
▲ 北海道大学大学院工学研究科電子情報工学専攻
山本 強 教授
▲ 北海道大学大学院 工学研究科 電子情報工学専攻 土居 意弘 氏
山本教授によると、土居さんが、”本プロジェクトのCTO” |
北海道大学大学院工学研究科電子情報工学専攻
計算機情報通信工学講座 超集積計算システム工学分野 山本 強 教授
インタビュー実施:2002年 6月21日(於:北海道大学 山本研究室)
◆はじめに
JGNでは、次世代ネットワークそのものの研究も数多くなされていますが、ネットワーク上の次世代アプリケーションの研究も行われています。大変ユニークなアプリケーション研究である「全周動画像中継技術の開発と応用開拓(JGN-G11011)」プロジェクトについて、北大の山本教授に伺いました。
|
|
このプロジェクトを始めようと思われたきっかけは何でしょうか?
JGNでは遠隔会議や遠隔講義等の実験が多いですが、TV会議を超えるアプリケーションを開発したかったという思いがまずありました。
この研究は、パノラマカメラの動画版だと思えば宜しいのでしょうか?
そうですね。ただのパノラマの動画版であるだけではなく、リアルタイム処理ができる事と、外で使えるところが特徴です。 これまでは重い機材が必要な場合が多かったのですが、外に持ち出して全周映像の中継ができる仕組みを初めて作ったと思います。動画で再生できますし、再生途中で向きを変えることも出来ます。また任意の時点、任意の向きで静止画にすることも出来ます。 |
▲全周動画像中継用カメラ(大)

▲全周動画像中継用カメラ(小)

▲全周動画像中継用カメラ(車載)

▲写真:全周動画像中継システム
画面左は4つのカメラに映し出された映像。これを合成して、画面右の映像を作り出す。
画面右の映像は、操作により360°の方向に回転させることができる。(クリックで拡大)

▲写真:映像合成用ワイヤー(クリックで拡大)
ユーザが見る映像は、CGとして合成されたものである。
伝送された四面の映像を細かい三角形に分割した後、上図の格子にはめこむように変形させている。 |
研究のコンセプトを教えて下さい。
今回の設計思想としては、出来るだけ汎用製品の組み合わせを使おうとしました。例えばカメラも市販のものです。
このカメラは監視カメラとして一般的なものです。監視カメラはもともと広角に(114°)作ってありますからこうした用途に向いています。映像の伝送は標準のNTSCフォーマットを使っています。汎用技術を多く使ったのは開発を簡単にしたいという消極的な理由だけではなく、汎用技術の進歩も取り込めるという積極的な理由があります。今回の様な応用技術の研究では技術開発の方向性が非常に重要だと思います。妙な所で独自技術を使ってしまうと、その部分だけが進歩に取り残されることになってしまいます。ネットワーク上にNTSCフォーマットのデータを効率的に流したいという要望は一般的なものですからこの技術は進歩していきます。汎用技術をできるだけ広く取り入れて、開発しようとしました。この研究は99年から開始しましたが、実際に、実験がどんどんスムーズに行くようになってきています。
アーキテクチャについて簡単に説明してください。
大きく分けると、<収録システム>と<再生システム>に分かれます。<収録システム>で収録したデータをJGN等のネットワークで伝送して<再生システム>で表示します。設計思想としては、<再生システム>が複雑な処理を引き受けて、収録システムやネットワークでは出来るだけ単純な処理をしようというものでした。これはインターネットの思想と同じですね。クライアント側で重い処理をする考え方です。実は開発を始めた頃は<再生システム>でスムーズに再生出来なかったのですがグラフィックスアクセラレーションボードが高速化したので問題がなくなったということがありました。パソコンの進歩はものすごいですから、この進歩を取り込めるのがミソですね。
<収録システム>では、4台の広角カメラを4方向に配置します。カメラに非常に近いところを除いて死角はできません。この4つの映像を一つのNTSC画像にいったんまとめます。これをビデオエンコーダーでJGNに送ります。カメラからビデオエンコーダーまでが<収録システム>です。4つの映像を一旦ひとつのNTSC画像にまとめますので、ネットワーク上では単純な映像伝送の技術が使えます。4つの映像を別々に送る方式では同期をとったり、それぞれの伝送を確認したりといったことが必要となりますが、今回のアーキテクチャでは不要です。
<再生システム>は逆にかなり重い処理をしています。送られてきた4方向の画像を使ってCGの技術を使ってなめらかにつながるように合成処理を行っています。ここで複雑な処理をしていますから、安いカメラでも補正ができてきれいになります。
特徴としては、先ほども申しましたが、アウトドアオペレーションが可能だということです。車載も可能ですし、洋上でも可能です。バッテリーオペレーションができる点もアピールポイントだと思っています。
ネットワーク的にはどのような負荷がかかるのでしょうか。
JGNを使った実験では1.5Mbpsの伝送速度でした。先ほどアーキテクチャの説明で申しましたように、収録から伝送までは単純な構成にしてあります。回線に余裕が出ればきれいな映像で送れますし、低速回線ではそれなりの映像が送れる構成です。例えばHDTVでは35Mbpsの伝送容量が必要です。これを単純に4倍すれば100Mbps以上の容量が必要ですね。
この研究はどのような応用ができるのでしょうか。
車載できますから、自動車を走らせれば簡単に全周動画像データを作れます。例えば、地理情報システム(GIS)への応用も可能です。この場合は動画より静止画でよいのでしょうが、地図の道路上の任意の地点、任意の向きの風景を簡単に見ることができる地図システムを作ることができます。普通に考えるとこうしたシステムはデータを作るところが大変なのですが、このシステムでは一度車を走らせるだけでデータができてしまうのがポイントです。今、研究室の学生に、北大のすべての道路の全周画像データを集める実験を行うよう勧めているところです。 |
|
共同研究のネットワークはどのように広がったのでしょうか?
共同研究者である広島大学の相原先生とは昔からの知り合いです。お互いに大学の大型計算機センターの窓口をやっていた経緯がありました。また、札幌市が運営主体の札幌総合情報センターは、スタジオとネットワークアクセスポイントがあり、やはり以前から関係が深かったこともあり共同研究者になっていただきました。JGNのアクセスポイントもここにありますし、インターネットのNOCもあります。
地域の活動について教えて下さい。
札幌はIT関係のベンチャー企業が多くありますが、産学の距離が近いのが特徴です。ベンチャー企業の社員が気軽に研究室を訪問するような風土があります。私は48歳なのですが、ちょうどベンチャー企業の社長さんたちも同世代の方が多く、取りまとめ役のような形の役割をしています。
また、北海道の地域協議会・北海道ギガビットネットワーク利用連絡会の会長もさせていただいています。これは大学、行政、ビジネス分野それぞれの組織を代表する形でメンバー構成されているもので、イベント等もよく行っています。
北海道の経済活性化の意味もあり、イベントは積極的に進めようという空気があります。
JGNを含めたテストベッドへのあり方についてご意見をお聞かせ下さい。
沢山ありますが(笑)。まず、アクセスポイントを多数作ることが重要です。研究者にとっての距離をどれだけ近づけることができるかがこうしたテストベッドの成否にかかってくると思います。その意味で、接続申請から利用までの時間短縮にも取り組んでいただきたいと思います。私たちのように、ネットワーク上でのアプリケーション研究は、ローカルなところでも開発はできますが、ネットワーク上で試して確かめたいというニーズがあります。実際のネーションワイドなネットワークで試してみたいと思っても、手続きにずいぶん時間がかかってしまうと意欲がそがれてしまいます。
次世代のワイヤレスサービスを入れることも一つの有力なアイデアだと思います。アクセスポイントまでの足回り回線確保の問題をクリアできますから実験上有用です。大学でも工事などの申請は手続き上面倒なことが多いですが、ワイヤレスの実験・研究環境が整備されると飛躍的に利用が高まる可能性があります。例えば、地域内に住んでいれば住民も実験に参加できますから。
もう一つのポイントは民間利用を促進することです。実用サービスを見越した、技術開発の次のフェーズでの社会的な実験装置としても活用できるように条件整備してはどうかと思います。
|
|
 |
|
|
|
◆おわりに
本年の10月には、札幌で「JGNシンポジウム2002 in 北海道」も開催される予定です。山本教授は、本シンポジウムの企画等でもご活躍中です。JGNも4年目を迎え、多くの成果報告が聞けることになりそうです。最先端のネットワーク研究から、アプリケーション研究とビジネスへの展開まで、豊富な議論を聞くことができるに違いありません。皆様のご参加を心よりお待ちしています。
JGN上でのアプリケーション開発にとどまらずITとビジネスの関係などについても、歯切れよくお話いただきました山本教授と、協力いただいた土居様に改めて感謝いたします。
文責:JGNウェブ編集部 |
|
関連リンク集
北海道大学情報基盤センター
札幌総合情報センター(株)
|
|
JGNウェブ編集部では、インタビューに協力していただけるJGNプロジェクト研究者を募集しています。 自薦、他薦等、JGNウェブ編集部まで、氏名、メールアドレス、電話番号、JGNプロジェクト番号を添えてお知らせくださいますようお願いいたします。 |
|
|
 |