【下條センター長に訊く『JGN-Xが目指す先とは?』】
───では、新世代ネットワーク構築のために必要なことはなんでしょう?
まず、JGN-Xの研究者たちのマインドセットを変えることが重要だと思います。
今まで研究というと後追い型が多く、欧米の誰かが示した目標に向かい、改良とか別の良い方法を見つけるということが中心でした。しかし、今ネットワークの世界では、欧米が描く目標や夢がしっかりあるわけではない。だからこそJGN-Xで、僕らが自ら新しいもの、新しい世界を作っていくというマインドセットに切替え、しっかり進んでいきたいと考えています。
日本は世界の中で中レベルの人口密度がある国で、ICTにもなじみが深い国民性なので、ここで新世代ネットワーク技術が出てきて活用が進めば、将来、世界中がほしがる技術に成長していく可能性があります。これを先頭に立って、伸ばしていきたいのです。
そのときに必要になるのは、海外のニーズを知ることです。JGN-Xで作った技術が海外に出ていく道筋を作るために、JGN-Xの国際展開として、タイ・シンガポール・香港・アメリカ・韓国の5か国とネットワークがつながっています。
───JGN-Xは、新世代ネットワーク技術を国内で開発して利用することだけでなく、世界に広めるための足掛かりということですか?
先ほどの未来の話も、国内だけをターゲットにしているわけではありません。JGN-Xの研究者は、国際回線がつながっている各国の現場研究者に対しても教えつつアシストし、新世代ネットワーク技術やサービスを広げています。その結果、海外でも同じインフラレベルで研究ができる環境になっています。
彼らにとっては新世代ネットワークがすぐ使えるメリットがあると同時に、海外からの新しいニーズが出てくる可能性があります。
───海外のニーズというと・・・
液晶テレビを例にとると、日本国内の「少しぐらい高くても、高精細で残像がないものがいい」というニーズと違い、アジア圏では「きれいより、安い方がいい」「とにかく薄型の液晶がほしい」というニーズになんですね。日本国内をターゲットにしていると、こういう現地の声がわかりにくい。
これに対してJGN-Xでは国際回線があるので、ネットワークについてのニーズがはっきりわかる。これが、強味です。
───JGN-Xの国際回線で一緒に研究するからこそ、ダイレクトにわかるということですね。
国ごとに成長度合いが違い、ニーズも利用シーンも違いますので、それを考慮して品質レベルを合わせるなど戦略を変えて切り込んでいくことが大切だと思っています。そこで、日本製品や技術のファンになってくれれば、国の成長に合わせ、日本人仕様の品質レベルがほしくなると思うのです。そういう長期スパンでの国際戦略と目標を立て、進んでいけばいいのです。
そのために、JGN-Xはテストベッド=砂場として、各国の研究者とともに研究しながら、情報を収集しつつ、将来的な新世代ネットワークのコアになる技術を作るという目標に向かい、いろいろ体験をしていきたいと考えています。
───JGN-Xでのいろいろな体験とは?
テストベッドでよい成果を出していきたいとは思いますが、研究の中の実験としては、失敗するというかネットワークが切れることがあってもいいということです。ビジネス環境ではネットワークが切れるということは許されませんが、研究の中ではこういう状況で切れるという途中結果を得たことになりますから、これも大事ですね。
また、JGN-Xでプロトタイプ構築を目指すとお話ししましたが、新世代ネットワークの最終形=ビジネスで使えるようなしっかりとしたところまで作るというより・・・。マルチレイヤのJGN-Xネットワーク上で成熟した技術・サービスになる前の段階のものを研究者・ユーザに使っていただくことにより、うまくコアとなるものもあれば、途中でなくなる場合もあるし、一部を変更して違う方向に育っていくこともあると考えています。
だからこそ、国内外の多くのユーザに研究者と一緒に使っていただき、その体験の中で技術を伸ばしていきたいですね。