― パネルディスカッションに登壇した研究者達に訊く「防災に役立つテストベッドとは? 」―
───今、テストベッドは変革期を迎えている。本日のチェアもパネラーの方たちも皆さんJGNユーザですが、テストベッドの中にどういう要素があれば、今後防災に役立てることができるとお考えですか? ぜひお聞かせください。
柴田:JGNはバックボーンとして、信頼性が高くレジリエント。エラスティックで耐力のあるネットワークテストベッドだと思います。ただ研究者としてそれらを利用するには、自分の大学や施設内はワイヤレスが多いので、ワイヤレス環境とJGNのバックボーンを上手くマイグレートする環境を提供してもらえると嬉しく、いろいろな実験に利用できるのではないかと思います。
また、災害は1つの地域や県だけという閉じたエリアだけで発生するのではなく、むしろ広範囲で起こるので、そこの多くの企業や地域の人々を巻き込んで広域の実証実験や大規模訓練ができる環境があれば、有益性が増します。そういう環境こそがテストベッドの利用につながるのではないでしょうか?
福本:私の言いたいことはだいたいお話いただいてしまったのですが・・・(笑)。高知では、運用として電子カルテのバックアップをJGNを利用して行っています。確かに信頼性が高いネットワークでセキュリティも高いし、災害時でも安定して使えるということは重要だと考えていますし、助かっています。ただ、柴田先生もおっしゃったとおり、災害時にJGNとしては使えても、そのJGNへのアクセス網をどうするかという問題が解決していないと思います。現在JGNへはSINETからどこからでもアクセスできるようになっていますが、地域の大学が被災して壊滅したら残念ながらSINETは使えなくなるので、アクセスできなくなってバックアップ機能が全滅してしまうんです。防災に役立つテストベッドとしては、この部分が大事だと思っています。
ただ、この問題はNICTさんに一方的に頼むのではなく、我々も一緒に「何が使えて何が使えないのか」をきちんと議論しておく必要があると思っています。今のテストベッドでの議論は大学の先生中心になっているので、柴田先生のお話にもありましたが、地域の人たちも含めて実際に活動する人達も巻き込んで、「何を望んでいて、実際何が必要なのか」まで議論を進めていければと考えています。
湯瀬:渡部さんはNICTの方ですので、我々への要望でも結構ですので、いかがでしょう?
渡部:私は現在、NICTの専門研究員で内部の立場ですが、テストベッドとしてこういうものがあったらいいなと考えているものが実はあります。仮想サーバ・仮想ルータ・仮想ネットワークの提供など、我々は仮想化をだいぶ進めています。例えば災害を想定すると、どこにデータを保存するかということが非常に重要で、メインのデータと同じ地域にバックアップしても意味がありませんよね。離れた地域にバックアアップするとか、いろいろな拠点に分散してバックアップすることが必要です。そのためには、高速ネットワークの上に付加価値のある仮想化をもっと推し進めたサービスとして、分散ストレージの機能を提供していってはどうかと考えています。データをスライスして多地点のサーバに分散して保存する機能がテストベッド上にあり、防災を研究しているユーザの皆さんがすぐ使える環境になっていることがテストベッドとして重要ではないでしょうか?
湯瀬:次は広岡さんですが、JGNとのお付き合いも長いと思います。よろしくお願いします。
広岡:この会場の皆さんはご存知だと思いますが、JGNは全国各地にアクセスポイントがあって研究開発や技術開発のためなら自由に使える超高速の光ファイバー網、ネットワークインフラのテストベッド。それを前提に考えると、まさに福本先生が高知でやっていることを全国規模で行えるバックボーンではないかと思いますので、テストベッドとしてより多くの防災研究に使ってもらうための手段として、災害復旧コンテストをやってみてはどうでしょうか?
つまり、ネットワークエンジニアの方が災害時においてどのようにネットワーク環境をリカバーしていくかということをJGNの仮想インフラを使っていろいろなパターンをまず作り上げます。そして、このパターンの時に災害発生後どの時間帯でネットワークがどれくらい復旧して、そのときにどういうサービスを提供するのかというシミュレーションのパッケージを作り、JGN上で展開。各地の研究者やネットワークエンジニアがいろいろなストレスを与えた段階でネットワークをどのように再構築できるかというテスト環境を作り、年に何回かNICT主催で地域ブロックごとに「災害ネットワーク復旧コンテスト」みたいなものをイベント形式でやってみるということも、テストベッドとしてあってもよいのではないかと思います。これにより、世の中の人達への意識高揚を図れますし、テストベッドやその使い方の認知度も上がり、結果として研究者ももっと増えるのではないでしょうか?
湯瀬:今日は司会ですので、あまりしゃべる立場ではないのですが、私も長い間JGNを利用してきましたので、一言お話させていただきます。初代のJGNは、ジャパン・ギガビット・ネットワーク。今でしたらギガではなく、テラになりますでしょうか、超高速のネットワークという意味ですよね。これにより、私たちは新しいことを研究するチャンスをもらったと思っています。ただネットワークは情報基盤(ICT)としては重要ですが、それだけがICTの全てではないですし、目的でもありません。ICTはあくまで技術を活用するための手段で、災害時にやりたいことがあるから使うのです。ですから、経験上、テストベッドとしては実際に災害が起こった時でも互いに利用できるアクセスポイントやアクセス方法があることが重要だと考えています。
そして、もっと広い意味でのICTを災害時にどのように活用できるかを考えて、本日のシンポジウムのテーマとしました。
───JGN利用の経験を踏まえ、いろいろなご意見をいただきましたこと、感謝いたします。JGNだけでなく、テストベッドの方向を考える際の参考にさせていただきます。ありがとうございました。
<2016.09/静岡県立大学谷田キャンパスにおいて実施>
※「第9回地域防災情報シンポジウム」については、
「JGN利活用イベント・ライブラリ」ページもご覧ください。
「第9回地域防災情報シンポジウム」
の会場となった静岡県立大学
3地点のサブ会場を結び、メイン会場の映像を配信するコントロールブース
基調講演を行う井ノ口氏
<静岡大学>
特別講演を行う広岡氏
事例紹介(1)で話す湯瀬氏
事例紹介(2)の佐藤氏
<岩手県立大学>
事例紹介(3)での福本氏
事例紹介(4)でNICT総合テストベッドを説明する渡部氏
パネルディスカッションのメンバー5人と事例紹介(2)の佐藤氏