【下條センター長に訊く『JGN-Xが目指す先とは?』】
───ではその結果、インターネットが新世代ネットワークになると、私達の未来はどうなるのでしょう? また、どんなメリットがありますか?
その1つの出口は、医療情報ですね。個人の医療記録をネットワークで効率よく収集して医療機関とつなげ、予防や治療のコントロールをきちんとしたり、いち早く病気を見つけたりできるようになります。また、たくさんの情報をビッグデータとして活用することで、新しい治療法の開発に役立てたりできます。医療情報は個人情報の塊ですから、非常に高セキュリティのネットワークが必要になる。今の悩みはセキュリティレベルが全く違うので、個人情報を簡単に自宅でも職場でも旅行先でも、いつでもどこでも効率よく収集するために必要なインターネットと、医療機関側の医療ネットワークを1つにすることはできない。でも、それらを新世代ネットワーク技術の仮想化ネットワークの中に重ねることで、普通のネットワークの上に医療専用ネットワークを囲うことができます。
これが実現すれば、個人の健康管理と医療費軽減が実現するだけでなく、日本の財政を圧迫している医療費全体の削減へという、重要な未来が見えてきます。
───次のメリットには、どんなことがありますか?
はい、次の出口ですが・・・。スマートフォンが増え、ネットワークがパンパンになってきて、使えなくなる事故がよく起きるようになってきています。今までの携帯電話では音声中心のネットワークでしたが、スマホになると位置情報や移動情報などを常時送るので、データ通信量が増加するからなのです。さらには、IOT(Internet of Things)という時代に入り、スマートフォンに加え、スマートメータ、自動車や電気製品・日用品などいろいろなモノにセンサーやタグが埋め込まれてネットワークされ、モノからの情報があふれるようになってきました。人間と違い、情報を出し続けてもモノは疲れませんから、情報は増える一方だし、移動しているモノは常時その移動情報もネットワークに流し続けます。
しかし、今のネットワークのままではこれら多様・大容量の情報に対応できないので、セキュア・高速・高品質なネットワークにしていくということも、もう1つのゴールですね。
そうすると快適な生活が送れるとともに、エネルギー効率がよい社会になります。
───医療情報も、いろいろなモノが発する情報も、それぞれを区別して収集・分析できなくてはいけないので、ここでも先ほどの仮想化ネットワークの技術が必要になるんですね?
はい、そうですね。特に医療情報などには血糖値・尿酸値や病歴・治療内容などクリティカルな情報もたくさんあるので、高セキュアなネットワークであるとともに、どこにいても情報を収集できるという機能も重要ですね。 また、モノを特定する方法として、今まではIPアドレスを使っていましたが、移動するものを特定するにはIPアドレスではだめなんです。場所が変わるとネットワーク自体が変わってしますので、連続してモノを追いかけることができない。その問題を解決する技術が、ID/ロケーター分離です。モノが持つ情報を、モノ自体を特定するIDと位置を示すロケーターに分離することで、同じIDで通信のセッションを切ることなく、情報を収集できるという技術なんですね。
───これら2つ以外にも、私達にメリットがありそうな未来はありますか?
そうですね、クラウドロボットというものもあります。スマートフォンに向かって話しかけると画面に答えを返してくるアプリのように、ロボット自体の頭脳を高めるのではなく、ネットワーク経由でロボットのセンサーが集めた情報を元にクラウド側で判断し、クラウド側からの指示で部屋をきれいにします。しかも、各家庭での経験情報を共有して問題を整理・学習して次に役立てることができるので、ますます賢くなり便利になります。
───なるほど。つまり、クラウド側にいろいろなセンサーからの膨大な情報=ビッグデータを処理する機能があれば、データマイニングも・・・
はい、IOTで狙っているのがそれなんです。世の中には今、いろいろなセンサーがばらまかれているので、それらの発する情報がネットワーク経由でクラウドに上がってくれば、製品の課題だけでなく、地域ごとのエネルギー使用状況や道路の混雑状況なども、正確にわかり、素早くきめ細やかな対応ができるようになりますね。
───企業にとっても地域にとっても、メリットが大きい技術ですね。