【JGN-Xユーザ座談会】『震災の経験を活かし、非常時に役立つICTを考える!』
───先ほど「柔軟性・頑強性の方向への対応が必要」というお話がありましたが、災害時にはサーバや線が切れてしまうことがあります。それをどうするのかということも、先生たちの研究テーマだと思うのですが・・・
柴田:まずは、壊れているか壊れていないか、つながっているのかつながっていないのかを認知・判断する。次に壊れている部分なら、全体を見ながら、あるいは分散のアルゴリズムを使って、どのように組み直すか考える。その上で、ネットワークがつながらない確率を最小限にする方法も研究しています。
たとえば絶対つながる方法として、地震の影響がない衛星をネットワークに組み込むこともあります。ただ衛星は帯域が狭いし遅延が大きい。費用も掛かるので、すべてを衛星で賄うわけにはいきませんが、いろいろなものを環境や状況に合わせて、うまく柔軟に組み替えることを考えています。
───そのためには、ネットワークが今どういう状況なのかをすぐ見られる、コントロールセンターのようなものが各地にあるといいですね。
橋本:はい。実際にどこに問題があるのか、すぐ見て分かるっていうのは非常に重要なことだと思います。また、切れていたらどう対応するのか、これもまた一つ重要ですよね。そこを物理的に修復しますが、常時つながっているものが切れるのは非常に困るわけですから、その前にネットワークベースの技術で、違うパスでつなぎ直すこともできます。
───切れた部分を迂回して、違うパスでつなぎ直す技術というのは、OpenFlowを利用されているのですか?
柴田:それも、我々の研究におけるソリューションの1つですね。
橋本:もちろん、SDN(Software Defined Network)、OpenFlowのような技術がなくても、アプリケーションごとに頑張れば、パスをつなぎ直してネットワークを回復できるかもしれません。でも、ネットワーク基盤側で簡単かつ瞬時に切り替えられるなら、アプリケーション側で経路の心配をしなくても済むので、重要ですね。
───早く、簡単にできるんですか?
柴田:早くというより、組織的にできるんです。
橋本:簡単にするために、今、研究しています。
山口:OpenFlowはSDNの技術の1つで、SDNとしての取り組みはまだまだ開発要素がありますが、特徴はネットワークの制御をプログラマブルに行えることです。この機能を活かすと、今お話に出ているパスなどのネットワーク設定を動的に切り替えたり、フロー制御が行えます。フロー制御については、例えば、非常時にはネットワークが細くなることが多いので、流すべき情報を優先度に合わせてコントロールすることが可能になります。災害発生時には行政側からの緊急情報や避難情報等のダウンリンクを優先して流し、被災直後からは現場からの被害状況や安否情報等の優先度の高いアップリンクも流すような制御ができるようになります。その後も、ネットワーク環境の回復状況に応じた優先度を踏まえて、ネットワーク制御を行うことが技術的に可能になります。
───SDNを使ったネットワークのフロー制御は、東日本大震災直後の東北自動車道の交通規制と似てる感じがします。
山口:はい、道路規制を柔軟に作るような考え方です。
柴田:非常時には最も送らなければならない情報を優先的に流し、それ以外は次にするという考え方です。
───つまり、状況というか復興のフェーズに合わせても、フローを制御できるということですか?
福本:今までは難しかったけれども、少なくともできるようになってきているということは確かです。
山口:今までのネットワークは、まずつなぐことが最優先。ですから接続点のノードはシンプルなつくりで、どんな情報も同じように流すようになっています。JGN-Xのような太い回線でも多くの人が無制限に使い出すと、現状ではオーバーフローになる可能性がある。だから、SDNの技術を利用して、1つのネットワークでもスライスして高速道路と一般道のような部分に分けたり、高速部分をフロー制御したりして、資源を活用することが大事になります。
福本:それと、OpenFlowやSDNなどの新しい技術で、今後、期待していることがあります。企業や大学のLANは冗長化とか専門の監視人がいたりするので、ネットワークが切れることはありませんが、全国のネットワークをすべて冗長化したり、監視できる人を全ての場所に配置するのは、無理があります。これらの新しい技術なら、そういうことをしなくても1本の線を二重に使ったり、自動でパス切替やフロー制御もできたりするのではないかと、考えています。
───先生方の研究がより進めば、ネットワークがつながって、被災地の方たちは必要な情報をやりとりできるというわけですね。情報が途切れないというのは安心につながります。
山口:まだ問題があります。今回の震災でもそうでしたが、通信の世界では、ネットワークがつながっていても、物理的に電気が切れると情報が流れないんです。電源を確保しておくことが重要。今回の震災で教訓として、重要拠点に発発(発動発電機)を置いておくなど、電源確保の知見も溜まったと思います。
柴田:震災時の携帯電話も、まさにその状況。先ほどまでつながっていたのに、何も聞こえない。一番つながってほしい時に困りました。
福本:基地局の電源の問題でしょうね。メッシュで情報につなげるようになったとしても、これではダメですね。
研究室でも今まで電力の瞬断を想定し、UPS(無停電電源装置)は置いてありますが、電力の供給が止まると、30分程度しかもたない。「ネットワークのパスを切り替えても使えない!」とならないためにも、電力が回復するまで、自家発電機用の燃料も、1週間ぐらい準備しておかないといけません。
柴田:その燃料もなくなると、それも終わり。今回の地震ではガソリンもものすごく入手困難でした。これからは風力やソーラーなどの再生エネルギーが大事。それらでハーベスト基地のようなものを準備することも大切です。
岩手郡葛巻町では、町全体の電力を再生エネルギー(風力・太陽光・バイオ等)で賄っており、今回の震災で電力が完全に止まっても、サイレンや災害情報を流すことができたんです。電力についても、先を読んで準備することは大事ですね。
───本当に、電力も重要。家庭でも停電したら、ネットワークにつなげないことを思い出しました。1つに頼りきるのではなく、マルチで対応できるようにすることが大事なんですね。でもお金がかかりますね・・・
柴田:確かにお金もかかりますが、いろいろ予測して準備しているところといないところの差は、歴然としています。
何もおこらなければわかりませんが、災害が発生すると「あそこはつながっている、動いているぞ」と、その重要性がわかるんです。
福本:まさに、災害発生時のネットワークには電力が必須です。