-実用環境に近い「JGN-X光テストベッド」を活用して-
第9回のJGN-Xインタビューでは、JGN-X光テストベッドのヘビーユーザである原井室長(ネットワークアーキテクチャ研究室)をNICT本部(小金井)の研究室にお訪ねし、最新の「光パケット・光パス統合ノード」を見学させていただいた後、光ネットワーク研究のお話と今後について伺いました。
<インタビューのポイント>
●光ネットワーク研究の概要と研究の進捗状況
●「JGN-X光テストベッド」の利用について
●今後の展開と未来のネットワークデザイン
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───研究室で「光パケット・光パス統合ノード」を拝見しましたが、現在研究されている光ネットワーク研究の課題と目的から教えてください。
原井:光ネットワーク研究所は光通信・光交換の技術開発をしていますが、その中での私たち・ネットワークアーキテクチャ研究室のミッションは、光のネットワーク技術を作ること。さらに、ネットワークは光だけではありませんから、モバイルやセンサーなどのネットワークをつなげるための、いわゆる光も含めたネットワーク構成を確立しようという研究をしています。今回のインタビューではJGN-X光テストベッドの活用ということですから、バックボーンのネットワーク、いわゆる幹線ネットワークの通信速度をどんどん速くするとともに、かつエネルギー効率をよくすること。この2点にフォーカスした研究「光パケット・光パス統合ネットワーク」についてお話ししたいと考えています。(参照【図1-1】)
───通信速度アップという目的はよく分かりますが、エネルギー効率をよくすることが目的というのは、どういうことですか?
原井:今、インターネットのトラフィックが増加しているため、インターネットのパケットをスイッチするルータの消費電力が増加し、省エネという時代の趨勢に逆行しています。そこで、光を使って一定の消費エネルギーで送ることができるビット数を高めることでエネルギー効率をアップし、省エネしようと考えています。トラフィックが増え続けている状況の中では、単純に消費電力の絶対値を下げるとかキープすることは難しいですが、効率がアップすれば全体として省エネにつなげることができると考えています。2010年から5年間の目標で、現在のルータの消費電力と比べて、効率を10~100倍アップしようと考えています。
───5年間の研究で、ルータのエネルギー効率が10倍~100倍ですか!
原井:要素技術としては理論値として10倍効率アップするものが既にありますが、いろいろなものを合わせていくと実際にはロスがあるので、とても厳しいんですね。そこでまず、それらを組み合わせたときにでも10倍の効率化を目指しています。カタログのスペックや自分たちで組み上げた構成の各消費電力を計りながら、スピードを上げたときに何倍になるということを単純計算しながら、10倍の効率化が図れるのではないかと推定しているところです。まだ大きな装置が作れないので、今の技術を使って、研究室の10倍高速の大規模なスイッチを作るという前提で積算しています。
───先ほど研究室で拝見した最新の統合ノードのさらに10倍高速。では、これを組み込んだ光パケット・光パス統合ネットワークとは、どんな仕組みですか?
原井:まず「光パケット」ですが、一つの光ファイバにはたくさんの波長の信号を流せますが、その中で一部の波長10個を束ねて一つの「光パケット」として送れるようになっています。コンピュータ側では一つの波長しか使っていないので、いろいろなところから来るデータを10個同時に処理できる高速の光パケット交換ができるようになります。【図1-2】中の黄色い信号一つ一つ、Packet Sequenceの信号がそれに当たり、この「光パケット」を使って伝送されるものは、家庭でのウェブアクセスやスマホのオフロードでのWiFi、センサーやタグなどのデータに加え、天気予報や見守りなどのサービス情報です。これらトラフィックの増大が見込まれる多種・大量のデータを高速かつ省エネで伝送できます。
これに対して、途中でデータが損失しては困るような高信頼性サービスの場合には、他の人のデータも流すパケット交換ではなく、別の波長を使って、一つの資源を端から端まで一気通貫でつなげる回線「光パス」を提供します。【図1-2】のピンク色ラインの遠隔医療サービスや、青色ラインの高品質画像を使ったインタラクティブな会議などの場合ですね。
こういう2つの異なる「光パケット」「光パス」を統合したノードにより、ネットワークの使用状況やサービスに対応して、それぞれの使用を柔軟に変更・制御できるサービス基盤、光パケット・光パス統合ネットワークを作りたいと考えています。
───なぜ、光パケット・光パスの両方が必要なのでしょう?
原井:インターネットがある以上、パケット交換はなくならないと考えているからです。一部の信号は端から端まで全部光回線にして省エネすることはできるかもしれませんが、その他のパケット交換部分についての省エネ化は、半導体の技術の進展に頼るしかない。それでは効率が悪いので、そこを光化したいというのが、光パケット交換の目的です。今のルータ(参照【図1-3】の上側)は、光ファイバで入ってきた信号をすべて(1)光→電気変換をした後(2)バッファに入れて(3)どこのポートに送ったらよいかという宛先検索を行い、(4)データをスイッチに送り、(5)またバッファに入れて(6)電気→光変換をして光ファイバに送り出します。つまり、赤い部分がすべて電気ですから、これを繰り返すことにより、消費電力が増加し、伝送速度も低下します。これに対して、光パケット交換(参照【図1-3】の下側)は、データの部分はスイッチングも含め、すべて光のままなので、部品も少なくなり、信号の変換ロスがなくなります。この統合ネットワークの目標を2020年としているので、宛先検索部分だけは電子処理をしていますが、ここも既に光で行う基礎技術もできていますので、将来的には本当にオール光にできます。現在でも10波長の処理のうち9波長は光のままで、電気と光の変換が不要です。
───電気と光の変換がなくなると、エネルギー効率がよくなるんですね。
原井:よくなります。また残りの電子処理をしている検索部分についてもルータ消費電力の30%を占めると言われていますが、そのうちメモリに使われる電力が半分の15%。このメモリ消費電力を減らす研究開発もしていて電子処理自体の消費電力も下がっているので、トータルの消費電力も下がっています。(参照【図1-4】)
また、大容量データを流す「光パス」の部分ではインターネットと違いパケット交換は不要で、道を切り替える光回線交換だけなので、もともと消費電力は大きくありません。電子処理を全てやっていると速度限界やエネルギー問題などのボトルネックが出てくるので、光交換にするわけですが、一つ一つの波長にスイッチや増幅器を入れるより、まとめて光で送るときに一つのスイッチや増幅器で処理する方が部品数が少なくて済み、高速性を活かせます。ただ複雑なパケット処理ができない。両方を組み合わせた光パケット・光パス統合ネットワークなら、状況やユーザの目的に合わせてそれぞれを柔軟に変更して提供することで、高速で省エネルギーのサービス基盤になります。
───高速の光ネットワークというと光パスを使った遠隔医療などの利用をイメージしがちですが、インターネットの光パケット交換もできるサービス基盤なんですね。
原井:そうです。光パケット交換は今のインターネットを意識し、高速化・省エネ化を目指しています。
さらに、最初にお話ししたように、実際のネットワークを考えると光だけのネットワークを作って研究していてもダメで、電気や無線のネットワークとつながるようなネットワークを作っていきたいと考えています。(参照【図1-5】)
───ところで、光ネットワークに注目して、研究を始められたのはなぜですか?
原井:もともと私は、ネットワーク理論が専門でした。この研究所で光通信を研究している方たち*1が光の宛先検索技術を研究し、世界No.1の技術成果をどんどん出していたので、その技術と私の理論をうまく併せて一緒に光パケットスイッチを作れないかということで始め、今に至っています。さらにサービスのことを考えると、回線交換=光パケットも入れるべきだと考えて、それら両方を含めた統合型のノード開発を始めたんです。
───光ネットワーク研究所内のコラボレーションですね。
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