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───NICTとの連携ということでは、当センターが事務局を務めているテストベッド分科会*1では、2017年度から内田先生とIoTキャラバンシステムを一緒にやらせていただいています。
鷹野:内田さんのやっている「臨時地震観測へのIoTキャラバンシステム適用」の考え方は非常に重要です。その内容については後で詳しく説明してもらいますが、我々の直面している問題の解決につながるのではないかと考えています。というのも今日のワークショップ(WS)でも話題になっていましたが、我々の観測網でメインに使っているフレッツ(【図2-1】を参照)のうち多くの観測点をつないでいるフレッツISDNが縮小してきており、2018年11月30日には新規申込受付が終了することが発表されたからです。
松島:フレッツの光回線だと途中で停電すると使えないですし消費電力も大きいですが、メタル回線のISDNはやはり安定しています。光回線と比べてISDNのスピードは遅いですが、各観測点からのデータを配信するにはギリギリ間に合うデータ情報量なので問題ありません。今後は光回線に転換していかなくてはならないのですが、NTTさんは地震や火山の観測地点が多い山の中には光ケーブルを敷設してくれないでしょうし、困っています。では携帯電話網を使うかというと山の中には電源がないし、昔よりは随分使いやすくなったといってもISDNほどの安定感もありません。この観測網のラストワンマイルをどうするかという考えの1つが、LPWA*2を使ってバックボーンにつなぎデータを転送する方法です。このLPWAは内田さんがIoTキャラバンシステムで使っていますし、私も火山での観測データの収集に使っています。
【図2-1】「全国地震データ交換・流通システム」は全国の観測機関との
共同事業「全国地震データ流通基盤システム」の一部
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───IoTキャラバンシステムでは、LPWAをどのように利用しているでしょうか? IoTキャラバンシステムについて教えてください。
東北大学の内田准教授
内田:IoTキャラバンシステムは、(1)多様なセンサデバイス(2)WiFi/LPWA/LTE/衛星などの通信デバイス(3)可搬式サーバやエッジノード(4)非常用電源や大容量バッテリなどの可搬型システム一式をセットした構想中のテストベッドです。これが実現すれば、保有資源と組み合わせて試験したい場合や災害対応で短期間で準備する必要がある場合など、それぞれの場所でラストワンマイルをサポートしながらIoT環境が構築できます。また、JGN/RISE/JOSE/StarBEDなどのNICT総合テストベッドにも接続して利用可能です。私はこのIoTキャラバンテストベッドを臨時地震観測に使うことを検討し、実証実験を行っています。先ほどから松島さんのお話にあったように、地震発生直後の臨時地震観測においてオンライン観測を行う場合にも【図2-2】のような問題があります。その対策として【図2-3】に示す衛星通信や携帯電話網もありますが、可搬性・山間部でのカバーエリアの狭さ・多地点展開するときの費用などの弱点があって使い勝手がよくありません。そこで、キャラバンシステムの通信デバイスのうちソーラーパネルと大容量リチウムイオン電池を持つ小型・省電力タイプのLPWA「LoRa」を使って、NICTが開発してきた可搬型NerveNetと合わせてメッシュネットワークを構築して観測機器同士を接続させるようにしました。LPWAによるホッピングを活用した長距離通信で、迅速にオンラインの臨時地震観測ができるシステムが作れます(【図2-4】を参照)。
【図2-2】臨時地震観測でオンライン観測ができない理由
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【図2-3】臨時地震観測のおける現状の対応策
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【図2-4】NerveNetとIoTキャラバンのLPWAを用いた臨時地震観測
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───なるほど。このLPWAを使ったシステムなら、臨時地震観測だけでなく、松島先生がおっしゃっていたラストワンマイルの解にもなりえますね。
松島:今まで使われていた衛星通信や携帯電話網、無線LANは基本的に商用電源がないと使えませんでしたが、LPWAは低消費電力タイプでソーラーパネルで運用できるので、我々の研究には使えると思っています。
【図2-5】キャラバンを可能にする可搬型NerveNet(ソーラーパネル付き)
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内田:山間などのへき地や火山など、フレッツを引くのが難しい観測点でデータを送るには、このLPWAは有効ですね。今日の「データ流通WS」でもお話をしましたが、NICTの耐災害ICT研究センターが開発した広域無線モジュール搭載型NerveNetを改良した可搬型NerveNet(【図2-5】を参照)を使ってネットワークを構築し、東北大学片平キャンパスと岩手県釜石市の東北大学臨時観測網での動作試験では、700mから6km離れた6つの臨時観測点間で通信の確立が確認できました。【図2-4】のようにメッシュネットワークなら、データをアップするにはどこか1か所がつながっていればいいですし、距離が飛ばない中継点があっても違うルートを回って観測データを順に送っていけるので、よりロバストになると考えています。
───NerveNetやIoTキャラバンシステムなど、これから日本の地震研究のIoT化に、NICTも貢献できそうですね。
松島:IoT・ビッグデータという言葉がここ数年話題になっていますが、膨大な地震観測データの収集はこれらの言葉が出るずっと以前から、我々“地震観測屋”は行っています。地震が発生すると各地の地震観測所に常時つめている人が地震波形の読み取り値を電話や電報で送って、中央の研究所の人が地震計算をして震源を決めていたのが、地震研究の出発点でした。その後1970年代後半から、地震計を専用線につないで波形データをテレメータ化。次は専用線がインターネットに変わって、今や全国規模で観測データを集めているわけです。
加納:観測データの送り方が変わるだけで、原理は同じです。地震計でペン書きしていたのが、その動きを電気シグナルに変換し、さらにデジタルで送るようになったんですね。
松島:そういう意味でも、我々の先輩研究者が苦労して構築してきた地震観測システムはIoTの元祖ですね。
───その貴重な地震観測データの活用として、先ほどの「データ流通WS」で加納さんがお話されたオープンデータ*3についても興味を持っています。
京都大学の加納助教※
※インタビュー時、現在は東京大学 准教授
加納:オープンデータというのは、IoT/ビッグデータ時代に対応して、二次利用が可能なルールに従った公開データとして、人手をあまりかけずに所有データの二次利用を可能にすることです。翻ってそれを我々の地震研究の場合で考えると、データ公開システムにひょいと何も考えずにデータを置くだけで、オープンデータとして使えるような仕掛けになっていたらいいなぁと考えています。
───公開システムにおいてオープンデータ化するのに、どんなデータを想定していらっしゃいますか?
加納:地震の波形データでもいいですし、なんらかの加工したものでも震源情報でもいいと思います。ただオープンにしたいという気持ちはありますが、どうやると一番効率がいいか、あるいは効果的かという部分が見えていません。すでに整備された基盤やシステムがあるのなら、できればそれを活用したいですね。ないのであれば、全部自前で作るのではなく、NICTさんや企業さんと協力していきたいと考えています。
鷹野:そうです。各大学でそれぞれ公開用サーバを立てて公開していますが、効率が悪いですからね。この方式は、そろそろやめる方向にしないといけないと考えています。どこかにデータベースとして蓄積しておいたものをWebベースで公開し、検索して必要なところを取り出すという使い方なんですけれど、もう古い。もちろん検索などの使い方も必要だけれど、「内容を細かく指定しなくても、こういうデータが欲しいとリクエストしたら、クラウド側で処理をして必要なものを出してくれる」というユーザビリティが高い仕組みが、これからは必要とされるだろうと思います。
加納:現在公開しているある大学のデータを使うときは、その大学でユーザ登録をしたあと、使う都度大学に申請する必要があります。さらに防災科学技術研究所や他大学のデータも欲しい場合は、またそれぞれユーザ登録から始めなければいけないなど、結構いろいろやることがあります。少なくともそれらのデータベースを統一して公開用にそれぞれのデータにDOI(Digital Object Identifier)*4という識別子をつければ、1回のログインで済むとともに簡単に利用状況のデータが集められるので、研究も効率的に進めることができると思います。
───今は、観測データを利用する研究者にとって、面倒な障壁があるわけですね。
鷹野:利用者にとっては障壁に見えることではありますが、オープンデータとして多くの方に使っていただくためにはデータの提供側として誰がデータを使っているのかわかる仕組みが必要です。
松島:もともと観測データは、我々観測地震研究者が自分の研究の一環として山間やへき地に観測機器を設置してネットワークも引くなど、自腹でお金をかけて集めているものです。オープンデータにしたとき、何の謝辞もなく当たり前のように使われてしまうのは・・・、やはりデータに関してある程度プライオリティは欲しいですね。観測機器の開発やデータ送信方法を工夫したり大きい地震計を小型化したりしたのも、大学の先輩の先生方の知恵によるものです。ですから、完全なオープン化については我々のコミュニティでは抵抗があるので、 それらを利用して整備したデータであることがわかるようなタグをつけたいと考えています。
加納:我々が整備したデータだと明示されることが保証されるまでは完全なオープン化はしにくいので、保証する仕組みを今あちこちで作ろうとしている状況です。
松島:今のところ、使いたい方には申請をしていただいた後、観測データを提供する仕組みなので、利用者の記録が残るようになっていますが、それをネットワーク上でも記録が残るようにする方法を考えていかないと・・・。
鷹野:そこは、工夫しなければいけないポイントですね。
―――そのために、他のシステムとつなぐAPIやインタフェースを準備することも大事になりそうですか?
鷹野:そうですね。ただ一般的にそういうものは、我々が最初から作るというより、使い方の指針をはっきりさせた上で、NICTさんや他の研究機関と連携しながら、すでに世の中にある仕組みを使っていけばいいのではないかと思っています。
加納:まずは誰がどのように利用しているかがわかるように、アクセスコントロールをしっかりすることが大事ですね。
松島:そこのインタフェースをうまく作ることが、今後の方向性じゃないでしょうか。
───日本の地震研究を支える『全国地震データ交換・流通システム』の歴史と現状のお話、ありがとうございました。これからもJGNを活用いただき、皆さんが使いやすいシステムにどのように進化するのか、楽しみにしております。
<2018.3/東京大学 地震研究所1号館においてインタビュー>
【JGNおよび総合テストベッドに関するお問合せはこちら】
tb-info@ml.nict.go.jp
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*1:「テストベッド分科会」
スマートIoT推進フォーラムの技術戦略検討部会に設置された分科会の1つで、IoT・ビッグデータ(BD)・人工知能(AI)等に関する、技術実証・社会実証を促進するテストベッドの要件とその利活用促進策の検討を行うことを目的として活動している。当センターが事務局を担当。また、IoTキャラバンシステムテストベッドは2017年度から具体的に検討しているテーマの1つである。
<テストベッド分科会サイト>
*2:「LPWA」
LPWAとはLow Power Wide Areaの略で低消費電力、低ビットレート、広域カバレッジを特徴とする無線通信である。サブGHz帯を用いるアンライセンスバンド(LoRa(LoRaWAN)、Sigfox、Wi-SUN等)と、LTEと同じ周波数帯を使用するライセンスバンド(NB-IoT、Cat-M1等)がある。
2018.3.28のデータ流通WSでの
内田准教授の発表資料「IoT向け無線機器を用いたオンライン地震観測システムの検討」
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東京大学地震研究所1号館
のプレート
インタビューの様子
*3:「オープンデータ」
「機械判読に適したデータ形式で、二次利用が可能な利用ルールで公開されたデータ」であり「人手を多くかけずにデータの二次利用を可能とするもの」のことをいう。総務省としてもIoT/ビッグデータ時代に対応し、多様な分野でのIoT導入による生産性向上・利便性向上を実現するため、データを活用した新事業・新サービスの創出等に向け、オープンデータの利活用推進等に取り組んでいる。
オープンデータの5つの段階
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オープン参加で地震に関する
古文書・古記録を解読する
「みんなで翻刻」サイト
※画像クリックでサイトへ
<参考>第6回CODHセミナーにおける加納氏発表資料
「みんなで翻刻と古地震研究」
*4:「DOI」
Digital Object Identifier(デジタルオブジェクト識別子)の略。DOIはデータや論文などに唯一の識別子をつけて簡単に引用できるようにするために使われる。