Vol.13 通信・放送機構 東北大学分室 バックナンバー

白鳥則郎教授
▲ギガビットネットワーク研究開発プロジェクトサブリーダー
白鳥則郎教授(東北大学電気通信研究所 教授)

Glenn Mansfield Keeni氏
▲通信・放送機構東北大学分室フェロー
東北大学客員研究員
工学博士 Glenn Mansfield Keeni氏

ギガビットネットワーク研究開発プロジェクトサブリーダー
白鳥則郎教授(東北大学電気通信研究所 教授)
通信・放送機構東北大学分室フェロー
東北大学客員研究員 工学博士 Glenn Mansfield Keeni氏
インタビュー実施:2002年 5月 31日(於:東北大学分室(東北大学電気通信研究所内))
◆はじめに
 今回は、JGN直轄研究のサブリーダーである白鳥則郎教授に、JGN直轄研究東北大学分室での活動等についてお伺いしました。
東北大学分室の位置づけについてお伺いします。
(白鳥)JGN直轄研究には、幕張ギガビットリサーチセンター、高知通信トラヒックリサーチセンター等がありますが、そのリサーチセンターの分室という位置づけではなく、同列の関係で、スタッフ的には私と招聘研究員であるDr. Debasishの2人プラス研究フェローという体制です。幕張と高知のリサーチセンターにはそれぞれ専任の研究者が3人ずつおられますから規模的に見ると我々は小所帯です。しかし、「小さいスペースから大きい成果を世界に発信!」ということでがんばっています。「小さいスペースから」というキャッチフレーズはこれからいろんなところで使っていこうと思っているところです。
東北大学電気通信研究所は伝統があり有名ですね。

(白鳥)はい。古くは八木アンテナの開発がここでされました。西沢潤一先生がおられたのもここです。電気通信分野における伝統的に実用研究が盛んです。最近では、フラッシュメモリを開発した舛岡先生もおられたりと多士済済ですね。

 

 

JaNIの概要
▲図 JaNIの概要
(図をクリックすると拡大されます)

*1 ウェザーマップ
ネットワークの混雑状況等を天気図のように分かりやすく図示したシステムのこと。

JaNI(Japan gigabit Network Information system)について、まず概要から説明をお願いいたします。

(グレン)JaNIはネットワーク情報の可視化に関する研究です。JaNIの特徴は、オンデマンド・リアルタイムでネットワーク情報を収集・表示が可能であること、ユーザフレンドリであることの2つをあげることができます。精度として、ミリ秒単位で測定し収集・表示できる点もアピールできます。

(白鳥)これまでのトラフィック計測は、ネットワークの専門家のためのものでしたが、一般ユーザやアプリケーション開発者に使いやすいシステムが求められていると思います。JaNIはこれに応えるものだと考えています。

(グレン)普通、トラフィック情報を得るためには低レイヤでのネットワーク構成情報を指定する必要があるのですが、JaNIではJGNのプロジェクト番号や分野から選択していけばトラフィック情報を表示できます。また、地区を選択すると関係するプロジェクトが表示されるユーザインタフェースも用意されています。プロジェクトを選択すると、そのプロジェクトに参加している機関のみからなるネットワーク図が自動的に作成されます。プロジェクト単位のウェザーマップ*1が見れるようになっています。

JaNIでミリ秒単位での情報収集が可能になったメカニズムを教えてください。

(グレン)JaNIは、ネットワーク情報のリアルタイム収集を行います。精度を上げようとするとネットワーク情報収集のためのトラフィックがネットワーク帯域を占有してしまいます。これでは、困りますから、JaNIでは一回の情報収集に多くのトラフィック情報を詰め込んでいます。技術的なハイライトはここにあります。

東北大分室作成のJaNIについての説明資料(PDFファイル)

実装上特に苦心された点はどのような点ですか?

(グレン)すべてJavaで書きました。見ていただけるとわかっていただけると思いますが、ユーザインタフェースが洗練されています。トラフィック分析にはMRTGというソフトウェアがよく使われていますが、グラフは静的なビットマップファイルとして生成されてしまいます。JaNIでは時間間隔をズームインしたりズームアウトすることや、過去にさかのぼることも簡単に実現できます。Javaで日本語を扱うところも案外大変でした。(笑)

IETF(Internet Engeneering Task Force)で発表も行ったと聞きました。

(グレン)インターネットドラフトを書き、IETFのEOS-WG (Evolution Of SNMP)で発表を行いました

 

 
*2 タッピングキット
インターネットを構成するLANや専用回線を分岐させて、ネットワークの回線上を流れる情報を監視するために使うキットのこと。

トラフィック計測について今後の研究の方向性について教えてください。

(白鳥)分散型ネットワーク監視システムを作りたいと考えています。このプロジェクトは、東北・北海道地区の6つのネットワークを結んで研究がスタートしました。

(グレン)現状では、市販のIPv6のルータやスイッチでは、トラフィック情報を適切に発信していません。私たちの考えている分散型ネットワーク監視のアーキテクチャは、簡単なタッピングキット*2でトラフィック情報をProbe(探り針、無人観測宇宙船の意味)と呼ぶPCに集め、それらのデータを解析する仕組みです。この仕組みを使うことで、IPv6のトラフィックもIPv4と同じように集めることができるようになりました。

(白鳥)理論的な話としては、トラフィック理論の数学的基礎についてアイデアがあり、検証したいと考えています。トラフィック理論は、電話の世界を中心に発達してきました。インターネットにもこれらの理論を当てはめることで成果を上げてきているわけですが、インターネットの世界はやはり電話とは違うだろうと考えています。一言で言えば、自己相似性に着目して、フラクタル理論を使って、インターネットトラフィックへの数学的基礎理論を構築できないだろうかというアイデアです。「インターネットは金太郎飴」のようなネットワークと言われることがあります。様々なスケールで同じような形のネットワークが見られることがインターネットの特徴であることを指しています。フラクタル理論は、そのような自己相似性を記述する体系を持っていますので使えそうだと感じています。数学的な検証を行うためにも、まず計測することが必要になってくるわけです。

白鳥先生は、仙台の地元でも様々な活動をされているとお聞きしています。

(白鳥)地域協議会である東北地方ギガビットネットワーク連絡会の会長代行もさせていただいています。他にも委員会メンバーにお誘いいただくことは多いですね。

ディジタルアーカイブプロジェクトについて教えていただけますでしょうか。

(白鳥)伊達政宗のよろいなど、仙台市が所有している重要文化財を立体画像として取り込んで記録し、ネットワーク上にヴァーチャルな博物館を作りました。通信・放送機構の2年間のプロジェクトでした。私はアドバイザーとして参画しました。

先日のみやぎITフォーラムで、伊達政宗の命を受けて訪欧した支倉常長(はせくらつねなが)に
   ローマ法王が名誉貴族の称号を与えた手紙を拡大して見られる様子のデモがありました。
   当時は、伊達をダテではなく、イダテと呼んでいたということがわかるとおっしゃっていました。

(白鳥)ええ。仙台市博物館長の佐藤憲一氏が報告されていましたね。実験期間中は、仙台駅近くにあるアエルというファッションビルの5階で、一般公開を行っていました。アエルの5階から8階は、JGNのアクセスポイントの一つである仙台市情報・産業プラザネットUが入っています。小学校の社会科の授業で使っていただくという試みも行いました。このプロジェクトでは、普通にはなかなか見られない情報が読み取れたということで考古学の研究者からも好評でした。

JGNで良かったことはありますか。

(白鳥)他分野との共同研究ができる点が良いですね。私自身も、医学部の先生と遠隔医療についての研究を支援させていただいています。太平洋を横断する遠隔手術を、松野正紀東北大学医学部教授が中心となって実験を計画しています。米国厚生省の許可がまだ下りていないため実験には至っておりませんがこのような研究はJGNが縁になって生まれたものです。他には、やはり医学関係になりますが通信・放送機構青葉脳画像リサーチセンターのプロジェクトがあります。私見ですが、少なくとも今後10年くらいの間、大学では応用研究が重視される時代になってくると思っています。したがって他分野との共同研究の意義も大きくなっていくと考えられます。

今後のテストベッドに望む機能は何でしょうか?

(白鳥)何より言いたいのは、JGNのテストベッドを発展的に残して欲しいということです。私のようなネットワーク研究者にとってこのようなテストベッドの意義は非常に大きい。さらに言えば、今までは、ネットワークの専門家がネットワークのことを扱うだけで精一杯だったように思います。今後はアプリケーションがより重要になると思います。例えば、ミドルウェアの提供も一案ですが、アプリケーション研究者をサポートする考え方がより必要になってくると思っています。

テストベッドの運用方法についてはいかがでしょうか?

(白鳥)国家プロジェクトなのであまり柔軟な運用を行うということは現実的ではないかもしれませんが、よい成果が出たプロジェクトに対しては重点的に取り組むなど、プロジェクト全体の成果を多く出すような仕組みづくりが必要な気がしています。また、最近はIETFなどの国際的な標準化を行う機関への提案を行っていくべきだという雰囲気はありますが、まだまだ学生や研究者にとっては標準化の提案は論文数としての実績にカウントされない場合が多いですし、旅費の問題もありますから、制度的なサポート面も考えていくべきなのかもしれませんね。

 
  ◆おわりに

 白鳥教授の研究室のホームページでは、新聞等に執筆された多くの記事を読むことができます。情報通信の専門家に対するだけでなく、広く一般読者に向けられたものです。広く精力的に活躍され、大変お忙しい中、長時間にわたって説明してくださいました白鳥教授とグレン博士に感謝いたします。

文責:JGNウェブ編集部

 

白鳥教授の主な著書

  • 『岩波講座 現代工学の基礎〈5〉品質管理・ネットワークシステムの基礎』(岩波書店、2000年)
  • 『システムソフトウェアの基礎』(昭晃堂、2001年)
  • 『分散処理 情報科学コアカリキュラム講座 』(丸善、1996年)
  • 『通信ソフトウェア工学』(培風館、1995年)
  • 『情報ネットワーク社会の未来』((財) 日本情報処理開発協会編、富士通ブックス、1997年

関連リンク集

東北大学白鳥則郎研究室
IETF(Internet Engeneering Task Force) EOS-WG (Evolution Of SNMP)
2001年12月IETFにおけるグレン氏の発表プレゼンテーション
グレン氏が提出したインターネットドラフト
 
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