研究開発用ネットワーク vBNSとvBNS+ 戻る

 1.概 要

 vBNS(very high-performance Backbone Network Services)は、米国科学財団(NSF:National Science Foundation)がNSFNET(1995年に終了)の後継として、1995年に運用を開始した研究開発用ネットワークである。米国研究教育機関の高性能アプリケーション、サービス技術、プロトコル等の研究開発支援を目的に提供されていたが、2000年以降は運用が民間に完全移行され、商用ネットワーク"vBNS+"となった。

2.ネットワーク構築の経緯

 NSFが運営し、インターネットを広く普及させるきっかけのひとつとなった研究開発用ネットワーク"NSFNET"。これに替わるバックボーンネットワークとして構築されたものが、vBNSとその後継のvBNS+である。
 その構築の始まりは、NSFNET(1985〜1995年)プロジェクトの後期に、NSFがバックボーンネットワークへの民間参入を前提として新しいネットワークアーキテクチャを設計したことにある。これは、複数のバックボーンとそれらを相互に接続するNAP*1を組み合わせて、高速ネットワークを構築するものである。NSFはこの新しいアーキテクチャを利用して、NSF傘下の5つのスーパーコンピュータセンターと民間バックボーンを相互接続するバックボーンネットワーク構築の公募を実施し、採用したのが米国大手通信会社MCIによる提案であった。MCIとNSFは5か年の協力契約(Cooperative Agreement)を結び、1995年4月、新しいバックボーンとしてvBNSが誕生した。
 これにより、それまでNSFNETに接続していた地域ネットワークは、民間バックボーンを相互接続するNAPへの接続に移行することになり、インターネットの民営化が進展した。また、NSFNETの後継であるvBNSは、NSFが許可した研究機関にバックボーンサービスのみを提供することになった。1996年からはさらに、大学主導のテストベッドプロジェクト Internet2 のバックボーンとしても使われるようになった。これからも明らかなように、vBNSの特徴は、汎用の研究インフラ・ネットワークであったNSFNETと異なり、高等研究機関において、高速ネットワークの新技術を研究開発するために利用されたことにある。
 また、vBNSはNSFとMCIとの間の5年間の協力契約が終了後、2000年4月にvBNS+としてMCIによる完全民営化に移行した。

 *1 NAP:Network Access Point。ここでいうNAPは、NSFのサポートを受けているIX (Internet eXchange:インターネット相互接続点) で、サンフランシスコ、シカゴ、ワシントンDC、ニューヨ ークの4カ所に設けられている。運営は民間企業にまかされている。

3.ネットワークの構成

(1)vBNS
 vBNSのネットワークサービスは、1995年4月の運用開始当初、IP over ATM OC-3*2(伝送速度155Mbps)により提供されていたが、1999年より一部でOC-48(伝送速度2.5Gbps)によるサービスが開始された。また、Native IPv6 (over ATM)のネットワークサービスの提供は、1998年7月から開始された。

*2 OC-n:同期光通信網(SONET:Synchronous Optical Network)における光インタフェースの伝送速度。伝送速度を、51.84Mbpsを基準とする整数倍の数値で表わす。

 vBNSのネットワーク構成は図1のとおり、以下に示すNSF傘下の5大スーパーコンピュータセンターを接続している。

  • Cornell Theory Center(CTC)
  • National Center for Atmospheric Research(NCAR)
  • National Center for Supercomputing Applications(NCSA)
  • Pittsburgh Supercomputing Center(PSC)
  • San Diego Supercomputer Center(SDSC)

 また、以下のNAP(カッコ内は地域)と接続することにより、民間バックボーンとも接続している。

  • SF NAP (Hayward CA)
  • CHI NAP(Chicago IL)
  • NY NAP (Pennsauken NJ)
  • DC NAP (Washington DC)
vBNSのネットワーク構成図
▲図1 vBNSのネットワーク構成図
(出典:http://www.nlanr.net/VBNS/vBNSmap.gif))

(2)vBNS+
 2000年4月、vBNS+への移行に際して、OC-12 Packet-over-SONETと呼ばれる光ネットワークのバックボーンとOC-12 ATMバックボーンのデュアル化によるネットワークサービスの提供が開始された。
 また、2000年末までに、OC-12 Packet-over-SONETからOC-48 Packet-over-SONET(2.5Gbps)へのアップグレードも実施された。

vBNS+のネットワーク構成図
▲図2 vBNS+のネットワーク構成図
(出典:http://www.vbns.net/presentations/NLANR2000/bonica1-000820/sld003.html
4.運営体制

(1)vBNS
 vBNSの運営は、NSFとMCIの協力契約に基づき、共同で行われていた。この間の予算は、米国政府のCIC計画(Computing, Information and Communications Programs/(新HPCC))の中のサブプログラムであるNGI(Next Generation Internet)計画[1998-2001年]を主たる資金として、NSFから提供された。
 運用に関わる技術的な調整は、MCI、NSF及び 5大スーパーコンピュータセンターのメンバーで構成されるvTCC (vBNS Technical Coordination Committee)により行われた。また、vBNSプロバイダでもあるMCI 及びvBNSの接続機関に対して、技術、アプリケーション利用、トラフィック計測解析などのサポートを行う組織として、NSFによりNLANR (National Laboratory for Applied Network Research)が設立された。

(2)vBNS+
 2000年にvBNS+に移行してからは、MCIが運営主体となり、完全民営化が実現した。これにより、利用者はvBNS+のみと接続するタイプと、vBNS+と商用インターネットの両方への接続が可能なタイプの2通りの選択が可能になった。後者の商用インターネットへの接続は、UUNET*3を介して行われる。vBNS+の提供するネットワークサービスの課金方式は、論理接続ごとの加入料(subscription fee)と物理接続ごとのネットワークアクセス料(network access fee)から構成されており、vBNS の時と同様である。
 また、NSFはHPNC計画(High Performance Network Connection Program)により、高速ネットワークを用いた研究開発を促進するため、すべての大学を対象に研究助成金を提供している。

*3 UUNET:1987年設立のMCI傘下のインターネット接続事業者(プロバイダ)。現在そのサービスは、MCIにより提供されている。
5.AUP(利用規約)及び接続ポリシー

(1)vBNS
 vBNSでは、利用機関を以下の2つに分類し、それぞれに対してAUP(Acceptable Use Policy:利用規約)を設定した。

  • vAI (vBNS Authorized Institutions)
    NSF DNCRI(Division of Networking and Communications Research and Infrastructure)によって許可された米国の研究機関及び、一次利用者である5大スーパーコンピュータセンターがこれに相当する。
  • vPI (vBNS Partner Institutions)
     vAI が研究開発のために接続を必要とする機関を指す。連邦研究機関、海外の営利機関を含む研究教育機関がこれに相当する。

     

vBNS のAUPは、以下の制約が存在する点に特徴があった。

  • vAI はvAI同士あるいはvPIとの通信が許可される。
  • vPI はvAI との通信は許可されるが、vPI同士の通信は許可されない。
  • HPC計画(High Performance Computing Program)の研究資金を受けた研究者は、商用インターネットとの接続が許可されない。

(2)vBNS+
 運営がNSFから民間に完全に移行されたことに伴い、vBNS+においては、vBNSで課せられていたAUPは取り払われ、知的所有権、不正アクセス、輸出規制等の関連する一般的な法律に従う利用であることが規定されるに留まった。
 商用インターネットへの接続についても、追加料金を支払うことにより、接続が認められている。

6.研究開発テーマ

(1)vBNS
 vBNSにおいては、IPマルチキャスト、IPv6トンネリングなど先進的なネットワーク技術の研究や、バックボーンネットワークルータの検証、MPLS相互運用性テスト、IPトラフィックモニタリングなどの実験などが行われた。
 一方、vBNSネットワークを利用したアプリケーションレイヤの主な研究開発としては、NGI計画のもとで以下の研究開発が実施された。

  • CAVEなどのバーチャルリアリティ(NCSA)
  • 天文物理シミュレーション(NCAR)
  • WEBキャッシング技術(SDSC)
  • たんぱく質構造解析(NCSA)

※( )内は、研究開発を行ったスーパーコンピュータセンター名を示す。

(2)vBNS+
 vBNS+においては、以下のシステムやツールを利用した実験が行われている。

  • vBNS+ Active Measurement System(テスト用のトラフィックを流し、ネットワークをモニタするシステム)
  • Iperf*4
  • Round Trip Time (ping) tool
  • マルチキャスト性能テスト

 また、vBNS+では全ての接続機関でIPv6での接続が可能であり、native IPv6-over-ATM 接続やトンネルIPv6-in-IPv4 接続などを提供している。スイッチング技術に関しては、MPLS LSP over OC-48バックボーンの構築の研究が行われた。

  *4 Iperf:NLANRが開発したネットワーク性能測定ツール。ソースコードが公開されている。TCP と UDP プロトコル転送時における帯域幅の測定に利用される。

関連リンク
vBNS+
MCI
NLANR

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