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JGN-Xインタビューvol.013

【JGN-Xユーザ・インタビュー】『2020年オリンピックイヤーに向かって! 超高精細の映像伝送、そしてその未来とは?』

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2. 多くのユーザが利用できる100Gbpsのネットワーク環境があるからこそ、
 長時間繰り返しトライし、改善可能
― 2020年に向けて、超高精細映像の伝送技術だけでなく、コンテンツの撮影方法・編集方法も変わる ―

───100Gbps上における非圧縮映像の伝送やIPマルチキャスト伝送実験は、2020年のオリンピックを目指していらしたんですか?

小林:いえ、「はじめにオリンピックありき」ではありません。

丸山:特に、オリンピックとは言っていませんが・・・。後からですね、オリンピックが決まったのは。2012年から現在の大学に着任しておりますが、2年ほど前のADVNET*1のときに、「回線がだんだん細くなってきたので、ちょっと太くしませんか?」と小林先生にお話ししたら、「100Gbpsできるよ、8Kができるよ」ということになったんですね。

小林:実は以前にも世界初を狙って、JGNを100Gbps化しようということを考えていたんですけれど、なかなか予算がつかず・・・。ようやく2年前にできそうだということになって、ADVNETのときに相談したんです。

丸山:そうなんです。そうしたら、いろいろな事業者から「手伝う、手伝う!」という話になり、トントン拍子で話が進みましたね。ベースとなっている伝送・蓄積配信技術は、前職のNTT未来ねっと研究所で開発したものです。

【図2-1】雪まつりの主な実験フォーメーション
【図2-1】雪まつりの主な実験フォーメーション
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小林:でも、100Gbpsのネットワークがそもそも国内にまずありませんから、それで2014年2月の雪まつりで初めて100Gbpsで8Kをやったときには、回線もカメラ、表示装置、通信装置も各事業者から全部借りて実験を行ったんです。「このカメラ1台で1億円」「このモジュールだけで3,000万円」という金額の話を聞くと、「ありがとう」としか言えなかったですね。皆さん、それぞれの分野で世界初の技術をやっていた人達です。でも、それらをプレゼンテーションする場がなかったわけですから、それらを全部合体させた実験フォーメーション(図2-1参照)になったんです。8Kのカメラマンについてはプロが誰もいませんから、キー局や準キー局ではなく、初めて使う北海道HTBさんにお願いしました。

───関係者のモチベーション、心意気が素晴らしいです。プレゼンテーションの場として、JGN-Xが100Gbpsになった意味は大きいですね。

小林:多分100Gbpsにしないと分からないことって、たくさんあるんですね。100Mを1Gにしたときも、1Gを10Gにしたときも同じに「こんなに大変」という経験をたくさんしてきたように、「10Gを100Gにしても同じような経験があるに違いない」とやってみると、やはりちゃんとあるわけです! 例えば、計測できると思っていたのにうまく測れないとか。そのときに、原因はプログラム側にあるのか、装置側なのか、運用技術なのかと切り分けをして解決をしていくことで技術がこなれていき、最終的には企業や行政が利用するようになっていくわけですが、その過程を短縮したいですよね。最近は通信事業者が増えてきていますが、それぞれの事業者が最先端の装置を各自で導入して試験をして、エンドユーザであるお客様に提供するところまで持って行くことは難しい。ある程度まで試せるレベルまで誰かが頑張り、そのノウハウを使ってフィードバックしたあと、簡単にセカンド・トライができる状況を作っていかないと、実業には広がっていかないと思います。そういう意味で、NICTのようなところが通信事業者がやる前に試せる環境を用意して、例えば「実業に利用できるか」「2020年のオリンピックで、この技術はどう使えるのか」などということを事前に一緒に確認できたり、一人よがりじゃなく第三者がやっても同じ結果になるということを確認できたりすることが、すごく大事だと思っています。

【図2-2】100Gが追加されたJGN-Xのネットワーク構成 (2014.10現在)
【図2-2】100Gが追加されたJGN-Xのネットワーク構成 (2014.10現在)
<100Gのアクセスポイントは7箇所/小金井・大手町(2)・名古屋・大阪(2)・北陸>
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───開発側には分かりきったことでも、他の人が使うと「どうして」「使えない」ということは多々ありますから、多くの方に使ってもらえるテストベッド環境での実験は重要になりますよね?

小林:はい。最初にやるということも大事ですが、長期間繰り返しやっていくことも大事で、その中で新たな問題点や改善すべき点が見つかると思うんです。JGN-Xのようなテストベッドのネットワークで、いろいろなユーザがそれぞれのアプローチでいろいろなアプリケーションを動かしていくと、その結果がベンダー側にフィードバックされて現実的な装置として完成度が上がり、さらにその装置を通信事業者が採用し、一般ユーザ向けサービスに落ちていく流れになると思います。このように考えると、2020年のオリンピックのときには通信情報サービスがどのようになっているのか・・・。一般ユーザがスマホで4Kの放送を見る、自宅では8Kでしょうか? いや放送はHDのままでインターネットだけ8Kが見られるという状態かもしれません。現在、パソコンの4Kディスプレイは普通ですが、テレビの4Kはほとんど普及していないですからね。最近放送局の人たちと話しているのは、超高精細映像の伝送は衛星や地上波の電波を使おうが、ケーブルやインターネット、携帯の電波を使おうが、通信量や届ける方法が違うだけ。一番大事なのはどういうコンテンツを作り、どういう意図で一般ユーザに届けられるかという編成なんです。これが放送局の本質なんだから、地上波にこだわるなということです。

───なるほど、超高精細映像の伝送の方法は、放送局・ケーブル・インターネットとなんでもいいんですね。要は、それぞれ餅は餅屋でどうやって伝送するのかを考えればいいということですね。

小林:そう、それぞれが分業すればいいんです。こう考えれば、コンテンツを作る側も企画する側も、新しい時代に向けてできることを少しずつやっていけば、コンテンツの作り方も違ってくると思うんです。流すものがなければ、伝送だけでは何の意味もありません。余談ですが、3D映像ブームが放送業界でもちょっとあったときに、阪神球団のオープン戦を初めてデュアルの3Dカメラで撮影したんです。でも動きが速い場合、なんとユニフォームの縦縞がなくなってしまい、球団からむっちゃ怒られました(笑)。こういうこともカメラメーカーにフィードバックし、「まだ本放送に使える技術じゃない」ということになりましたが、こういうのは実験するから確認できるわけです。それで、8Kの話に戻りますが、今、NICT大手町の向こう側の部屋に日本に3台しかない8Kカメラのうちの1台があります。もちろん借りているんですが、きれいに映りすぎて、もうひどい!

───「ひどい」ですか? 「8Kカメラの映像はすごい」の間違いではないんですか?

小林:HD映像のときでさえ、テレビ局の女子アナウンサーは「絶対にいや」と言ったと言いますが、8Kはそんなもんじゃないんです。化粧の技術も革新してくるんじゃないですか。スポーツ部の人たちと話すと、「ゴルフ中継が変わるよね」という話になります。今は打ったボールをカメラで追って撮影するのに大変な技能が必要ですし、たくさんのホールで同時にプレイしているので、そんなプロの技術を持ったカメラマンをたくさん集めなきゃいけないわけです。ところが、8Kではきっちり狙わなくてもだいたいで撮ればボールが入っていますから、その一部をHDでクリッピングするだけでいい。つまり、撮影の仕方も変わってきますね。そういう訓練を積んだプロでなくてもよいわけですね。

───そうやって撮影した8Kの非圧縮映像素材は、編集が大事になってきますね。このあたりは丸山先生の研究になると思いますが、いかがでしょう。

丸山:そうですね。放送局の編集業務は、それぞれの局周辺に集まってやっていると思いますが、ネットワークの力を借りれば日本全国、場合によっては海外でもバラバラの場所でOKという世界が作れたらと考えています。先ほどの小林先生のお話にも出てきましたが、3Dだ・4Kだ・次は8Kだといろいろ方式がドンドン出てきて機材も変わって行くわけですよ。その機材をすべて各放送局で用意するのは無理ではないかと気がしています。だとすると、高速ネットワークとクラウドを上手く使うことで、億単位の金額の8K編集システムを使いたいときだけ時間貸しで利用し、リアルタイムで編集できたら、便利で面白い世界になると思います。それこそパソコンからつないで編集ができたら素晴らしい。こちらのテストベッド研究開発推進センターさんにはStarBED3がありますから、そこを使って最初の実験をしようとしています。

小林:StarBED3のハードウェアごと借りてクラウドチックに仕立て、ネットワークと組み合わせてリアルタイム処理またはオフライン処理して、映像加工ができるようにする。コンピューティングプールと、それら同士を接続する高速ネットワーク、賢いソフトウェアがあればできますね。

2014年2月の「8K非圧縮映像”さっぽろ雪まつり”の超高速伝送実験」のイメージ
【図2-3】「8K超高精細映像素材の選択的利用」の実験イメージ
(2015年2月「"さっぽろ雪まつり" 8K非圧縮映像のIPマルチキャスト伝送実験」)
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───素敵ですね。2015年2月の「8K超高精細映像素材の選択的利用」実験では、どこまで進んだのですか?

丸山:8Kの非圧縮映像用のサーバを仮想的に立ち上げ、データを蓄積配信するところまでですね。あと一部ですが、加工もやっています。また、クラウド側のデータは8Kのままですが、パソコンのディスプレイで見ながら編集するために、H264程度の画質まで落としています。プロキシ映像というのですが、この映像で粗編集し、出来上がりはちゃんと8Kで出すというのが放送局側からの要望なんです。こういうワークフローを考えて、うまく提案できるよう、いくつかトライアルしていこうと思っています。

小林:8Kで撮影した素材を全部扱おうとするとすごいデータ量になるので、本放送で使うとか素材で利用するところだけをクリッピングして、大まかなものを作って取っておくんです。これが粗編集です。

丸山:放送の業界用語では、クリッピングを「つまむ」と言うそうです。

───丸山先生の研究室の生徒さんたちも、8Kのディスプレイがないので、4Kを4つつなげて8Kディスプレイを作ったとお聞きしています。

神奈川工科大学が作成した8K映像表示装置とトラフィックメータ
【写真2-1】
神奈川工科大学が作成した
8K映像表示装置とトラヒックメータ

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丸山:そうなんです。小林先生と8Kを始めたときには、機材もコンテンツも何もなかったんです。ディスプレイも借りられるかどうかわからなかったので、4Kのディスプレイを4台買ってきて、新品の周りの枠をバリバリ外して並べて造ったんです。同一ロットのものでないと色が微妙に違ってしまうので、メーカーさんにお願いをしました。また、ネットワークモニターもなかったので、作りました。リアルタイムでトラブルが見えて便利でした。

───昨年のInterop Tokyo 2014のNICTブースで、このネットワークモニターを拝見しました。今年のInterop Tokyo 2015では、8Kディスプレイとネットワークモニターを拝見できるんですか?

丸山:はい、今年は神奈川工科大学のブースでやります。メーカーさんから8Kのディスプレイを借りる予定でしたが、決めたのが遅くて借りられなかったので、研究室のメンバーで作ったものを3m×3mのブースに入れて展示します。暑いだろうなぁ。また、2015年2月の雪まつりの際は、当初はStarBED3に組んだ仮想8Kサーバにバグがあり、正常に動かなかったんですが、本番当日まで何が原因かわからない状態でした。でも、このネットワークモニターで高精度に可視化することによって、トラヒック量が微妙にゆれているところが見つかり、バグのポイントが分かったんです。

───この可視化が、小林先生が先ほどおっしゃっていたトラブルの原因を見つける話につながるんですね。

丸山:それも、そうです。

小林:はい、いっぱい見つかっています。ネットワークの通信装置のバグも見つけましたし、100G回線対応ルータの不具合も見つけました。もちろん、これで切り分けができるから、すぐに直してもらいました。

丸山:ラボの中だけでは、特定のアプリケーションを1つずつしかやらないので、やはり検証ができないんですよ。ですから、JGN-Xのような広域網を使ってたくさんのアプリケーションを全部やるので、いいんです。

小林:それぞれの事業者は、自分のラボでちゃんと動くことを確認して持ち寄るわけですが、それが動かないと相手のせいにしてしまいがち。ところが、持ち寄ったところにコーディネータがいれば、可視化したモニターを使ってどこが悪いという判断をして、「ここを調べて!」と言ったことをきちんとドライブしていくと、比較的短時間で原因が分かり対策がなされて、次の実験ができるんです。去年の2月はこのモニタリングを1つのチャンネルだけでやっていましたが、今年は多チャンネルにしてみました。そうすると突然難度がアップするんですが、メーカーもすぐにはできないというところもあるんですね。でも、今回、6月のInterop会場はそのメーカー製のものになっていますから、この4カ月かけてできるように頑張って直したらしいです。「競合メーカーはできた!」「じゃあ、うちも頑張ります」という感じ・・・。

───お互いに競争させることが、技術の進歩や研究推進のために大事ということでしょうか?

小林:意図的に競争させることが大事なのではなく、エンドユーザとしては選択可能な複数の選択肢があった方が良いと思うんです。メーカーさんによってアプローチが違うので、いろいろな方法が出てきていいものができてくる。新しい技術は、必ずそうだと思っています。でも、新しいものが出てくるとその瞬間、皆さんはそれをイノベーションとよく言いますが、僕はそうは思っていません。取捨選択などたくさんのステップを経て、その技術が世の中で当たり前になったときに、振り返ってそれが最終的にイノベーションだったということなんです。歴史的には、デジカメだってCDだって、車や冷蔵庫や炊飯器だって同じでしょう。今は当たり前ですよね。そういう当たり前の技術にできたらいいですね。だからこそ、そのためには「同じ研究を米国でやっているから、やる必要がない」というのはまずいと思っています。その研究ステップを踏むことによって、同じ失敗を経験できることが大事で、その失敗の経験が追い越すためには必要なんです。スポーツでも、誰かの後ろを走らないと、自分との違いが判らないので、走り方の改善は絶対にできない。同じ原理だと思って、僕は人の後ろだって気にせずに、やっているんです。

───お二人とも、興味のあることに貪欲で、失敗や苦労したことで次の課題につながり、どんどん柔軟に変わり続けていらっしゃるんですね。最後に、先生方の今後の夢を教えてください。

小林:夢ですか・・・? そんなに先は考えていません。でも、例えば今欲しいものはと考えると、歩いているときに目の前に空中に浮いているディスプレイですね。今あるメガネ式や手で持つタイプは絶対にいや、自分だけが見えるものがいいんです。「それを実現するために、欠けている技術は何か?」と考えていくと、位置を推定してその相対位置に投影する技術、投影した像を結ぶ技術が必要だとなるんですね。霧なんかと違って、目に見えないけれど像を結ぶにはPM2.5の粒子なんかはサイズ的に最適かも、でも身体への毒性は消さなきゃいけないですね(笑)。考えることはいっぱいあります。

───小林先生の場合は、将来に向けての夢というより、次々と考えることが尽きないんですね。では、丸山先生はいかがですか?

丸山:私の夢は、もっとそう遠くのことではなく、今やっていることの流れで、クラウドを使って、8K非圧縮映像編集をうまくワークフローとしてできるようにすることが一番ですね。その上で、2020年の東京オリンピックで使える技術の1つとしてお役に立てるものであればうれしいです。ぜひ、世界に向けた発信の機会にしたいです。

───これからも、2020年のオリンピックそしてその先へと、超高精細映像の伝送や編集の動向に注目していきたいと思います。
今日は、ありがとうございました。

【JGN-X及びこれらの技術に関するお問い合わせ先】
  jgncenter@jgn-x.jp


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*1「ADVNET」: 広帯域ネットワーク利用に関するワークショップ。アプリケーション分野の研究者やネットワーク運用者・研究者が集まり、成功例・失敗例などの情報を交換・蓄積し、議論する場。今年度のADVNETについては、こちらを参照ください。


丸山教授と小林教授(左から)
丸山教授と小林教授(左から)

 







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