NICT総合テストベッド研究開発推進センターでは、超高速研究開発ネットワークテストベッド「JGN」上で、2019年2月にさっぽろ雪まつり映像およびプロ野球キャンプ映像をコンテンツとして、8Kをはじめとする映像配信実証実験を実施しました。実験はNICTと産学官51組織がそれぞれ技術や人材、機材を持ち寄り実現し、現場で実験に関わった人数も150人を超えました。
2月7日(木)にはグランフロント大阪の「The Lab.」内アクティブラボにて実験公開デモンストレーション、札幌ではHTB北海道テレビ社屋1階にて8K映像公開を実施しています。
映像配信実証実験では、「JGN」上で実運用環境に近い「リアルな実験場」を一から構築し、ネットワークや映像に関わるさまざまな先進的実験を2004年から行ってきています。
今年は映像系配信網に対するセキュリティをメインテーマにセキュリティペネトレーションや映像差替実験を行いました。また、次世代のネットワーク通信を見込み、ソフトウェアベースの通信機器が混在する環境での配信トライアルや、異なるベンダ間での400Gbpsスイッチの相互接続実験も行いました。8K非圧縮映像の録画には、「JGN」と同様、NICTが提供する総合テストベッドの1つである大規模エミュレーションテストベッド「StarBED」を利用しています。
●映像系配信網へのセキュリティペネトレーション
近年産業インフラへのサイバー攻撃に対する防御が叫ばれる中、映像においても局間、中継地間を結ぶ配信網において、セキュリティ上のリスク解析、対策がますます重要となってきています。
今回、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)産業サイバーセキュリティセンターの主導のもと、産業サイバーセキュリティ高度人材育成プログラムメンバにより、未公開の脆弱性も含めて種々のペネトレーションを実施し、映像配信網における課題が浮き彫りとなりました。
実験では8K非圧縮のほか、現在配信で使用されている機器であるHDや4K、8K圧縮についても検証実験を行いました。
●中間者攻撃を想定した8K非圧縮映像のコンテンツ差替
中間者攻撃(Man-In-The-Middle/MITM)は、通信でやりとりされるデータを通信路の途中で盗聴、傍受、改ざんを行うというものです。しかし、映像系のデータについてはデータ量が大きくリアルタイム性が高い点、映像の差替を行う場合、2系統の入力(25Gbps×2)を扱う必要があることから、これまで映像への攻撃は難しいのではないかと考えられてきました。
今回、神奈川工科大学のチームを中心に、8Kライブ非圧縮映像(約25Gbps)に対して、映像差替に成功し、デモンストレーションを行いました。Linuxサーバ上に構築したDPDKベースのソフトウェアスイッチを用いて、送信系統Aは本来の配信映像(札幌からのライブ映像)を入力し、送信系統Bは不正映像(今回は期間中の8K録画映像)を入力としています。DPDKスイッチ上で送信系統Aのデータパケットペイロード部分を、送信系統Bのデータに置き換えて受信系統Cへ出力することで、送信系統Bの不正映像への「すり替え」を実現するものです。この結果から、今後は高画質大容量配信に対してもセキュリティに対する対策が必要であることが明らかとなりました。
●高速ソフトウェアルーティングエンジン Kamuee
NTTコミュニケーションズが開発したPCベースで稼働する高速ソフトウェアルーティングエンジンKamueeの開発チームが参加し、JGNの運用系であるハードウェアベースの機器とソフトウェアベースの機器が混在する実験ネットワークを構築し、映像配信するトライアルを行いました。
●400Gbps Ethernetスイッチ相互接続
通信インフラのバックボーンネットワークで今後利用が広がると見込まれる400Gbps Ethernet規格について、異なるベンダ間の400Gbpsスイッチで相互接続実験を行いました。今回は実験参加団体である、シスコシステムズ合同会社とジュニパーネットワークス株式会社の400Gbpsスイッチを接続し、コンテンツ差替を含む一連の8K映像配信実験に成功しました。
400Gbpsスイッチのベンダ間相互接続実験は今回が世界初となります。
本実験がNICTの主催のもと、企業、大学、研究組織は、最新の技術課題の実証実験という共通の大きな目的を持ち、参加しています。そのうえで、参加する組織は個々の課題に応じて、開発中の機材や製品、ソフトウェア等を持ち寄り、設計段階から深く関わることで、実運用と同様、多種多様な機器が混在する環境を構築しています。
実験は1月下旬から札幌、東京、大阪ほかの各拠点でそれぞれ参加組織のメンバが実験システムの構築、解体まで行っており、現場でプログラムの修正やハードウェアファームの更新を行いながら運用を行ってきました。構築、運用の実践を通じて研究者・エンジニア・学生を横断した技術的知見の共有、人材育成の側面においても貴重な場となっています。
JGN : | NICTが日本国内及び海外で運用している、研究開発ネットワークテストベッド。2017年11月から、シンガポール先端研究教育ネットワーク(SingAREN)、シンガポール国立スーパーコンピューティングセンター科学技術研究所(NSCC)と共同で、東京-シンガポール間100Gbps回線を開通し、アジア研究・教育用ネットワークのバックボーンとしても提供中。
<JGN構成図>
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8K : | 4Kは、高品質テレビ規格で、現行のフルハイビジョンの画素数(約200万)の4倍にあたる800万画素を持ち、高精細な映像品質を実現する。放送向けの4K規格では横3,840×縦2,160の画素数であり、横方向の画素数が約4,000であることから4Kといわれる。日本では一般社団法人次世代放送推進フォーラム(略称: NexTV-F)が2014年6月から試験放送を開始しており、2015年からはCS放送及びケーブルテレビにて商用放送が開始されている。8Kは、NHK放送技術研究所が中心となって開発されているテレビ規格であり、4Kの約4倍、現行のフルハイビジョンの約16倍にあたる3,300万画素を持つ。横7,680×縦4,320の画素数であり、横方向の画素数が約8,000であることから8Kと呼ばれ、ウルトラHD(UHD)又はスーパーハイビジョンとも呼ばれる。NHKは、2020年にもスーパーハイビジョンの本放送を目指すとしている。 今回の実験ではHD-SDI信号を16本使用するデュアルグリーン方式をとっており、通信に必要な帯域は1ストリーム当たり約25Gbpsとなる。 |
StarBED : | NICTが2002年から運用している、多数のPCを用い実環境向けのソフトウェア・ハードウェアを動作させることで、それぞれの検証を行うためのテストベッド環境。 |