Vol.12 移動型作業ロボットを使用した遠隔コミュニケーションの研究開発 (JGN-P122536) バックナンバー

中野愼夫 教授

▲富山県立大学工学部電子情報工学科 
中野愼夫 教授

堀雅和 主任研究員

▲インテック・ウェブ・アンド・ゲノム・インフォマティクス(株)  
堀雅和 主任研究員

西原功 助手

▲富山県立大学工学部電子情報工学科 西原功 助手

高臨場感遠隔教育システムに用いられるロボット

▲高臨場感遠隔教育システムに用いられるロボット (クリックで拡大)

高臨場感遠隔教育システムで用いられる操作卓

▲高臨場感遠隔教育システムで用いられる操作卓
ロボットの身振りをアイコンで選択できる。(クリックで拡大)

富山県立大学工学部電子情報工学科 中野愼夫 教授
富山県立大学工学部電子情報工学科 西原功 助手  博士(工学)
インテック・ウェブ・アンド・ゲノム・インフォマティクス(株)  堀雅和 主任研究員 博士(情報科学)
インタビュー実施:2002年4月26日(於:富山県立大学)

◆はじめに

 ロボットが授業をするというユニークな研究を進めているプロジェクトについて、富山県立大学 中野愼夫教授とプロジェクトリーダのインテック・ウェブ・アンド・ゲノム・インフォマティクス(株) 堀雅和主任研究員にお話を伺いました。

研究の概要について。

(中野)まずは、高臨場感遠隔教育システムについて見てください。

百聞は一見にしかずですね。迫力があります。
(中野)普通の遠隔講義というとテレビ会議システムのようなスタイルが一般的です。私たちもテレビ会議スタイルの遠隔講義の研究にも取り組んできました。実際に講義をやってみると、向こうの教室に手を突っ込みたくなるのです。今回の研究では、遠隔の教室に自分の分身のロボットが居て、動き回ります。
カメラが3つ付いていますね。
(中野)広い視野角を持つように135°ずつ幅を持たせて3台のカメラを設置しています。人間の視野角は広いですから臨場感を得るにはこのような手法が有効です。
かわいい顔が付いていますが。
(中野)昨年10月にあった「とやまマルチメディア祭2001」に出典いたしました。このイベントには小学生も来ますので、親しみの持てる外観を目指しました。顔がついていないと、ビデオカメラのレンズのために3つ目のロボットになってしまい怖い感じがします。

(西原)かわいい顔がついていても、ロボットが自分の方に近づいてくるとちょっと怖いものがあります。(笑)

システム的な説明をお願いいたします。

(中野)ロボットそのもののはATR(株式会社エィ・ティー・アール知能映像通信研究所)で開発された成果に基づいた製品を購入しました。しかし、このロボットを動かすためには、一つ一つのモーターの動きを命令として与えなければならないので、教育用に使えるような操作環境はありませんでした。私たちはまず、教える時の動作をビデオテープにとって解析し、教育するときに必要なポーズや動きがどのようなものかを分析しました。よく使われるポーズや動作を操作パネルで選ぶことにより簡単にとりたいポーズが取れるようなインタフェースを設計しました。タッチパネルで、ポーズのアイコンを選ぶとロボットも同じポーズを取ってくれます。前後左右への動きはジョイスティックを使います。

とても工夫された操作性ですね。

(中野)ATRには共同研究者として研究にご参画いただきました。ATRから操作ライブラリについての詳しい情報を頂けたことにより、研究が進展しました。もともとの操作ライブラリでは、モータ一つ一つをどのように動かすかについてローレベルに定める必要があり、普通の先生が簡単に操作できるレベルにはだいぶ差があります。                        

参照ロボビーの動き1(15秒、約4Mバイト):[Quicktime] / [WindowsMedia]

参照ロボビーの動き2(15秒、約4Mバイト):[Quicktime] / [WindowsMedia]

参照操作風景(15秒、約4Mバイト):[Quicktime] / [WindowsMedia]

 
 

ネットワーク的に見ればどのようなシステムになっているのでしょうか。

(中野)このロボットはコードレスになっています。電源にはバッテリを使っています。ロボットにカメラが3台使われていますが、この映像がすべて操作卓に伝送されます。映像は教室内ではUHFのアナログ伝送を行った後、操作卓へはIP over ATMのネットワークで伝送します。今回お見せしたケースでは、操作卓も大学内の別の部屋でしたが、JGNを使って高知工科大と実験を行いました。操作系と音声系についてはIEEE802.11bの無線LANのネットワークを使っていますから、フルにデジタルな伝送が可能です。映像系は、現在は全部デジタル伝送ではなく、UHFを使ったアナログ伝送の後、MPEG圧縮してデジタル伝送しています。しかし、MPEG圧縮はその特性上遅延時間が生じるため、こうしたリアルタイムの操作には向きません。

課題としてはどのようなものがありますが?

(中野)まだまだ取り組みたいことはたくさんあります。例えば、距離感がわかりにくい点も一つです。机にぶつかりそうといった微妙なことが分かりません。実は、現状では上から部屋全体を映したカメラを設置して、距離感の確認に使っています。ロボット側にある程度インテリジェンスを持たせて、危険な動作はしないようにすることも大切だと思います。このロボットにはまだ使っていないセンサーも残っていますので、まだ開発は進められそうです。
ロボットの研究は人間の賢さを理解するということになりますね。
(中野)頭を振る動きがありますが、このときカメラも一緒に振られてしまうので困ります。人間は頭を動かすときに視線を固定したり、視線を落としたりしてうまく調節しているということがこの研究を通じてわかりました。また、我々の研究で、コミュニケーションにおいても顔の動きがとても重要な意味を持つということがわかってきました。

 「表情」というか「意図」を体の動きを使って表現する研究も、思った以上に奥行きがあることがわかってきました。簡単な例では、すばやい速度で手を上げると怒っているように見えます。どのくらいのすばやさがどういう意味を持つのかが変わってくるわけです。また、連続した体の動作が持つ意味というものもあります。腕を組んだ後、首を横に振ると何か考え事をしているように見えます。どのような体の動きの組合せを学生が見てどういうメッセージだと受け取るかを研究することは今後の課題かと思っています。

実験で特に苦労された点について教えてください。
(中野)ロボットを入手してから、とやまマルチメディア祭で出展するまでの準備期間が2ヶ月弱と非常に短く、かなり突貫工事になりました。しかし、なんとか出展でき、大変反響がありました。特に小学生の興味を引いたようです。
 
  今後の利用としてはどういうものが考えられるでしょうか?
(中野)長期入院のため学校に行けないお子さんがおられます。そういう子供たちが、先生の講義を受けられるようになればと思っています。ロボットも今後安くなると思いますので、様々な利用用途が出てくるでしょう。

(堀)インテックW&Gとしてはビジネス利用を進めていきたいと考えています。例えば、県庁などの庁舎で案内役をするロボットなどにも応用できると考えています。

今回の研究チームはどのようにできたのでしょうか?
(中野)全体設計はインテックW&Gの堀さんが担当してくださいました。堀さんが作成されたシステム構成に基づいて富山県立大学の中でコーディングをしました。

(堀)中野先生は、富山県でのネットワーク研究では非常に有名な先生で、私たちのチームは前々から研究でご一緒させてほしいと考えていました。社内で紹介してもらって今回の研究チームができる運びになりました。中野先生は非常に広い人脈をお持ちですから、そこに乗せていただいたというのが正直なところです。

(中野)以前からお付き合いのあった高知工科大学島村和典先生には技術的な相談をさせていただいて、共同で実験も行いました。このロボットを使う実験の前から、JAIST(北陸先端科学技術大学院大学)の落水浩一郎先生、日比野靖先生、福井大学の桜井哲真先生と3大学をJGN上でメッシュに結んで遠隔講義の実験をしていました。MPEG2の映像をお互いに送りあうという実験でした。この実験が、今回のロボットの実験につながりました。JAISTとも実証実験を行いました。もちろん、富山県立大学内では何度も実験をしています。

 

JGNのユーザとしての声をお聞かせいただきたいのですが。

(中野)我々のようなネットワーク研究者にとってはJGNは非常にありがたい存在です。特に、先ほど申しましたような地理的に離れた他大学との共同実験をする場合になくてはならないものです。

改善すべき点などはありますでしょうか?

(中野)申請作業がやや煩雑な気がします。アクセスポイントが学内にないため専用線を引き込んでいますができれば欲しいところです。個人的には、民間利用をもっと促進すべきだと考えています。また、民間企業が利用する場合に、研究開発目的に限られている点も気になります。限定した期間内であればどのような使い方でもよいといったAUP(Acceptable User Policy)にすることも一案だと思います。

 
◆おわりに

 このプロジェクトは北日本放送の「ニュースプラス1」という番組で2002年3月7日に紹介されたそうです。 お忙しい中、大変ユニークなデモンストレーションを見せてくださった富山県立大学工学部電子情報工学科中野教授、西原助手、インテック・ウェブ・アンド・ゲノム・インフォマティクス(株)堀様、ご協力いただいた中野研究室の皆様に感謝いたします。

文責:JGNウェブ編集部

関連リンク集

富山県立大学
富山県立大学中野愼夫教授研究室
インテック・ウェブ・アンド・ゲノム・インフォマティクス(株)
(株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR)

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