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───第1回の分科会でお聞きした河口先生発案による「テストベッド活用研究会」は、利用の幅を広げる新しい方法だと思います。ぜひ、これを考えた理由と内容についてお伺いしたいです。
河口 分科会長(以下、河口):例えば、私が総合テストベッドのうちJGNを使いたいと思ったとします。そのためには「こんな装置群とこんな設定(config)でこの研究をする」としっかり決めてからしか使えません。ということはテストベッドの中身がわかっている人はいいですが、新規ユーザにとっては、すぐに使うことができないわけです。つまり、ここに大きな壁があり、利用が進みにくい。そこで考えたのが「テストベッド"活用"研究会」なんです。私が研究リーダとなっていますので、研究内容や設定をしっかり決める前に「まず試しにちょっと使ってみたい」と思った場合、この研究会に入っていただけばテストベッドの具体的な例を実際に見たり、触って動きを見ていただくことができるようにする予定です。やはり初めての方たちの利用を促進するには、こんなことができるというカタログだけではわかりづらいので、入り口としてアイデアのお試し利用ができる場が大事だと思っています。
【図2-1】新規ユーザでもテストベッドをお試しいただける
「テストベッド活用研究会」を準備(第1回テストベッド分科会資料より)
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───この活用研究会は、「見るカタログから、触って試せる展示場へ」というイメージでしょうか。新規ユーザにとってはありがたい試みですね。
河口:はい、実際の操作感を試せる場所にしたいです。さらに、ここでハンズオン(Hands-on)みたいな体験イベントをやってもいいかもしれませんね。コンソールをたくさん持ち込んで中が見えるようにして、「さあ使ってみよう」という感じ。そこで実際に試したり、質問を受け付けることができれば、研究者や技術者にとって魅力的なものになると思います。
───かつてはイベントも多く、活用事例のポスター展示だけでなく動態展示もあったり、研究者同士の交流もありました。ハンズオンのようなイベントでの「見える化」「お試し」は面白いです。
河口:ただ難しいのは、テストベッドは民間のクラウドサービスと違って設定が自動化されていないので、「簡単ですから自由に使ってください」というわけにはいかないところです。ここが利用促進のボトルネックになっていると思います。ただ逆に言うと、相談しながらメニューにない自由度の高い研究を工夫して試せるという面につながるんです。だからこそ、民間サービスではできない、ちょっと難しくて次の産業につながるような、いわゆるイノベーションを試す場にしたいと考えています。これまでになかった使い方や応用が発見できれば、ある種イノベーションと言えるわけですから、それを次々に起こしていくことがテストベッドの役目ではないでしょうか。できることだけをやっているのでは、テストベッドの価値にはつながりません。
───なるほど、これまでにない使い方や応用の発見がイノベーション。テストベッドの価値はそれを積み重ねていくことですか。
河口:今お話したのは連続的なイノベーションのこと。小さな積み重ねによって、いつの間にか大きな変化が起きているというものです。これと同時に、今までとまったく異なる考え方によってドカンと変革を起こす破壊的なイノベーションというものもあります。どちらも必要だと思っています。
───今回のテストベッドにおいて、破壊的なイノベーションの可能性というのはいかがでしょう?
河口:何とも言えませんが・・・。JGNや総合テストベッドには今ワイヤレスのネットワークはありませんが、例えば「テストベッド版MVNO」ということを考えています。MVNO自体は携帯事業者が持っている回線を二次売りするという既存の民間サービスですが、この考え方をテストベッドに持ち込み、安いIoTデバイス向け通信を利用できるようにするというアイデアです。今は携帯用SIM1つに対して通信料は月額300円ぐらいが普通ですが、それを上手にやれば、1/10~1/100にまで突き崩すことができるかもしれない。そうすれば大量デバイスがネットワークにつながるIoTのコストを削減できます。
【図2-2】IoT向けに注目されているLPWA規格の比較
(河口氏作成資料より)
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その方法はまだ明確ではありませんが、その1つの可能性がLPWA(Low Power Wide Area)*1で、今注目の無線技術です。名前のとおり消費電力がとても少なくて、しかも10~20kmと遠くまで届くので1つの基地局で広いエリアをカバーできる。その代わり通信速度はすごく遅く、せいぜい数百~数十kbpsぐらいです。携帯事業者は今携帯用の電波領域を買うのにすごくお金をかけていますが、多くのLPWAは免許不要帯域を使っており、大量のデバイスが利用するようになれば月額30円程度での提供が可能になります。しかし、「この価格レベルで、ある程度の規模感のデバイス群を利用するとしたら、どんなふうに何ができるのか」については、まだ試せていません。だからこそ、今これを試すテストベッドがあってもいいのではないかと考えたわけです。
───「テストベッド版MVNO」は、今までとは違う切り口ですね。これと併せて検討したい要件に入っていた「データ流通基盤テストベッド」「アナリティクステストベッド」はどんなものですか?
河口:まず「データ流通基盤テストベッド」ですが・・・。センサーデータを集めてきても通信料などのコストがかかって、自分が使うだけではペイしないですよね。「じゃあ、データを売ろう」としても、自分で営業することは大変で難しい。でも、収集したデータを集めたデータ流通マーケットがあれば、データに興味のある人やほしい人が集まるので、そこに自分のデータをアップすることにより売買が成立する可能性が出てくる。その考えを試すのが「データ流通基盤テストベッド」です。もちろん、自分にとって重要なビジネス情報やデータはキープしつつ、それ以外の情報をアップするということも可能です。どこまでできるかはわかりませんが、こんなアイデアも考えています。
また「アナリティクステストベッド」は、工業試験場のような感じをイメージしています。自分が作ったものを持ち込んでその精度を図る分析ツールがあると便利ですよね。例えば、BIツール*2と呼ばれるデータを簡単に分析・可視化する仕組み(例: Qlikview、Tableau、Powe BIなど)が世の中に出てきていますが、数百万円と高いので、それをテストベッド側に用意して時間貸ししたり、そこに我々独自のものをプラスアルファしてはどうかと考えているわけです。
【図2-3】将来のテストベッド要件の検討(第1回テストベッド分科会資料より)
───便利ですね。これらのテストベッドの機能は、要件検討の1つであるだけでなく、利用促進策としても役立ちそうに思いますが、最後の分析ツールを使うとどんなことができるのでしょう?
河合:うちの研究室で作ったものですが、データ分析の例として、Interopにおいて8,000人の携帯を利用して移動データを可視化したものがあります。また1,000台を超える名古屋市営バスの運行情報を分析して可視化したものもありますが、こちらの自動車の場合でもリアルタイムだと動きが遅いので、実時間の40倍の速度で再生しています。
【図2-4】刻々と変化する膨大な名古屋市営バスの運行情報を可視化*3
(河口研究室作成のデモをキャプチャ)※可視化した動きはYouTubeで確認
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───わかりやすい! こんな機能をテストベッドで提供できたら、IoT研究者だけでなくアプリ系ユーザも使いたくなります。
しかし、やるべきことが満載ですね。
テストベッド分科会長の河口 信夫氏
河口:そうですね。今年はまず、このうちの1つぐらいはやるべきことを決めて進めて行きたいと考えています。
とはいえ、テストベッドを直接構築するわけではなく、我々テストベッド分科会としてできることは仕様策定です。多くの方が納得できるる方向について検討し、報告書を作ってしかるべきところに提出することになると思います。
───今日、資料や動画を拝見しながらお話を伺って、テストベッド分科会の参加者やコアメンバの方にとって、有意義な情報が得られる場になる感じが、実感を持って伝わってきました。
河口:私もそう思ってやっていますので、多くの方にそれが伝えられるとうれしいです。今日は私自身が知っていることをお話しましたが、このテストベッド分科会をやることで、もっと知らないことが集まってくることを期待しています。
───長いお時間をいただき、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。
<2016.11/名古屋大学工学部IB電子情報館においてインタビュー>
【総合テストベッド及びテストベッド分科会に関するお問合せはこちら】
tb-info@ml.nict.go.jp
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第1回テストベッド分科会後の
打合せ風景
*1:「LPWA」
Low Power Wide Areaの略。IoT機器向けの低消費電力・長距離の通信を実現する省電力広域無線通信技術。
日本でも2017年2月「SIGFOX」が東京23区でサービスを開始。また「LoRaWAN」を活用したIoTソリューションが2017年度内に提供開始される予定。
*2:「BIツール」
Business Intelligence toolsの略。企業の業務システムの一種で、業務システムなどに蓄積された膨大なデータを蓄積・分析・加工し、意思決定に活用できるような形式にまとめるもの。
システムやプログラミングの詳しい知識がない利用者でも操作できるよう設計されており、普段利用しているビジネス用語で検索や分析を行ったり、オフィスソフトなどに似た感覚で操作できるようになっていることが多い。