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第4回 インタビュー
東京工業大学大学院 インタビュー実施:2006年2月7日(火)(於:東京工業大学) |
JGN2関係者インタビューの最後となる今回は、国際共同研究推進部会長である池田佳和特任教授に、この1年の活動を振り返りながら、JGN2の国際的な役割や今後の展望などについてお話しを伺いました。
---JGN2のこの1年半ほどの利用状況についてどのようなご感想をお持ちでしょうか。 JGN2では、タイとシンガポール向けアジア回線が開通し、昨年11月7日に開通式典が行われました。一昨年の8月には日米回線が開通しており、アジア回線はJGN2にとって2つめ、3つめの国際回線になります。 日米回線は太平洋を渡り西海岸に入った後、シカゴにあるイリノイ大学のStarLightに接続されています。 また、Internet2の高速バックボーンネットワークである Abileneを経由してヨーロッパにもつながっています。この日米回線は10Gbpsの速度であり、大陸間長距離回線としては世界トップレベルの性能であることを自負しています。 ---この日米回線の利用例として具体的にはどのようなものがあるでしょうか。 一昨年米国ピッツバーグで開催されたSuperComputing2004で、東大の平木先生をはじめとする研究者によるTCP による高速通信実験において、世界記録を達成したことにより Land Speed Record 賞を受賞しましたが、昨年11月にシアトルで開催されたSuperComputing2005においても、引き続き記録を更新しています。 また、2005年9月の終わりに、米国サンディエゴにおいてiGrid2005が開催されましたが、そこでJGN2を使ったデモが数多く行われました。たとえば、電波望遠鏡の観測データをリアルタイムで結合し測地するVLBI(Very Long Baseline Interferometry:超長基線電波干渉法)や、日本、カナダ、オランダ、アメリカにまたがる長距離伝送路上でのIPv6を使った大容量データ伝送実験、800万画素の超高精細デジタルシネマ(4Kデジタルシネマ)映像の太平洋横断リアルタイム伝送等です。4kデジタルシネマでは、グーテンベルグの聖書活版本の文字などを映していましたが、画面の精細さに感動しました。 iGrid2005の会場で全世界の研究開発用広帯域ネットワークを示す世界地図が展示されていましたが、そこにJGN2が明記されているのを見つけ、次第に全世界に認知されていくことを確信しました。 ---アジア回線についても具体的な利用例がでてきているでしょうか。 昨年11月22日にバンコクで開催されたThailand-Japan Broadband Congress 2005においてDV over IP技術を使った遠隔講演を実施しましたが、これがアジア回線の最初の利用例となりました。 その後多くの研究プロジェクトでアジア回線の利用が実施・検討されています。例えば、アプリケーションの研究として、医療分野では電子顕微鏡の画像を伝送して遠隔地で画像を分析する研究が検討されています。また、教育分野では東工大とタイの大学間の遠隔講義や、三鷹市の中学校とアジアの国とをつないだ実験が実施されています。この実験のように大学だけではなく初等・中等教育を対象とした遠隔教育にも活用されています。 ---こういった利用状況の中で、池田先生が部会長を担当されている国際共同研究推進部会の活動状況についてお聞かせ下さい。 国際共同研究推進部会には、大きく分けて2つの役割があると考えています。1つは、プロトコルの改良研究やIPv6を使用した網制御実験など、ネットワーク技術そのものの研究です。これはいろいろと成果が出てきています。もう1つはミドルウェアとアプリケーションの研究です。社会の役に立つ、先進性のある研究開発をする必要があると考えています。 こういった役割を果たすために研究部会内に今年度ワーキンググループを設置しました。このワーキンググループではデジタルシネマ、セキュリティ、遠隔教育、コンテンツディストリビューションといった4つの研究分野をまず取り上げて、JGN2を使った具体的なミドルウェアとアプリケーションに関して、実際にモノや機能を研究開発していただきたいと考えています。 また、ワーキンググループで取り上げた研究分野のほかにも医療、バイオや天文学の分野などでは膨大なデータを扱うと聞きます。それを広帯域ネットワークで伝送して分析できるなどのミドルウェアができれば、さらに研究が効率的になるし、多方面での研究ができると思われます。問題はこれらの研究開発費ですが、できればJGN2での研究という側面から、国等で支援をしていただければさらに効果的であろうと考えています。 ---ワーキンググループの活動の他、国際共同研究推進部会として、今後積極的に対応したい点があればお聞かせ下さい。 昨年11月に開通したアジア回線では、タイとシンガポールにJGN2の回線が接続されましたが、今後はさらに他のアジアの国にも接続できればと思います。さらにアジアだけでなくヨーロッパにもつなぎたいという声も聞こえてきていますので、こうした点も考慮に入れ、今後の国際的な活動について検討していきたいと思います。 また、昨年のJGN2シンポジウムの直前に米国西海岸で洪水が発生し、陸上の光ケーブルが切断され、日米回線が不通となる事故がありました。その時はなんとか通信会社のバックアップ回線に切り替えていただけましたので、大きなトラブルにまではなりませんでしたが、信頼性と可用性の重要性を再認識しました。これを機会にAPAN(Asia-Pacific Advanced Network)及びTransPAC2との相互バックアップを検討しています。基本方針については既に関係者間の合意があるので、後は実際に設定を進めることとなっています。 また、JGN2はネットワーク技術分野の研究者が多く参加してくれているので、その点については活発な研究開発活動が行われていますが、アプリケーション分野やミドルウェアについてはこれからでしょう。その分野の研究者の人的ネットワークを海外にも広げていきたいと考えています。 ---人的ネットワークを海外に広げていくためには具体的に何が必要でしょうか。 海外でもっとJGN2をアピールしていきたいですね。そのためにワーキンググループで、海外に対する広報方策の検討、海外の研究機関との情報交換の場の検討、ミドルウェアやアプリケーションの海外研究者の活動調査を実施したいと考えています。海外での研究実績が進んでいるテーマもありますので、日本の研究者との橋渡しをうまくできればと考えています。 ---その他、国際共同研究推進のために解決すべき課題は何だとお考えですか。 まず、超高速の伝送路が途上国や先進国でもルーラル地域にはまだ張り巡らされてないために、良いアプリケーションが開発されても、利用できるのは一部の地域の方々に限られてしまうことが問題ですね。 あとはセキュリティやコンテンツ利用時の課金、著作権の問題もあります。またアプリケーションの研究者、JGN2を使ってみたいという研究者に対するネットワークに関する技術的サポート体制が必要ですね。これは日本国内で地方のアクセスポイントにおいても同じことが言えます。 今後は世界中のネットワーク、ミドルウェア、アプリケーションの研究者に、JGN2の能力を知ってもらって、活用してもらうようPRしないといけませんね。そのためには、海外との調整等が絡んでくるので、そのような活動に関する充実策を検討していく必要があるでしょう。 ---今後のJGN2に期待している点をお聞かせください。 JGN2のような物理的なネットワークがあれば、そこでリアルな実験ができるので研究者が集まってきます。実際に機器をネットワークに接続して、画像、音声などを流すと共に汗も流して、システムを完成させ、実験が成功したときは楽しいものです。こういった経験はシミュレーションの世界では味わえません。その成功が励みになり、研究のおもしろさを伝えることができ、人も育つのです。 日本は今後付加価値の高い先端技術で戦わないといけませんが、ギガビットネットワークがふんだんに使えるのは非常によい環境であると思います。JGN2のような研究で自由に使える広帯域ネットワークを今後も持続してもらいたいと思います。注意する点としては、技術はどんどん進化していくので、何年かに一度ネットワークをアップグレードして、最新技術が使えるようネットワーク環境を維持してもらいたいです。 ---最後に、JGN2の今後の展開について、先生の研究も含め抱負をお聞かせください。 まず外国の接続先を増やして、グローバルなテストベッドとして拡充していただきたいですね。 私自身の強い関心として、教育でのネットワークの利用、つまり遠隔教育があります。今年1月にスタンフォード大学のメディアセンターで見学したのですが、そこではシンガポールなどに対して相当多数回の遠隔授業を実施していました。授業は国内における授業と同様に扱われていて、単位も発行されるそうです。日本においても国際間の高等教育、職業訓練などにもっと活用するべき時代になってきたと思います。 さらに今後は、ネットワークを利用した医療アプリケーションが有効であると思います。アメリカの医療現場では、ネットワーク上に医療情報や診断資料データベースを置いて専門家が高度に活用しています。日本は医療関係の法規制が異なるので、アメリカほど自由にできないかもしれませんが、海外の研究者と連携して先進的事例を作るなどネットワークを使った医療の有効性をアピールしていければいいと思います。 またこれまでのJGNの研究では、大学や企業の専門家が研究テーマを設定してきましたが、研究のテーマ自体を、高校生、高専、専門学校から募集する試みが企画されました。この中からは、我々では全く想像もつかなかったようなアイデアが出てきており、今後の研究対象分野の広がりに期待します。
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