Vol.15 独立行政法人通信総合研究所(CRL)のJGN活動 バックナンバー

塩見正 理事
▲独立行政法人通信総合研究所
工学博士 塩見正 理事

独立行政法人通信総合研究所 工学博士 塩見正 理事
独立行政法人通信総合研究所 情報通信部門 久保田文人 研究主管
インタビュー実施: 2002年 8月 7日(於:独立行政法人通信総合研究所本所(小金井))
◆はじめに
 独立行政法人通信総合研究所(以下CRL)は、情報通信分野のセンター・オブ・エクセレンスとして、情報・通信・電波・光等の各分野にわたって、基礎から応用まで幅広い研究を行っています。今月はCRL塩見理事、久保田主管にCRLのJGNに関連した活動全般についてお聞きしました。
  CRLの施設構成について教えてください。
 (塩見)ここ小金井が、通信総合研究所本所です。支所として、北から、稚内電波観測所、平磯太陽観測センター、鹿島宇宙通信研究センター、横須賀無線通信研究センター、けいはんな情報通信融合研究センター、関西先端研究センター、沖縄亜熱帯計測技術センターがあります。合計8つの施設で、それぞれ重点テーマをもって研究を進めています。
CRLでのJGNに関連した活動について教えてください。

(塩見)CRLでは、様々なセクションでJGNを利用させていただいています。例えば、画像グループは東大、つくば、けいはんなを結んで多地点接続バーチャル・リアリティ通信の研究をやっていますし、横須賀の無線イノベーショングループでは、ミリ波超高速無線LANの研究を行っています。その他にも広帯域映像伝送、時刻同期、日韓高速衛星通信、日加高速衛星通信、遠隔教育など多岐にわたる研究を行っています。CRLはJGNにとってはユーザの立場ですが、国の通信の研究所ですから非常に幅広くかつ深くコミットさせていただいています。

具体的なお話をいただけるでしょうか。

(塩見)例えば、遠隔教育の分野では、JGNを利用して小金井のCRL研究員の講義をJAIST(北陸先端科学技術大学院大学)へ伝送し、金沢の学生が受講するという遠隔講義の実験を行っています。さらに、JAISTの講義を小金井のCRLの研究員が受講する実験も行っています。

 また、2001年のCEATECでも出展したIPv6カーも話題になりました。遠隔地のリモコンカーをJGN経由で運転するというデモシステムでしたが、ゲームのように画面を見ながらハンドルを動かすと、リアルなリモコンカーが操作できるという点がユニークですね。この技術は原子炉や宇宙環境、病院などでのテレオペレーションといった実用的な場面にも役立てることができます。

(久保田)私たちは、様々なアプリケーションに共通的に利用できるミドルウェアを開発しています。そのためIPv6カーという応用例を一見しただけではただのエンターテイメントと思われるかもしれませんが、この技術は全く異なる分野、例えば原子炉エンジニアリングのような分野にも利用するといった幅広い活用が可能なのです。

JGNに深くコミットしていることがよくわかります。

(久保田)CRLでは、JGNの運用等に関して初期段階からかなり深く関わってきています。例えば、AUP(Acceptable Use Policy)の策定にあたって、ATMネットワークの利用形態をCBRだけでなく原則UBRにするように主張したのは中川普一主任研究員の提案でした。CBR割り当てのみでは帯域を占有してしまい利用が限られますが、ベストエフォート型のUBR対応にすることで、利用者の自由度を大幅に広げることができたと思います。

ワールドカップ日韓中継の様子
▲ワールドカップ日韓中継の様子
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ワールドカップ日韓中継ワイド画面の様子
▲ワールドカップ日韓中継ワイド画面の様子
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CRLで行ったJGNのイベント利用についてお聞かせ下さい。

(塩見)そうですね。最近では、ワールドカップ日韓中継を行いました。韓国からの衛星中継画像(155Mbps)を九州で受信し、国内をJGN経由で東京や鹿島に伝送しました。これは、サッカー場全体を左側・中央・右側に分割してハイビジョンクラスの3台のカメラで撮影し、それを受信側でシームレスにつなげて、48:9という超ワイド画面にしたもので、実際のサッカー場で観戦しているかのような臨場感を実現しました。

(久保田)D1という放送局で使う映像フォーマットがあるのですが、これをMPEGのような圧縮を行わずに伝送するためには、270Mbpsもの帯域が必要です。また、35Mbps程度に圧縮しているDVを何本も伝送したり、さらにこれを双方向で通信を行なおうとすると、従来のルータ性能の限界を超えてしまうことがあります。ネットワークが“つながるはず"と実際に“つながった"との間には大きな距離があり、低速なネットワーク上では普通に利用できる技術でも、超高速ネットワーク上で問題なく利用できるかどうかは分かりません。そのような問題点を抽出する点からも、イベントの際にネットワーク技術を検証することは非常に効果的であると考えています。

 また、2001年10月17日に行われた消化器病学会では、JGNの超高速大容量という特長を活かした、5地点双方向DV over IPv6マルチキャストの実験を行いました。

国際テストベッドとの関係についての考え方をお聞かせください

(塩見)ワールドカップの日韓中継もそうですが、特にアジア太平洋地域の相互技術交流を高めていこうという機運が高まりつつあります。CRLとしてもAPII(Aisa-Pacific Infomation Infrastructure)、AIII(Asian Internet Interconnection Initiatives)、APAN(Asia-Pacific Advanced Network Consortium)等のテストベッドプロジェクトでの活動や協力関係をさらに強化していきたいと考えています。具体的には、ASEANプラス3国(日本、中国、韓国)というフレームでの連携関係を深めていこうという国際的な動きがあります。ネットワークに限らず、新しい実用システムを展開する前にはテストベッドの議論が必ず出てきます。JGNは国内のテストベッドですが、国際的なテストベッドと相互接続されていくべきものだと考えています。

先日、CRLの一般公開があったそうですね
(塩見)広報戦略に力を入れていることもあり、ここ数年、入場者数が大幅に増加しています。近隣の方々、特に家族連れに気軽に来ていただいているようです。私たちも、子供向けの工作教室などのメニューを準備するなど、親しみを持っていただけるよう努力しています。昨今、理科離れがささやかれますが、こういうイベントを通じて少しでも科学技術に興味を持っていただくことも、私たちのような公的な研究所には必要なことだと考えています。
 
 

ところで、CRLの活動対象分野にはどのようなものがあるのでしょうか?

(塩見)CRLでは原子時計を維持し、国家標準としての日本標準時を決定していることをご存知でしょうか。CRLが電波で全国送信している標準時を利用した電波時計は国内で既に500万台を超える普及があります。ネットワーク上での時刻の配布や認証の研究も以前から取り組んでいますが、電子商取引が本格化すると今後ますます重要度が増すと考えられます。取引を行ったときにタイムスタンプが入りますが、どの程度の誤差ならば許容できるかなど、技術的・社会的な課題が多くあります。

(塩見)また、リモートセンシング技術の一部ですが、熱帯での雨量を測る衛星搭載レーダーはCRLで開発され、使用されています。さらに、CRL関西先端研究センターでは情報通信基礎技術として、バイオ、光先端技術、ナノテク、超伝導その他の基礎的研究も行っています。例えば、バイオについては生物の情報システムから情報の伝達・蓄積・処理等の機能やその構築メカニズムを学ぶというもので、ナノテクノロジーでは、分子レベルで情報を処理する研究などがあります。
それから、成層圏プラットフォームの構想では、高度20kmの上空に滞留させた飛行船を通信の基地局にするもので、CRLはこの計画の通信部分を担当しており、最近、ハワイで飛行船のかわりに無人飛行機を用いた実験を成功させました。

CRLの今後の活動方針についてお聞かせください。

(塩見)CRLの研究所としてのポリシーは、オープンプラットフォームです。内部の研究者だけで活動するのではなく、産業界や大学など様々な機関の方々と共同で研究を行うということです。さらに、世界各地の研究機関とも協力関係を結んで活動をしています。現在、正規職員としての研究員は約300人ですが、他に招聘研究員や特別研究員などその他の研究員は約400人おります。CRLの方針として、これらの研究員を内部に囲い込むのではなく、民間企業や大学とのパートナーシップを拡充する方向で動いています。

 CRLが、どのような技術開発研究を行っていくかについては議論があり、例えば大学で行うような基礎研究を行うべきか否かについても議論が分かれます。研究の中心は応用技術であるものの、基礎研究もある程度は確保すべきだというのが私の考えですし、現状はそうなっています。応用研究については、国として非常に重要で、民間企業が手をつけにくいテーマを実施すべきだろうと考えています。その意味でもJGNのようなテストベッドやネットワークの相互運用性、セキュリティ、非常時通信などのテーマが意味を増すのだろうと考えています。また、今後どのようなテストベッドが望まれるのかについても考えていきたいと思います。

 
  ◆おわりに

 情報通信分野における唯一の公的な研究機関であるCRL研究理事である塩見様と、CRL情報通信部門主管である久保田様には、詳しくかつ情熱的にJGNを含めたテストベッドとの関わりについてお話いただきました。塩見理事、久保田主管に感謝いたします。

文責:JGNウェブ編集部

  関連リンク集
独立行政法人通信総合研究所
「新生CRLの研究方針と運営」(塩見理事講演)
APIIテクノロジーセンター
AIII
APAN
サイエンスキャンプ
CRL日本標準時グループ
 
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