Vol.18 通信・放送機構 岡山IPv6システム検証評価センター バックナンバー


▲通信・放送機構 岡山IPv6システム検証評価センター
小林和真 センター長
通信・放送機構 岡山IPv6システム検証評価センター 小林和真センター長
倉敷芸術科学大学 産業科学技術学部 ソフトウエア学科 助教授
インタビュー実施: 2002年 11月 11日
◆はじめに
 JGNv6ネットワークが試験運用から約一年、本格運用から約半年を経て、着実に成果をあげています。今回は、通信・放送機構 岡山IPv6システム検証評価センター長の小林和真先生に、岡山IPv6システム検証評価センターの活動についてお聞きしました。
 
岡山IPv6システム検証評価センター
▲マルチベンダでの相互接続実験を可能な豊富な機器
(岡山IPv6システム検証評価センター)
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JGNv6ネットワークの意義について
 私自身、IPv6を普及させたいということがありますし、なんといってもIPv6の普及は国策です。まだ、IPv6の機器は、既存のIPv4のものと比較して安心度、完成度が足りません。製品としては出てはいても、完成度としては、ベータテスト程度しか行っていないのではないかと思えるような製品があったことも事実です。こうした機器を、実際の東京・大阪間のような膨大なインターネットトラフィックを伝送する区間に用いるのは非現実的です。JGNのように現実のネットワークに近いテストベッドで検証することが求められていると思います。

東京にある「大手町IPv6システム運用技術開発センター(以下、「大手町運用技術開発センター」)」と
   「岡山IPv6システム検証評価センター(以下、「岡山検証評価センター」)」の役割の違いについて
   教えてください。

 JGNv6ネットワークは、各拠点の自律分散的な運営で成り立っています。大手町センターは、JGNv6ネットワークのトラフィック計測その他様々なオペレーションを行っています。一方、岡山検証評価センターでは、実際の運用に先立って、新しいバージョンのOSの完成度を確認したり、ルータ間の相互接続性を検証しています。

  現実問題として、各ベンダー内でIPv6機器の開発を行っている部門は、ベンダー内に設置している研究所等で機器を検証してきますが、これらの施設では複数のメーカーの複数の機器との相互接続性を十分に検証することができていないことを指摘できると思います。この点は、国内及び海外のベンダーどちらにも該当することです。そのようなことから、現在、岡山検証評価センターへベンダーからの問い合わせが非常に多くなっています。
また、JGNv6ネットワークもかなり安定してきました。トポロジーの見直しについても検討をはじめています。

相互接続性の検証が岡山検証評価センターのミッションですね。

 JGNv6ネットワーク自体がマルチベンダー環境として運用されており、また岡山検証評価センターは、施設内で相互接続性を検証することができます。どちらも重要ですね。相互接続性を検証できる機関の重要性は、多くの識者の方々も強調しておられます。私は、評価の方法そのものにも競争が働くことから、同様の機能を持ったセンターが複数存在しても良いのではないかと考えています。

  米国では、IPv6機器の検証評価がビジネスになっています。検証評価を受け、相互接続性を認められた際に発行されるシールが売買の対象になっているケースがあると聞きます。IPv6機器についての相互接続性の検証ができるテストサイトはまだ少数なので、岡山センターの規模は世界有数の環境であるといえると思います。

  米国でもテストベッドへのIPv6機器の導入は進みつつありますが、特定ネットワークには特定ベンダーのルータのみが採用されていましたから、JGNv6のマルチベンダー環境のネットワークは世界に誇れるものと思います。
また、岡山検証評価センターには、小型ルータやスイッチなどエンドユーザが実際に使う機器も整備されています。したがって、センター内で、エンドエンドの環境を再現することが可能になっています。小型機器を含めると40種類以上、大型ルータだけでも6ベンダーの相互接続性を検証しています。6ベンダーすべての機器について、それぞれ2つ以上のバグをここで報告しています。

すべてのベンダーの機器からバグを見つけたというのは、大変な貢献ですね。

 そう言っていただけるとありがたいと思います。相当、ルータ等へのIPv6の実装が進んできたとはいえ、IPv6技術にはまだまだこれから行うべきことがたくさん残されています。少なくともIPv4と同じことはすべてできるということになることが先決だと考えています。

IPv6については日本のほうが進んでいるということでしょうか?

 IPv6については、日本のベンダーにアドバンテージがありました。しかし、最近海外ベンダーのIPv6への取り組みは急ピッチで、随分追いついてきています。私は、このJGNv6のネットワーク構築が、特に海外ベンダーのIPv6への取り組みを促進したものと考えています。というのも、JGNv6ネットワーク構築のための、機器調達にあたって、その時点での複数の機器の機能を調査しましたが、そのことがベンダーにフィードバックされてIPv6開発体制が強化されたような印象を受けます。実際、日米のベンダー各社から提示された当初の計画よりもIPv6の実装が速いスピードで進んでいます。

  JGNv6ネットワークに機器を納めている米国ベンダーは、米国からエンジニアをテストのために岡山検証評価センターに派遣するケースがありました。日米問わずベンダーの開発が促進されることは、JGNv6の目的にもかないます。上手に活用するベンダーとしないベンダーで技術的な差が大きくなっていくのは当然ではないでしょうか。ベンダーの方には、岡山検証評価センターを上手に使っていただきたい、使いにくいところがあれば相談して欲しいと考えています。

  ベンダーの方は自社製品のコンフィグレーションについては良くご存知ですが、他社製品については知らない場合もあります。そのような時には、こちらからアドバイスをすることもできます。
全体として、JGNv6ネットワークに機器を納めていただいている各ベンダーの方々とは良い協力関係を築けています。

岡山検証評価センターは理想的な運営ができているようですね。

 惜しむらくは、人手が足りていません。現在、研究員の美甘さんと私の2人しかいない状況です。岡山ギガビットラボとは幸い同じビルの同じフロアという関係でいろいろとに協力していただいています。後は、倉敷芸術科学大学の私の研究室の学生に手伝ってもらっています。もっとも、学生にとっては良い教育効果があったと自負しています。

IPv6そのものの必要性についての考え方を教えてください。

 米国もIPv6への取り組みを進めています。米国内では日本ほど現時点でのアプリケーションへのIPv6の対応の必要性は高くないのかもしれませんが、米国のベンダーは当然世界市場を見ていますし、米国の国策としても世界市場を睨んだうえでIPv6への取り組みを行っているのでしょう。

  私は、ネットワーク機器の購入を検討されている方に、「何年使うつもりですか」「5年後もIPv6が動かなくてもいいのですか」と問いかけることにしています。国・自治体・大学などでは長く使いたいはずなので、このような機関の機器調達には、「ハードウェアの追加なしにIPv6ネットワークに接続できること」という要件を加えるべきだとアドバイスしています。

IPv6の普及の鍵は何でしょうか?

 ひとつは、バックボーン系でデュアルスタックのルータが増えていくことです。
キラーアプリケーションとしては、例えばゲームが考えられます。IPv6で動くP2Pゲームが出現し、爆発的に普及する段階になってからIPv6への取り組みを始めるようなISPは出遅れることになります。ですから、すでに多くのISPはIPv6への取り組みを本格化させつつあります。残念なのは、IPv6ネットワークを既存のネットワークとは切り離した独立系で運用しようとしている点です。投資の効率性という観点から考えても、デュアルスタック型が望ましいと思われます。

これから力を入れていきたい活動はどういうことでしょうか?

 今後は、情報公開に力を入れていきたいと考えています。あるベンダーの機器性能が十分ではないなどと批判する目的で岡山検証評価センターが整備されたわけではありませんから、その事実をベンダー側にフィードバックし、6か月経過しても改善されない場合には、それは事実として公表するという方針で行ってきました。

  札幌で開催されたギガビットネットワークシンポジウム2002 in 北海道のときに公表した資料でも、各機器の性能をグラフで表示しています。この資料では、どの機器でもカタログスペックどおりのスループット性能が出ていることが分かります。

  今後も特定ベンダーが不利になるような情報の扱いには極力注意を払いますが、良い情報は積極的にどんどん公開していこうと考えています。

JGN全体に対する印象を教えてください。

 JGNがあったおかげで、倉敷芸術科学大学が有名になれたと感謝しています。倉敷芸術科学大学は2000人程度の小さな大学で、ネットワークの研究に関係しているのはせいぜい10数人であり、単独でネットワークを整備するのは困難です。JGNのおかげで、インターネット技術の業界では全国区の知名度を確立できたのだと考えています。JGNは主要な国公立大学、すべての都道府県にアクセスポイントが整備されていますから、私たちのような小さなグループにもチャンスが与えられたと理解しています。他の地域でも、高知、岩手、愛媛、佐賀などは、私の目から見てもJGNを上手に使っているなと感じています。

 また、現在、JGNを使って研究をされる方は、ATMベースのネットワークを利用することも、JGNv6のネットワークを利用することもできるという選択が可能であり、このユーザが選択できるという状況が様々な可能性を生むという意味で良いものと評価しています。

今後のテストベッドに望む点を教えてください。

 IT推進にはテストベッドは不可欠だと考えます。他の国も膨大な国費を投じて、テストベッドを構築・運用しており、今後ともバックボーンとしてのテストベッドは必要だと思います。

 JGNv6の自律分散的な運用も誇りに感じていますので、各拠点の機器を研究者が運営する体制は、JGNの次のテストベッドでもぜひ取り入れていただきたいと考えています。できれば、バックボーンを複数選べるようにすると良いのではないかと考えられます。複数あることで、それぞれ特徴的な運営ができ、競争状態を作っておくことでサービスを含め様々な意味での技術力の向上につながると思います。

 また、教育環境にもっと力を入れるべきだろうと思います。JGNは多くの大学で普通に申請すれば使える研究ネットワークとして画期的なものだと考えていますが、次は、高校生が普通に申請して使えるようなネットワークというものを考えてみてはいかがでしょうか。

 また、申請は紙でなくWebで行えるようにするなど、手続きの簡素化も図られると良いと思います。さらに、利用するアクセスポイントの申請だけをすれば、ネットワークの経路については問われないような運用になると良いと思います。

 
  ◆おわりに

 「全国マルチメディア祭2002inおかやま」の準備にお忙しいところ、時間を割き、自信に満ちてネットワークの未来について語ってくださった小林先生に感謝いたします。

文責:JGNウェブ編集部

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倉敷芸術科学大学 産業科学技術学部 ソフトウエア学科 小林研究室
全国マルチメディア祭2002inおかやま
 
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