― 「IoTサービス創出支援事業」の実証実験にNICT総合テストベッドを利用 ―
第5回JGNインタビューでは、平成28年度「IoTサービス創出支援事業」に採択されたNICT総合テストベッドの新規利用者『株式会社ジーウェイブ』を訪問し、医療・介護分野でIoTを活用するプロジェクトの背景と実証実験のポイントをお伺いしました。またその中で、これからNICT総合テストベッドを使ってみたいと考えておられる方のために、どんな使い方をしているのか、初めて使っていただいた時の感想などもお聞きしました。
<インタビューのポイント>
●プロジェクトの背景 ●実証実験のポイント ●今後のビジョン
●NICT総合テストベッドの利用とメリット
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───平成28年度「医療・介護データを活用した介護サービス及び業務支援モデル事業」のテーマで「IoTサービス創出支援事業*」に採択されて、NICT総合テストベッドを使っていただいています。このプロジェクトの背景と応募したポイントをお聞かせください。
【図1-1】実施体制図
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吉田 社長(以下、吉田):今回のプロジェクトにはいろいろな会社が6つのチームに分かれて参加していますが、弊社は実施体制図(【図1-1】を参照)のBig Dataチームとして参加し、現場の色々なセンサーでデータを収集し解析しています。そしてその解析に、NICTさんの総合テストベッドを使わせていただいています。
篠田氏(以下、篠田):各センサーシステムから1か所にIoTデータを蓄積するとき、介護施設内ではLANだけでなく、WiFiも使っています(【図1-2】を参照)。
吉田:はい、6か所の介護施設に「運動・健診」「排泄」「食事・水分・服薬」「睡眠・臨床・環境」の4つセンサーシステムを設置し、収集したIoTデータを一つの場所に蓄積していきます。今までは睡眠だけ・投薬だけ・食事だけと、それぞれベンダーごとに別々のシステムでデータを収集しており、データの連携はできなかったのですが、今回はそれらデータに横串を刺して名寄せし、個人別や要介護度別、施設別などで解析して、施設利用者に対する効果的なケアをしていこうということが概要です。
【図1-2】プロジェクトの実証実験の全体イメージ
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───なるほど、それぞれの機器を納入しているベンダー企業が囲い込んでいた情報を、介護を受ける人たちに活用しようということなんですね。
吉田:はい、これらのデータは今後の開発などに活用するための「宝の山」といいますか重要なものですから、あまり外に出したくない、企業固有のノウハウです。しかし、今回のプロジェクトでは実証実験ということでできる範囲でデータを出してもらい、解析しようとしています。医療系施設に比べ、介護施設はまだICT化やシステム化もなかなかできにくい状況で、これから進めようという感じですが、それぞれベンダーやシステムごとに様式が異なるIoTデータを共通様式にして統合・加工して共同利用できるマルチベンダー対応の仕組みを考えています。まだ介護施設では、「排泄」「食事・水分・服薬」「睡眠」などの記録は人海戦術でまとめていることが多いですね。
───確かにマルチベンダー対応の仕組みは重要ですね。でも今は人海戦術が多いとなると、介護施設スタッフの負担が大きそうですね。
吉田:そうなんです。そのため、なかなかスタッフが定着しないですし、社会問題にもなっているかと思います。ですから、これらのIoTデータを活用して、要介護者に対するサービスの質向上に加え、介護スタッフの業務負担の軽減につながるモデルを目指しています。
───今回のテーマは社会的に関心が高い分野ですね。
吉田:たぶん多くの方が考えていることだとは思いますが、やはりターゲットとして絞っていくのは難しいところですね。医療系と比べ、介護はまだまだ事業としては新しいところもあり、電子カルテなどもほとんど入っておらず、介護スタッフ側も報告書などの紙で情報をまとめることに時間が割かれているのが現状です。この稼働を軽減するために、なるべくIoTなどのツールを使って、介護日誌にデータを自動的に記録できる形に持っていこうという考えも1つのポイント。今回は1年間しかありませんので、そこまではいけないかもしれませんが、ぜひ将来的にはそこまで行くことが必要だと考えています。
───「自動的に」ということがポイントでしょうか? というのも、IoTは慣れてないと、「難しい。逆に時間がかかってしまう」と言われがちだと思うからです。
吉田:介護系の経営層はIoTツールの導入や効率化も必要なことだと思っているのですが、現場のスタッフたちは、普段使いなれていないツールを導入すると「稼働が倍に増えるのでは・・・」と思いがちです。実際にはもっと楽になるのかもしれないのに、切り替え時はやはりかなり大変なことになるでしょうね。 今、特に介護スタッフ不足が問題で、日本人のなり手が少なく外国人に頼ることも多くなります。社会的な問題ですね。その場合は、文化や言葉の壁があるので、紙ベースで報告書や介護日誌を日本語で書かせることは難しいという現実があります。そういう意味ではスマホなどで音声入力をして、そのまま日誌に記録されるということも考えています(【図1-3】を参照)。
【図1-3】センサーデータの自動記録と同時に排泄状況を音声に変換して
介護日誌に記録できる「排泄予知・補助サービス実証実験」
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───海外のスタッフの場合は、日本語で入力するイメージでしょうか?
吉田:いえ、現地語を考えています。あるいは片言の日本語でもうまく清書してくれるような仕組みがあってもいいですね。弊社の担当はそのデータ解析ですが、今収集しているデータについてNICT総合テストベッドを使わせていただいて解析をする予定です。ただ2017年度IoTサービス創出支援事業に採択されて1年間で結果を出すのですが、実際にはチーム内の体制作りから始めて、全体計画を立ててデータを取って解析する。時間的に短いですね。特にデータ解析の仕方については、なかなか大変です。
───NICT総合テストベッドはもっと継続して使えるのですが、このプロジェクト自体には期限があるから大忙しですね。ところで、IoTで介護の現場をアシストするにあたり、大事なことは何だとお考えですか?
【図1-4】事業概要
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吉田:やはり介護の質でしょうね。QOL、『Quality of Life』です。介護施設ですと、終活と言いますか、人間の尊厳を持って人生を終了するということが多くあると思います。だからこそ、『サービスの質の向上』が大事。そのためには介護をする方々が疲れていては質も上がりませんから、『介護従事者の負担軽減』に目を向けることも大事だと考えました(【図1-4】を参照)。その2つの課題を解決するために、実証実験の場である介護事業者の「施設チーム」に加え、介護システムなど環境を整備する「IoTチーム」と収集データの解析を担当する「Big Dataチーム」で実証内容や方法の検討を行っています。最終的には、施設のセンサーで収集したデータを介護システムに投入して介護日誌や保険点数の設定に反映させることで、サービスの向上や介護従事者の負担軽減などに活かすようにしたいと考えています。そしてそれらのデータを解析して、より質の高い介護サービスモデルや介護スタッフの負担が軽減する業務モデルを実現して行きたいと思います(【図1-5】を参照)。
【図1-5】プロジェクトの具体的な取り組みイメージ
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───今までは検温や睡眠時間などもメモしたものを手書きで介護日誌に転記していたと思いますが、それが自動入力されると介護スタッフは楽になりますね。転記ミスもなくなるし状況もすぐ把握できるので、施設利用者にとってもうれしいでしょうね。
吉田:今も実際の検温と合わせ、薬を飲んだら体温が下がったとか、食事をしたら体温が上がったとか、それらと睡眠の関係とか、そういうところが全部データとして1つでまとめて入るようになっているので、介護日誌に反映できるわけです。だから、一律なデータとしてではなく、属人的なものや特定グループの特徴が分かります。今回は時間的にそこまでいかないかもしれませんが、もっとたくさんのデータが取れるようになれば、グループ内の介護度や介護事業者別に状況を比較できるようにもなります。
【平成28年度補正「IoTサービス創出支援事業」の採択事業】
平成28年度補正では、全17件のプロジェクトが採択されました。このうち、No.15が今回のプロジェクトです。
■プロジェクトNo.15(医療・福祉分野)の詳細はこちら
拡大 <「採択事業・委託先候補先の紹介ページ」はこちら>
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(株)ジーウェイブの本社がある
「幕張テクノガーデン」の外観
*:総務省の「IoTサービス創出支援事業」
実証事業を通じ、IoTサービスの創出・展開に当たって克服すべき具体的な課題を特定し、その課題の解決に資するリファレンス(参照)モデルを構築するとともに、データ利活用の促進等に必要なルールの整備等につなげることを目的に、平成27年度より総務省では「IoTサービス創出支援事業」に係る提案を公募しています。
<各年度の公募はこちら>
★平成28年度補正「IoTサービス創出支援事業」の採択事業はこちら