Vol.8 スペシャル企画:ギガビットネットワーク・シンポジウム2001 ネットワーク中継及びネットワーク配信座談会 バックナンバー

福永博子 氏
▲NHKエンタープライズ21 マルチメディア事業部 福永博子 氏

中村一彦 氏
▲NTTコムウェア株式会社IT商品本部商品企画部 セキュリティコンサルタント 中村一彦 氏

北辻佳憲 氏
▲(株)KDDI研究所ネットワークエンジニアリンググループ 担当主査
通信・放送機構IPv6システム運用技術開発センター研究フェロー  北辻佳憲 氏

久保孝弘 主査
▲(株)KDDI研究所ネットワークエンジニアリンググループ 主査 久保孝弘 氏


▲(株)日立製作所IPネットワーク本部ネットワークソリューション部 技師
通信・放送機構IPv6システム運用技術開発センター研究フェロー 林久善 氏

福士慎一郎 プロデューサ 
▲(有)ブレス プロデューサ 福士慎一郎 氏

岡崎裕康 氏
▲(有)ブレス 企画・制作 岡崎裕康 氏


▲(株)三菱総合研究所 E-ガバメント研究センター長 兼 情報環境研究本部 研究部長 磯部悦男 氏

勝野 聡 研究員 
▲通信・放送機構大手町IPv6システム運用技術開発センター 研究員 勝野 聡 氏

小竹正高 主査 
▲通信・放送機構研究推進課 主査 小竹正高 氏

島田淳一 課長補佐 
▲総務省情報通信政策局技術政策課 課長補佐 島田淳一 氏

【出席者(会社名50音順)】
 
NHKエンタープライズ21 マルチメディア事業部 福永博子 氏
 NTTコムウェア株式会社IT商品本部商品企画部 セキュリティコンサルタント 中村一彦 氏
 株式会社KDDI研究所ネットワークエンジニアリンググループ 担当主査
 通信・放送機構IPv6システム運用技術開発センター研究フェロー  北辻佳憲 氏
 株式会社KDDI研究所ネットワークエンジニアリンググループ 主査 久保孝弘 氏
 株式会社日立製作所IPネットワーク本部ネットワークソリューション部 技師 
 通信・放送機構IPv6システム運用技術開発センター研究フェロー 林久善 氏
 有限会社ブレス プロデューサ 福士慎一郎 氏
 有限会社ブレス 企画・制作 岡崎裕康 氏
 株式会社三菱総合研究所 E-ガバメント研究センター長 兼 情報環境研究本部 研究部長 磯部悦男 氏
 通信・放送機構大手町IPv6システム運用技術開発センター 研究員 勝野 聡 氏
 通信・放送機構研究推進課 主査 小竹正高 氏

【司会】
 総務省情報通信政策局技術政策課 課長補佐 島田淳一 氏

実施:2001年12月10日(於:大手町IPv6システム運用技術開発センター)

◆はじめに

 沖縄県名護市「万国津梁館」で2001年11月19日(月)〜21日(水)に開催された「ギガビットシンポジウム2001 〜沖縄から世界に広がるIPv6ネットワーク」は、国内外の一流のネットワーク研究者を集め、盛大に開催され、成功裡に終了しました。研究開発用ギガビットネットワークの利用方法のひとつとしてイベント利用がありますが、今回のシンポジウムでもJGNや通信総合研究所(CRL)のネットワークを活用して、遠隔参加やサブ会場への配信がおこなわれました。この座談会では、ネットワーク配信に係わるナマの苦心談を語っていただきました。

◆目次

* 司会者挨拶
* ネットワーク概要
* ネットワークのコンセプト
* 会場について
* トラブルに次ぐトラブル
* スペシャルセッションでの嘉陽小学校との通信に関するトラブル
* スペシャルセッションでの座間味小学校との通信トラブル
* 開催前日(11/18)の沖縄-1 アクセスポイントの停電
* ルータの発熱による不具合
* DVTSのバージョン違い
* ネットワーク業界と放送業界のカルチャーギャップ 
   〜ポイントはキーパーソン同士相互理解とヒューマンリレーションシップ〜

* 遠隔参加者は何を見ながら話すか
* インターネット中継
* 多様な技術の見せ方
* 中継地の反応
* 来年以降のシンポに向けて

司会者挨拶

島田:
本日はお集まりいただき、ありがとうございました。通信総合研究所(CRL)町澤明彦氏に急用が入り、大変ご活躍頂いた通信総合研究所からご参加いただけなかったのは残念ですが、始めさせていただきたいと思います。この座談会の趣旨ですが、JGNシンポジウムにおいてネットワーク中継やネットワーク映像配信を行った際の貴重な苦労や経験をJGNホームページに掲載して、読者に知っていただこうというものです。どうぞよろしくお願いいたします。

ネットワーク概要

中村:
シンポジウムでは、JGNやCRLの回線等を経由して、スペシャルセッションと海外セッションの中で、遠隔地からシンポジウムに参加してもらいました。また、6つのサブ会場(仙台、つくば、富山、福井、京都、愛媛)等へ沖縄会場の模様を配信いたしました。
下の図の1枚目が、遠隔参加の際に利用したネットワーク構成図です。2枚目はサブ会場等への配信に使った構成図です。また、インターネットへの配信も行いました。

ネットワーク中継構成図

▲図 ギガビットネットワークシンポジウム2001 
ネットワーク中継構成図
(図をクリックすると拡大されます)

サブ会場への映像配信ネットワーク構成図

▲図 ギガビットネットワークシンポジウム2001 
サブ会場への映像配信ネットワーク構成図
(図をクリックすると拡大されます)

ネットワークのコンセプト

中村:
「沖縄から世界に広がるIPv6ネットワーク」というのがシンポジウムのテーマだったので、今回のネットワーク利用については最初、IPv6を中心に構成したいと考えました。しかし、JGNのIPv6ネットワークは今年の10月から試験サービスが始まったばかりで、今回のような大人数が参加するイベントで利用するには信頼性が低いのではないかという心配もありました。できるだけ多くのIPv6対応機器を使いたいと考えておりましたが、準備の過程でJGNのIPv6を構成するルータの一部の性能に問題があることが判明したので、サブ会場への配信は主にJGNのIPv6ネットワークを用い、インターネットへの配信はJGNのATMネットワークを用いるという、IPv6とATMの併用という形に落ち着きました。

林:
付け加えますと、受け手のサブ会場側でも画像等を加工したいというニーズがありましたから、受け手側が加工しやすい形で伝送するということにしました。その結果、IPv6とATMの両方を使ったということです。

中村:
例えば、WindowsもOSレベルではIPv6には対応しているのですが、未対応のアプリケーションがほとんどですからね。

島田:
サブ会場が最終的に確定したのがシンポジウムの1ヶ月前でした。それを考えると、今回のネットワーク配信はよく稼動したと思います。サブ会場の確定に時間がかかったのはTAO及び総務省の責任ですね。謝らなければなりませんね。

勝野:
JGNのIPv6化と、今回のシンポジウムのような映像伝送の意義は何かを考えることは必要だと思っています。IPv6がIPv4と同様に使えることをまずは目的としながらも、イベントの中で何をすることに(v6としての)意義があるかということです。

中村:
IPv6はアドレス空間が膨大ですが、今回の映像配信のようなケースではそのメリットが出てきません。むしろ、IPv6は安価なイーサネットでJGNに接続できることの方がメリットが大きいのかもしれないですね。

島田:
今回は、IPv6を使ったという最初のケースですから、今後徐々にIPv4と同じように使えるようにしていくということでしょう。

 

万国津梁館(夜)
▲万国津梁館(夜)
(クリックで拡大)

会場について
島田:
地方の会場で開催したことによる苦労も多くあったと思いますがそのあたりはどうでしょうか。

小竹:
沖縄の万国津梁館という会場で行ったことで多くの苦労がありました。最初は、風景がきれいでロケーションのよい場所だとは思ったのですが、準備を進めていくうちに、これは大変だということが分かってきました。例えば、ネットワーク関係の機材もほとんど持ち込みで行う必要がありました。旅費もかさみましたし・・

福士:
私達のグループには、テレビ放送の専門家がかなり入っていました。その中で出ていた意見としては、音声はともかく、映像のやりとりについてはあまり考えられていない設備だということでした。サミットを行うような会場ですから、そもそもこういうイベントの利用には向いていなかったといえるかもしれません。ただ、あれだけきれいな良い場所でしたから、我々スタッフも精神的に助けられた部分はありました。これは大きかったと思います。

中村:
会場には、サミット開催時に敷設された回線が残っていて、これをネットワークに利用できました。これはラッキーな点でした。

トラブルに次ぐトラブル

島田:
ネットワークを利用した中継に伴う苦労もいろいろあったと伺っておりますが。

福士:
映像伝送に使うパソコンを本番の一時間前に買いに行っている(注:下記北辻氏の発言を参照)というのが、我々テレビ業界の人間からすると考えられないことでした(笑)。しかし、当日までにもいろいろなトラブルが発生し、その都度解決してきていましたので、当日のそういうアクシデントも受け入れられるようになっていました。パソコンを一時間前に買いに行っても大丈夫ではないかと(笑)。テレビとコンピュータの融合が始まりつつある現場に居合わせているのだと考えるようになっていました。テレビの創成期と似たような場面にいるのだから、大変なのは当然なのかなと思うようになりました。中継直前に通信回線トラブルに見まわれて頭が真っ白になる状態などを含めて、いろいろな経験が必要なのだと思います。嘉陽小学校からの中継を担当した岡崎くんはまだ入社2年目ですが、こうした場に参加できてよかったのではないでしょうか。本当に大変だったのですが、いい経験なのではなかったかと思っています。

 
 

スペシャルセッションでの嘉陽小学校との通信のトラブル

岡崎:
私は嘉陽小学校からの中継を担当しました。前日のテストまでは順調だったので安心していたのですが、当日にパソコンの機嫌が悪くなり慌てました。こういう経験は、テレビの世界ではなかなかないですから。

福士:
スペシャルセッションを演出する話が来たときには、テレビ中継と同様に考えればよいと簡単に考えていました。テレビの業務用中継装置の代わりにパソコンを使うくらいに気軽に考えていました。しかし、準備を進めていくうちに、これはテレビではないということが判ってきました。私がこの業務をする上においては、テレビでないという認識を持つことが一番大事だと思いましたし、テレビでの考え方を捨てるのに一番時間がかかりました。

北辻:
嘉陽小学校との通信がうまく行かなかったのは、パソコンの調子が悪かったからですが、本当に一番調子が悪かったのは私自身でして・・(笑)。具体的には2つの不具合がありました。ひとつは、テスト用カメラ自身のハードウェアトラブルが原因でした。もうひとつは、嘉陽小学校から、送信はできるけれど受信ができないということがありました。パケットは受信しているのですが、映像が見えない状態でした。これが分からず原因の究明に時間がかかってしまいました。要はパソコンのハードウェアトラブルなので、代替機を用意するしかないだろうということで新しいパソコンを手配しました。新品パソコンが本番45分前に到着し、そこから必要なソフトをインストールしてぶっつけ本番で動かすことにしました。予定の15分遅れでしたが、なんとか動いてくれました。

福士:
綱渡りですが、なんとか15分遅れで開始できました。

中村:
はじめはソフトのドライバの問題を疑っていたのですが、最終的にハードウェアの問題だとわかりました。こういう場合は問題の切り分けに時間がかかります。予備機を全ての箇所で用意できれば良いのですが、予算の問題もあり今回は予備機の手配は不完全でした。

福士:
演出側からすると、すべての機材について代替機を用意して欲しいところですね。リハーサルをするにも、ネットワークが止まるとすべてが止まってしまいますから。

島田:
嘉陽小学校の映像伝送で、音声がプツプツ切れた主な原因は何だったのですか?

北辻:
パソコンを直前に入れ替えたので、設定値が変わってしまいました。事前のテストではもう少しきれいな映像がでていましたが、チューニングした設定値が消えてしまったためにあの程度になってしまいました。また、映像中継以外の他のトラヒックも同じネットワークを流れたためであろうと、推測しています。

中村:
ネットワークの一部で、想定していたパフォーマンスが出ていない箇所がありました。それも原因の1つです。

北辻:
10Mbpsのイーサネットと言ってもUDPで片方向なら5Mbps、TCPなら3Mbpsしかでませんから。

 
 

スペシャルセッションでの座間味小学校との通信トラブル

福永:
座間味はなぜあの程度の映像だったのですか?

中村:
事情があって、ルータの調子が悪いものを使い続けざるを得ない状況がありました。それにしても56kbpsまで出なくなるというのは予想外でしたが。
(後日、ハードウエアの不具合とルータ設定に問題があったことが判明し、他のハードウエアに交換した。)

福永:
私が演出を担当した座間味は、1Mbpsの計画でしたが、当日朝に64kbpsになると言われ、最後には56kbpsのアナログ回線になってしまいました。

中村:
ISDNを引いておけば、128kbpsは確保できたことを考えると、予備の回線の確保は大切ですね。

開催前日(11/18)の沖縄-1 アクセスポイントの停電
福永:
停電もいきなりでしたからね。

中村:
開催前日(18日)の朝から夕方5時まで、「沖縄-1」のアクセスポイントが法定点検で停電になりました。実際には夕方3時半ごろ復旧しました。そのため、座間味、北谷(ちゃたん)をはじめとする中継箇所と全ての映像配信箇所への通信が出来ませんでした。「沖縄-1」アクセスポイントにはUPS(無停電電源)もありませんでした。

久保:
ティンクティンクの中継を行った北谷のスタジオからの通信ができませんでした。立ち上げて動かすだけでいいと言われて安心していたら、このトラブルが起こりました(笑)。慌てました。

中村:
北谷のスタジオからはその1週間ほど前にe-Drive2001というイベントで、お台場に映像を流した設備をそのまま残していました。それをそのまま使おうとしていたのですが、まず「沖縄-1」の停電がありました。停電が原因というのも最初なかなかわからず手間取りました。

小竹:
この点については、連絡不行き届きで、本当に申し訳ありませんでした。

ルータの発熱による不具合

中村:
北谷では、停電後も不通が続きました。原因を調べていくうちに、那覇のOTNet様のハウジングスペースに置かせていただいていたルータの調子が悪いらしいということがわかり、倉敷芸科大の小林先生と那覇まで車を飛ばして現物を見に行きました。日曜日の夜9時半くらいだったのですが、OTNet様に無理を言ってそのスペースに入らせていただきました。ルータ自身の発熱のためにラック内が熱気でいっぱいになっていて、ルータの息も絶え絶えという状態でした。結局ラックの空気を入れ替えてしばらく喚気していたら正常な状態に戻りました。
 
DVTS(Digital Video Transport System) :
デジタルビデオ映像をIEEE1394によりIP上で配信するためのソフトウェア。参照
DVTSのバージョン違い
久保:
DVTSのバージョンが違っていたということもありました。結局ソースコードをダウンロードしてコンパイルし直して・・という作業を行い、バージョンを合わせました。本来なら、どこかでローカルに通信テストをして、うまく動いたら遠隔に持って行ってテストをして、という手順をふむべきなのでしょうが、動くはずだということでいきなり遠隔でやったらこういう問題が起きました。もう少し、作業の流れを決めておくべきなのでしょうね。
ネットワーク業界と放送業界のカルチャーギャップ 
     〜ポイントはキーパーソン同士の相互理解とヒューマンリレーションシップ〜
久保:
今回は放送屋さんとネットワーク屋さんがいました。その感覚のずれが大きかったです。ネットワークのトラブルを直している最中に会場が閉鎖になる時間だから会場から退出して欲しいとNHKエンタープライズ21の方に言われたり・・というようなドタバタもありました。

福永:
私は放送サイドの人間ですが、ネットワーク業界と放送業界のカルチャーギャップは非常に強く感じました。私は、演出上の問題も全然決まっていなかったので早くその話をしたいとそればかり考えて座間味に入りましたが、ネットワークがつながらないため打合せもできない状態が続きました。福士さんからは、まだつながらないのかと言われるし・・こちらが言いたいくらいなのに・・、民宿からは早く帰ってご飯にしろと言われるし・・(笑)

林:
私はネットワーク業界の人間ですから、不具合は当然あるものだという認識があって、あぁまただなという感じなのですが、放送業界の方にはとまどいがあっただろうなと思います。

中村:
予備機はある程度は揃えてもらっていましたが、嘉陽小学校には用意できませんでした。予備機の問題もありますね。

林:
予備機も大事ですが、やはり一番大事なのは人と人の関係(連絡体制と意志決定体制)だと思います。つまり、演出側のキーパーソンは誰で、通信側のキーパーソンは誰で、何を誰にどう話せばいいのかというのが一番のポイントだと思います。

福士:
テレビの世界では演出者は渉外係も兼ねています。テレビでは、演出者が中継の準備のための配置・配線等の作業をします。同様に、ネットワーク中継でも演出者がネットワークについての知識を持つべきなんだと私は感じました。早くしてくださいと言うだけではなくて、演出の順番を入れ替えたり場合によってはあきらめるなどの判断が必要です。しかし、ネットワーク側の中身について概略でも理解していないと、時間がどのくらいかかるかもわからず判断ができません。最低限、誰が何をしているかは理解する必要があります。今やらせていただいている学校インターネットのオープニングセレモニーではこの反省に立ってネットワーク側と演出側が皆同報メールで情報を共有する方針にしています。

林:
そうですね。トラブル等の発生時には、ネットワーク側と演出側が直接話ができないとダメです。それは私の経験した他のイベントでも経験しました。

中村:
そのためには、演出側とネットワーク側の双方のスケジュールについて、もう少し詳細な運行表が必要だと感じました。

久保:
詳細ということでは、機器リストも手配ミスがあったので、もう少し詳細でも良かったかもしれません。

福士:
スケジュールと言うことに関して、私達の立場から言わせてもらうと、やれるところからやるしかなかったです。例えばテレビ番組の制作に比べても、今回のようなイベントでは、調整項目が非常に多くなっているので、詳細なスケジュールを作るのは本当に大変です。しかし、演出は私が、ネットワークは中村さんが全体を把握していて、直接の話もできたので、基本的なコミュニケーションはできた方だと思いますがいかがですか?

中村:
そうですね。できれば、それぞれに補助役として1人ずつでも配置されていればもっと良かったと思います。

福士:
中村さんはネットワークだけではなく演出上のポイントもよく理解されたし、私もPCは好きなのでネットワークについての理解に努めたつもりです。その点が良かったのではないかと思います。

 
  遠隔参加者は何を見ながら話すか
中村:
放送業界の人たちと感覚が違うと思ったのは、私たちからすると、遠隔地からの参加の時には遠隔地の様子が返ってくるのが当たり前なのに、放送業界の人たちは遠隔地へ送っている自分達の様子を見ているのが普通だと言われた点です。

福士:
私達もはじめは中村さんの言われていることが分かりませんでした。テレビでは映っている自分の姿を見ながら話すのが当たり前ですから。インターネットではテレビ会議的な使われ方が既に行われているので、相手の映像があるのが当たり前ということだと段々にわかってきました。世界が違うので、融合が必要なのだと思います。

福永:
1対1で話す場合にはお互いに相手を見ればよいというのは判りますが、第三者が入ったときには果たしてどういう映像を見せればよいのかという点もあります。

中村:
今回の広島の白島小学校では、音声認識プログラムを使って、誰が話し手かを認識してカメラを切り替えるような機能も実験しています。

福士:
しかし、そのカメラの動きを演出者が計算するのは至難の業になりますからね。福永さんのおっしゃった点は、最終的には見る人が何を自然と思うかという、人間の生理の問題になると思います。

中村:
慣れの問題もありますね。

福士:
1対多というテレビの限界を乗り越える技術が出てきたのだから、それをどうやって使っていくかについては、演出者が頭を悩ませていく問題だと思いますよ。

インターネット中継

島田:
インターネット中継もかなりのアクセスがあったそうですね。1000人以上の視聴者がいたそうですが。

中村:
インターネット中継でもトラブルがあり、視聴出来ない時間帯がありました。また、大手町からIPv6で配信していたサブ会場でも同じ現象が生じました。大手町付近にあるJGNからインターネットへの出口のところでトラブルが発生していたようです。

島田:
その後、その問題は解決して、順調に動いていると聞いています。こうしたイベント利用には、バグ出しという効果もありますね。

中村:
不具合の原因は判ってみればほとんどの場合、なんだそういうことかというようなものなのですが、多くの原因が考えられる中で問題を切り分けて原因を究明するには時間がかかります。ネットワーク監視の仕組みをこういうイベントでも導入すべきなのかなと思いました。

 

 

多様な技術の見せ方

中村:
JGNの研究は、太い回線だからトラヒック量が大きいものを流そうというタイプのものが多いのですが、今回のシンポジウムでは、太いネットワークも細いネットワークも様々に使って見せることができたという点が重要ではないかと考えています。

福士:
せっかくネットワークの専門家がたくさん見ていたのだから、どういう状態で伝送できているかを見せても良かったのかもしれません。新幹線に乗ると速度が表示されますが、今回の演出でもビットレートを画面で表示しても良かったのかもしれません。

中村:
ただ、同じ低ビットレートのMPEG4の映像を見せる場合でも、「低ビットレートなのにきれい」と見せるのか、「低ビットレートだからあまり鮮明でない」と見せていいのかという評価の視点が入ると難しい点はあると思います。

島田:
しかし、技術の多様性を見せるのは重要だと思います。必ずしも来ていただいた観客の方に評価頂かなくても、あるビットレートでどのくらいの映像が標準的に見ることができるのか、という現在の技術レベルを見てもらうという姿勢は大事だと思います。

中村:
技術の多様性を見せるという考えでは、例えば来年はケーブル事業者に配信してテレビで見てもらうとか、街頭の大型スクリーンに配信するとか、別のメディアに送るのも大事かもしれません。

福士:
ケーブルテレビだけではなく、CSも考えられますね。

中継地の反応

福永:
座間味の中継には父兄の方も多く見に来られていましたが、その関心の高さに驚きました。かなり専門的な質問をされる方もいました。離島だから通信には興味が強いのかもしれませんが、それにしても一般の人にも非常に関心が高まっているのだということを肌で感じました。

中村:
インターネット上での映像伝送に関するハードウェア、ソフトウェアともに市場に徐々に現れてきており、少しずつに成熟してきています。しかし、それぞれの製品が独自の使用を実装しているので、ある機器とあるソフトのこのバージョンではノイズが載るといった相性問題も出てきています。これらの知見は経験を蓄積することが大切だと思うので、それを生かすように十分に準備してチューニングできたら良かったなと思います。今回の反省を来年以降に生かしたいところです。

 
  来年以降のシンポに向けて

島田:
我々TAOと総務省の責任も大きいのですが、ネットワーク関係の準備は後手後手を踏んだ感が否めなく、反省点は多々あると思いますが、皆さんはいかがですか?

林:
スケジュールの連絡や、遠隔地との連絡などが十分でなかった点は反省材料だったと思います。

北辻:
細かい点ですが、月曜日にイベント初日になると、今回のように日曜日の法定点検の停電が重なったりしますから、来年は月曜日にスタートしない方がいいですね。

福士:
しかし、こうした経験は次に蓄積されるものですから、十分意義があったと思います。個人的にも大変楽しい経験ができたと思っています。今回もスペシャルセッションは多地点を結んで行いましたが、その場所が回線を確保しているかどうかによらずに、その地点に居る人たちが自主的に手を上げられるようになればさらに面白いかなと思います。

中村:
2、3年前なら1年待っても引けなかったような太さの回線でも、最近なら3ヶ月や1ヶ月待てば引いてくれるようなケースが増えていることは事実です。やり方を考えると面白いと思います。

磯部:
私は3年前のシンポジウムではもう少しネットワークの近くで見ていたのですが、3年前の簡単なシステムに比べるとずいぶん大掛かりになったなぁという気がします。ただ、大掛かりになると苦労も増えるので、機械の方がもっと簡単になって、携帯電話を使うように遠隔映像配信ができるという風にならないといけないと思います。

中村:
Windows XPは、はじめから映像伝送についてはかなりのソフトウェアが用意されていて、感心します。しばらくすれば、ネットワークにつないだらすぐに映像伝送が行えるような時代がくるかもしれません。

北辻:
今回も、中村さんにつないだら使えるからって言われて、私はだまされましたからね。ちょっと、まだまだ、信じられませんね(笑)

島田:
まだまだ、研究を行う必要があるということですね。皆様、長時間ありがとうございました。

文責:JGNウェブ編集部

 

関連リンク集

ギガビットネットワーク・シンポジウム2001ホームページ
独立行政法人通信総合研究所
株式会社NHKエンタープライズ21
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株式会社日立製作所
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