【JGN-X研究者インタビュー】インターネット経由でご利用いただけるJGN-Xの新しい形『PIAXテストベッド』
───PIAXの誕生秘話と言いますか・・・、寺西さんがPIAXの研究開発を始めたきっかけは、何ですか?
寺西:誕生秘話ですか?最初にPIAXを始めたのは、ユビキタスサービスということが盛んに言われていた2006~2007年頃です。今ですとユビキタスと言わずに、IoT(Internet of Things)とかM2M(Machine to Machine)などと言っていますが、結局やっていることは同じで、いわゆる「賢いサービスを実現する」と言いますか、ユーザの現在の状態を把握した上で、その状態に応じたサービスを提供するということを目指して、研究を始めました。
例えば、センサーが「温度が高い」「ゲリラ豪雨が迫っている」「トンネルの振動具合がおかしい」などのデータを吸い上げて情報処理をした上で、適切な端末を探し出して「エアコンの温度を下げる」「危険だから携帯端末に避難警報や災害情報を出す」「トンネルの管理会社に緊急チェックを要請」などのデータを配信するなどということです。
このためには、たくさんあるセンサーを一か所で全部管理すること自体が難しいので、分散して処理したり、それらをうまく連携したりすることが重要です。さらに、処理をより早く的確に行いデータを配信するには、センサー⇒サーバ⇒端末という従来の情報の流れだけでなく、近くにセンサーがあれば、そこからダイレクトに情報をもらう方が効率的ですね。これがM2Mという考え方、これも重要となりますね。
───ユビキタス・IoT・M2Mなど「賢いサービス」を実現することが、きっかけだったんですね。
寺西:賢いサービス実現のためには、一番早く、空いているルートで的確に情報を流せるかということが重要ですが、物理的には最短ルートを行っても、そこが混んでいる場合は遅延が発生してしまいます。PIAXのようなオーバレイネットワークではこれを回避し、より早く・より混んでいないルートを経由していくということをネットワークの細かい設定なしに、アプリケーションレベルでできるんです。
───アプリケーションレベルで、最速ルートを経由して情報伝達できる! PIAXはどういう方が使うことを想定して開発しているのでしょうか?
寺西:研究者の中には、「センサーから上がってきたデータをどのタイミングでどこで受けて、どのタイミングで処理をして、どこに渡すか」というサービスとしてのロジックやアルゴリズムを考えている方はたくさんいると思いますが、従来はそれを試す足回りというかソフトウェア基盤がなく、研究開発にブレーキがかかっていました。その足回りをPIAXがやるので、これを利用すれば、アルゴリズムを考えることに注力して研究ができるのではないかと考えています。
また、今までの物理ネットワークでは、このルートが壊れたらそれを避けるといったことを自分で考えなければならなかったのですが、PIAXなら故障のルートを自動的に排除できるので、便利で安心です。
───使いやすそうなソフトウェア基盤ですね。これを作るには、どれぐらいかかっているのでしょう。
寺西:もう5~6年やっていますが、実はその間に何回も、PIAX自体を作り直しています。2008年にバージョン1、2010年にバージョン2、そして今、バージョン3のリリースに向けて準備をしている段階です。
バージョン1のPIAXでは、エージェントの枠組みを考えていました。エージェントというのは、先ほどのロジックが書いてあるソフトウェアのモジュール。オーバーレイネットワーク上にいろいろなエージェントがあり、単体でも動くし、それぞれが連携して動く仕掛けをまず作りました。
バージョン2では、オーバーレイネットワークの性能向上と「耐故障性」の追加ですね。向上した性能というのは、必要なノードがすぐに見つけられるという仕掛け。耐故障性というのは、壊れても自ら修復する仕掛けです。たくさんのノードがあるので、すべてを監視して修復するのは大変ですからね。自ら修復もしますし、修復の間はそこを避けて違うところを自分で違う経路を探して使ったりする仕掛けをオーバーレイネットワークに組み込んでいます。この耐故障性の追加により、一般のユーザさんにも使っていただける段階になりました。
───一般のユーザさんに使っていただけるということは、バージョン2からPIAXテストベッドとしての環境が整ったということですか?
寺西:はい。バージョン1~バージョン2の途中までは、基本的にデモとかプロトタイプレベルでしたが、2013年4月からはいろいろな研究者にPIAXテストベッドとして開放し、従来できなかった研究をしていただけるようになりました。
今はバージョン2の最後の段階で、バージョン3リリースに向けて頑張っているところです。2と3で違うところは、研究者自身がエージェントのロジックを作れるだけでなく、JGN-X側で用意しているネットワークとは別に各自が必要とする専用のオーバーレイネットワークを、簡単に作ることができるようになることです。「こういうものを発見して、つなぎたい」というネットワーク部分のロジックも、自分たちのカスタマイズしたものにできるよう、簡単なインターフェイスを定義し、作っています。
───バージョン3のPIAXで自分専用のオーバーレイネットワークが作れるようになると、さらに多くの方に使っていただけますね。
寺西:たくさんの人ということもありますが、もっと違うレベルというかネットワーク系の研究者の方たちも参加できるようになると、考えています。エージェント側・ネットワーク側、両方の研究ができるテストベッドですね。
もともと、なるべくたくさんの人が自分の好きなサービスを自由にプログラムできるような世界をPIAXでは目指しているんですね。ユビキタスサービスのように、研究者だけでなく一般ユーザが自分の欲しい情報を好きなようにもらえるようなサービスが作れるといいと考えています。志しとしては、究極、お仕着せのコンテンツではなく、一般ユーザが自由な発想で自分の好きな動作をサービスにさせることができる世界、知的な活動ができる場を提供したいですね。
───寺西さんがPIAXで目指していることは、ネットワークの専門家でなくても、普通の人が自分たちに必要な情報が得られるサービスを作ることができる場ですか?
寺西:もともと目指しているのはユビキタスの世界なので、一般のひとの生活に密着したサービスを作れることが大事なんです。ユーザが自分の生活をよりよくするために、PIAXとコンピュータを活用して自分にとって便利な生活・安全な生活ができるようする。そのときになるべく簡単に、自分仕様のプログラムとして作り上げられるようにしていくということが究極の目標ですね。
先ほどお話した例なら・・・。トンネルのセンサーから異常振動などの情報が送られてきたら、それを管理する道路公団の管理センター側からセンサーに情報を送ってどの部分に問題があるか詳細に調べられたり、対応方法を想定することなどが、自動化して簡単にできるプログラム。ゲリラ豪雨や災害情報が送られてきたら、地方自治体や天気予報会社は自動で関係地域の住民や登録ユーザに素早く情報を配信するプログラム。
「どこに行くよ」と話しかけたり、そこの運行情報を調べたりすると、「向こうは雨が降っているから、傘を持って行けよ」みたいな、持ち物レベルのチェックのサービスでもいいですよね。
従来であればネットワークやプログラムの専門家が全部やっていたようなことを、PIAXとコンピュータの助けによって、素人でも簡単にこれらのことが実現できる世界をイメージして、そのための基盤を作っていきたいと考えています。もちろん、インターフェイスの話も含めてですけれども・・・。
───分かりやすいイメージですね! この世界に近づいてきている感じがします。
寺西:はい。しかし、どんどんやっていくと、次々にやらなければいけないことがたくさん出てきて・・・(笑)。なるべく上のレイヤというか、一般のユーザに近いところがきちんと動くようにしていきたいと考えています。