Vol.11 高速・広域ネットワーク上でのマルチキャスト伝送を応用したプラント設備のコラボレーション遠隔診断に関する研究(JGN-P112553) バックナンバー

安西敏雄 氏

▲株式会社高田工業所 技術本部技術開発部次長 技術士(金属部門) 
安西敏雄 氏

太田稔 氏

▲株式会社高田工業所 技術本部技術開発部課長 工学博士
太田稔 氏

岡村耕二 先生

▲九州大学情報基盤センター 助教授 岡村耕二 先生

株式会社高田工業所 技術本部技術開発部次長 技術士(金属部門) 安西敏雄 氏
株式会社高田工業所 技術本部技術開発部課長 工学博士 太田稔 氏
九州大学情報基盤センター 助教授 岡村耕二 先生
インタビュー実施:2002年3月27日(於:株式会社高田工業所(北九州市))

◆はじめに

 JGNでは、民間企業の研究利用も行われています。プラント保守の分野にネットワークを活用した株式会社高田工業所の取り組みを伺いました。

 

研究概要について教えてください。
(太田)弊社は、プラントエンジニアリングを行う会社で、設計・施工・保守を一貫して行っています。最近では、お客様である工場側も新しく設備を入れるよりも、既存のプラントを、保守しながらできるだけ長く使いたいというニーズが高まってきました。
 今回の研究プロジェクトでは、プラント設備の遠隔診断を分散型コラボレーション環境で実現できるかどうかを検証しました。
 一括メンテナンスのニーズは高まっているのですが、プラント設備診断のできる技術者の数が足りません。そこで、ネットワークを利用して、遠隔に診断をすれば良いのではないかと考えました。インターネットの利用も当初考えましたが、容量が足りないので、JGNを利用させていただくことになりました。

(安西)技術者が足りないことも確かなのですが、工場側にとって、プラントの稼動を止めることは、大きな損失に直接つながります。技術者が移動する時間さえ惜しいのです。ネットワークの利用によって技術者が診断に向かう移動の時間的ロスがなくなると大変なメリットがあります。工場の稼動を一日止めると数億円のマイナスが起きるケースもありますから。

(太田)データ伝送には、3種類の試みを致しました。一つめは、普通のテレビと同じNTSC方式(30フレーム/秒)のDV画像です。これはほとんど劣化なく伝送できました。二つめは、高精細ビデオです。1280×960ピクセルのメガピクセル高精細ビデオカメラを用いたものです。これの動画像伝送は、3.75フレームまで落としてもうまくいきませんでした。このため本ビデオの画像は、静止画像として用いました。三つめは、コラボレーションソフトウェアの利用で、ホワイトボード機能を持ったものを試しました。

(安西)プラントの状況確認では、金属面の観察が有効です。さまざまな角度から光を当てながら疲労破壊の状況を専門家が観察することで分析ができます。例えば、部分取替えで済むのか、全面取替えが必要なのかといったことですね。遠隔医療に似ていると思います。

 
コミュニケーションソフトウェアの利用の様子

▲コミュニケーションソフトウェアの利用の様子(クリックで拡大)

高精細画像の受信画像

▲高精細画像の受信画像(クリックで拡大)

さまざまな画像伝送手段の組み合わせは有効なのでしょうか。
(安西)最初に全体的な様子を議論するには、ホワイトボード機能もあるコミュニケーションツールが有効です。このツールは特に印象に残りました。大まかな状況をつかむためには、音声とフレームレートの高い映像が便利です。徐々に問題となる箇所が特定できてくると、フレームレートは低くても良いので、高精細な画像を送ってもらいたいということになります。静止画でも十分に役に立つので、実際に静止画を送ってもらって観察するということも行いました。
何割程度の診断をネットワーク越しにできるような感触を持たれましたか?
(安西)実際、ほとんどがネットワーク越しで可能なのではないかと思いました。予想していたより大分上回っていました。もちろん、カメラを映していないところで、重要なことが起きているかもしれません。実際にすべてがネットワーク越しに仕事が終わるというわけではないと思いますが、必要な情報は十分にネットワークで送れるとわかりました。
ネットワーク構成はどのようなものでしたか?
(太田)実際のプラントに接続して実験を行いたいと考え、いくつかの会社にお願いをしましたが、結果としてはできませんでした。ひとつはJGNへの足回り回線の問題ですが、今回の場合むしろプラント情報の機密性が問題になりました。実験について現場サイドではOKが出ていたが、会社の管理部門から待ったがかかったケースもありました。

(安西)我々が診断するのは、何らかの不具合が起きたときです。会社にとっては、どうしてもマイナスの情報になります。こうした情報は会社にとって非常に貴重なのですが、表にはどうしても出しにくいのです。

(太田)そこで、今回は、けいはんなギガビット・ラボを仮想プラントと見立てて、撮影しておいたDV映像や破損した部品を持ち込んで実験しました。けいはんなギガビット・ラボ、高田工業所、香川大学の3地点をマルチキャストで結びました。香川大学には、金属破壊の権威である江原隆一郎教授がおられます。

 

 SEM画像(走査型電子顕微鏡画像)のコラボレーション診断

▲ SEM画像(走査型電子顕微鏡画像)のコラボレーション診断
画面(クリックで拡大)

研究成果として特にアピールできるものを教えてください。
(岡村)ATM over IP技術の開発を行いました。ATM over IPというのは少し変な言葉なんです。ネットワークレイヤの考え方では、IPの方がATMより上ですから。本研究では、DVデータをATMセルで直接通信する装置を用いたのですが、香川県のアクセスポイントであるNext香川と香川大学を結ぶところで、一部イーサネットを使いたいことになり、ATMセルが届かないという問題が発生しました。そこで、イーサネットでもATMセルを流せる技術を開発してそれを使いました。一種のトンネル技術だと思っていただくとわかりやすいかもしれません。
実験で特に苦労された点はどのような部分ですか。
(安西)ひとつは、プラント不具合に関するマイナス情報を扱うことによる難しさです。DVカメラで撮影させていただいた場合にも、撮影してよい場所、カメラの向きを指定されるなど厳しい条件がありました。

(太田)遠隔コラボレーションの実験では、H.323端末として2種類を試しましたが、同時に表示できる画面数が2画面に限定されているが高画質のものと、相対的には低画質だが12画面まで対応しておりトータル的にはよくできているものがありました。

(岡村)その2画面に限定されている端末の方は、DNSを理解せず、IPアドレスを直接設定する必要がありました。最初伝送ができないときに、なにが原因かわかりませんでした。

(岡村)他には、ハウリングの問題もおきました。例えば、この場所と遠隔のどこかで通信する場合、こちら側にも複数の参加者がいる場合があります。スピーカーとマイクを複数設置すると、音が回り込みハウリングが起きます。ヘッドフォンとヘッドセットマイクを使うとハウリングは起きませんが、周りの状況がわかりにくくなります。

 
  研究の人的ネットワークがどのように広がったのかを教えてください。
(太田)北九州市にある財団法人九州ヒューマンメディア創造センターが中心となって、地場の企業をITなどの新しい分野と交流を深めるイベントなどがしばしば行われていました。岡村先生は、地域協議会「次世代超高速ネットワーク九州地区推進協議会利用促進部会」で部会長を勤められていて、九州ヒューマンメディア創造センターもこの地域協議会に入っていることもあり、紹介いただきました。香川大学の江原先生からは、日頃からご指導いただいています。新日鉄化学におられて現在は新日化環境エンジニアリングにおられる井上政春氏は、プラント側での協力者として尽力いただきました。仮想プラントとして使わせていただいたけいはんなギガビット・ラボは、北九州ギガビット・ラボに紹介していただきました。北九州市は、ご承知の通り、重厚長大の産業が多いので、新しい産業の育成に熱心です。特に、環境とITが大きなテーマですね。
この研究ネットワークは今後も活動を続けていく予定がありますか。
(太田)岡村先生がKANMON Project(Kyushu Advanced Network based MONitoring Project)と名づけてくださいましたが、このチームで今後も研究を続けたいと考えています。例えば、プラント内の通信を無線で行いたいなどの研究ニーズも持っています。プラントは広く、構造物も多いので、ケーブルを這わせるよりも無線が望ましいのです。
  JGNのプロジェクトでよかった点を教えてください。
(安西)やはり一番良かったのは、実際に金属疲労などについても遠隔診断ができることがわかったことです。遠隔コラボレーションツールを使ってみて、思った以上に便利だと思いました。金属工学の分野では、ネットワークの利用がまだあまりすすんでいませんが、十分に可能性があると思いました。日常の業務でも、香川大学の江原先生のような権威の方ともご一緒させていただくケースがありますが、やはりかなり大きなケースに限られてきます。ネットワークを利用すれば、相談をしやすくなります。また、プラント保守の専門家は数が少なく、各地に分散しています。こうした専門家がネットワークを利用して一緒に仕事をできればよいですね。人材教育の効果もあると思います。
JGNの研究環境でよかった点を教えてください。
(太田)北九州ギガビット・ラボの存在が大きかったですね。いろいろなアレンジの面でも尽力くださいましたし、場所の提供という意味も大きかったと思います。

(岡村)アクセスポイントは通常、大学の計算機センターや通信事業者のビルの中にあるケースが多いと思いますが、すぐに実験のできるラボがあったので大変都合がよかったです。実験中はかなり北九州ギガビット・ラボの方に通いました。集中的な作業がし良いですからね。北九州ギガビット・ラボは、新幹線の小倉駅から徒歩ですぐの場所にあり、利便性も良いですし、いろいろな意味で使いやすかったと思います。

(太田)北九州ギガビット・ラボのスタッフの方からは、実験に関するアドバイスも受けられた点も大きかったですね。

JGNに望むことについて教えてください。
(太田)通信事業以外の一般の民間企業から見ると敷居を高く感じてしまう点が課題といえばいえるかもしれないと思いました。例えば、研究計画書をどう書くべきかを誰に相談したらよいか等、敷居を高く感じさせている面があるかもしれないと思いました。
 
 
◆おわりに

 株式会社高田工業所は、製鉄所で有名な八幡駅の隣の駅近くにあります。プラント設計・施工を行う典型的な第二次産業に見える会社も、プラント保守という第三次産業分野のサービスへシフトしつつある現場を見せていただいた気がしました。そして通信ネットワークは保守サービスには欠かせない基盤であることがよくわかりました。

 ご多忙な年度末の折にインタビューに応じてくださいました、株式会社高田工業所安西様、太田様、九州大学情報基盤センター岡村先生に感謝いたします。

文責:JGNウェブ編集部

関連リンク集

KANMON Project(Kyushu Advanced Network based MONitoring Project)
TAO 北九州情報通信研究開発支援センター(北九州ギガビットラボ)
(株)高田工業所
(財)九州ヒューマンメディア創造センター

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