───総合テストベッドのうち、寺西さんはJOSE、宮地さんはStarBEDの運用責任者です。それぞれのテストベッドの役割と特徴を教えてください。まずはJOSEからお願いします。
寺西裕一・研究マネージャ
(テストベッド研究開発運用室)
寺西・研究マネージャ(以下、寺西):大規模センサー・クラウド基盤「JOSE」は、分散クラウド設備と実地のセンサーや端末を活用する実証実験が行えるテストベッドで、総合テストベッドの中でIoTサービスの実証環境を提供する役割を担っています。【写真2-1】のように、導入の容易性、高性能な分散環境、データ共有・オープン化という特徴を持つ環境を提供しています。
【図2-1】JOSEの概要
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─── では、StarBEDについても、教えてください。
宮地 利幸・北陸StarBED技術センター⻑(テストベッド研究開発運用室)
宮地・センター長(以下、宮地):大規模エミュレーション基盤「StarBED」は、1000台規模のサーバによる集中型テストベッド。サーバを丸ごとユーザに貸し出し、自由なOSを入れていただきインターネット系の模倣の実装を大規模に検証していただくことが可能な汎用設備です。また、仮想化技術(VM)との連携で多重化することにより、数十万台規模の実験環境を構築することが可能ですし、ユーザ側で作りこんだハードウェアを持ち込んでStarBEDの周辺環境と合わせて検証することも可能です。本物のソフトウェア・ハードウェアを実際に大規模かつリアルな環境で動作させてデータを取得することがベースですね。StarBEDは、第1期:汎用インターネットシミュレータから始まり、第2期:ユビキタスシステムシミュレータ、第3期:大規模エミュレーション基盤というプロジェクトを走らせ、この4月からの第4期はIoTテストベッドを構築するために研究開発を行っています。
【図2-2】StarBEDの概要
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───最近は集中豪雨による災害も多いので、千曲川の水位・雨量センサーの事例などは、特にこれから社会的に必要とされるIoTの社会実証実験ですね。
寺西:最近はこういう要求は多いと思います。雨量データ自体はいろいろなところで取っていますが、千曲市の場合は気象庁の基準も満たしている高精度なデータです。千曲市の「河川監視システム情報」のサイトで市民の方にも情報をお見せし、かつ予測についても研究を行っています。
まだ社会実証というほど大きくはなく、一部の方が使ってくださっている感じなので、もっと裾野を広げてもっと多くの方に知っていただき、活用していただきたいですね。こちら側としても、今以上に「簡単・便利・早く」を目指して改良してきたいと思います。
───目標は「もっと簡単・便利・速く&早くを目指して」なんですね。現状でも、かなり簡単になっているとお聞きしました。
寺西:はい、既に要求を一括実行するJOSE Manager(管理運用システム)を導入したことにより、【写真2-5】のように環境構築時間が1/40に大幅に短縮したという例もあります。
宮地:StarBEDでも、ミドルウェアの利用でシステム構築が大幅に時間短縮できるようになるとともに、コストも大きくダウンするようになりました。【写真2-6】の例では、「2人で3週間⇒1人で2~3日」「2~2.6億円⇒ソフトウェア検証経費のみ」という効果も出ています。
───なるほど、より多くの方に活用したもらうため、こういうメリットは大事ですね。では、StarBEDの社会実証実験は、どうでしょう?
宮地:StarBEDの場合は実証実験と言っても、ユーザにとっては利用する段階がJGN、JOSEとでは違うのではないかと思っています。JGNもJOSEも本物のデータを取っていますが、StarBEDはシミュレーションで、完全に他に影響されないクローズドな環境が作れるんですね。もちろん最終的にはJOSEとStarBEDは一緒にしていかなければならないと思っていますが、実証だけだとデータを格納する場所がかなり必要ですので、大規模で自由な構成を作るにはそこに仮想技術をつないでいくことも必要です。さらにStarBEDの特長として本物も入れ込める環境もあるので、本物を使えるところは使いつつ、大規模な構成が作れるんです。今お話に出たJOSE千曲川の水位の例で言いますと、雨量シミュレータを使って「ここに雨が降ったら、千曲川の水位がこれぐらい上がる」ということを計算し、センサーのデバイスに仮想的に入力することにより、どんなことでも再現できることがStarBEDの役目だと思っています。そこで検証したあとに、可能であればJOSEに戻し、実際のセンサーで実際の天候できちんと動作するかどうかを検証するのが実証実験だと思います。そして、その先に社会実験があるのではないでしょうか。
───StarBEDのシミュレータで川幅や水量などの条件を変えてみれば、他の河川に置いた場合の想定ができるわけですね。
宮地:両方のやり方があると思うんです。先ほどとは逆に、JOSEのデータからモデルを作ってStarBEDで実験をすることもできます。つまり、【図2-2】中にある左下の図にように、研究開発プロセスをぐるぐる回す必要があると思っています。
──だからこそ、JOSEやStarBEDなど4つのテストベッドを統合し、総合テストベッドにする意味があるわけですね。
並んでJOSEとStarBEDのお話をする
宮地・センター長(左)と
寺西・研究マネージャ(右)
寺西:はい、そうです。
宮地:そうですね。こことここはシミュレーションでやるけど、この部分だけはJOSEの本物を使うというのもありだと考えています。シミュレーションの中にエミュレーションを一部入れる「エミュレーション・イン・ザ・ループ」とか、本物をシミュレーションに組み込むということも、この総合テストベッドだからこそできるということは大きいと思います。
───各テストベッドの事例だけでなく、総合テストベッドとしてどう有機的に結合して利用できるのかをユーザとして一番知りたいところですね。今のような例をぜひアピールしてください。
ありがとうございました。