Vol.7 JGN IPv6サービス バックナンバー


▲ 東京大学大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻
江崎 浩 助教授
ギガビットネットワーク研究開発プロジェクトサブリーダー 江崎  浩 助教授
東京大学大学院情報理工学系研究科 電子情報学専攻 助教授
インタビュー実施:2001年10月18日(於:東京大学工学部三号館)

◆はじめに

 いよいよ、2001年10月よりJGNにおけるIPv6サービスの試験運用が始まりました。今月はJGNの直轄研究においてIPv6研究を指揮する江崎先生にお話をお伺いしました。


▲JGNに接続しているPCルータ
(東京大学工学部)


▲ルータ監視用モニタ
(東京大学工学部)


▲IPv6用ルータ
(大手町IPv6システム運用技術開発センター)


▲IPv6用スイッチ
(大手町IPv6システム運用技術開発センター)

IPv6サービス提供の背景、目的、基本コンセプトをお聞かせください。

 これまでWIDEプロジェクトが中心となってIPv6の研究を行ってきました。この研究は、JBプロジェクト等としてJGNを用いた研究開発を実施してきています。ここで開発された技術は非常にハイクォリティで、成果物であるコードは世界中から参照されています。これまでのJGNの成果のうち大きなものの一つにWIDEプロジェクトによるこのIPv6研究を数えてもよいと思います。しかし、これらの技術は、基本的にはパソコンをベースにした手作りです。ここ最近、商用のIPv6ルータが各社から出てきました。つまり、研究者が手作りしてきたIPv6関係の技術を、商用ルータを使ったコマーシャルレベルのサービスができる技術につなげていきたいのは自然な流れと言えます。この研究開発の目的としては、商用ルータを使ったオペレーションノウハウの蓄積がまず一つ目の目的です。技術そのものの開発と運用技術の蓄積・開発が目的になります。もう一つは、2000年9月に当時の森首相が所信表明演説でIPv6の推進に触れたように、IPv6サービスを研究者に広く開放することが国の施策としても求められています。これが二つ目の目的です。三つ目は人材育成です。産官学が協力して、実践の中でネットワーク技術者を育てることです。 基本コンセプトとしては、商用ルータを用いること及びプロダクションクォリティのサービス提供をネーションワイドで実現することになります。

ネットワークの全体構成に関する考え方を教えてください。

 マルチベンダ構成が基本です。5つの異なる商用ベンダーの相互接続試験を約30拠点で行う予定です。
 また、(1)IPv6とIPv4の相互接続、(2)グローバルIPv6ネットワーク(6bone)との相互接続、(3)CRL/WIDEとの協力でInternet2/Abileneとの相互接続、(4)IPv6普及・高度化推進協議会のコミュニティとの相互接続を行います。

JGNのIPv6サービスの具体的な内容を教えてください。

 JGNのIPv6サービスではアドレスの割り当てを行います。IPv6の基本的考え方として、プロバイダからアドレスを配布することを徹底させる考え方があります。IPv4のようにアドホックにとりあえず割り当てるといったやり方をとらないようにしようというものです。JGNのIPv6サービスでも、IPv6の基本的考え方に則ってアドレス割り当てを行います。

 物理的にはイーサネットでサービスされます。10M、100M、1Gのイーサネットが使えます。利用者から見れば、極めて低コストのハードウェアでJGNのIPv6サービスを利用できるということです。

 JGNのIPv6では、サービスすること自身が研究であるという考え方に立ち、研究者自身がオペレーションを行えるような体制ができつつあります。研究者のネットワークとしてスタートしたインターネットの元々の姿に近いイメージですね。これまでのJGNのATMを用いたサービスはNTTコミュニケーションズという通信事業者が行っていました。まだIPv6は枯れた技術とは言えないので、研究者自身がオペレーションを行う方が、例えばデバッグを行いながら運用できますし、人材育成の面でも効果的だと思います。

通信・放送機構の直轄研究でもIPv6を対象としていますね?

 直轄研究では、幕張、岡山、大手町の3つの拠点で研究を行います。私自身と、倉敷のkazu-k(カズケイ)さん(倉敷芸術科学大学産業科学技術学部 ソフトウエア学科 助教授 小林和真先生)がサブリーダとなりました。

 幕張と岡山は、相互接続検証センターとしてマルチベンダ環境のテストなどを行います。2箇所で実施するのは人材育成の意味と、ネーションワイドの研究であるからという意味の2点あると思います。大手町はオペレーションセンターとして運用を行います。

運用とは具体的にはどのようなことをするのですか?

 設定と監視が基本ですが、例えばあるベンダのルータに不具合があることがわかればデバッグも必要になります。また、昨日や一昨日にもDoSアタックがあったようですが、こうした攻撃への対策も必要になります。IPv6でのDoSアタックも既に世の中に登場しています。こうした運用そのものが貴重な研究であるという認識に立っています。 運用の現場に責任を持たせて、研究者自身が機器の管理を行うというのが今回の体制の特徴になっています。今回オペレーションに携わる研究者は、質が高く非常に優秀です。機器設置後、非常に短期間で全国規模のIPv6ネットワークを稼動させることに成功しました。こうした研究者の方々が産業界に戻るとき、とても良いフィードバック効果が期待できます。運用研究・相互接続検証研究ともに直轄研究として成果を公開していきますから、人材が育つ意味と共に、産業界への貢献は大きなものになると確信しています。

 JGNはリサーチコミュニティですが、IPv6普及・高度化推進協議会という実ユーザベースのコミュニティとも連携を取っていこうとしています。リサーチはリサーチだけ、実利用は実利用だけに孤立せずに両方のコミュニティにとっての相乗効果を期待しています。

 
 

直轄研究で目標とすることは何でしょう?

 まず第一に、研究したものを商用で使われるレベルに引き上げることです。これは最初にお話した通りです。第二にIPv6の研究コミュニティを作ること。第三に世界への貢献です。世界への貢献を言い換えると、IPv6研究におけるリーダーシップを日本が取るということです。
 国際貢献には具体的な側面で見ると、@国際標準化への直接的な貢献、A新しいテストベッドを作ること自体が貢献、B運用を通じてわかったノウハウをグローバルコミュニティへフィードバックする貢献などがあります。例えばIPv6については既に日本に運用上のノウハウが集まりつつありますから、世界は日本に注目しています。これをさらに推し進めようということですね。

先生ご自身では、これまでのJGNへどのような感想を持っておられますか?

 ネーションワイドであること、オープンであること、ギガビットクラスであることという条件を満たした、日本では画期的な研究ネットワークのテストベッドだったと思います。率直な言い方をすれば、JGNの登場で他の先進国並みのテストベッドが整備されたということではないでしょうか。JGNが契機となって多くの研究コミュニティも育ってきました。WIDEプロジェクトが行ってきたIPv6の研究もJGNの存在が大きかったのは誰もが認めるところだと思います。JGNがレイヤー2(OSI参照モデルにおけるレイヤー。レイヤー2はデータリンク層、レイヤー3はネットワーク層にあたる。ATMはデータリンク層のサービスであり、IPはネットワーク層のサービスである。)のサービスを提供したことで、レイヤー3を自由に組める環境が与えられたため、IPv6の研究には都合が良かったのです。レイヤー2という低い階層のサービスを開放したことがJGNで良かった点の一つに数えられて良いと思います。

これからのJGNへの期待・想いをお聞かせください。

 2003年までのJGNでは、IPv6のネットワークが中心になっていくでしょう。ハンドメイドの技術をプライベートカンパニーのサービスレベルを満足させる水準に引き上げることが、直轄研究だけでなくJGN全体としても中心的な課題になっていくと思います。IPv6アプリケーションとしては、モバイル、情報家電、コンテンツ、Grid(スパコンレベルのマシンを網目状につないだ科学技術計算のためのインフラストラクチャ。例えばGrobal GRID Forumを参照)のようなミドルウェアなど様々な研究があります。JGNのIPv6テストベッドに様々なプレイヤーが集結して研究が進むと良いと期待しています。

 2003年以降でのJGNの次では、ひとつには、ダークファイバを提供して、その上でレイヤ2レベルでの研究も行っていただくダークファイバでの研究を認めることも良いと思います。低い階層のサービスを開放したほうが、研究用テストベッドとしては魅力的だという教訓はさきほど申し上げた通りです。ダークファイバのテストベッドはヨーロッパで出てきています。もうひとつは、無線・電波です。研究から商用にスムーズにつなげることができるように両方を許容する周波数帯での無線のテストベッドがあると非常におもしろいとおもいます。研究と商用で周波数帯が変わってしまうと、ハードウェアの開発にもう一度コストがかかってしまうため、研究でも商用でも使える周波数帯があればメーカーにも魅力的に映るでしょう。有線系では、研究を商用につなげることが可能なので、非常に早い技術革新が起きました。無線でも同じようにできるようになると相当おもしろいことができそうだと確信しています。

 前回青山教授もおっしゃっていたフォトニック技術は私も重要だと思っています。例えば、ルータのインプリメンテーションにおいては、メタルか光かでかなり違ってきます。しかしその一方で、全体のネットワークアーキテクチャがどうなるか、どうすべきかという視点も必要だろうと思います。したがってベンダ主導でなくネットワーク研究者主体で研究を進める体制を作ることが大切だと思っています。

全体のアーキテクチャとは、コンテンツ・デリバリ・ネットワーク(CDN)
   などをおっしゃっているのでしょうか?

 それも含みます。ただし、CDNのサービスをJGNやJGNの次のテストベッドが提供するという形ではなく、アクセスポイントやバックボーンの建物の中にパソコンを置いても良いスペースを開放する等の自由な形、言い換えるとCDN自体の研究を進めやすいような環境が良いと思います。

これからの研究のありかたについてのお考えをお聞かせください。

 これからの研究は、研究コミュニティのヒューマンネットワークを重視することが重要だと思います。私は、ベンチャーキャピタルのような関係から学べるのではないかと考えています。実動部隊にエンジェルが出資し、実働部隊の方もエンジェルからもらう運用資金が最終目的ではなく、ビジネスが軌道に乗ったときの収入が目当てで働きます。研究開発もそうあるべきではないでしょうか。ヒューマンネットワークというものを前提にすれば、基本的に人物を取り替えることはできません。研究においては、肩書き上は同じポジションであっても後任者が代替できるわけではありません。環境整備に費用がかかるのは事実ですが、優秀な研究者のインセンティブは研究予算の確保ではないところに存在しています。研究環境の整備、活発な研究コミュニティ、リーダーシップがうまく連携し、好循環で回転していけばよいアウトプットにつながるのではないでしょうか。

 もともとインターネットは研究者による研究者のためのネットワークとして始まりました。サービスをする側と受ける側に分かれていないやんちゃなネットワークとして発達してきたのです。これだけ社会の中にインターネットが普及しサービスも豊富になってきたからこそ、やんちゃなネットワークを体現するテストベッドが必要なのです。IPv6では、Proxyを必要としないエンド・エンドの通信を実現します。インターネットの原点に立ちかえった活発なネットワーク研究ができるとよいと考えています。

 
  ◆おわりに

  江崎先生は、『インターネット用語事典 要点チェック式』(IEインスティチュート、2000年)、『IP/セキュリティ/ネットワーク構築 実践ノウハウ』(IEインスティチュート、2001年、内田昌宏氏、永見健一氏、土本康生氏と共著)など著作活動にも精力的です。お忙しいところ、IPv6への熱い想いを語ってくださった江崎先生に感謝いたします。

文責:JGNウェブ編集部

  関連リンク集
「IPv6技術の現状と次世代インターネットの展望」
  2001/5/31 第1回研究会 (ITRC Joint Symposium 2001 in 福岡)

IP (Internet Protocol) Version 6 -プロトコルと実装・運用現状−
   (Internet Week 99 チュートリアル) ※江崎先生によるIPv6のチュートリアル

WIDE
KAME Project
TAHI Project
Internet2
Abilene
6bone
IPv6普及・高度化推進協議会
 
JGNウェブ編集部では、インタビューに協力していただけるJGNプロジェクト研究者を募集しています。 自薦、他薦等、JGNウェブ編集部まで、氏名、メールアドレス、電話番号、JGNプロジェクト番号を添えてお知らせくださいますようお願いいたします。
 

お問い合せホームページへのお問い合せ Copyright (C) 2004 TAO All Rights Reserved.