― リーダ達に訊く、総合テストベッドの役割と目指すこと ―
2016年7月、当センター(総合テストベッド研究開発推進センター)が運営するIoTの技術実証・社会実証の検証プラットフォーム『総合テストベッド』がスタート。そして9月には「IoT推進フォーラムのテストベッド分科会」第1回が開催され、120名を超える聴衆を前に『総合テストベッド』推進のリーダ達が発表者として一堂に会しました。
この機を捉えて、新JGNの第1回インタビューとして、IoT時代に向けて『総合テストベッド』の役割と目指すことについて、推進のカギを握るリーダ6人に意気込みを伺いました。
───本年度からIoT研究開発の技術実証・社会実証のプラットフォーム「NICT総合テストベッド」がスタートしました。センター長、まずは新しいテストベッドの背景から教えてください。
今瀬センター長(以下、今瀬):今までは情報処理技術が世の中に導入されるかどうかは、技術的に明確であることが一番重要視されていましたが、だんだん変わってその技術や製品が社会的に受け入れられるどうかがとても重要になってきました。その結果、我々のプラットフォームも従来の技術実証だけでなく社会実証、社会の中で使ってみた上でその技術が使えるかどうかを判断できるようにすることが増えてきているんですね。
───今は、社会の中でどう使われ、どのように社会に役立つのかということが重要な要素だということですね。
今瀬:はい、そういう社会実証も実験の中でやっていないといけない時代になっています。そういう意味で、我々が運営しているテストベッドには「総合」という名前がついて、「NICT総合テストベッド」となっています。
今までの情報処理技術なら、例えばテレビなどは技術検証で性能を決めればよかったし、インターネットはサイバー世界だけの技術検証でよかった。これに対して、今回「NICT総合テストベッド」が一番の対象としているIoT分野は、サイバー世界と現実世界が一体となって緊密に結びついた「サイバーフィジカル世界」を対象としている概念で、社会実証が必要な分野です。例えばセンサーによる気象情報や人の動きを収集するなど、現実の世界が直接研究対象に入ってきているため、技術検証に加え、実際にうまく動作するかどうか、現実世界で動かしてみる社会実証をしないとだめなんです。IoTの概念は、今、情報処理やネットワークの分野でますます重要度が増してきています。
───IoTが注目されていても、「もののインターネット」と訳されると、一般の方たちからは「それって何? わかりにくい」と言われることも多かったと思うのですが・・・・。
今瀬:IoTは『Internet of Things』の略だから、直訳すると「もののインターネット」と言われるんですが、センサーなどの「もの」がインターネットでつながることで、サイバー世界と我々が生活する現実社会がつながるという意味と考えれば、イメージがわかりやすいと思いますが、どうでしょう?
───なるほど、IoT時代はサイバー社会と現実世界が互いに影響しあう世の中なんですね。これに対応した検証プラットフォームとして、今、4つのテストベッドを用意していますね。
今瀬:はい、超高速研究開発ネットワーク「JGN」、大規模センサー・クラウド基盤「JOSE」、広域SDNテストベッド「RISE」、大規模エミュレーション基盤「StarBED」の4種類です(【図1-1】を参照)。そして、これらを統合することで、自由に組み合わせてご利用いただけるようにしたのが「総合テストベッド」で、技術実証と社会実証の一体的な推進を目指し、構築・運営しています。
ただ今後の対応分野はIoTだけでなく、ビッグデータなどの分野も含まないと完結しないと考えていますので、総合テストベッドとしてはまだスタートの段階だと考えています。
【図1-1】4種類のテストベッドを自由に組み合わせて利用できる
「NICT総合テストベッド」
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───ということは、総合テストベッドは、これからどんどん充実&成長していくわけですか?
今瀬:はい。IoT、ビッグデータ、AIなどの分野も見据え、本プロジェクト5年の間に充実させていく予定です。しかし、我々だけでできる話ではないので、NICT内のWi-SUNやM2Mデータセンターに加え、世の中のいろいろな機関と連携していきたいと考えています。
そして、我々のセンターは国立機関で中立的な立場なので、いろいろな機関や分野の研究者の方達も利用・参加しやすいと思いますので、この総合テストベッドをキーとして、我々はユーザの皆さんの調整役となって、しっかり進めていきます。
───今瀬センター長、ありがとうございました。どのように成長していくのか、楽しみです。では、当テストベッドをハンドリングするお二人の室長から、具体的なお話や意気込みをお聞きします。
水落 祐二・室長
(テストベッド連携企画室)
水落室長(以下、水落):IoTというと範囲が広いですし、所属する分野・企業によってもそれぞれ思い浮かべることが違うのが現実です。IoTに向けた総合テストベッドと言っても、その実態はなかなか研究者の皆さんには伝わりにくいと思います。
センター長の話にもあったように、スタートとして我々が持つ4種類のテストベッドをうまく融合させる形で総合テストベッドをご用意していますが、これからのIoTの技術開発の進展次第で変わっていくものですし、発展させていく予定です。その際、ユーザの皆さんのご要望をお伺いしながら、より良いものにしていくことが大事だと考えています。その第一歩が、この『第1回テストベッド分科会』で、NICTが事務局を務める「スマートIoT推進フォーラム」*1 の技術戦略検討部会内の分科会の1つです。
【図1-2】スマートIoT推進フォーラムの構成
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河合栄治・室長
(テストベッド研究開発運用室)
河合室長(以下、河合):私はテストベッド研究開発運用室長として、技術面でIoTをどう見ていくかを考えています。IoTでは、いろいろなレイヤのいろいろな技術が登場してきますし、いろいろなデバイスやセンサーがあり、その特性やシチュエーションに応じてどのようにネットワークにつながるかも多様です。さらにつながればすぐに使えるわけではなく、そのデータをどのレベルのセキュリティでどこに格納し、どの頻度でデータを統計処理するのか。そこから生まれる価値に合わせてデータをハンドルするのか。データ処理方法もいわゆるビッグデータとしてクラウドの大型ストレージに蓄積して分析するものもあれば、リアルタイム処理してすぐさまフィードバックするIoTというのもある。使われ方もいろいろです。
───IoTは概念としても広く、技術としてもいろいろな要素があるわけですね。今お話に出た、リアルタイム処理をするエッジコンピューティングみたいな技術にも、対応しているんですか?
河合:エッジコンピューティングそのものはまだまだ研究開発の要素があり、本部の研究開発として進めています。まだ現実的なインフラモデルとしては確立されていない部分がありますが、JGNは全国にアクセスポイントがあり、そこにはサーバリソースも分散して置かれているので、それらを最大限利用すれば、そのポテンシャルはあります。
───つまり、今の4つのテストベッドを活用すればいろいろな展開が可能だということですね。
河合:はい、そうです。今スタート地点に立ったばかりですが、今持っているリソースをIoTテストベッド実現に向けてどう活用していくかを模索しています。ネットワークにフォーカスしたテストベッドからIoTテストベッドに向けて、シーズもニーズも本当に変わってきますし多様化もどんどん進んでくる中で、我々としてはどういうモデルがいいのかを検討しています。私の場合は、技術面からですが・・・。
───ありがとうございます。そのテストベッドをより多くの方に使っていただきたいと思いますが、こちらについては水落室長にお聞きしたいのですが、いかがでしょう?
水落:先ほどもお話しましたが、今日のようなフォーラムという形で、いろいろな分野の方がいろいろなニーズを持って関わっていただき、要望をたくさん出していただくと新しいことが生まれてくるのではないかと期待しています。
───このテストベッド分科会には、技術分野の研究者だけでなく、その技術を利用するユーザ側の方も参加されているのではないかと思います。
水落:そうですね、もちろん研究者だけでなくユーザ側の要望も期待しています。総合テストベッドは技術実証と社会実証を一体的に進めるということをテーマにしていますが、特に社会実証の面で有効に活用していただくという使命があります。IoTの実際のサービスのうち、簡単なものはいくつか実現されていますが、多くはまだです。これから社会的な影響が出るのではないかと言われているセキュリティやプライバシーなどのサービスについて実際のフィールドで試していただき、「どういう影響があるのか?」「どういう問題解決が必要なのか?」を検証するお手伝いをしていきたいと考えています。
───IoT時代にはあらゆるものがインターネットにつながるわけですから、セキュリティ問題は皆さん心配だと思います。技術的にはどうなんでしょう?
河合:技術としては、データの暗号化方法、それをセキュアなストレージに蓄積する方法、それに対するアクセスを管理する方法などもありますが、社会的にコンセンサスを得られるかどうかということもトライアルの中でやっていきたい。社会的に許される範囲でうまくやっていくことが大事です。それを我々はオープンイノベーションという形で呼んでいます。
水落:実は我々の組織の名前自体も、オープンイノベーション推進本部 総合テストベッド研究開発推進センターなんです。
河合:クローズかつセキュアで、がちがちなシステムを作るというイメージではなく、いろいろなサービスの要素とか、そのユーザさんも技術もいろいろ入ってきて融合させ、新しい価値を生み出していこうというところです。ですから、セキュリティやプライバシーも許される範囲内で、どうやってコンセンサスを取って前に進むかということを考えています。
───なるほど、そこでお互いにコンセンサスを取ったことが逆に社会にも影響していくことになりますね。
水落:まずやってみるということが大事なんだと思います。技術やルールだけでシステムを作ろうと思うと、先ほど河合が言っているようにがちがちな厳しい制限の中でだけしか動けないようになってしまいます。セキュリティに問題があったり利用者のプライバシーを侵すのはいけないですが、トライアルということで、ある程度自由な場でやってみて、どこまでが社会で許容される範囲なのかを見定めることが実証実験の意義になるのではないかと考えています。
───それは本当に大事! コンセンサスが取れなければ現実社会で使われないですから。では、総合テストベッドのスタートにあたり、二人の意気込みをお願いします。
水落:どういうものを作るか、どういうサービスをしていくかを含め、ユーザの目線が大事で、ユーザの欲しているものをサービスとして提供していくことを一番に考えていきたいと思っています。我々自身の技術を検証するかという面でも総合テストベッドを使いますが、今期はより一般のユーザに使っていただく方向にシフトしていくことが使命だと考えています。 そのためにも、総合テストベッドの利用申請窓口を1本化するとともに、利用にあたってはテストベッド事務局・技術支援担当者・研究担当者がコーディネートや支援を行い、ユーザのプロジェクト実施を支援していきます(【図1-3】を参照)。
【図1-3】NICT総合テストベッドの支援フロー<イメージ>
河合:私は技術面での話になりますし、水落の今の話にかぶるところもありますが、ニーズとシーズのマッチングをきちんと考えられる体制や考え方を重視していきたいと思います。そのためにも、特にテストベッド分科会は、その検討を参加者の知恵を集めてオープンな形でやっていくための場になればと考えています。
水落:オープンな場とは言え、今まではこちらから発信がすることがメインでしたが、双方向にして、こちら側に入ってくることをなるべく吸収できるように工夫していく予定です。
───ありがとうございました。
今瀬 真・センター長
(NICT 総合テストベッド
研究開発推進センター)
*1:「スマートIoT推進フォーラム」について
IoT・ビッグデータ(BD)・人工知能(AI)等の技術の発展により、グローバルかつあらゆる分野で産業・社会構造が大きく変革しつつあることを踏まえ、IoT等に関する技術の開発・実証を推進するなど、産学官を挙げて新たな時代の変化に挑戦することを目的として、2015年10月に「IoT推進コンソーシアム」(会長:村井純・慶應義塾大学教授)が設置された。
本フォーラムは、このコンソーシアムの下に設置された、IoT関係の技術開発・実証を推進する技術開発ワーキング・グループである<事務局はNICT>。
総合テストベッドの運営について
並んでお話しいただく
河合室長(左)と水落室長(右)