-NICT研究者が解き明かすJGN-Xの要素技術と
インフラを最適化するオーケストレーション-
第1回の下條センター長からのメッセージ、第2回のJGN-Xユーザ座談会に続き、第3回は技術にフォーカスを当てたインタビューです。
NICTの3人の研究者(河合室長・三輪STCセンター長・大槻研究員)に、
●JGN-Xが目指すネットワークオーケストレーションとは何か
●ご自身が研究している新世代ネットワークの要素技術の研究内容
などについて、お伺っていきたいと思います。
───河合室長、JGN-Xの「ネットワークオーケストレーション」とは、どういうことですか?
河合:JGN-Xは、一般的なサービスをターゲットにしたインフラではありません。ネットワークの研究開発を支えるための要素技術をいろいろ準備したインフラです。その中で、テストベッドとしての一つのチャレンジとして位置づけたのが、ネットワークオーケストレーションです。テストベッドとしていろいろな技術が集まり研究開発が動いている状況のなかで、1つのネットワーク技術だけを最適化するだけではなくて、やっぱりシステム全体の動きを見ながら協調・最適化するための仕組みをやはり考えていかなければならないと考えています。それがネットワークオーケストレーションの一つのコンセプトです。【図1-1参照】
───いろいろな要素技術を協調して最適化するから、オーケストレーション。わかりやすくて面白いネーミングですね。
河合:ネットワークオーケストレーションという言葉をJGN-Xのコンセプトとして出していこうと最初に言われたのは、倉敷芸術科学大学の小林和真先生で、現在、NICTでJGN-XのNOCを率いていただいています。ネットワーク技術の研究を追及するだけでなく、インフラ全体で協調してやっていかなければいけないということですね。
JGN-Xの中で推進してきているのが、ネットワーク仮想化技術。ネットワークのいろいろなレイヤでいろいろな仮想化技術がありますが、物理的なリソースを直接利用するのではなく、それを一旦仮想化という形で論理化し、それをユーザさんに利用していただいているんですね。例えばデータ通信であれば、パケットが物理インフラを通って出ていきますが、その部分を仮想化して、かつインフラの中にいろいろなネットワークリソースがあると、いわゆるパケットのフロー制御部分が見えにくくなり、運用側が意図した制御がきちんとできなくなる恐れがどうしても出てきます。そういうところをネットワークオーケストレーションで、きちんと解決できるような仕組みをとっていこうとしています。
───ネットワークオーケストレーションを通じて、JGN-Xの目指す「新世代ネットワーク技術の確立」につなげていくということになりますか?
河合:新世代ネットワークと呼ぶことのできるインフラをみなさんに利用していただけるようになるにはまだまだ時間がかかりますが、JGN-Xは新世代ネットワークの研究開発を支えるためのテストベッドです。研究者の方々はいろいろなネットワークの技術課題に対して取り組み、具体的にこういう新しい技術ができましたと持ってこられます。それらの技術をいろいろテストできるような、柔軟性があるテストベッドでなければなりません。そのため、テストベッドでは仮想化技術が非常に重要なポイントとなります。つまり、ユーザの方たちのやりたいことがそれぞれ異なっているので、それに合わせた希望や状況を受け入れるセキュアな環境を用意し、きちんとコントロールしていかなければならないからです。
───それぞれのユーザが新世代ネットワーク技術でやりたいこと、いい意味での「わがまま」を受け入れるのに仮想化が重要?
河合:そうですね。ネットワークのインフラそのものを仮想化して構築するというところまできています。古典的な例としては、VPN(Virtual Private Network)がわかりやすいと思います。離れているけれど、ひとつのネットワークであるように見せるということですね。これは2拠点以上でもいけます。その中にクラウドが入ってくると、クラウドを含めてあたかも自社の専用ネットワークであるかのように見せることもできます。
───仮想化により各ユーザさん専用のテストベッドで研究開発ができるのなら、高セキュアで安心ですね。
河合:はい、ユーザさんからは専用の1つのスライスという形でみえます。そしてテストベッドは実証実験環境を提供するだけではなく、さらに研究開発のプロセスを支える環境を提供していくことが重要だと考えています。三輪さんが一つのコンセプトとしてうまくまとめていますが、今までの研究開発のサイクルの中にテストベッドを入れ込んでいくと、まずは最初の技術検証の部分で必要ですね。それから製品開発の段階になってくると、でてきた製品を検証するとき。さらに展開して広域環境で使っていくと、そのための検証環境として。また運用が始まってくると運用の知見などをきちんと蓄積して、みんなでシェアできるような環境をつくっていく。そこまで使えるテストベッドができれば理想。それが目指す技術開発、研究開発プロセスのサイクルです【図1-2参照】。JGN-Xなら、このテストベッドを提供できるんです。
───では、JGN-Xの中で、ネットワークオーケストレーションというチャレンジを推進するにあたり、注意していらっしゃることは?
河合:そこに関しては、各研究開発で得られたものはシェアしたい半面、やはり取り扱いには注意を払うことが重要となります。そのため、我々のオペレーションにおいて他のユーザさんからトラフィックが見えないように注意するともに、インフラのレベルでとしてきちんとアイソレーション、隔離できる環境が必要です。 一方で、研究開発を促進するため、共有できる情報は共有したいということがあるので、テストベッドワーキンググループなどの場で、ユーザさんや我々からの報告という形でシェアしていく中で、新しいJGN-Xの使い方なども見つけていくというような感じで進めています。 このように、新世代ネットワークを研究する先進的なユーザさんが集まって利用いただくインフラをきちんと運用していく中で、このテストベッドが高度化し先進になってくればくるほどフィードバックされ、将来的に結果として新世代の技術となっていくのではないかと考えています。 そのためにも、ネットワークオーケストレーションは大事ですね。
───ユーザさんだけでなく、内部の研究者の皆さんの研究においても、ネットワークオーケストレーションが重要なんですね。
では、それぞれの研究内容についてお伺いしたいと思います。