トラフィック計測について今後の研究の方向性について教えてください。
(白鳥)分散型ネットワーク監視システムを作りたいと考えています。このプロジェクトは、東北・北海道地区の6つのネットワークを結んで研究がスタートしました。
(グレン)現状では、市販のIPv6のルータやスイッチでは、トラフィック情報を適切に発信していません。私たちの考えている分散型ネットワーク監視のアーキテクチャは、簡単なタッピングキット*2でトラフィック情報をProbe(探り針、無人観測宇宙船の意味)と呼ぶPCに集め、それらのデータを解析する仕組みです。この仕組みを使うことで、IPv6のトラフィックもIPv4と同じように集めることができるようになりました。
(白鳥)理論的な話としては、トラフィック理論の数学的基礎についてアイデアがあり、検証したいと考えています。トラフィック理論は、電話の世界を中心に発達してきました。インターネットにもこれらの理論を当てはめることで成果を上げてきているわけですが、インターネットの世界はやはり電話とは違うだろうと考えています。一言で言えば、自己相似性に着目して、フラクタル理論を使って、インターネットトラフィックへの数学的基礎理論を構築できないだろうかというアイデアです。「インターネットは金太郎飴」のようなネットワークと言われることがあります。様々なスケールで同じような形のネットワークが見られることがインターネットの特徴であることを指しています。フラクタル理論は、そのような自己相似性を記述する体系を持っていますので使えそうだと感じています。数学的な検証を行うためにも、まず計測することが必要になってくるわけです。
白鳥先生は、仙台の地元でも様々な活動をされているとお聞きしています。
(白鳥)地域協議会である東北地方ギガビットネットワーク連絡会の会長代行もさせていただいています。他にも委員会メンバーにお誘いいただくことは多いですね。
ディジタルアーカイブプロジェクトについて教えていただけますでしょうか。
(白鳥)伊達政宗のよろいなど、仙台市が所有している重要文化財を立体画像として取り込んで記録し、ネットワーク上にヴァーチャルな博物館を作りました。通信・放送機構の2年間のプロジェクトでした。私はアドバイザーとして参画しました。
先日のみやぎITフォーラムで、伊達政宗の命を受けて訪欧した支倉常長(はせくらつねなが)に
ローマ法王が名誉貴族の称号を与えた手紙を拡大して見られる様子のデモがありました。
当時は、伊達をダテではなく、イダテと呼んでいたということがわかるとおっしゃっていました。
(白鳥)ええ。仙台市博物館長の佐藤憲一氏が報告されていましたね。実験期間中は、仙台駅近くにあるアエルというファッションビルの5階で、一般公開を行っていました。アエルの5階から8階は、JGNのアクセスポイントの一つである仙台市情報・産業プラザネットUが入っています。小学校の社会科の授業で使っていただくという試みも行いました。このプロジェクトでは、普通にはなかなか見られない情報が読み取れたということで考古学の研究者からも好評でした。
JGNで良かったことはありますか。
(白鳥)他分野との共同研究ができる点が良いですね。私自身も、医学部の先生と遠隔医療についての研究を支援させていただいています。太平洋を横断する遠隔手術を、松野正紀東北大学医学部教授が中心となって実験を計画しています。米国厚生省の許可がまだ下りていないため実験には至っておりませんがこのような研究はJGNが縁になって生まれたものです。他には、やはり医学関係になりますが通信・放送機構青葉脳画像リサーチセンターのプロジェクトがあります。私見ですが、少なくとも今後10年くらいの間、大学では応用研究が重視される時代になってくると思っています。したがって他分野との共同研究の意義も大きくなっていくと考えられます。
今後のテストベッドに望む機能は何でしょうか?
(白鳥)何より言いたいのは、JGNのテストベッドを発展的に残して欲しいということです。私のようなネットワーク研究者にとってこのようなテストベッドの意義は非常に大きい。さらに言えば、今までは、ネットワークの専門家がネットワークのことを扱うだけで精一杯だったように思います。今後はアプリケーションがより重要になると思います。例えば、ミドルウェアの提供も一案ですが、アプリケーション研究者をサポートする考え方がより必要になってくると思っています。
テストベッドの運用方法についてはいかがでしょうか?
(白鳥)国家プロジェクトなのであまり柔軟な運用を行うということは現実的ではないかもしれませんが、よい成果が出たプロジェクトに対しては重点的に取り組むなど、プロジェクト全体の成果を多く出すような仕組みづくりが必要な気がしています。また、最近はIETFなどの国際的な標準化を行う機関への提案を行っていくべきだという雰囲気はありますが、まだまだ学生や研究者にとっては標準化の提案は論文数としての実績にカウントされない場合が多いですし、旅費の問題もありますから、制度的なサポート面も考えていくべきなのかもしれませんね。
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