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第1回 インタビュー
東京大学大学院 インタビュー実施:2005年6月7日(於:東京大学) |
今回は第1回ということで、JGN2の円滑な運営にあたって中心的な役割を担う幹事会代表幹事である東京大学の青山友紀教授に、この1年の活動を振り返りながら、JGN2の特徴や期待すること、今後の展望などについてお話しを伺いました。
---1999年4月から5年間運用されたJGN (Japan Gigabit Network:研究開発用ギガビットネットワーク)を発展させた新たな研究開発用テストベッドとして運用を開始したJGN2ですが、JGNとの違いやその特徴についてご紹介ください。 JGNとJGN2の大きな違いは、ブロードバンド化に伴い帯域幅が大きく拡大された点があります。JGN2の一番広い帯域は20Gbpsあり、2004年8月から整備された日米回線においても10Gbpsの帯域となっています。 また、ネットワークが高機能化した点も大きな違いです。IPv6プロトコルに対応している上、物理レイヤで光ネットワークテストベッドの研究開発環境を提供しています(東京大手町〜つくばJGN2リサーチセンター間、NICTけいはんなセンター〜堂島間で各々2芯、20芯の光ファイバーを敷設)。この環境を利用した最先端研究の1つとして、オプティカルバーストスイッチング(OBS)技術の実証実験が行なわれています。これは、光の領域では切り換えることができないパケットの切り換えをパケットの集まりであるバーストという単位で行う技術です。けいはんな情報通信オープンラボのネットワークを利用して複数ベンダのスイッチを遠隔で接続する実証実験を行っています。これは世界初の試みとして評価されています。 このように、JGN2によってレイヤの低いネットワーク技術からレイヤの高いアプリケーション技術まで研究開発できる環境が構築できたことは、今後の研究開発を推進するために非常に貢献していると考えています。 ---JGN2の運用が開始されてから1年が経過しましたが、この1年を振り返ってどのようなご感想をお持ちでしょうか。 まず世界最先端の研究として、JGN2の性能、機能を発揮するような実験、デモが行われており、あとで紹介するような注目すべきアウトプットが出てきています。 ユーザの立場から言うと、JGN2になってからは、JGN時代の利用者からの意見を反映して、申請プロセスが簡略化され利用しやすくなっています。また、NOCにおける障害復旧時の経験が蓄積され、対応が迅速になっています。 全国7箇所にあるJGN2リサーチセンターにおいては、センター長が中心となって研究開発が進められていますが、大学だけでなく産業界との連携をさらに図ってもらいたいですね。また、ベンチャーを含む民間企業の研究者にもJGN2を積極的に使ってもらいたいですね。帯域が不足するくらい利用してもらっても構わないのではないでしょうか。そのためには、競争的資金制度を利用した研究を促していくことも重要になってきます。 ---では次に、今後のJGN2に期待している点をお聞かせください。 国内に関して言えば、文部科学省が運用するSINET(学術情報ネットワーク)とJGN2をうまく連携することで、相互の有効利用を是非行ってもらいたいですね。そのためにはネットワークのポリシーが違うので、十分な検討が必要ですが、障害時の乗り入れやイベントの開催等で協力できると考えています。 また、最近ブロードバンドを利用している一般のユーザが増えてきているので、ネットワークの研究だけでなく、JGN2を利用したサービス、コンテンツの提供、ビジネスへの展開、キラーアプリケーション開発の活性化を支援できるように期待したいですね。 ---具体的にはどのようなアプリケーションの開発が考えられるでしょうか? 以前医学の専門家と話した際に、手術前に病態や部位、手術の手順等について関係者を集めてカンファレンスを行うが、関係者には忙しい人が多く、同一場所に全員を集めることができないという問題を抱えていると聞いたことがあります。JGN2は、遠隔地にいる医療関係者が高精細画像を見ながら行うこういったカンファレンスでの利用に適しています。 また、JGN2が高機能化したことで、GRIDコンピューティングが可能となるほか、昨年のJGN2シンポジウムでデモを行ったデジタルシネマや遠隔医療アプリケーション、その他サイエンス研究のためのアプリケーション等、広帯域が必要なサービス、アプリケーションの実験を行うことができるようになっています。今後JGN2での実験によって実現されたこれらのアプリケーションが、一般ユーザでも利用できるようになると期待しています。 ---海外でもJGN2のようなテストベッドを利用した研究開発が行われているのでしょうか? 欧米にも同じようなテストベッドがあります。米国では、軍事分野において広帯域ネットワークを使ったアプリケーションの研究が行われています。具体的には、複数のスパコンをネットワーク接続して処理を行う際の高速化のために光で接続するとか、大きなストレージをネットワークで接続して有効活用するといった接続方法に関する研究が中心に行われています。また、研究者がダークファイバを利用して自由にネットワークを構成したり、ユーザ自身がネットワークの制御を行うことが始まっております。 今後、日本でも、研究者がさらに高度な利用・研究できるような環境整備がなされることを期待したいですね。 ---米国での研究開発の状況をお聞かせいただきましたが、米国をはじめとする海外の研究者との連携について期待されることをお聞かせください。 これはJGNとの大きな違いですが、JGN2では2004年8月から日本(大手町)と米国(シカゴ)を接続するJGN2 日米回線の運用が開始されています。この回線は、米国の対外ネットワークノードであるStarLight経由でヨーロッパにも繋がっているので、この環境を利用してグローバルな共同研究を活性化させてもらいたいと思っています。 昨年のJGN2シンポジウムではこの日米回線を利用して、高精細動画像の非圧縮転送の実証実験を行ないました。米国カリフォルニア大学サンディエゴ校のSmarr教授の講演をシアトルから1.5Gbpsの帯域を使って大阪のシンポジウム会場まで配信するもので、非圧縮HDTVであるため画像が大変綺麗であり、圧縮符号化の遅延がないためインタラクティブな対話がスムースに行うことができ、米国でも報道されて注目されました。現状では一般ユーザが1.5Gbpsの日米回線を簡単に利用することはできませんが、技術の確立はできたので、あとはコスト等の問題を解決すれば将来的には様々な応用が期待されるところです。 ---最後に、JGN2の今後の展開について、先生の研究も含め抱負をお聞かせください。 光ネットワーク技術で国際間の実験ネットワークを繋いで高度な共同研究を行うGLIF(Global Lambda Integrated Facility)というグループがあります。日本では慶応大学の村井先生と私がそれぞれWIDEとJGN2を代表してメンバーになっており、毎年会議が開催されています。米国StarLight、英国UKLight、オランダSURFnet、その他北欧では既にノードが光スイッチの機能を有しており、日本でも光ネットワークテストベッドには光スイッチノードがあります。各国のネットワークをIPv6のレイヤ3で接続するのは当然のことですが、今後は光スイッチ技術を使ってレイヤ1、2でも接続できることが必要であると考えています。来年はGLIFの会議が日本で開催される予定であるのでJGN2でのL2コネクションを用いた研究成果の発表が期待されます。 今年9月にiGrid 2005という高速ネットワークとそれを用いたアプリケーションに関する国際会議とデモ展示のイベントが米サンディエゴで開催されます。5年前にiGRID2000が横浜で開催されそのときはJGNが活躍いたしました。5年間のネットワークとアプリケーションの技術発展は目覚しく、その成果をそこで見ることができます。今回はJGN2日米回線のL2コネクションを用いて4K(4000x2000=8Mピクセル/フレーム)デジタルシネマや4KLive映像の日米間転送実験やGRIDコンピューティングなどのデモが予定されております。さらに2006年1月のJGN2シンポジウムでもこれらの大容量映像やデータの配信デモの展示が期待されるところです。 また、昨年12月には東大の平木先生をはじめとする日本の研究チームがインターネット速度記録を大幅に更新し、米国Internet2のInternet2 Land Speed Record(インターネット速度記録)に2種目で認定されました。この実験にもJGN2の日米回線が利用されています。 JGN2の存在は非常によく知られていますが、今後もこういった世界の研究者が注目する場でJGN2を利用した広帯域が必要なアプリケーションのデモを行い、その成果を世界にアピールしていきたいですね。 アプリケーションについてはサイエンス(Grid Computing, Super Computing)、環境、エネルギー等の応用分野の研究で日本が世界を先導できるのではないかと思っています。超高精細映像アプリケーション等はまだ一般大衆のアプリケーションとはなっていませんが、いずれこのような先端的アプリケーションがビジネスアプリケーションから最終的には一般ユーザーが利用できるコストや環境が構築されていくことはインターネットやWEBの歴史を見れば明らかです。5〜10年先を目指して今からそういった先導的なアプリケーション技術をJGN2をベースに研究開発して、その方向性を積極的に世界に発信していきたいですね。
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