【JGN-Xユーザ座談会 in 大阪】
『分散システムの耐災害性・耐障害性の検証・評価・反映を行うプラットフォームとビジネスモデルの開発』
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───先生方はこの研究をするにあたり、JGN-XのIP仮想化サービスをご利用いただいていますが、どんな使い方をしていらして、どんなご感想をお持ちですか? 教えてください。
柏崎:研究を始める際、自分たちでインフラから作る必要がなく、すでにあるテストベッドを存分に使わせていただけるのは、非常にポイントが高いと思いますし、我々のニーズに合っています。JGN-Xにテストベッド部分をアウトソーシングすることで、多少の不自由さもありますが、十分な機能があるので、時間・人的資源・費用をかけずにすみ、研究のアジリティ(敏捷性)を高めることができ、有効だと思っています。
だからこそ、JGN-Xに対して陳腐化してほしくないという要望もあるんです。ネットワーク・アークテクチャは10G・40G・100Gと進化のスピードが速いので、それに対応して新しいのものを提供してくれたらというイメージですね。
近堂:それに補足していいですか? 大手町・東海・大阪・岡山・広島の5つのアクセスポイントでIP仮想化サービスを使って、この耐障害性・耐災害性のプラットフォームを作っています(図2-1参照)が、なぜIP仮想化サービスを使っているかというと、ポイントは壊せるというところですね。我々ユーザの操作権限で、例えばネットワーク機器のインターフェースをダウンさせるとか100%のパケットロスを発生させるというような障害を実際に起こすことができます。これまでのJGN-Xの研究プロジェクトはどちらかというと、つなぐとかより品質をよくするというところに注力されていたような気がするのですが、我々はそれとは逆で、むしろどんどん壊せるというところにポイントを置いています。他のユーザに影響を与えない範囲で我々のプロジェクトの中で自由に操作できるというところが非常に重要で、このIP仮想化サービスを使っています。極端な話をすると、この仮想化サービスがなかった時には、我々がやりたいことを実現することは難しかったのではないかと僕は思っているんですね。実際に障害をネットワーク上で発生させて、実際のシステムを乗せてそれを検証できるということはテストベッドがないとできないので、そういった意味で、これがあることによって我々の研究が成立しているところがあります。
───今までの研究プロジェクトと逆の使い方で、100%のパケットロス発生などの障害を起こしても、余裕をもって使えるということは?
近堂:IP仮想化サービスは、研究プロジェクトごとに提供されているからですね。我々が使っているIP仮想化サービスはJGN-X上に展開されているSDN環境ですが、実際にネットワーク機器に対して、ルータ機能を仮想化しているので、ユーザ間では影響が及ばないのが特長なんです。そのため、例えば1つの仮想ルータに対して我々のプロジェクトで実際の障害を注入したときにも、他には影響がでない形で実験ができるというわけです。
柏崎:今日は参加していませんが、共同研究者の奈良先端科学技術大学院大学の市川先生が上手いことを言っているんですよ。この仮想化されたルータ機能として提供されているのはSDNと呼ばれるソフトウェアによって定義するタイプのものだけでなく、SEN(Software Enhanced Network)だと。ソフトウェアによってもともとあるネットワークの機能が強化・増強されるという意味では、SAN(Software Augmented Network)という言い方もいいかもしれない。それを使わせてもらっているというのは、非常にいいですね。
───テストベッドとしての良さと、IP仮想化サービスを使うメリットを実感いただいているんですね。ありがとうございます。ところで、このプラットフォームはいつまでに完成する予定ですか?
柏崎:目標は2015年度中です。また、プラットフォームの標準化についても、2015年度中を予定しています。SCOPE*1の先進的通信アプリのフェーズIIの審査が2015年4月にあるのですが、その中に標準化活動への着手やコミュニティの問題を検討課題として進めることを盛込む予定です。2~3年先を目標とすると風化が始まりますし、早く進めていかないと新たな災害が発生してしまう可能性もあります。
───今おっしゃったコミュニティの問題というのは、なんでしょう。
柏崎:先ほどもお話をした2015年1月に静岡で開催されたJANOG(1ページ目の*5参照)のように、ISPなどでオペレーションをしている技術者が集まり、技術(情報)交換をする場で挙げてもらった問題ですね(図2-2参照)。
近堂:先ほどフェーズIIの話が出ましたが、現状はまだ自分達が使うところまでしかできていません。フェーズIはあくまでプルーフ・オブ・コンセプト(POC)。コンセプトどおり機能するか動かして試すことに重きを置いて研究してきたので、フェーズIIはそこからステップアップすることを考えていかなくてはいけないと思います。そのために僕が考えているポイントが2つあります。
まず1つは、今はまだ幾つかのパターンしかできていないので、障害パターンや障害表現をきちんとプラットフォームとして実現できるようにしてそのバリエーションを増やすことをしっかりやること。もう1つは、ユーザに使ってもらうための工夫をすること。これは研究に直接結びつかないところではありますが、例えばGUI的に日本地図上の地点に障害表現を記述すると、それがネットワーク上に実際に注入されるなどのように、テストをする人に気軽に簡単に使ってもらえるGUIが必要ですね。また、シナリオを書いてネットワーク機器に適応されるようなインターフェースも、実際に使ってもらうためには、研究レベルにきちんと対応できるようにする必要があると思います。
───なるほど、フェーズIIではプラットフォームとして、他の方に使っていただくことにシフトしていくわけですね。
近堂:はい。JGN-Xをどのように活用するかというポイントで言うと、理想はこのプラットフォームを他の人に使ってもらうことですね。JGN-Xの他のプロジェクトでも使ってもらって、実際に障害を発生させた時の挙動を見てもらいたいと考えています。つまり、我々が作ったプラットフォームをサービスとしてJGN-Xに組み込んで、それをサービスとして使ってもらえると我々としてもメリットがあるかなと思います。今はどちらかと言うと、JGN-Xが持っているリソースやNICTが開発したものを我々ユーザが使うという方法がメインですが、ユーザが作った成果を他の研究プロジェクトで使っていただき、評価ができると面白いと思っています。そのためにはいろいろと難しい部分はあると思いますが、そういったコラボレーションができるということがテストベッドが仮想化しているという1つのポイントでもあると思っています。そういうことができれば研究者のモチベーションにもなると思いますし、望んでいる方たちもいるのではないでしょうか?
───とても面白い案ですね。JGNも単なるネットワークから始まり、今では新しい技術を投入したサービスを展開しています。ぜひ、そういうお考えをプッシュしていただきたいです。
近堂:はい、ぜひプッシュしましょう! プロジェクトの成果を共有し合う場がない気がしています。いろいろな研究者やプロジェクト同士が結びつけられるようなテストベッドとなることを、次のJGNに期待しています。
柏崎:JGN-X祭りとか、利活用事例のショーケースもあったらいいですね。
───今日はありがとうございました。皆さまの研究活動のお話をお聞きでき、興味深く楽しかったです。そして、これからのJGNに有意義なご意見をいただきました。フェーズIIについても期待しております。
【JGN-Xパートナーシップ・サービス及び
これらの技術に関するお問い合わせ先】
jgncenter@jgn-x.jp
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本研究テーマでご利用いただいている
『IP仮想化サービス』
<リーフレット閲覧は画像をクリック>
柏崎先生・近堂先生のお話に
画面からフォローしてくださる北口先生
WEBも活用して行った
座談会の様子
【図2-1】
仮想化されたルータ機能を用いた
基本動作検証のイメージ
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*1「SCOPE(スコープ)」:総務省の競争的資金の1つ、戦略的情報通信研究開発推進事業のこと。Strategic Information and Communications R&D Promotion Programmeの略。
【図2-2】
JANOGにおける議論で
出された問題
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【図2-3】
耐障害性・耐災害性のレベル
(イメージ)
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最後は、会場にいらしていた
下條センター長もご一緒に