【JGN-Xユーザ座談会】『震災の経験を活かし、非常時に役立つICTを考える!』
───今回、JGN-Xユーザのお話を伺う座談会の企画段階において、『非常時に役立つICTについて考える』というテーマで3人の先生方を選抜いただいた山口室長に、ユーザ座談会の意図をお伺いしました。
山口:当センターでは、JGNというインフラを進化させながら構築・維持し、10年以上にわたり多くのプロジェクト等を推進してきました。その中で柴田先生・福本先生・橋本先生をはじめ多くの先生方との交流を深めながら、技術・知見・ノウハウなどの蓄積を行ってきました。現在、その第4フェーズ “JGN-X”として新世代ネットワークのプロトタイプの構築を目指し、非常時にも役立つSDN(Software Defined Network)など新しいネットワーク技術の開発やそれを活用したサービスを提供しています。
このようなインフラ、技術、知見、ノウハウ、人等JGN-Xに関わるあらゆるものを活用して、少しでも被災地の復興にICTの観点から役立つことができないかと考え、いくつかの実践的な研究プロジェクトを推進しています。
このため、今回は、JGNの古くからのユーザであり、同様に防災に係るプロジェクトを自ら推進されている先生方のお話を伺うにいたりました。
───震災直後から、震災復興への支援をお考えだったんですか?
山口:当初は、我々が持っているICT(情報通信技術)の力で、即効性をもって被災地で何か役立てられるのではないかということで取り組みました。しかし、ICTは有効なものではありますが、被災直後ではそれ以上に取り組むべきことがたくさんあり、新しい技術という視点ではすぐにご協力ができませんでした。
───震災などの非常時に役立ちたいと考えても、時期やフェーズによって重要なものが違うということですか?
山口:はい。今は復興フェーズに入ってきましたので、被災地区が必要とする利便性と安全性、そして信頼性の高い、新しい技術を取り入れたネットワークインフラを構築していくことに関心を寄せていただけるようになり、“非常時に役立つネットワーク”の実証実験を行うプロジェクトを進めております。具体的には、柴田先生にご紹介いただいた岩手県遠野市において、JGN-Xで取り組んでいる新しいネットワーク技術の一つであるSDN/OpenFlow技術を実際に展開し、実証することを計画しています。
現場や利用者の皆さんの生の声を受け、そのニーズを我々の技術やアプリケーションにフィードバックしながら、遠野市の方々に本当に使っていただけるようなものへと展開していく、これが我々のできる復興支援につながるものと考え、取り組んでいます。
───被災地区が必要とする利便性・安全性・信頼性とは、どんなことだとお考えですか?
山口:災害発生などの非常時において、避難所に集まる地域住民の方々が確実に通信ができるよう、各避難所においてさまざまなメディアがまさにメッシュにつながる環境構築に貢献したいと考えています。この避難場所での確実な通信の実現が、住民の方たちの安全性・信頼性へとつながることを期待しています。
───ワイヤレスは、非常時において重要なポイントなんですね。
山口:非常時にはネットワークが一部分断されて通信ができなくなることがありますが、ワイヤレスは設置が比較的容易であるとともに、エンドユーザがダイレクトに有用性を享受でき、かつ、さまざまな無線メディアが存在することから、非常時には大変有効です。遠野市の実験でもワイヤレス環境を充実させています。
───被災者が避難する安全な地帯に拠点をつくるという意味で、遠野市は最適だったんですか?
山口:遠野市は防災への取り組みも従来から積極的に行われ、またICTにも明るく理解のある方々が多くいらっしゃるため、ICTの先進的な取り組みを行うには最適な環境だと考えています。沿岸部の被災地の後方支援機能を担っておられ、こういった機能をより充実させるため、新たに総合防災センターも設置されました。
こういった環境を活かして、遠野市の行政機関や地域コミュニティのニーズ、避難者のお話を踏まえながら、「どういうことが被災時に役立つのか」「被災時点だけでなく、復旧・復興フェーズ、あるいは平時に同じシステムを住民が使えるようなアプリケーションは何なのか」などについて、中期的に考えていきたいと思っています。実証実験では、非常時に遠野市内の避難地区に来れば必ずネットワークにつながるという環境を構築するとともに、普段からそれらが使えて便利だということを、住民の意識の中に刷り込めるよう、普段の生活に根付くものにしていきたいです。根付いて普段から使っていただければ、非常時や緊急時にも使えて役立つものになるのではないかと考えています。
───普段に使っているからこそ、非常時にもすぐ使えるんですね。
山口:それが大事だと思います。今年度の実験期間は短いのですが、このプロジェクト自身は来年度以降も発展をさせて、展開したいと思っています。実験環境を普段から使っていただけるような工夫をして、被災時に本当に役立てるようなものになればと考えています。
新しい技術を実社会に適用して改善していくことで、モデルシステムを創造できればと考えています。
───社会に貢献するモデルケースということは、今回の震災復興という視点だけでなく、これから起こることが想定される非常時や緊急時のことも考えているということですね。
山口:今回のユーザインタビューの対象として、JGN-Xユーザの中でも、岩手の柴田先生・橋本先生、高知の福本先生の御三方に座談会をお願いしたのは、不幸にも被災地となった岩手と次の震災の可能性が高まっている高知で「仮想化技術による大規模災害情報ネットワーク」というテーマを、JGN-Xを活用したプロジェクトとして推進しておられるからです。
地震大国日本において、社会に貢献する研究を目指してJGN-Xを積極的に活用している皆さんに、被災時の対応がどうであったかやその際の課題などの実践的なお話とともに、次に備えて、今どういうお考えをお持ちかということをお聞かせていただきたいと考えたからです。
───なるほど。3人の先生をお選びになった理由がよくわかりました。この震災での課題をきちんと解決し、次に備えることこそ、JGN-Xを活用した研究で社会に貢献することにつながるんですね。ありがとうございました。