってきます。しかしその一方で、全体のネットワークアーキテクチャがどうなるか、どうすべきかという視点も必要だろうと思います。したがってベンダ主導でなくネットワーク研究者主体で研究を進める体制を作ることが大切だと思っています。
全体のアーキテクチャとは、コンテンツ・デリバリ・ネットワーク(CDN)
などをおっしゃっているのでしょうか?
それも含みます。ただし、CDNのサービスをJGNやJGNの次のテストベッドが提供するという形ではなく、アクセスポイントやバックボーンの建物の中にパソコンを置いても良いスペースを開放する等の自由な形、言い換えるとCDN自体の研究を進めやすいような環境が良いと思います。
これからの研究のありかたについてのお考えをお聞かせください。
これからの研究は、研究コミュニティのヒューマンネットワークを重視することが重要だと思います。私は、ベンチャーキャピタルのような関係から学べるのではないかと考えています。実動部隊にエンジェルが出資し、実働部隊の方もエンジェルからもらう運用資金が最終目的ではなく、ビジネスが軌道に乗ったときの収入が目当てで働きます。研究開発もそうあるべきではないでしょうか。ヒューマンネットワークというものを前提にすれば、基本的に人物を取り替えることはできません。研究においては、肩書き上は同じポジションであっても後任者が代替できるわけではありません。環境整備に費用がかかるのは事実ですが、優秀な研究者のインセンティブは研究予算の確保ではないところに存在しています。研究環境の整備、活発な研究コミュニティ、リーダーシップがうまく連携し、好循環で回転していけばよいアウトプットにつながるのではないでしょうか。
もともとインターネットは研究者による研究者のためのネットワークとして始まりました。サービスをする側と受ける側に分かれていないやんちゃなネットワークとして発達してきたのです。これだけ社会の中にインターネットが普及しサービスも豊富になってきたからこそ、やんちゃなネットワークを体現するテストベッドが必要なのです。IPv6では、Proxyを必要としないエンド・エンドの通信を実現します。インターネットの原点に立ちかえった活発なネットワーク研究ができるとよいと考えています。
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