-地域の協同における「JGN-X」の果たす役割-
第12回のJGN-Xインタビューは、愛媛県松山市を訪ね、JGN2時代から積極的に活用していただいているJGN-Xユーザの皆様にお集まりいただき、ICTの地域活性化の秘訣と実績についてお話を伺いました。
また、座談会に先立ち、都築先生の研究室と中村社長の会社を訪問し、現在の活動状況についても見学させていただきました。
<座談会のポイント>
●活発にICT活用をされている松山地域の現状と産学官連携
●JGN活用と役割について
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───松山市では積極的なICT活用が進んでいるとお聞きしていますが、その秘訣をぜひ教えてください。
都築:どうなんですかね。多分ICTというキーワードで出てくる登場人物は、実は顔が見えているということが大きいんじゃないですかね。街のサイズからして、何かやろうと思ったときに「こういうことだったら、あの人に相談しに行けばいいかな」とかいうように人の顔が見えていてね。ちょうどサイズ的にも大都会でもないけども、限界集落でもないし、それなりに経済活動もあるので、ICTのネタもやっぱりあるし・・・。
───今日の御三方も含め、松山市は気心が知れたメンバーが集まっているというところが大きいわけですね。そのきっかけは何だったんでしょう?
都築:それは10年ほど前、きっかけは「ブロードバンド松山(以下、BB松山)」ですよね。光ファイバーを松山に引きまくろうという話からです。
柴田:当時の中村市長(現・愛媛県知事)のときに、独自予算で第1種通信事業者の3社、NTT西日本・STNet・愛媛CATVに補助金を出し、市内に光ファイバーを整備しようという施策*1があったんです。それに乗る形で、弊社も「BB松山」という低廉化サービスを開始し、当時、松山市の全小中学校、愛媛大学のキャンパス間ネットワークを光ファイバーで安く高速で結ぶ事業を展開したことがはじめですね。
中村:そう、3,000kmです。松山市内を総計3,000kmの光ファイバーで網羅しようという計画でした。
都築:各社ともそれぞれが多様なサービスができるくらいに、潤沢に光ファイバーを敷設しましたよね。そこで「高速回線が折角整備されたなら、それに見合うコンテンツやサービスを充実させよう」ということになり、メンバーが集ったんです。
───10年ほど前は、今と違って光ネットワークサービスが本当に高かったですよね。
都築:そうなんですよ、そういう意味で松山市の決断は良かったですね。
中村:それといいメンバーが集まって続けてこられたのは、人的な要素も重要でした。その中心になったのが都築先生です。当時、JGNのアクセスポイントが愛媛大学にあり、我々一般企業が全国とつなぐためには愛媛大学でJGNとBB松山を結ぶ必要があり、重要なことでしたが、都築先生がそのときに我々の要望に応じてオープンな形でつないでくださったことが大きかったですね。他の大学や公共機関ではできないことで、セキュリティ問題とか学内ではかなりご苦労なさったんだと思いますが・・・(笑)。
都築:接続のためにはキャンパスネットワークの上に外部ネットワークを重ねる形で運用するので、スイッチを触らなくてはなりません。当初3回ほど、その調整のためにキャンパスネットワークを止めたこともありました。
中村:そうなんです。相当リスキーな仕事ですから、とても勇気が必要です。ですから、いろいろなイベント等で使う折には、まず都築先生中心に、まずご相談をしてからのスタートになります。都築先生ありきですね。
───都築先生は大変だったと思いますが、その心意気にメンバーの結束が強まったんですね。その人的なネットワークの中で協力してコンテンツやイベントを実行していったきっかけは何だったんですか?
柴田:まず、なんと言っても中村社長の強力な要請、"押し"が大きいです(笑)。坊っちゃん列車を3Dで撮影してCEATEC会場のNICTブースでライブ中継するイベントなどがいい例ですが、要所要所にある弊社の光ファイバーの出口を活用しつつ松山市の協力を仰ぎながら、全て中村社長の剛腕で愛媛大学・各企業の協力をまとめていくというスタンスでした(図1-1参照)。
【図1-1】
CEATEC JAPAN 2010における立体ハイビジョンIP伝送実証実験「道後坊っちゃん列車のLive中継」
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都築:あの時期にやはり「DV-CUVE」(FAシステムエンジニアリング製、以下FASE)の開発とマッチしたのは、大きかったですよね。コンテンツと言っても、テレビ会議システムみたいなハードウェアをちょうどタイミング的にやっていて、それを使いながらですね。
【写真1-1】
FASE製の「DV-CUBE」
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───産学官の協力関係の素晴らしい例ですね。動くモノの3D映像というのは迫力がありますが、撮影は大変だったでしょう?
中村:松山市には道後温泉・松山城・坊っちゃん列車などの誇るべきコンテンツがたくさんありますが、中でも特に動きのある坊ちゃん列車の3D映像伝送についてはその迫力で、CEATEC会場でも5日間で6,000人を超える盛況ぶりでした。この3D映像伝送のイベントはJGN2plusを使ってインターネット経由で行いましたが、日本初の試みでしたね。また3D映像の撮影については、2台のカメラを同期した3D立体カメラを用意し、3D撮影に熟練した専門家が担当したので、技術的には全く問題がなかったです。これは超臨場感フォーラム「URCF*2」のメンバー企業と、愛媛大学の都築先生と愛媛CATVとのコラボ、協同によるイベントでした。
───全国のCATVの中で、愛媛CATVさんほど積極的にこういうイベントに参加し、細かく動いてくれるところは少ないのではないでしょうか?
柴田:そうですね。たぶん特殊だと思います。
中村:いろいろな地域を見ていますが、ピカイチだと思います。光回線が3,000km敷設されていても、ラストワンマイルの接続は本当に大変です。道後温泉本館も国の重要文化財ですし、坊っちゃん列車の撮影場所からもダイレクトに光回線につなげることはできないので、端末側でいろいろ工夫をしなくてはいけませんが、そういうときには柴田さんを中心に愛媛CATVさんがフットワークも軽く我々の要請に協力いただきました。今はセキュリティが厳しく、全国のどこに相談に行っても「だれが責任を取るのか」と、聞く耳を持たないところがほとんどですが、これに対して松山では、愛媛CATVさんも都築先生のところもリスクを負ってチャレンジしてくれます。それぞれたくさん始末書を書いたかもしれませんが・・・(笑)。
柴田:いえいえ、そんなことはありません。
都築:あれは、愛媛CATVさんの社風ですか?
柴田:当時、社長の神山(現会長)から「教育機関には手弁当で行け。儲けるな」と言われていましたし、実際にいろいろな活用を一緒にやっていく中でとても勉強にもなりました。当時は一般のインターネットではDV-CUBEを使った映像伝送は難しかったのですが、我々のように光ファイバーを持っている業者ならできるという状況でした。ですから、一歩先んじる形で広帯域のアプリケーションをテストできるということは、弊社にとって有意義な実証実験だったと思います。
───皆さんのチャレンジする熱意もさることながら、手弁当でも、実証実験に参加するのは有意義だったということですね。
都築:FASEさんなんか、相当手弁当してたんじゃないですか?
中村:先行投資、先行投資の連続ですね。しかし、使ってみて機材の不具合の確認とか3D映像の作り方とかいろいろ研究するところはたくさんありますから、実証実験としては大成功と言えますね。
都築:僕の研究には、役に立ったかなぁ(笑)。少なくとも人脈はすごく太く長くなったような気がします。やはり、いろんな人とイベントや行事を通して知り合えたし、勉強になりましたね。論文になったかどうかはクエッションマークがつきますが・・・(笑)。
───今までは皆さんの連携のお話を伺ってきましたが、その中でJGNをどのように利用、活用されているかという実績について、お一人ずつ教えてください。まずは都築先生からお願いします。
【図1-2】
JGN-XのIP仮想化サービスを活用して小中学校の環境データを収集、ビッグデータ処理しているコンテンツ「校区のお天気」のTOPページ
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都築:実績はほとんどこの3人でやっている、いわゆる動画を伝送してコミュニケーションを図るとか何かを伝えるというようなイベント利用がほとんどでしたよね。JGN-Xになってからはそういうことがやりにくくなったこともあって、ちょっと止まっています。
今は、また愛媛CATVさんと一緒にやっているんですが、環境情報をセンシングして集めてきて、今で言うビッグデータ処理をして市民に返すというプロジェクト(気象情報サービス『校区のお天気』*3、図1-2参照)を、JGN-Xのパートナーシップ・サービス「IP仮想化サービス」の仮想化ストレージを利用してやっています。その当時からすると今やっていることは様変わりし、イベント的に利用するというより24時間ずっと使いっぱなしです。
【写真1-2】
小中学校の環境データ収集に
使われている学生手作りのセンサー
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ただ、愛媛CATVさんと一緒にやっていることは、根っこは同じです。市内の小中学校のネットワークを愛媛CATVさんが押えているので、市内の小中学校センサー(写真1-2参照)を置かせてもらったセンサー情報の回収を一緒にやろうとしていました。結果的には使えなかったんですけども・・・。逆にいうと、FASEさんの方との関係が薄くなっているんですよ、医療関係(後述)はしていませんから(笑)、疎遠になっています。
───ビッグデータ処理というお話ですが、先ほど都築先生の研究室で拝見したように、小中学校の環境データをJGN-Xの仮想化ストレージに毎日24時間集めて処理しているんですね。
都築:はい、今はまだ集めるところで精一杯ですが、集めた情報をもとに各地区の天気予報をより正確にする、あるいはまだ商用のサービスはないですが、電力自由化を見越して発電予想をするとか、あるいは自宅のライフサイクルを学習しておいて上手に節電をするとか。そういうエネルギーを上手く使うことが僕的には一番やりたいことなんですが、そのためには環境データの収集をきちんとしておきたい。
学校のデータですから、ビッグデータと言ったらいいのかオープンデータと言ったらいいのか分かりませんが、とにかくデータを貯めておいて、自分たちだけでなく他の人も使えるようにしておいてあげれば、思わぬ利用価値もあるかもしれない。日本のエネルギー政策がどうなるかは分かりませんが、今地方に問われているのは、自分たちのエネルギーはどうやって確保するんだということです。微力ですけれども、僕も考えたいなぁと思っています。そういうエネルギーの安全、気象がらみの安全とかですね。
もう1つ言いたいことは、松山ってとにかく気象災害がないですし、温暖なんですよ。でも、住みやすさが数値化されていないのがちょっと悔しくて(笑)、「こんなに平和な町なんですよ」ということが環境データを集めることで言えたらいいのかなぁと思ったりしています。今はお願いして広島市にもNICTのセンサーを置いているので、手続中ですが、一緒にデータを取らさせてもらう話を進めていて、ちょっとした比較ができるかもしれませんね。
───この環境データが地方のエネルギー政策や松山市のアピールにもつながる・・・。社会貢献ですね、面白いです。
ところで、ビッグデータとオープンデータの違いはなんですか?
都築:ビッグデータと言ってしまうと、データを処理して新しい付加価値をつけてサービスをするところまで思い描けていると思います。それに対してオープンデータは本当にオープンなので、「自由に使ってください」「面白いアプリを作ってね」という考え方です。とにかくデータが大きすぎるので、味付けを決めてから料理しないと難しすぎると思うんですよね。ですから、オープンデータの方がいいかもしれないですね。
───センサーで収集するデータはどんどん増えていきますし、広島市のデータも加わるので、ますますJGN-Xの「IP仮想化サービス」の仮想化ストレージを活用いただくことになりますね。ありがとうございます。
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座談会の会場は愛媛大学
愛媛大学の都築准教授
*1:松山市はIT通信関連分野を中心に都市型産業の振興を図る目的で、2002年3月、産業振興ビジョン「e-まちづくり戦略」を策定。その産業基盤として、市内の通信企業に経費の2分の1(幹線は4分の1)を補助する3年限定の光ファイバ早期整備事業を創設した結果、実質的には2年半で市内に3,000kmを超える高度情報基盤が整備され、市内全域で「光サービス」が利用できるITビジネス環境ができた。
●松山市における光ファイバを
活用したブロードバンド整備
3D伝送の実証実験について説明する
FASE・中村社長
*2「URCF」: 正式名/超臨場感コミュニケーション産学官フォーラム(Ultra-Realistic Communications Forum)
超高精細映像・3D映像、立体音響、五感通信などの技術を活用して遠隔地の人と同じ場所を共有しているかのような感覚でのコミュニケーションや、従来とは次元を異にする臨場感を持ったコミュニケーションを実現するため、関連する研究者・事業者・利用者などが広く参集。情報交換や交流を行いながら研究開発・標準化等を効率的に進めて行くことを目的に、2007年3月に設立された。
【詳細はホームページ参照】
*3「校区のお天気〜学校向け気象情報サービス」:
松山市内の小中学校区(2014年現在25校)における、天気予報、一日の気温・降水量の変化、地域による天気、降水量の変化、発電状況を提供するサービスで、理科の授業などに利用されている。
都築先生が研究で利用されている
『IP仮想化サービス』の
リーフレット
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