JGN2 超高速・高機能研究開発テストベッドネットワーク
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第6回 インタビュー

 

尾家教授JGN2研究開発プロジェクト総括責任者
九州工業大学情報工学部電子情報工学科 尾家祐二教授

 尾家祐二教授が、6月1日に「平成19年度情報通信月間情報通信月間推進協議会会長表彰」の「情報通信功績賞」を受賞されました。受賞の功績としては、「ユビキタスネットワーク制御・管理技術等の分野で優れた研究成果をあげたこと」、「研究開発テストベッドネットワークJGN2の研究開発プロジェクト総括責任者として研究開発や産学官連携の推進、人材育成に尽力したこと」が挙げられています。
今回のインタビューでは、受賞された尾家先生のお喜びの声とともに、研究開発や産学官の連携、人材育成にあたってご苦労された点などについてお話を伺いました。

 

---尾家先生、この度は「情報通信功績賞」の受賞、おめでとうございます。
 まずは、尾家先生の受賞のご感想をお話いただけるでしょうか。また、実際の研究開発に携わっていらっしゃる大学研究室、リサーチセンター、地域の協力機関などの方々の反応はいかがだったでしょうか。

表彰式の様子  今回の受賞は大変光栄に思っています。私自身の業績というよりは、JGN2の活動を通して私が代表していただいていると理解していますので、JGN2のリサーチセンターに関わっておられる方々に大変感謝しています。
また、JGN2担当のNICTの方々、総務省の方々にも大変喜んでいただいていると思っています。

 

 

 

---受賞にあたっては、尾家先生が大学およびリサーチセンターで行っているユビキタスネットワーク制御・管理技術等の分野の研究成果が評価されたわけですが、特にリサーチセンターを中心とする研究開発についてここではお伺いしたいと思います。
  九州リサーチセンターでは、「ネットワーク計測に基づく適応経路制御技術」、「品質を考慮したシームレスな資源利用・割り当て制御技術」、「多様性・可変性に適応するエンドツーエンド通信(端末間通信)制御技術」の3つのテーマで研究開発が進められています。これらの概要につきましては2005年の12月に訪問インタビューさせていただき、その内容についてはホームページでも公開されておりますが、最近のトピック的な話題がありましたらお聞かせください。また、研究の推進にあたってのご苦労がありましたらお聞かせください。

 当初の計画に基づいて淡々と研究を行ってきていますが、ネットワークを取り巻く環境がわれわれの取り組んできた方向に変化してきているということを実感しています。

 たとえば、情報がパケットという単位で分割されて処理されているというのが現在のインターネットですが、アプリケーションなどの管理からすると、パケットではなく一連の意味ある情報の流れとしての「フロー」という単位で管理をすることが望ましいのではないかということで、九州リサーチセンターではフローというものに着目したネットワークの管理技術を研究してきました。最近の米国でもまさにこのテーマが研究課題として取り上げられてきていますし、フローベースのルータもベンチャー企業から出てきています。そういう意味では、その先駆けとして以前から取り組んでいた研究が、他の研究者にも共感を得てきていると言えます。

 また、エンドツーエンドでのトランスポートプロトコルの研究においては、JGN2のような高速なネットワークをいかに効率よく使えるかということではなくて、高速なネットワークの中に様々なトランスポートプロトコルが共存した時に、お互いが公平で効率の良い使い方ができないだろうかという観点で研究してきました。最近では様々なプロトコルがPCに入ってきていて、それらがかなり高速ネットワーク対応になってきていますが、その時に公平なネットワーク資源の配分ができるかということが十分に明らかになっていないというのが現状です。これについても、これまでの研究をさらに推し進めなければいけないと感じています。

---先生が研究を行うにあたってJGN2のネットワークを利用されていますが、こういった最先端のネットワーク技術の研究における研究開発テストベッドネットワークの役割をどのようにお考えでしょうか。

 トランスポートプロトコルの研究について言うと、一般のネットワークを使用した実験だといったい何が起きているかということが把握できないので、そのプロトコルの性能が出なかった場合に原因を分析することができません。それに対し研究開発テストベッドネットワークの場合は、ネットワークの中の状況をだいたい把握できるので、それぞれのプロトコル、技術の性能を分析することが容易にできます。そういった点で研究開発テストベッドネットワークは重要です。

 同様に、フローベースのネットワーク管理のような実証実験を行う場合にも、ネットワークの中のトラフィック量が把握できない状況であると、管理方法のよしあしが判断できないことがありますが、研究開発テストベッドネットワークを利用することによって、その技術を実際に使ってみたときのよしあしの判断が可能になります。そういった点でも非常に良いと思います。

---JGN2の大きな特徴として海外回線を持ったという点が挙げられると思いますが、先生の研究開発においてどのような効果があったでしょうか。

 トランスポートプロトコルの研究に関しては、イリノイ大の研究者の方がパートナーでした。海外のパートナーがいると、長距離で広帯域を使ったネットワーク実験が相互に行えますので、非常に有効だったのではないかと思います。また、海外のパートナーが一人いると、その方の人脈で米国だけでなくヨーロッパ、アジアへもどんどん研究の輪が広がっていくということがあると思います。

---先生が行われている「品質を考慮したシームレスな資源利用・割り当て制御技術」の研究では、主に無線の資源を対象に研究が行われているということですが、今後の研究開発テストベットネットワークの運用にあたって、無線の位置づけをどのように考えておられるでしょうか。

 無線は、今後のユビキタスネットワークの進展とともにさらに重要になると思います。JGN2においては無線の研究開発用テストベットネットワークはありませんでしたが、有線だけでなく、無線のネットワークからのトラフィックも収容するようなイメージの研究開発用テストベットネットワークであったと考えています。実際には無線系がなかったので、今後に繋がっていけば嬉しいですね。

 ユビキタスネットワークをさらに進展させるということになると様々なものがネットワークに繋がっていきます。そういった中では有線とともに無線系のネットワークの重要性が増してくるのでは ないでしょうか。利用可能な通信資源が多様化していく中で、一番良好な通信資源をシームレスに切り替えながら利用できるかというと現状の技術ではできません。「品質を考慮したシームレスな資源利用・割り当て制御技術」の研究では、それを可能にする技術を研究開発してきています。この研究で、こういった多様な通信資源の利用が可能な通信環境の中で、通信資源を自由に使える、あるときは切り替えることができる、切り替えながらもシームレスに通信できるというようなプロトタイプのアーキテクチャを開発することができました。今後はこの技術をどのように生かしていくか、利用シーンを検討していく必要があると考えています。

---先ほどのお話で、九州リサーチセンターの研究テーマが米国でも重要な研究課題として取り上げられてきたというお話がありましたが、研究開発という観点で海外と日本の状況を比較したときに、日本が頑張っている点、不足している点はどのようなところでしょうか。

 海外と比較することは難しいかもしれませんが、JGN2のリサーチセンターという点では、4年前に大枠の研究課題を設定して、その方向性を維持しつつ、必要な場合には適宜研究課題を修正し、非常に一貫性のある研究を行ってきていると思います。ネットワーク環境がどんどん変わっていく中で、最初に設定した研究課題を適宜修正して進められたということは、大変ありがたいと思っています。

 一方で、JGN2プロジェクトでは4年間である程度の研究成果が得られて、プロトタイプによってその成果を広く国民に理解していただけるところまでもっていくのがミッションだと思うんですね。そういった意味では、基礎的な研究については、もう少し長いスパンでの研究といったものも同時に必要かなと思っています。ただそのためには、NICTでの研究とうまくリンクしていく必要があると思っています。

 国のプロジェクトとして成果をわかりやすくみせることが求められるわけですが、アプリケーションと違ってなかなか伝えづらいところがありますよね。ネットワーク技術というものを理解してもらえるような形にするためには、なんらかのアプリケーションとリンクしなければいけないわけですから、そのあたりをいかに見せるかということが難しいところですね。

---さて、尾家先生はこういった研究者としてのお立場のほかに、JGN2の研究開発プロジェクト総括責任者、九州リサーチセンターおよび、つくばリサーチセンターの責任者といったお立場でもあり、各リサーチセンター間の連携や、リサーチセンターを中心とした地域の研究機関、研究者との連携、人的ネットワークの構築の中心となっておられます。特に九州リサーチセンターは、リサーチセンターのある北九州にとどまらず、全国の中心となって活動されています。こういったリサーチセンター間、地域、産学官の連携にあたっては、研究開発とはまた別のご苦労があったかと思いますが、そのあたりのお話をお聞かせください。

 リサーチセンター間の連携については、各リサーチセンターの責任者が大変優秀な研究者の方ばかりなので、特に私が何もせずともリサーチセンター主導で様々なことが企画、実行されており、大変助かっています。特に地方におけるリサーチセンターにおいては、地域の研究者、技術者の方々にいかに参加いただくかという点についても積極的に取り組んでいただいています。その1つがワークショップの開催です。ワークショップに参加していただいて、リサーチセンターの研究に興味を持っていただき、もし可能であれば特別研究員としてさらに密接に関係を持っていただこうということで、広報も非常に活発に行っています。また、ワークショップを通じて他のリサーチセンターの方とも関係するテーマについて積極的に議論を行ってきました。そういう意味では、イベントを行うことによって各リサーチセンターの広報にもなるし、リサーチセンター間の連携を強めるという役割もできて、非常によかったのではないでしょうか。

地域における研究者、技術者の交流という点については、NICTのリサーチセンターの存在が大きな役割を果たしています。地方においては、大学という研究機関はありますが、企業の大きな研究機関はありません。そういった点でリサーチセンターは、様々な企業にいらっしゃる技術者、研究者の方々が集まりやすい場所として非常に適した場所ではないかと思っています。九州リサーチセンターの場合は、九州の企業だけでなく東京に本社を持つ企業からも、東京から距離を置いたところで研究を行うということ、違った視点で落ち着いて研究が行えるということから研究者を派遣していただいており、大変ありがたかったですね。リサーチセンターに集まると研究そのものだけでなく、ネットワークの利活用に関する議論も行われて、研究者と技術者の輪が広がっていったのではないかと思っています。

---多くの研究者、技術者の方々がリサーチセンターでの活動に携わっておられますが、人材育成の成果としてはどのような点が挙げられるでしょうか。

 少なくとも九州リサーチセンターに企業から派遣していただいた3名の研究員のうち、これまで2名の方がJGN2のリサーチセンターの活動を通して学位を取得されました。また、特別研究員というかたちで、企業から手弁当でご協力いただいている方がたくさんいますが、そういった方々も、派遣いただいた企業から高く評価されているというように伺っています。皆さん研究活動だけではなく、地域の連携活動の推進や他のリサーチセンターとの活動の連携を通じて、技術力だけではなく、人間性の点でもさらに豊かになられたのではないかと推測しています。

---リサーチセンターの中でもとくに九州リサーチセンターは特別研究員の方の数が多いですね。

 ほぼ常駐してくださる研究員の方も何人かいらっしゃいまして、そういった点でも特徴的かもしれませんね。

---ある研究テーマに特化した技術開発・研究開発だけでなく、全体のコーディネーション力や人的ネットワークの構築といった点でも得られたものが多いのではないでしょうか。

 その点においては、企業からご覧になっても特別研究員の方々が非常に成長なさっ たことを評価されているのではないかと思っています。

---今大学では、ロボットなどの機械系の学科に注目が集まっており、情報通信系の学科を志望する学生が減少しているという話をよく聞きます。若い世代の人たちに情報通信系の研究に興味を持ってもらうために、何かよい方法はあるでしょうか。

 情報通信はinvisible technology(見えない技術)ですので、理解してもらうためには、いかにして見えるようにするかが重要だと思うんですね。そういう意味では、ロボットというのは非常にわかりやすい。情報通信の魅力をわかりやすくためには、何らかの利用シーンと組み合わせないとなかなか理解してもらえません。アプリケーションとうまくリンクさせて、その重要性を伝えることが必要と思っています。

 情報通信であれば、「光ファイバがあります」、「無線で通信できます」といった事実だけを伝えてもだめで、こういう技術だとこういうことが可能になるということを見せる必要があると思います。情報通信技術は、enabling technology (何かを可能にする技術)と言われています。だからそれ自体は見えない、その技術が何を可能にするかということを示さないとその技術の良さが伝わらないんですね。ただ、技術者だけで考えているとなかなか魅力的な伝え方ができないかもしれないので、たとえば、技術者であってもネットワーク技術者とアプリの方々、いろいろな方々が一緒に知恵を出し合わないとそれぞれの技術の良さが伝わらないのではないかと思います。そういった点でも、JGN2のリサーチセンターやNICTという国の機関は、様々な分野の方が知恵を出し、協力しやすい場だと思いますし、こういった議論をする場を作ることが重要ですね。

---最後に、今後の抱負をお聞かせください。

 先ほども言いましたように情報通信は、enabling technology、何かを可能にする技術です。可能にすべきものはどんどん変わっていくはずなので、それを可能にする技術も変わっていく。ですから、情報通信の研究開発は、「もう終わったんだ」、「十分に成熟したんだ」と考えてしまわないで、新たに可能にしたい利用シーンを想定しながら、情報通信の技術がさらに発展するように、さらに強力に情報通信の研究開発が拡大するように、皆さんの力を集めて行っていくことができればと思います。

 

【インタビューを終えて】
情報通信はenabling technologyであるけれども、invisible technologyであるので、その重要性をわかりやすく示していくことが重要であり、そのためには様々な人の連携が重要であるということを、今回のインタビューを通じて改めて認識できました。こういった点においても、尾家先生の「情報通信功績賞」の受賞で、研究成果が評価されたことはもちろんのこと、地道に地域との連携を図って、利活用や人材育成にご尽力されてきた点が評価されたということが、とても大きな意味を持つのではないでしょうか。

 

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