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───都築先生にまずJGNとの関わりをお聞きしましたので、次は柴田さん。愛媛CATVさんとJGNの関わりはどんな感じでしょう?
都築:十分に関わっていますよね!
柴田:はい。現在、四国のJGN-Xアクセスポイントは高知と香川大学にありますが、松山でJGN-Xを利用する際には弊社の光ファイバーと高知工科大学・菊池先生のナインレイヤーズ*1の光ファイバーをつなげる役割を果たしています。JGN2・JGN2plusの時代は、中村社長と一緒にDV-CUBEを使って映像伝送をやっていました。もちろん時代とともに復号化や画角が変わり高精細化してきましたが、我々の基礎はそこから始まっているんですね。そこで「ネットワークの揺らぎやパケットロスに弱いので、FEC(Forward Error Correction、前方誤り訂正)をかけて誤りを訂正する」などの事実と技術を学び、CATV間の映像伝送などにも活かされ、現在のサービスにつながっています。
また都築先生のお話にあった電力についても、これからのCATV事業のテーマの1つになると考えています。既に東京のMSO*2の中には、マンションに電力を売ってるところもありますし、HEMSのようにリモートからエアコンをコントロールできるようにしているところもあります。愛媛CATVとしてもJGNに関わりつつ、固定回線事業社としてインターネット以外にもサービスを拡大していっています。
───CATVは本来テレビのサービスだったはずですが、インターネットが追加されただけでなく、さらに電力サービスも開始。サービスがどんどん広がっているのは、お客様も便利でうれしいですよね。
都築:もうひとつ、電話サービスもありますよね。
柴田:はい、ケーブルモバイル(スマホ)のMVNO*3も既に始めていますし、愛媛CATVはお客様が求めることをワンストップで提供できる事業体になっていく必要があると思っています。近年、電力のスマートメーター普及にあわせて電力の自由化も進むと思われます。現在、都築先生と一緒に取り組んでいる研究の延長線上で集めた情報や、家庭内の各種センサーで集めた情報を整理・加工し、社会のために活用することはできないかと考えています。
───社会に貢献しようという前向きの姿勢が、松山市のICT活動・交流が盛んになる原動力なんですね。その中でも、一番強烈なパワーでプッシュしていたのが中村さんでしょうか?
【写真2-1】
3D裸眼モニターに映し出された
2種類の手術映像
(左:内視鏡を使った腎ガン切除、
右:開胸による心臓バイパス手術)
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【写真2-2】
オフィスにて、裸眼3Dモニターと
手術の裸眼3D映像について
説明する、FASE・中村社長
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中村:先ほども弊社の方でご覧いただきましたように、今は3D映像伝送については医療分野に注力しています。JGN2plus当時は、道後温泉・坊っちゃん列車など松山市の観光施設を3D映像で中継したイベントで盛り上がり、実はテレビ放送を3Dでということを目論んでいたんですが、こちらはなかなか難しくて・・・。しかし、3D映像は医療現場における手技の勉強など教育面で有効性を発揮し、多くの大学や医療現場の先生方から支持され、ビジネスにつながっています。特にロボット手術の場合は執刀医しか手術部位の3D映像を見ることができないのですが、それを取り出して同じ臨場感で見ることができる技術を開発したのが、大きいですね。
また、ここに通信を融合させると僻地医療・遠隔医療など、中山間地域の医師の方々にブロードバンドを通じて手技を3Dライブで見ていただいたり、双方向の3D映像でコミュニケーションを図ることができるので、JGN-Xを使った社会貢献の可能性もあると思います。
───3D映像コンテンツは医療現場のトレーニングやシミュレーションで有用性が高い。さらには、通信と3D映像という組合せはゲームと思いがちですが、遠隔医療などでも3D映像が役立つ感じなんですね。
中村:十分ニーズはありますね。実際、そういうイベントをやってほしいという要望も多々上がってきていますが、かなり費用も掛かりますし、病院同士をつなぐためにはラストワンマイルも大変なんです。それと医療関係はセキュリティが厳しいんです。手術映像やカルテなど個人情報だらけですから、病院の事務長からNGがどうしても出るんですね。それで病院内LANにつなぐのはやめ、たとえば2012年にdaVinciという手術用ロボットを使ったすい臓腫瘍切除手術の3D映像を藤田保健衛生大学病院手術室(愛知県豊明市)から徳島大学大学院・医学部講義ホール(徳島市)まで生中継したとき(図2-1参照)には、両大学病棟屋上にそれぞれ移動式の小型アンテナを用いたVSATを用意してNICTのWINDS衛星「きずな」を介してつなぐ方法を取りました。世界初の試みでしたが、病院内のセキュリティ確保のため、屋上~手術室や屋上~講義ホールをつなぐラインは建物の外側を這わせて窓から室内にある機器に接続するなど、ラストワンマイルをクリアするのは本当に大変でした。でも、視聴した先生方からも「3D裸眼ハイビジョンライブ映像の奥行・色が自然で患者の腹部の中に入っている感覚。鉗子の使い方や止血技術に感動した」という声が挙がるとともに、執刀医からは「理論的には複数の場所に同時中継できるので、教育効果が高い」という期待も示していただきました。
【図2-1】
WINDS衛星を使った手術用ロボット「daVinci手術」3D裸眼映像ライブ伝送実証実験のイメージ
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───個人の医療情報を伝送するには、高いセキュリティが必要とされていますね。ましてや手術の映像を流すのは、大変でしょうね。
中村:病院同士は大変ですが、シンポジウムや学会ですでにコンテンツとなっている3D裸眼ハイビジョンコンテンツを発信するだけなら、匿名化されていますし、セキュリティもそれほど心配することはありません(図2-2参照)。なんと言ってもコンテンツを、情報を発信するということが重要です。相手側がいることですからどう受け取ってもらうか、そのための発信手法の分野が今後重要視されてくるでしょうね。
ただセキュリティがどんどん厳しくなるのが世の中の趨勢です。そういう中ではだれもリスクを冒してまで責任を取りたくないですが、ネットワークのオープン化とともに人の考え方のオープン化ということも大事だと思います。
【図2-2】
JGN-Xを活用した遠隔医療3Dナビゲーション双方向伝送実証実験のイメージ
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───医療だけに限定することなく、コンテンツを発信していくことが大事なんですね。
中村:もちろんです。松山市に限定すると、コンテンツも人的ネットワークもあり、チャレンジ力が旺盛なメンバーがたくさんいますので、コンテンツ発信には最高の土地柄だと思います。
松山からNICTさんのJGN-XやWINDS衛星を使って、どんなコンテンツを発信していけるか、これからのチャレンジですね。
もちろん国内だけでなく、将来は海外もターゲットにしていきたいですね。
───このメンバーで松山市から世界に発信、いいですね。その際には、JGN-Xには国際回線もありますから、皆さまのお役に立てるのではないかと思うのですが・・・・
柴田:実は、弊社ではコンテンツの海外輸出にも取り組んでおり*4、総務省の助成金でシンガポールの公共放送で松山のコンテンツを放送したことがあります。編集前の非圧縮映像ファイルを送ろうとすると、大きくてとても大変だったんですが、確かにそういうときにJGNを使うというのはいい案ですね。
これからのJGNの使い方として、海外への発信はあると思います。無料*5で使えるということは大きいですね。
中村:ただ、無料で使えるからこそ、リスキーというか、必要な心構えもあると考えています。それは、イベントで使わせてもらうには当たり前の実証実験ではダメで、ハードウェアやコンテンツも含め日本一・世界初などというトピックス性・社会貢献性を持った内容でなければならないということ。JGNは魅力的であるが故に、そこが利用の壁の一つにもなると思います。
都築:ただ、超高速・無料というJGNの特長は以前ならインパクトも貢献もありましたが、今はそれだけだといろいろなニーズに応えきれていないのではないかと思います。使い方によるんですね。超高速やセキュリティの研究にはネットワークという土管の提供は大事でしょうが、松山というか四国では超高速の実験はできないですし、波長多重のようなものはできないですよね。地方において、NOCとしてJGNがこれから果たすべきことは何かということを考えると、その超高速という役割だけではないような気が若干しています。
───なるほど、JGNが地方でアピールすべき役割ですね。では、最後に、松山市のようにICTで地域を活性化するには、どうしたらよいか、地方におけるJGN活用のアドバイスをお願いします。
中村:私としては、JGNが都市圏中心の存在に感じられることが気になっています。都市圏、特に東京圏に産業が一極集中していては、地方の産業が大きくならない。地方にいても都市圏にいるのと同じように活動していくためには通信がキーとなりますので、JGNは重要で、かつ果たすべき役割が大きいと思うのです。地方だからこそ、研究や実証実験でJGNを利活用していくことが産業活性化のきっかけになると考えています。そのためには、JGNの幹線と各地方のネットワークをつなぐことが重要になりますが、松山では愛媛CATVさんがその役割を果たしてくれています。
柴田:弊社のBB松山の場合は、自社の光ファイバーに加え、NTTさんのダークファイバーも借りてサービスを行っているので、早い時期から松山市内の全小中学校をネットワークすることができました。この考え方で行けば、今なら他の地域でも同じことができるはずですので、試していくと良いのではないかと思います。
都築:このおかげで松山市の小中学校のネットワーク環境は恵まれていて、かなり早い時期に構内LANも構築できましたよね。
僕らがこれら小中学校の環境データを集めるためにJGNで使わせてもらっているのは、「IP仮想化サービス」。大変助かっています。従来ですと回線だけしか借りていませんでしたが、今回はVM(仮想化マシン)も貸していただいています。学外で収集したビッグデータを処理する場所として使えるのはありがたいですね。また全国につながるネットワーク上で作っているので、広島などに横展開する際にも地方間でのデータのやり取りがスムーズに行えるのもメリットです。松山だけでなく各地域でも、新しいサービスと全国に広がるネットワークとを組み合わせることで、いろいろな研究や活動に活用していけると思うんです。
ただ、JGNでは今たくさんのメニュー*6を作っていらっしゃいますが、どんなサービス内容なのか特長や使い方がよく分からないんです。そのあたりを改善してほしいですよね。もうちょっと分かりやすくアピールしてくれれば、使いたいという人がもっと出てくるのではないでしょうか?
ぜひ、よろしくお願いします。
───松山市の皆さまのように、JGNを研究や実証実験に活用することが地域の活性化へのきっかけになるということ。そしてそのためには、JGN側も使い方や新しいサービスについてもっとアピールをというアドバイスもいただきました。今日は、ありがとうございました。
これからもJGN-X及びパートナーシップ・サービスを活用いただき、今以上に松山市のICT及び産業が活性化することを楽しみにしております。
【JGN-Xパートナーシップ・サービス及び
これらの技術に関するお問い合わせ先】
jgncenter@jgn-x.jp
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JGNを活用し、都築先生・中村社長
と協働してきたことが事業に役立って
いると語る、愛媛CATVの柴田さん
愛媛CATVの本社
*1:高知工科大学内にある有限会社。菊池教授が2004年に地域情報化サイクル研究室を開設するとともに、有限会社ナインレイヤーズを設立。同時に「高知IXサービス」を開始した。現在は中距離Ethernet、ASPサービス等も行っている。
*2「MSO」:
Multiple Systems Operatorの略。ケーブルテレビ局を運営している事業者の中でも、複数のケーブルテレビ局を統括して運営している事業者のことを言う。
*3「MVNO」:
Mobile Virtual Network Operator(仮想移動体通信事業者)の略。携帯電話などの無線通信インフラ(ケータイやスマホに電波を送るための基盤のこと)を自社で持たず、他社から借り受けてサービスを提供する事業者のことを言う。
*4:愛媛CATVは映像コンテンツ国際見本市MIPTV2014(仏・カンヌ)の日本ケーブルテレビ連盟ブースにおいて作品を出展するなど、地域芸能文化を積極的に世界に向けて発信。
これにより2015年3月、デジタル・コンテンツ・オブ・ジ・イヤー'14/第20 回記念AMD アワードにて、「魅力ある愛媛の演劇コンテンツを海外へ ~新たなビジネス展開と文化芸術の交流に向けて~」でリージョナル賞を受賞している<日本ケーブルテレビ連盟会員のケーブルテレビ事業者の受賞は初めて>。
第20回記念AMDアワードで
愛媛CATVがリージョナル賞を受賞
(写真:cbaニュース提供)
*5:JGN-Xは、新世代ネットワークの研究開発に係る目的であれば原則として誰もが利用でき、無料です。
ただしアクセスポイント等に接続するために必要な回線等の費用は、利用者負担となります。
*6「JGN-Xパートナーシップ・サービス」:
●IP仮想化サービス
(仮想マシン・ルータ等)
●SDNサービス
(RISEの名称でJGN-Xに実装)
等、様々なサービスをご提供しております。