VOICE  総合テストベッドインタビュー  Vol.008 

<JGNユーザ・インタビュー>

JGNを活用して「NICTサイエンスクラウド」を運用
「ひまわりリアルタイム」は10か国以上で利用され、社会に貢献

NICTサイエンスクラウドによりひまわりのフルデータを高速でリアルタイム可視化、アクセスは300万PV超に!  ―
第8回総合TBインタビュー|情報通信研究機構(NICT)総合テストベッド研究開発推進センター(当センター) 研究統括 /<span>村田 健史(むらた たけし)氏
■情報通信研究機構(NICT)
総合テストベッド研究開発推進センター(当センター) 研究統括 /村田 健史(むらた たけし)氏

「NICTサイエンスクラウド」はJGN上に構築された分散型サイエンスクラウド。研究者は手元のPCからインターネット等を介して接続することで、データ指向型研究(ビッグデータ科学)のために、大規模分散処理環境と大規模分散ストレージを利用することができます。
第8回インタビューでは、2012年から「NICTサイエンスクラウド」の運営に携わっている当センターの村田研究統括に、第7回テストベッド分科会での発表を元に、「NICTサイエンスクラウド」に蓄積されている気象庁のひまわり衛星データを活用した研究開発「ひまわり衛星プロジェクト」とJGNの活用を中心にお話を伺いました。
  <インタビューのポイント>
   ●「NICTサイエンスクラウド」の概要
   ●蓄積データの活用例として「ひまわり衛星プロジェクト」の概要と成果について
   ●利用いただいているJGNのメリットと、今後の要望

1. データの集約・解析処理・情報共有ができる「NICTサイエンスクラウド」は私の夢がきっかけ
  ― NICTの複数拠点をJGNのVLANで接続した分散型クラウド ―

───はじめに、「NICTサイエンスクラウド」を研究開発されたきっかけと目的について教えてください。

村田研究統括(以下、村田):こんな図を見せてしまってよいのかわからないのですが(笑)、これは私が2008年にNICTに就職する際の最終面接で使った発表資料(【図1】参照)です。
その頃から私は、先端的ICT(情報通信技術や情報処理技術)を使って、高速ネットワークで密接続されたコンピュータ上に仮想的な地球を作ること(Cyber Network Earth構想)を夢見ていました。観測や計算機シミュレーション、モデル計算により生成される様々な数値データがCyber Network Earthに集約され、解析者はCyber Network Earth上で必要なデータを処理します。処理結果は大規模可視化デバイス(大型モニターなど)やネットワーク上で各ユーザ端末のディスプレイ上に同期表示され、多くの人が同時に同じ情報を共有できます。
Cyber Network Earthの最終目標は、Sustainable Earthの実現です。バーチャル地球、監視地球(Sentinel Earth)、ネットワーク地球によるデータを処理して、地球全体や都市環境の予測や実用化を目指します。これらにより、安全・安心な地球環境システムの構築を目指します(【図1】の全6枚の発表資料参照)。

【図1】2012年から運用を開始したNICTサイエンスクラウド
【図1】発表資料:Cyber Network Earth構想(2008年当時)<全6枚>
※【図1】の画像をクリックして6枚の発表資料をご覧ください

───Cyber Network Earth構想が、どのように「NICTサイエンスクラウド」につながるのでしょうか?

【図2】Cyber Network Earth構想(2010年当時)
【図2】Cyber Earth構想(2010年当時)のコンセプト
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村田:Cyber Network Earthを実現するためには、高速ネットワーク、大規模なクラスタ計算機群、大容量ストレージ、多面ディスプレイを組み合わせる必要があります。2010年頃にそのコンセプト(【図2】参照)が完成しましたが、世の中ではちょうど「クラウド」という言葉が普及しだしたころで、この仮想地球環境システムを「NICTサイエンスクラウド」と名付けました。NICTサイエンスクラウドは、小金井を中心として、けいはんな、沖縄などのNICTの各拠点をJGNでVLAN(L2)接続して2012年頃に約3年をかけて構築しました(【図3】参照)。

【図3】2012年から運用を開始したNICTサイエンスクラウド
【図3】2012年から運用を開始したNICTサイエンスクラウド
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「NICTサイエンスクラウド」Webサイト
「NICTサイエンスクラウド」Webサイト
<画像クリックでサイトに移動>

───このNICTサイエンスクラウド構築にJGNを2010年からご利用いただいていますが、その中で村田統括がお感じになっているJGNのメリットを教えてください。

村田:地球観測データの多くは、国内外の様々な組織・機関により生成されます。そのサイズは年々大規模化し、データ収集・データ伝送が大きな課題となってきました。そのために、これらの研究組織からNICTサイエンスクラウドに高速データ伝送することが重要となり、JGNは「データを送信する高速道路」として大きく役立ちました。
一方、高速道路があっても速い車がなくてはデータの流通効率はよくなりません。そこでNICTサイエンスクラウド計画では、広帯域で長距離(つまり高遅延)ネットワークで高速データ伝送できる通信プロトコルHpFP*1と、HpFPを活用したファイル転送ツールHCPを開発しました。これにより拠点間でのデータ転送性能またはデータ共有機能が飛躍的に向上し、Cyber Network Earth実現への道が一歩前進しました。
現在、HpFPプロトコルはJAXA(宇宙航空研究開発機構)や気象庁においても利用されており、また2020年2月のSC ASIA2020ではData Mover Contestで受賞するなど、その実用性が認められつつあります。


*1:「HpFP」
High-performance and Flexible Protocolの略で、NICTがJGN-X(現JGNの前身)環境で行ってきた10Gを超える長距離広帯域伝送網(LFN)におけるデータ通信実験成果を基に、クレアリンクテクノロジー社が開発したTCP高速化パケット伝送制御技術を用いて、独自のアルゴリズム設計により実装したトランスポート層のTCP互換(プログラムレベルで置き換え可能な)通信プロトコル。これまでと比べ、遅延やパケットロスに強い性能が特徴。
<詳細はHpFPのWebサイトへ>

2. 気象衛星ひまわり8号のカラー画像をリアルタイムでWeb公開する「ひまわりリアルタイム」
 ― 「NICTサイエンスクラウド」上で複数の先端的なICT技術を組み合わせることで、リアルタイム公開を実現 ―

───当センターが事務局を務める第7回テストベッド分科会で、NICTサイエンスクラウドとその上で公開している「ひまわりリアルタイム」について発表されているのを拝見しました。どうして気象衛星ひまわりの画像処理に取り組まれたのでしょうか?

村田:2014年に初めて気象衛星ひまわり8号機の画像を見せていただいたのですが、その時の衝撃的な印象を忘れることができません。それまでの気象衛星画像は白黒で「気象観測データ」としか見えませんでしたが、8号のフル解像度でのカラー画像(【図4】参照)はそれをはるかに超えるモノでした。私は、この「今の地球の姿」画像をすべての国民(と世界の人々)に一刻も早く、しかもこの美しさのままに届けたいと思いました。これが、Cyber Network Earthのアプリケーション事例として、ひまわり画像をリアルタイムにWeb公開するサイト「ひまわりリアルタイム」を開発したきっかけです。
本来の私の研究テーマは太陽地球系物理学、特に地球磁気圏科学であり、気象学は専門外です。しかし、このデータとの出会いが、その後の私の研究スタンスを全く変えてしまいました。多くの気象研究者に本当に基本的な気象学について指導していただき、同時にアカデミア以外の多くの人たちとつないでもらいました。気象庁や気象研究所の皆さんはもちろんのこと、気象予報会社、気象予報士、お天気キャスター、気象マニアなどなど・・・。その中でも気象マニアのうち、特に"雲マニア"の人たちの雲好きの様子や発言には、ただただ私も目が点になることばかりだったことを憶えています。

【図4】ひまわりリアルタイムの主要画面
【図4】ひまわりリアルタイムの主要画面
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───ひまわりリアルタイムのWebサイトを拝見しましたが、30分前の最新カラー画像が見られるだけでなく、過去のデータも10分間隔でレビューできるのが素晴らしかったです。気象関係のマニアでない一般人でも興味を引かれるサイトです!

村田:「情報通信研究の組織がなぜ気象データのWebサイトを?」という質問をよく受けます。SNSでは、ひまわり衛星はNICTが打ち上げたと勘違いしている人を見かけたこともあります(笑)。
ひまわりリアルタイムはデータを取得してから数分以内に全画像をWeb上で公開します。そのためには、高速データ通信技術、並列データ処理技術、スケーラブル可視化技術など、複数の基盤要素技術を統合するマッシュアップが必要となります。先端的情報通信技術をNICTサイエンスクラウド上で組み合わせることで、ひまわりリアルタイムは初めて可能となるのです。

第7回テストベッド分科会で発表される村田研究統括
第7回テストベッド分科会で発表される村田研究統括
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3. 国内外で利用領域が拡大する「ひまわりリアルタイム」は気象・生活・普及啓発等に貢献
 ― 国内外でのさまざまな用途に応え、 今や月間300万PVを超過 ―

───ひまわりリアルタイムのWebサイトには、現在、どのぐらいのアクセスがあるのでしょう?

村田:ひまわりリアルタイムの特長の一つは「天気予報をしない」ということです。気象業務法の制約ということもありますが、元々の目的は「宇宙から見た今の地球の姿を提供する」ことだけだからです。にもかかわらず、ひまわりリアルタイムには、2019年には国内外を合わせて年間で300万PVを超えるアクセスがありました。多くの人が、天気予報ではなく今の地球を見るためにこのWebサイトを訪れてくれたことは、データを提供することの重要性を示唆しているように思います。

───国内外で300万PVですか。何か国ぐらいで利用されているのですか?

村田:実は、ひまわりリアルタイムは当初から海外からのアクセスを意識していました。各国からのボランティアの協力により、現在、画面上のメッセージは日本語を含め、12種類の言語*2から選択できます。その中には、東ティモールのテトゥン語も含まれています。ログ解析によると、ひまわりリアルタイムへのアクセスは2019年12月末現在で約300万PVで、その40%以上が海外からです。
先ほどもお話ししたように、私がひまわりリアルタイムを立ち上げたきっかけの一つが、この美しい画像を日本だけではなく世界中にリアルタイム配信したいということでした。特にアジアは世界の中でも気象災害が多発する地域の一つです。その中で近年、日本において台風による死者数が減っているのは、詳細な台風情報により事前対応ができるようになったことが要因の1つとも言われています。ご存知の通り、台湾やフィリピンも毎年のように台風被害が大きいので、ひまわりリアルタイムのクリアな画像による台風情報のリアルタイム提供は重要になると考えています。

【図5】「ひまわりリアルタイム」への海外からのアクセス数
【図5】「ひまわりリアルタイム」への海外からのアクセス数
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───ひまわりリアルタイムが提供するリアルタイムの画像にすばやく確実にアクセスできれば、各国で台風の事前対応ができるわけですね。12言語のボランティアが協力してくれる理由がよくわかります。

フィリピンのPAGASAで行われた会議<2018年>
フィリピンのPAGASAで行われた会議<2018年>
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フィリピンのPAGASAとのMoU調印式
フィリピンのPAGASAとのMoU調印式
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村田:リアルタイム配信には通信高速化の工夫が必要ですが、海外からのWebサイトへのアクセス速度にも限界があります。私も、欧米やアジア諸国に出張したときにひまわりリアルタイムのWebサイトにアクセスしてみましたが、国内と比較して表示速度が遅く利便性に課題を感じていました。
そこで、国内だけではなく海外でもテストベッドネットワークとして利用できるJGNを活用し、他の高速ネットワークと組み合わせることで、我々はひまわりリアルタイムデータをアジアの国々に転送する計画を2017年にスタートしました。2017年にはタイ、2018年にはフィリピン、そして2019年には台湾にひまわりリアルタイムミラーサイトを立ち上げました。写真は2018年、そのためにフィリピンPAGASA(フィリピンの気象庁にあたる大気地球物理天文局)で行われた会議の様子です。全員のスマホには、ひまわりリアルタイムが表示されています(笑)。
これら3カ国に関してはhttps://himawari.asiaにアクセスすると、ミラーサイトに自動的にリダイレクトされます。アクセス数はまだ多くないものの、台風接近時などには確実にアクセスが増えていますし、2017年に立ち上げたタイのミラーサイトでの2019年のアクセス数は前年比17倍にもなっていますので、少しずつひまわりリアルタイムが各国で定着しつつあることを感じています。

【図6】JGN国際回線を活用した「ひまわりリアルタイム」の東南アジアとのネットワーク図
【図6】JGN国際回線を活用した「ひまわりリアルタイム」の東南アジアとのネットワーク図
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───ひまわりリアルタイムの画像は、国内ではどのようなところで利用されていますか?

ウェザーニューズ社のひまわりリアルタイム利用シーン
ウェザーニューズ社のひまわりリアルタイム利用シーン
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村田:現在、台風を主とする気象関係報道でしばしばひまわりリアルタイムの映像が利用されます。ニュース番組で目にされた方も多いと思います。
報道の視点でひまわりリアルタイム利活用をさらに展開しているのが、NICTとの共同研究を進めているウェザーニューズ社です。同社では、ひまわりリアルタイムを自らの天気予報番組内で利用しています(左写真を参照)。面白いのは、予報士やキャスターの背景にあるのは、ひまわりリアルタイムWebそのものです。しかも、リアルタイムの画像が番組内で利用されています。
まさにこれこそ、「最新の雲画像をつかった天気予報」と言えますね!

*2:12種類の言語
「リアルタイムひまわり」で選択できる12種類の言語
ひまわりリアルタイムでは、12種類の言語を選択可能です。
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───気象情報の専門家にとっても、不可欠な情報になっているんですね。一般の方たち向けの利活用事例もありますか?

村田:ひまわりリアルタイムは独自開発のJavaScriptをベースとしたWebアプリケーションで、ブラウザを通じて利用していただいていますが、さらにこのアプリケーションを幅広く多くの人達に利用いただく試みとして、「だれでもいつでもどこからでも、手のひらの上で今の地球の姿を見られる」よう、WebアプリケーションをベースとしてiOSおよびAndroid用スマホアプリを開発しました。
2018年9月に特定非営利活動法人太陽放射コンソーシアムのアプリとして公開し、App StoreまたはGoogle Playで「ひまわりリアルタイム」「Himawari」で検索していただくと、アプリをダウンロードできます。(【図7】参照)。このアプリは日本国内だけではなく、海外でも利用できるようになっており、現在、アクセス全体の約40%がスマートフォンからとなっています。
また、このスマホアプリは多くの方の協力により、事例名「先端情報通信技術によるリアルタイムひまわりデータ可視化アプリ」*3として、第4回宇宙利用開発大賞(2019年度)の国土交通大臣賞をいただきました。

【図7】App Store及びGoogle Playで公開されているひまわりリアルタイムのスマホアプリ
【図7】App Store及びGoogle Playで公開されているひまわりリアルタイムのスマホアプリ
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台風・火山噴火などのターゲット選択から始める「ひまわり・ゲーム」画面
台風・火山噴火などのターゲット選択から始める「ひまわり・ゲーム」画面
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この他に教育活動として、現在、名古屋市科学館や多摩六都科学館がひまわりリアルタイムを常設展示し、リアルタイムで宇宙から見た地球の姿を閲覧者に提示しています。
さらに低年齢の子ども向けには、ひまわりリアルタイムを活用したゲーム「ひまわり・ゲーム」も開発しました。ひまわり衛星データにサウンドと視覚効果を追加し、ゲーム用のジョイスティックまたはゲームパッドを使って画像を移動したり拡大しながら台風・日食・火山噴火・流氷などの場所をゲーム感覚で見つけるツール(左の画面参照)で、子どもたちが知らない間に地球観測データや気象現象に興味を持ち、慣れ親しむことを目的にしています。家庭や学校でも利用*4いただけますし、今後、いくつかの科学館でも展示の検討が進んでいます。また昨年同様、「NICTオープンハウス2020」でも展示する予定ですので、たくさんの子供たちに楽しんでもらいたいです。
なお、このゲームの開発にはHTML5のcanvasやiframeといった技術を使い、ひまわりリアルタイムにオーバーレイする形でひまわりリアルタイムをゲーム化しています。一般的なWebアプリケーションでは多機能化によるプログラムの複雑化、いわゆるスパゲッティコード化が深刻な課題でしたが、「ひまわり・ゲーム」ではひまわりリアルタイムのプログラムには一切手を加えることなく、独自のアプリケーションを開発しました。この手法は、今後、多くのひまわりアプリケーションで活用されると考えています。

*3:「先端情報通信技術によるリアルタイムひまわりデータ可視化アプリ」<PDF>
「NICTサイエンスクラウド」Webサイト
受賞事例PDFは上記の画像をクリックしてください。
<第4回宇宙開発利用大賞全体の事例集はこちら>
*4:家庭や学校での利用
①NICTサイエンスクラウド内の「ひまわり・ゲーム」ダウンロードページ

NICTサイエンスクラウド内「ひまわり・ゲーム」ダウンロードページ」 拡大

ジョイスティックを使って楽しむ「ひまわり・ゲーム」の利用シーン<全4枚>
ジョイスティックを使って楽しむ「ひまわり・ゲーム」の利用シーン<全4枚>
※写真をクリックして、「NICTオープンハウス2019」での利用シーン4枚をご覧ください
②Web上で楽しめる「ひまわり・ゲーム」(体験版)サイト 「ひまわり・ゲーム」(体験版)サイト 拡大

4. 「ひまわりリアルタイム」と「NICTサイエンスクラウド」の今後について
 ― 時空間をリアルタイムに可視化するプラットフォームとして更に進化 ―

───ひまわりリアルタイムはいろいろなところで利用され、社会に役立っているんですね。開発当初からこういう状況というか、未来を想定されていたのでしょうか?

村田:開発当初ではありませんが、実際、公開当時にどんなことを私が考えていたのかについては、個人的に書いた文章を以下に用意しましたので、そちらをぜひご覧ください。
この文章の中にも書きましたが、ひまわりリアルタイムを開発しているとき、さらには運用している中で大切にしていることがあります。それは、アプリケーションを通じて遠くからデータを見ているユーザのことを想像するということです。我々は情報通信技術は人のためにあるということを、決して忘れてはいけないということをひまわり衛星データを通じて学びました。多くの皆さんに感謝しています。

「ひまわりリアルタイム」公開当時、個人的に描いた文章
「ひまわりリアルタイム」公開当時、個人的に描いた文章
※写真をクリックすると全文をご覧いただけます

───最後に、ひまわりリアルタイムやNICTサイエンスクラウドの今後について、ぜひお聞かせください。

村田:Cyber Network Earthは私の「夢」でありますが、基盤となるクラウドとその上で利用する基盤要素技術(たとえば高速データ伝送技術など)は整いつつあります。要素技術のマッシュアップによるCyber Network Earthのアプリケーション事例としてひまわりリアルタイムを実現し、多くのユーザに利用していただけるようになりました。
ひまわりリアルタイムによる気象データ提供は重要ですが、培ったノウハウの「横展開」も重要です。この場合のノウハウとは、時空間をリアルタイムに可視化するプラットフォームです。言葉にするのは簡単ですが、実際には時空間をユーザのニーズに合わせて縮尺しながら可視化するので、簡単ではありません。ある人は地球全体を1年間のスケールで把握したいでしょう。別の人は街中の様子を1分毎に見たいかもしれません。もちろん、その間に、様々な時間スケール、さまざまな空間スケールでそれぞれが求めるデータを可視化せねばなりません。これこそがCyber Network Earthなのです。我々は、一つのアプリケーションでまたは一つのクラウドでこれを実現できるのでしょうか。まだまだ、チャレンジは続きます。
また今年私が申請代表となって提案した課題が、文部科学省の学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点プロジェクトで採択されました。これにより、2020年度、東北大学、筑波大学、東京大学、千葉大学、信州大学、名古屋大学、京都大学、九州大学、理化学研究所がJGNが提供する一つのVLANに接続され、NICTサイエンスクラウドとの間で仮想ネットワークが完成します。京都大学のスパコン、名古屋大学のコールドストレージ、九州大学のタイルドディスプレイなどが一つのネットワーク上で大きなクラウドとしてNICTサイエンスクラウドからデータ交換できるようになります。千葉大学はビッグデータを提供し、信州大学は地域の小学校がクラウド上のひまわりデータを閲覧できる…壮大な計画の始まりです。
JGNは組織と組織をつなぎ、日本中に広がるクラウドサービスを実現します。そして、それは、人と人をつなぎます。データを作る人、送る人、使う人。出会ったこともない人とたちがJGNの上でつながっていく。この様子を見ることこそが情報通信研究機構で働く「醍醐味」だと、私は日々感じています。

───ありがとうございました。


<2020.3/一問一答方式にてインタビュー>


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「NICTサイエンスクラウド ひまわり衛星プロジェクト」ページ
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