『超高精細映像を用いた広域映像配信実証実験』
/2023.2.5(日)- 2.10(金)
~広域400G接続、NMOSマルチベンダ運用、EVPN/SR-MPLS高負荷実証実験に成功~
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)総合テストベッド研究開発推進センターは、国内の企業、大学等研究機関における実証実験の場として、ネットワークテストベッドJGN*1 をはじめとする様々なテストベッド環境を提供しています。
2023年2月、NICTと産学官約70組織150名がそれぞれ技術や人材、機材を持ち寄り実現した実証実験において、沖縄県名護市で撮影した録画映像および北海道札幌市からのライブ映像を用い、広域400Gbps回線及びEVPN/SR-MPLS環境上で、
分散エッジを用いた複数の超高精細8K*2 非圧縮映像処理(VVF*3 )や伝送に関する実験、
NMOSマルチベンダリモートプロダクション実験、ペネトレーション及び負荷試験、遠隔からの大規模運用実験などを行いました。
実験の背景
2020年から続くコロナ環境下において、通信・放送分野においても感染拡大防止、運用継続性の観点から、運用者の分散、遠隔運用や撮影・制作の制限など業務フローが大きく変わりつつあります。 今回の実験では、ウィズコロナ時代の映像制作、ネットワーク運用技術といった課題を継承しつつ、超高精細映像を用いた広域映像配信について超高速ネットワークや最新の技術や規格を取り入れて高度化する実証実験を行いました。
今回の成果
1)広域400Gbps接続・回線運用
札幌〜東京〜大阪間において広域・複数組織での400Gbps回線接続及び当該回線の運用、当該経路を利用した300Gbps以上のデータ伝送を実施しました。
この国内縦断400Gbps実験回線は、NICTのJGNのほか、国立情報学研究所(NII)のSINET6、独立行政法人情報処理推進機構(IPA) 産業サイバーセキュリティセンター(ICSCoE)、サイバー関西プロジェクト(CKP)の協力により実現しています。
<ネットワーク構成図>
2)NMOSを適用した4Kカメラのリモートプロダクション実験
異なるメーカーや複数種の映像機器製品が共存する環境での相互運用性向上のため、AWMA(Advanced Media Workflow Association)主導でNMOS(Network Media Open Specification)という規格及びAPIが策定・開発されています。
今回の実験では、NMOS運用における映像のスイッチングや割付、各拠点(札幌、大阪)の4Kカメラへの設定適用など、制御信号のルーティングにVRFの仕組みを取り入れ、より実運用に即したL3の制御を行いました。
また、L3のNMOS運用実現のため、NHK放送技術研究所開発のNMOSリソース共有の仕組みを初めて広域接続に適用しました。
リモートプロダクション・放送技術では1μ(マイクロ)秒単位の高精度な同期のため、PTPによる時刻同期が必要となりますが、今回は奈良で生成したPTPをネットワーク経由で札幌・東京・大阪に伝送し、札幌―東京―大阪間での映像同期およびPTP時刻同期を実現しています。
3)高負荷下でのEVPN/SR-MPLSを利用した動画ストリーム伝送経路の切替
リモートプロダクションで利用する映像伝送用ネットワークを、EVPN/SR-MPLS上の物理的な経路が異なる複数パスに設定し、このパスを映像伝送中に切り替える実験を実施しました。SMPTE ST 2022-7にて規定されている伝送路間のシームレス(ヒットレス)切替を高負荷下で実験しました。
4)映像制御機器やネットワーク機器に対するペネトレーション、負荷試験
独立行政法人情報処理推進機構(IPA) 産業サイバーセキュリティセンター主導のもと、昨年に引き続き、映像制御機器やネットワーク機器に対する種々のペネトレーションに取り組みました。結果は実験参加者にフィードバックされ、ソフトウェアや機器のセキュリティ強化に貢献しています。
5)超高精細8K非圧縮映像処理機能を利用した各種配信実験・性能評価、他
SINET6上のNFV(Network Functions Virtualization)サーバとNICT次世代高信頼NFVを利用し、分散VMからの8Kマルチキャスト配信実験や、札幌と沖縄に設置した8Kカメラの映像やStarBEDに格納した8K映像素材を用いて、SINET6の相模原データセンタに400Gbpsの回線で接続されたエッジ装置を用いて、エッジ装置に複数配置された映像処理機能VVFを連携させる実験を実施しました。
その他、8K低遅延圧縮伝送装置を用いたマルチキャスト伝送実験や、各社の8K映像伝送装置のトラフィック伝送時の特性評価、100Gbps級トラフィックモニタリング等、多くの参加組織が実験を並行して実施しています。
実験について
メインとなる映像は、第73回雪まつり映像のほか、事前に沖縄で8K撮影を行ったものをNICTが提供するテストベッドStarBED*4 にて蓄積、映像ソースとして配信しました。
映像撮影・配信は、NICTと共同研究を行う企業・大学を中心に、実験システム構築は、多くの企業が参画することにより可能となりました。ネットワークや8K映像配信の実験環境は、各企業が持ち込んだ開発中プロトタイプ機器や製品を組み合わせて構築したマルチベンダ構成であり、実験を進める中で開発チームが自らソフトウェアの改良やハードウェアの組換えを行い実現しています。
また、サイバー関西プロジェクトを通じた産学官間の連携や、大学の学生、企業の研究者やエンジニア間の本実験を通じた技術的知見の共有、人材育成の場ともなりました。
これらの実験は、下記の[実証実験 参加機関]に記載の機関の協力・協賛を得て実施しました。
<実験構成概要>
<札幌拠点の様子>
<大阪のグランフロントにあるThe Lab.での「さっぽろ雪まつり映像の8K非圧縮3Dライブ配信」の様子>
今後の展望
2003年から毎年最新の技術課題に取り組んできた映像配信実験ですが、超高速・広帯域ネットワーク運用、映像機器のマルチベンダ運用、仮想ネットワークを活用した8K映像伝送やサービスチェイニング、新たな脆弱性やセキュリティ上の不備の発見など、数多くの成果をあげることができました。本実験の成功を足掛かりとし、国内での8K映像中継技術開発に向けて各組織が一丸となった技術開発を引き続き支援していきます。
用語解説
*1「JGN」
NICTが日本国内及び海外で構築・運用している、研究開発ネットワークテストベッド。国内外の実験拠点とそれらを結ぶ最大100Gbpsの回線を実験環境として提供している。[JGNサイト]
<JGN構成図>
*2「8K」
4Kは、高品質テレビ規格で、現行のフルハイビジョンの画素数(約200万)の4倍にあたる800万画素を持ち、高精細な映像品質を実現する。放送向けの4K規格では横3,840×縦2,160の画素数であり、横方向の画素数が約4,000であることから4Kといわれる。
日本では、2014年に試験放送を開始、2015年にCS放送及びケーブルテレビにて商用放送を開始、2018年にはBSにて実用放送が開始されている。8Kは、NHK放送技術研究所が中心となって開発されているテレビ規格であり、4Kの約4倍、現行のフルハイビジョンの約16倍にあたる3,300万画素を持つ。
横7,680×縦4,320の画素数であり、横方向の画素数が約8,000であることから8Kと呼ばれ、スーパーハイビジョンとも呼ばれる。2018年にNHKがBSにて8Kの実用放送を開始した。
今回の実験での非圧縮区間は3G-SDI信号を8本使用するデュアルグリーン方式および12G-SDI信号を4本使用するフルサイズ8K方式を用いており、通信に必要な帯域はそれぞれ1ストリーム当たり約24Gbpsおよび48Gbpsとなる。
*3「VVF」
Virtual Video processing Functionの略
トランスコードおよびカラーコレクティングの並列処理によって、 映像ソースを1映像フレーム(16ms)以内に切り替えての編集を可能となる技術。ネットワークのエッジに配置された複数のVVFを連携させて高速処理することで、従来必要だった編集拠点が不要となる。
*4「StarBED」
NICTが2002年から運用している、多数のPCを用い実環境向けのソフトウェア・ハードウェアを動作させることで、それぞれの検証を行うためのテストベッド環境。[StarBEDサイト]
実証実験 参加機関
主催
- 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)
実証実験参加・協力組織(順不同)
- 北海道テレビ放送株式会社(HTB)
- 株式会社GAORA
- 株式会社毎日放送(MBS)
- 日本放送協会
- 日本テレビ放送網株式会社
- NTTコミュニケーションズ株式会社
- NTTテクノクロス株式会社
- NTTアドバンステクノロジ株式会社
- 株式会社NHKテクノロジーズ
- 西日本電信電話株式会社(NTT西日本)
- KDDI株式会社
- 北海道総合通信網株式会社(HOTnet)
- エクシオグループ株式会社
- 株式会社オービス(OBIS)
- トラストコミュニケーション株式会社
- ファットウェア株式会社
- アリスタネットワークスジャパン合同会社
- FXC株式会社
- キーサイト・テクノロジー株式会社
- シスコシステムズ合同会社
- ジュニパーネットワークス株式会社
- パロアルトネットワークス株式会社
- フォーティネットジャパン株式会社
- アストロデザイン株式会社
- 株式会社アルファコード
- 池上通信機株式会社
- 富士フィルム株式会社
- 株式会社ヴィレッジアイランド
- グラスバレー株式会社
- サン・エレナ株式会社
- シャープ株式会社
- セイコーソリューションズ株式会社
- 株式会社創夢
- 株式会社 Tスポット
- 株式会社テクノハウス
- デジタルリサーチ株式会社
- Telestream Japan合同会社
- 株式会社トインクス(TOiNX)
- トモカ電気株式会社
- 株式会社マクニカ
- エヌビディア合同会社
- PacketLight Networks Ltd.
- 株式会社アイランドシックス
- ピュアロジック株式会社
- ミハル通信株式会社
- 株式会社理経
- RIEDEL Communications Japan 株式会社
- アラクサラネットワークス株式会社
- リーダー電子株式会社
- 株式会社フォトロン
- オタリテック株式会社
- デジキャス合同会社
- ヒビノ株式会社
- ヒビノインターサウンド株式会社
- サーヴァンツインターナショナル株式会社
- 株式会社インターネットイニシアティブ
- 日本コントロールシステム株式会社
- アクセリア株式会社
- 大阪学院大学
- 学校法人幾徳学園 神奈川工科大学
- 京都産業大学
- 慶應義塾大学
- 東京大学
- 奈良先端科学技術大学院大学
- 琉球大学
- 大同大学
- 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)
- 独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)
- 沖縄県名護市
- 沖縄県北部広域市町村圏事務組合
- 特定非営利活動法人 NDA
- 宜野座村ITオペレーションパーク
- 一般社団法人ナレッジキャピタル
- VisLab OSAKA
- サイバー関西プロジェクト(CKP)
- WIDEプロジェクト
関連プレスリリース等(順次追記予定)
-
北海道テレビ放送株式会社(HTB)
分散エッジを用いた8K非圧縮映像処理及び配信実証実験に成功 NICT雪まつり実証実験(2023.02.14) -
池上通信機株式会社
超高精細映像を用いた広域映像配信実証実験〜リアルなネットワーク構成とセキュリティ試験を加味したIPリモート制作実験に参加〜(2023.03.06) -
アストロデザイン株式会社
超高精細映像を用いた広域映像配信実証実験に参加
札幌から東京・大阪へ8K映像伝送、パブリックビューイングを実施(2023.03.22) -
独立行政法人情報処理推進機構(IPA) 産業サイバーセキュリティセンター
IPA ICSCoE REPORT Vol.15(印刷用・閲覧用PDFが選択可能)
※閲覧用PDFの記事はこちらから(Vol.15 4ページ目)(2023.04.07)