【JGN-X研究者インタビュー】『光ネットワークで未来社会のネットワークをデザイン』
|1| |2|
───光パケット・光パス統合ノードの研究にJGNの光テストベッドを利用いただいています。
原井:はい、もう10年ほど利用しています。最近の3年間、JGN-Xになってからは、今お話をしてきた光パケット・光パス統合ネットワークの実験で使っています。
基本的にJGNというのは標準化された通信方式の電気信号のネットワークが中心で、電気のネットワークの実験をしたり、その上で新しいアプリケーションを開発するのに使われていますが、これに対して我々が利用しているのは【図2-1】の「光テストベッド」。単純な光ファイバですが、研究室にあるボビンにまかれた30km・50kmの光ファイバと違い、実際に小金井-大手町間に敷設されているものですから、長距離かつ世の中で使われているのと同じ状態の光ファイバ環境で、我々が考える全く新しい通信方式の仕組みを試すことが可能です。
───具体的には、どのように利用されていますか?
原井:JGN-X光テストベッドは、通信事業者が敷設している一般的な光ファイバを利用しているテストベッドですから、我々がコントロールできる研究室の中と違って時々刻々と状況が変化する可能性があります。そこで安定してデータが得られれば、光パケット・光パス統合ネットワークが実運用に近づくことを確認し、アピールできます。
実際には、大手町に統合ノードの一部(光増幅器と光スイッチ)を置いて【図2-1】の光テストベッドのうち小金井-大手町間の光ファイバを借りるとともに、NICT小金井の研究室に統合ノードを2台置いてボビンに巻いた60kmの光ファイバのリングとつないでネットワークすることにより、各ノード間を4ホップとか5ホップさせて高速の光パケット交換の実験をしていました。(参照【図2-2】)
標準化のITU勧告(ITU-T Y.1541)*1 では「パケット誤り率が10-4(1万分の1)以下」だと品質のよいネットワークと言われていますが、この4ホップや5ホップという長距離の高速実験において、なんと条件のよいところでは10-9(10億分の1)、全体を通じても10-4 以下という安定動作を達成しました。これら光統合ノードの研究開発は、いつもフォトニックネットワークシステム研究室(以降、フォト研)*2 の和田さん達と連携してやっています。
───JGN-X光テストベッドを使った実証実験で、すごく質のよい結果を残されているということをお聞きすると、うれしいですね。
原井:この【図2-2】の中に「The Internet」とあるように、普段はイーサネットでWEBアクセスをしているネットワークの中に統合ノードを導入し、実験用PCからの情報収集などの光パケットを流して動作を確認・運用する実証実験もしました。当然ですが、JGN-Xの光テストベッドも通っています。
また【図2-3】のように、JGN-XのOpenFlowテストベッド「RISE」のOpenFlow Switchを借りて、RISEネットワークとその内部に設置した光の統合ノードとの連携実験もやりました。これはうちの研究室やフォト研だけでなく、JGN-Xの河合さんと一緒に、JGN-Xの光ファイバ、イーサネット、OpenFlowスイッチ、仮想マシンを利用するIP仮想化サービスを使って試したものです。
───本当にこの光テストベッドをたくさん使っていただき、ありがとうございます。ヘビーユーザの先生から見た利点や特長を、これからのユーザにお聞かせいただけますか?
原井:そうですね、本当にこの光テストベッドは、新しい光の通信方式を試す研究者には、お勧めの環境です。実用に近いところで試すことできる点がよいですね。
我々は光パケット交換をやっていますが、電気のパケット交換と違って1/0のデータ通信フォーマットが独自ですので、通信事業者が一般に提供している光テストベッドは使えないんです。我々のように標準化されていない新しい光通信方式を提案したい研究者がより実際に近い環境で実証実験をするのに必要なテストベッドです。
我々も普段の研究開発で、1ヶ月とか3ヶ月の利用を更新しながら使っています。昨年度は光パケット・光パス統合ネットワークの実験を1ヶ月ほどやった後、別の研究開発でこの統合ノードを使っていたので、小金井-大手町間の光テストベッドの利用を一時中断していましたが、今年度からは光パケット・光パス統合ネットワークの実運用に向けて、復活させたいと考えています。
───今年は5年計画の4年目とか。実用化に向けてラストスパートですね。
原井:はい、最終的にはJGN-X光テストベッドを使って、光パケット・光パス統合ネットワークを我々以外のユーザに使っていただき、そのデータを流して安定して動くことを確認していく予定です。要素技術は光ネットワーク研究所の中で安定してきているので、複数のノードを使って、コントローラや監視システムも含めて安定的に動作することを見せていきたいと考えています。実際の利用部分でブラッシュアップするということですね。
そのためにも、まずは我々の成果を自分たちで試すことで、問題点や課題を見つけ、安定化につなげていきたい。そうすることによって実績を積み重ねて、他のユーザに使っていただけるようになると思っています。そのためにこれからは、2芯×8本のうちの2本を常時使っていく予定です。とはいえ我々専用のものではないので、他に利用があれば、そのときはもちろんお譲りします(笑)。
───最後に、未来の社会に向けてどう研究を展開されていかれるのか、原井さんの研究室のお名前でもある「ネットワークアーキテクチャ」と合わせてお聞かせください。
原井:我々の研究室でやっていることは、光だけでなく、その周りの技術を全部つなげていく研究。そのためには、それらをできるだけシンプルに組み立てていく「ネットワークアーキテクチャ(設計概念)」が大事だと考えています。故障・不具合の数は部品が増えるほど増加しますし、ソフトウェアも機能が増えるほど不具合が増加するので、そういうところを減らしたシンプルなネットワークを作っていきたい。そうすれば、無線やモバイルネットワークの研究者、あるいは有線でも将来のインターネットを研究する人たちと同じ方向を向いてやっていくと、将来いざ新しい技術が出来たときに適用しやすく、オペレートするのが簡単になるのではないかと思っています。
同じ方向と言っても、それぞれの研究ごとに目的は異なりますよね。でもシンプルな設計というところでは、例えばIPv4→IPv6のように違うネットワークプロトコルのところに移動しても、一つの機器でデータ通信ができるようなユーザビリティのよいネットワークを作ろうとしています。
───未来のネットワーク社会に向けて、今困っていることの解決ですね。
原井:はい。「移動」という意味では携帯電話の中では解決できているかもしれませんが、それがすべてではありません。たとえばWiFiを使っている人達が違うネットワークに移動した場合でも、スムーズな通信ができればいいと考えています。
また、ネットワークを最初に構築するときの管理側の負担も大きいんですね。この負担を、ある程度の「自動化」によって減らしていくことも未来のネットワーク社会では重要だと考えています。例えば、1週間掛かっていた構築が、2日あるいは1日ちょっとでできるようになれば、必要なときに素早い対応が楽にできるようになります。実際に作っている専門家に聞くと、4日間かかっていたのが半日と言っていたので、1/8になるかもしれません。
───ユーザビリティとしての「移動」しても切れないネットワーク、管理側の「自動化」によるネットワーク構築などは、未来のネットワークとしてSDNなどの技術とも通じるものがありそうですが・・・
原井:すぐには難しいですが、未来のネットワーク社会に向けてそういう技術も光パケット・光パス統合ノードにも入れていきたいと思っています。
まずは統合ノードをJGN-Xに入れ、安定して動作させていった上で、管理側の使い勝手をもっと良くしていきたい。そのためには、光ネットワーク以外の研究とも協力していき、それらの技術が応用できるのではないかと考えています。
───光パケット・光パス統合ネットワークの目標は2020年にしているお話が先ほどありましたので、今後の研究の予定を教えてください。
原井:この2年間は、2016年の次期JGNテストベッドにこの統合ネットワークを導入できるよう、それに向けて運用試行と機能安定化を図り、技術的にできることを示していかなければと思っています。2016年になって「できました」と言っても導入はできませんから、この2年かけて徐々に技術をアピールしていきます。(参照【図2-4】)
また、2020年目標というと、東京オリンピックに向けてという答えを期待されているかもしれませんが・・・(笑)。2006年、未来のネットワーク社会に向けて新世代ネットワークをつくるという開発目標をたてたのですが、そのターゲットが2020年だったんですね。そのときまでに新世代ネットワークを作るため、今はJGN-X上で安定して動作する光パケット・光パス統合ネットワークを作っていくというフェーズです。そして2016年からの5年間では、限られた地域になるかもしれませんが、次期JGNテストベッドに導入して多くの方に使って試していただき、未来のネットワーク社会に必要な新世代ネットワークの実現に向かっていきたいと考えています。
───原井室長、ありがとうございました。そして、これからもJGNの光テストベッドを利用して、未来のネットワーク社会に向けて本研究をどんどん進展させていってください。よろしくお願いいたします。
【JGN-X光テストベッド及びこれらの技術に関するお問い合わせ先】
jgncenter@jgn-x.jp
|1| |2|
NICT小金井の豊かな緑を背景にして
原井室長にインタビュー
【図2-1】
『JGN-X光テストベッド』環境
【図2-2】
インターネットに接続する
アクセス回線に光パケット・光パス
統合ノードを導入・運用
*1:ITU-T Y.1541とは
ITU-Tは、International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sectorの略で、国際電気通信連合の部門の一つで、通信分野の標準策定を担当する「電気通信標準化部門」のこと。ITU-Tの勧告Y.1541では、IPネットワークの各種品質クラスを規定している。
ITU-T Y.1541の品質クラスと
品質規定値はこちらへ▼
*2:フォトニックネットワークシステム研究室とは
原井室長のネットワークアーキテクチャ研究室と同様、NICTの光ネットワーク研究所内の研究室の1つ。和田さんは室長。
【図2-3】
JGN-XのRISEにおいて
OpenFlow連携の実証実験を実施
資料を使って説明する原井室長
【図2-4】
高速で省エネルギー、高利便性の
多様なサービス基盤を提供する
光パケット・光パス統合ネットワーク
の進化<2011~2015年>