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JGN-Xインタビューvol.013

JGN-Xユーザ・インタビュー
  『8K超高精細の映像伝送とその未来
     -2020年のオリンピックイヤーを超えたその先へ-』

< 8K非圧縮映像のIPマルチキャスト伝送や編集が当たり前の世界へ >

第13回JGN-Xユーザ・インタビュー 倉敷芸術科学大学の小林和真教授(右側)と神奈川工科大学の丸山充教授(左側)
■倉敷芸術科学大学 産業科学技術学部 経営情報学科  教授/小林 和真氏(右側)
     <当センター テストベッド研究開発室 主任研究員も兼務>
■神奈川工科大学 情報学部 情報ネットワーク・コミュニケーション学科  教授/丸山 充(左側)

第13回のJGN-Xインタビューは、2014年の「8K非圧縮映像"さっぽろ雪まつり"の超高速伝送実験」に続き、2015年2月に「8K非圧縮映像“さっぽろ雪まつり”の超広帯域IPマルチキャスト伝送実験」に世界で初めて成功されたJGN-Xユーザ、小林教授(倉敷芸術科学大学)と丸山教授(神奈川工科大学)のお二人にNICT大手町にお越しいただき、超高精細の映像伝送とその未来について、お話を伺いました。
また、今話題の8K非圧縮映像については、Interop Tokyo 2015(幕張メッセ)において、神奈川工科大学のブースをお尋ねし、実物の美しさ・リアルさを拝見させていただきました。



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1. 「世界初!」につながるモチベーションとスピード感
― 目的に向かってないものは作り、技術や機材があるものはチームを組織して解決 ―

───世界初「100Gbps上における、8K非圧縮映像のIPマルチキャスト伝送実験*1」のご成功、おめでとうございました。先生方が研究されているIP映像伝送研究の内容や目的を教えてください。

小林:本当のことを話していいんですか(笑)。僕がこの映像伝送を始めた目的というかきっかけはNICTに入る前、奈良の大学院に進学したときに大阪から生駒市内にある大学寮に引越したことからなんです。不幸なことに、9時20分過ぎに始まるリレーナイターの阪神タイガース戦が見られなくなってしまったんですね。生駒の街も大学院も良かったんですけれども、これが非常にショックでして、リレーナイターをやっている兵庫の独立放送局の映像を何とか生駒で見られないかということで始めたのがIP映像伝送なんです。

───大阪の方たちにとって、それは大きなモチベーションです!

小林:僕は自分が阪神戦のテレビを見たかっただけですから、ワークステーションにMPEGのエンコーダとデコーダを使って大学間に高速回線を引いて映像伝送に成功し、「やった! 映像が映ったぜ!」となったんですが、流すコンテンツの権利問題については考えておらず、当たり前ですが、しっかり怒られたわけです(笑)。そこで学習して、阪神戦の権利を持たれている在阪の各放送局と仲良くして共同で研究・実験をすることにより、阪神球団の了解を得てスタートしたのがIP映像伝送実験で、それがNICTのさっぽろ雪まつりにつながるんです。ただこの実験を始めると、幕張でのイベントや米国出張など、阪神戦が見られない場面も増えていき、「幕張や米国でも見たい」「球場に入るときと同じようにきれいに見たい」と欲求はつきないわけです。そうなると、技術力・予算・機材など足りないファクターがいろいろ出てきますが、これらを全部個人で解決するのは無理なので、チームを組織していくわけですね。その中で巻き込まれた人たちのうちのお一人が、丸山さんです。

丸山:いえ、そんなことはないです(笑)。では、私もIP映像伝送を始めたきっかけをお話ししましょうか。大学卒業後、1985年にNTTの武蔵野研究所に入ったんですが、今と違ってあの時代は全社あげて「これからはOSI*2のプロトコルだ」と言って、IPは主流ではありませんでした。でもIP技術が面白いなぁ・素晴らしいなぁと思って「5時以降は好きなことをやらせてください」とお願いし、アングラIPをやっていました(笑)。その後、1998年頃、レイヤー2の新しいプロトコルMAPOS*3の開発に加わりました。NTTの持つ全国のネットワーク上に、うまくIP網をのせるという仕掛けです。当然対応する機材はないので、自分たちでカードやスイッチなどを作り、2.4Gbpsを簡単にハンドリングできるシステムにしたんです。でも上司からは「高速ネットワークはいいけれど、誰が使うの?」と言われるわけですよ。そこでプロモーションをしていくと、たまたま放送局さんで1.5Gbpsの映像インタフェースを同軸ベースで利用していることを知り、「それを光ファイバを使ったIP映像伝送で送りましょうか?」ということで、2001年頃から始めたんです。HD-SDI*4という信号をパソコンで送るということを世界初でやらせていただき、InterBEEという放送局の展示会で発表しました。そのとき、「こういうのが欲しかった」という放送局が他にも結構いらして、「それじゃあ、もう少し継続しよう」ということになり、今までの流れになっています。

小林:その1.5Gを送れる光回線を持っていた放送局が、在阪のあの局でしょう?

丸山:そうですね、いろいろなリンクが重なって・・・。

小林:そこがそんな高速ネットワークを持っていたのは、一緒に実験をしていた僕にそそのかされたからなんですよ(笑)。

───そこからお二人がつながっているんですね。「ないものは自分たちで作ろう」というのは、先駆者の考え方で、素晴らしいです。

丸山:それが普通だと思うんですど・・・。

小林:エンジニアリングは普通はそうです。ないから作りたいというより、ないから仕方なく作るんです。やりたいことはちゃんとあるので、その目的を実現するために、欠けている技術を埋めていくんですね。

───なるほど。目的を実現するために、先ほどの小林先生のお話にあった「チームを組織して埋めていく」という話につながっていくわけですか?

小林:はい、そうです。実際に2015年2月の雪まつりプロジェクトには、約40機関・100人以上が参加しています。一番多いときには79機関・200人ぐらいが参加していましたね。

【写真1-1】プレハブ内の機材と8K映像の撮影風景(2014年2月)
【写真1-1】プレハブ内の機材と8K映像の撮影風景(2014年2月)
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丸山:4Kの前、HDをやっていたときですから、4年くらい前。プレハブに人が入りきれないくらいでしたね。

小林:現地では、雪像を制作する自衛隊が作業基地として利用していたプレハブのうち、1~2棟をお借りし、ネットワーク機材や光ファイバ、電源などを引き込んで実験をしています。

───100~200人もの方が雪まつりプロジェクトに関わっているんですね。でも、プレハブに入りきれなさそうですね。

小林:毎回、札幌だけでなく日本全国に散って実験に参加していますし、海外へも映像伝送を行っていますから、人数的には問題ありません。2015年2月の雪まつりではタイまで4K国際伝送しましたが、雪まつりの国際伝送のうち、今までで一番多くの国に送ったのは韓国・シンガポール・タイ・スイスの4か国に送ったときですね。また、私が関係しているNICTのプロジェクトで一番遠くに伝送したのはたぶんスイスで、総務省で推進しているLIME*5の実証実験デモンストレーションをジュネーブのITU本部の幹部に見せたいということで行ったときでした。またNICT以外の実験を含めると、私が関与した実証実験では、ネットワーク的に一番遠かったのは、COP4*6のアルゼンチンですね。

2014年2月の「8K非圧縮映像”さっぽろ雪まつり”の超高速伝送実験」のイメージ
【図1-1】全国に参加者が広がる実験イメージ
(2014年2月「"さっぽろ雪まつり"の超高速伝送実験」の実験概要)
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【図1-2】「8K/4K非圧縮マルチキャストと100G対応選択的高精度分析」の実験イメージ
【図1-2】「8K/4K非圧縮マルチキャストと100G対応選択的高精度分析」
     の実験イメージ
(2015年2月「"さっぽろ雪まつり" 8K非圧縮映像のIPマルチキャスト伝送実験」)
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───阪神戦にしろ、やりたいことを実現していくモチベーションとスピード感は素晴らしく、そして世界初につながっているのは面白いです。

小林:例えば、阪神戦が見たいぞと一生懸命にやった技術は、ニュース番組の中継でこっそり使われ、世界初のインターネットを使ったテレビ中継にもなりましたし、そこから後も「これが世界最初!」というものをずっとやり続けています。そのときに足りない技術は、自分たちになくても既に他にあるものならそれを使えばいいんです。例えば4Kカメラや8Kカメラは、僕らは作っていません。既に世界初の超高精細カメラに挑戦している人たちがいるのだから、チームを組めばいいと思っています。ディスプレイも同じです。高速ネットワークが1つ敷かれていると、いろいろな研究者や企業人が集まってきて、技術のシナジー効果が出てきています。そして人的ネットワークワークもつながっていき、世界初のことができているのかなぁと思っています。

丸山:ええ、そうですね。本当に感謝しています。ユーザとしてありがたく使わせていただき、いろいろな人たちとも知り合うことができました。先ほどの在阪の放送局も小林先生のお力で紹介していただきましたね。

小林:その放送局には伝説的に有名な香取さんという方がいらして、以前、大阪のラジオ局を全部集めて、インターネットラジオの配信を世界で最初にやったんですけれど、その仕組みもこの流れですね。今、香取さんはインターネットラジオ「radiko」の取締役です。

───次々と世界初が出てきますが、先生方の好奇心とやりたいという気持ちはすごいです。「考えたら、まずやる」ということでしょうか?

小林:僕は変なんですよ(笑)。ただ、やりたくないことはやめる、そして飽きたらたやめるという特徴はありますけど・・・、やってみないとわからないからやるんです。 研究に予算を付ける方々は「それは何になるの?」「失敗するんだったら、やらせない」ということがありますが、失敗するかもしれないと思うからこそ、やるんです! 最初から成功するのが分かっているものなら、僕がやらなくても、きっといいんです。確実に成功して利益を得られることがわかっていたら、民間の資金でやりますよ。でも、そうではないからこそ、研究でやってみる必要があると思っています。

丸山:企業内にいたときにも、同じようなことがありますが、上司に説明するのが私の役目だと考えていました。NTTも新しい市場を作らなければいけないので、「放送局さんを巻き込んで、新しいことをやります」という形で納得いただき、それでサポートしてもらったので、小林先生ほど大変じゃなかったと思います。ただ、先ほどお話ししたように入社から10年目までは会社の方針のシステムの研究開発を進め、興味のあったIPの研究を5時以降にやらせていただきましたので、そういう困難な中で「やってやろう!」というハングリー精神は養われたのかなと思っています。

───丸山先生の5時以降の研究は、NTTで商品化につながっているとのことですし、「必要なことはやる」という気概は研究者として、重要な心構えですね。


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*1: 2015年2月に実施された"さっぽろ雪まつり"の8K非圧縮映像 100Gbps回線上、IPマルチキャスト伝送実験。詳細はNICTのプレスリリースを参照


2015年2月の「さっぽろ雪まつり」8K非圧縮映像 100Gbps回線上、IPマルチキャスト伝送実験
【写真1-1】
2015年2月の「さっぽろ雪まつり」
8K非圧縮映像 100Gbps回線上、
IPマルチキャスト伝送実験

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倉敷芸術科学大学の小林教授
倉敷芸術科学大学の小林教授



神奈川工科大学の丸山教授
神奈川工科大学の丸山教授



*2「OSI」(Open Systems Interconnectionの略):
さまざまなコンピュータやネットワーク機器を相互に接続し、データ通信を行うためのプロトコル。別名は開放型システム間相互接続。1977年に国際標準化機構(ISO)によって策定されたのち、国際電気通信連合(ITU-T)によって勧告された。OSIで定められたネットワーク構造は、コンピュータが持つべき通信機能を7階層に分類した「 OSI参照モデル」にまとめられ、ネットワークプロトコルの階層モデル化の分野における標準となっている。



*3「MAPOS」(Multiple Access Protocol Over SONET/SDHの略):
電話キャリアが全国で使用している光ファイバの高速同期網(SDH<日本・欧州>/SONET<米国>: Synchronous Didgital Hierarchy/Synchronous Optical NETwork)を用いて、多重アクセスを可能にする仕組みをNTT研究所が1997年に提案した。IPプロトコルと親和性が高い特徴を持つ。(RFC2171-2176)

*4「HD-SDI」(High Definition-Serial Digital Interface):
放送用ハイビジョンデジタルVTRで多く採用されている信号規格。SD-SDI(Standard Definition - Serial Digital Interface)の270Mbpsと360Mbpsに比べ、高いビットストリーム(1.4835Gbpsと1.485Gbps)となり、非圧縮のハイビジョン映像を1チャンネルとPCM音声信号を16チャンネル持ち、タイム・コードなどのデータを多重して伝送できる。日本国内では1995年にBTAS-004として、米国ではSMPTE292Mとして規格化されている。



*5「LIME」( Lightweight Interactive Multimedia Environment for IPTV serviceの略):
インターネット上でテレビ受像機に映像配信を行うためITU(国際電気通信連合)において議論され、ITU-T H.762勧告として採用された世界標準規格。



*6「COP4」:
1998年11月に開催された国連気候変動枠組条約第4回締約国会議、通称アルゼンチン会議とも呼ばれる。地球の温暖化問題を検討している。なお、第3回が京都で開催された「COP3/京都会議」(1997年12月)。

  • 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)
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