Vol.9 GENESISプロジェクト(第2フェーズ)〜次世代広帯域ネットワーク利用技術の研究開発〜 バックナンバー

尾家 祐二 教授
▲九州工業大学 情報工学部 電子情報工学科 尾家 祐二 教授

 

遠隔合奏
▲DV over ATMによる会議風景です。小金井(CRL),豊中(大阪大学),飯塚(九州工業大学),北九州の4地点での定例会議に使用しています。
写真:鶴正人 氏提供
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白島(はくしま)小学校
▲日欧広帯域IPv6ネットワーク共同実験(2001年1月)での国際会議の様子。発表者は通信総合研究所中川晋一氏。
写真:植月修志 氏提供
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国際会議のネットワーク構成図
▲日欧広帯域IPv6ネットワーク共同実験(2001年1月)での国際会議のネットワーク構成図。マドリッド、ロンドンの現地へ研究員が入り設定作業をした。
写真:植月修志 氏提供
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光ファイバ
▲国際会議などのイベントで活躍する光ファイバ。敷地内での接続に使われることが多いという。
写真:植月修志 氏提供
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アクティブネットワークの研究
▲図:アクティブネットワークの研究 (提供:植月修志氏)
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通信・放送機構 GENESISプロジェクト(第2フェーズ)サブリーダ 尾家祐二 先生
九州工業大学 情報工学部 電子情報工学科 教授
インタビュー実施:2001年1月16日(於:東京都内)
◆はじめに
 通信・放送機構の直轄研究として、大阪大学宮原秀夫教授をプロジェクトリーダとし、真にグローバルな国際広帯域ネットワークの実現を目指したGENESISプロジェクトがあります。今月はサブリーダとしてご活躍中の尾家祐二先生にGENESISプロジェクトについてお話を伺いました。
GENESISとはどういうものだったのでしょうか?
 GENESISの正式名称は、次世代広帯域ネットワーク利用技術の研究開発です。フェーズTの時点では衛星通信を使った教育のようなテーマも含まれていました。フェーズUでは、もう少しフォーカスを絞り込んでIPの研究を行いました。
尾家先生ご自身はGENESISに最初から参加されたのでしょうか?

 フェーズIの終わりごろから参加しました。GENESISの研究テーマを絞り込むにあたって、GENESISプロジェクトリーダである宮原先生に声を掛けていただいた次第です。

GENESISの研究体制について教えてください。

 小金井、豊中、北九州の3つの研究拠点がお互いに連携して研究を進めました。GENESISもJGNもTAOのプロジェクトですが、それだけではなくJGNをユーザとして利用してきました。こうした分散環境での共同研究ができたのはJGNがあったおかげですね。(左写真参照)
北九州ではどのような研究が行われたのでしょうか?

 私の在籍している九州工業大学は飯塚市にあり、北九州市のリサーチセンター(北九州次世代広帯域ネットワークリサーチセンター)からは30kmほどの距離にあります。小一時間ほどの距離にありますので活発に研究交流を行っています。具体的には、DiffServの研究を行いました。複数ドメイン間でのDiffServの研究などもあります。また、最近では、音声がIPに乗ることは普通になりましたが、パケットスケジューリングの研究も行ってきましたし、ネットワーク計測も行ってきました。

九州ではQoS研究会が開催されていると聞きました。
 QoS研究会は、九州インターネットプロジェクト(Qshu-Bone Project)に名前を変えました。JBプロジェクトならぬQBプロジェクトですね。これは、産学連携を目的とした研究会です。こちらには、主なネットワークベンダやキャリアにも参加いただいており、2、3ヶ月に1度ミーティングを開いています。江崎先生と下條先生にも参加いただいています。我々は東京に呼び出されることがどうしても多いのですが、このようなアクティビティは九州の求心力になります。
豊中の研究はどのようなものがありますか?

 豊中では、アプリケーション系の研究が中心です。ISPがどんなサービスができるかについて、課金モデルを含めて研究しているグループがあります。また、Bandwidth Brokerを利用したポリシーネットワークの研究を行っています。他には、インターネット上でのゲームを快適に行うための研究もあります。

 また、「構成が容易な多地点遠隔会議システムの研究開発」というものがあります。これは、GENESISのリーダでいらっしゃる宮原先生が、会議のために出張する機会が多く、かといって普通の遠隔会議システムは設定が厄介だという問題があり、なんとかならないかということで始まった研究です。この研究では、実際にアプリケーションをリリースする予定だと聞いています。

小金井の研究にはどのようなものがありますか?

 ひとつは、時刻同期の問題です。例えば、トラフィックの計測を行う前に、各ノードの時計を合わせたいということがあります。IPv6上での時刻同期についての研究が進められています。ネットワーク計測には、狭義の計測と、その計測結果を使ってネットワーク内部を推測する研究がありますが、この両方を行っています。

 また、アクティブネットワークの研究もホットな話題です。通常のルータでは受け身でパケットを振り分けることしかできませんが、アクティブネットワークでは、パケットにプログラムが埋め込まれ、そのプログラムを受けたルータが自分で設定を変えていくイメージになります。アクティブネットワーク(左図参照)になると、オペレータだけが行ってきたネットワーク制御をユーザにも開放できます。

エンドユーザがトラフィックエンジニアリングできるイメージですか?

 エンドユーザよりはむしろ、例えば企業のネットワーク管理者の立場にあるユーザがネットワーク制御をできるようなイメージが強いと思います。もちろん、どの程度までユーザにそのような制御を許可するかなど、実現までの問題はまだ、たくさんあります。技術的可能性や有効性を含めて注目されている技術です。

ところで、トラフィックエンジニアリングとQoSの関係はどのように考えればよろしいのでしょう?

 いずれにしてもまず、ネットワークの計測が必要です。先ほども申しましたように、ネットワークの計測には、狭義の計測と推定の2つのプロセスからなります。計測にも受動的なものと、パケットを能動的に送ってみてそれを計測するものとがあります。CTスキャンのCTは、コンピューテッド・トモグラフィーの略語なのですが、この言葉の類推で、ネットワーク・トモグラフィーという考え方が出てきています。

※トモグラフィ tomography:【医学用語】(X線)断層撮影法
ネットワークトモグラフィの詳細説明。(TAO GENESISプロジェクト)

 このような計測の結果を応用する方向としては、トラフィックエンジニアリングとQoSの2つがあります。トラフィックエンジニアリングは、ネットワーク資源の有効利用というニュアンスが強い言葉です。一方、QoSと言った場合には、ユーザにとってのサービスレベルを多様にするというDiffServに代表される技術のイメージで使われることが多い言葉です。

海外との共同研究もGENESISの特徴の一つですね?

 そうですね。CRLが中心になって、GIBNプロジェクト、JEGプロジェクト、APIIプロジェクトとの共同研究があります。CRLの研究員がノードを外国まで自分で運んで設定するなど大変苦労されていると聞いています。(左写真を参照)

学会発表などの研究成果も多いですね。

 大学の教官のようなアカデミックなスタッフが多数参加していることもあって、GENESIS関係の論文はかなり出てきています。アプリケーションとしての成果としては、ネットワークゲームの研究関連のものと、多地点遠隔会議システムがあります。

多地点遠隔システムは期待されますね。

 宮原先生の肝いりですからね。今でもDV over ATMの製品は使うこともありますが、やはりDV over IPでかつ構成が容易なものが欲しいですから。

GENESISは成果の多数出ているプロジェクトだと思いますが、
    どのように評価していらっしゃいますか?

 ひとことで言えば産官学の連携がうまく行ったということだろうと思います。GENESISの研究員の方は、基本的には民間企業から来られています。民間企業の方はモノにつなげるという意味で大変パワフルです。我々のような大学人だけではこうはいかないと思います。官としては、CRLが中心となっている国際的な活動も実現する、国家プロジェクトであることが大きな意味を持っていると思います。また、大学人が多数参加していることで基礎研究も行えています。我々のような大学人にとってはこのような広がりのある研究プロジェクトは大変刺激を受けます。

JGNへの評価になるといかがでしょう?

 我々のようなネットワーク研究者にとっては、単にサービスを受けられるだけではなく、自分たちでコントロールできるネットワークであることが不可欠です。自分たちで論理的にネットワークを組み立てることができるのが大きいと思います。例えば、普通のインターネットを使うということでは他のトラフィックの影響を強く受けますし、その内容を知ることもできません。

江崎先生はJGNがレイヤ2で提供されたためにかえってIPの研究が行いやすかった
    とおっしゃっていましたが、同じ意見と考えてよろしいですか?
 そうですね。低い階層でのアクセスを許す自由度の高いネットワークのほうが研究者としてはありがたいと思います。
 
  ◆おわりに

 昨年(2001年)、岩波書店から尾家祐二・後藤滋樹・西尾章治郎・宮原秀夫・村井純の各先生が編纂、執筆された「岩波講座 インターネット 全6巻」が刊行されました。尾家先生は、第一巻「インターネット入門」の大半を執筆されたそうです。ぜひ手にとってご覧頂ければと思います。

  尾家先生ならびに、本稿の作成にあたって協力いただきました独立行政法人通信総合研究所久保田文人様、通信・放送機構小金井GENESIS研究グループ植月修志様、通信・放送機構北九州次世代広帯域ネットワークリサーチセンター鶴正人様に感謝いたします。

文責:JGNウェブ編集部

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