【JGN-Xユーザ座談会】『震災の経験を活かし、非常時に役立つICTを考える!』
───最後に、先生たちお一人おひとりの、研究の方向について、ぜひお聞かせください。
柴田:私は、ネットワークそのものよりも、それをいかに利活用するかが、これから重要になると考えています。日本国あまねく、首都圏でも条件的不利地域でもどこでも使える利活用をこれからやっていきたいと思いますね。
今回被災したところは最も厳しい状況だと思うんですけど、そこでやれることは教育・医療・介護などたくさんあり、それらの問題をどういうふうに解決していくかをしっかりやっていきたい。それで得られた解決策は他の地域でも使えますし、それを広げていけば、少子高齢化の時代でも、豊かな日本になるんじゃないかなと考えています。
それらの解決策を見つけるには、先ほどもお話しましたが、やはり現場に行って住民や自治体の職員と対話し、その上でどういうものを作って行くかを考えるという人間のコミュニケーションから始まると考えています。だからこそ、インフラを細胞のごとく、メッシュ状に張り巡らしていないといけないと思いますね。
───ICTって技術だけと思われがちですが、その利活用に関する解決策は人間同士のコミュニケーションから生まれるんですね。では、福本先生、お願いします。
福本:柴田先生に総括されてしまいました(笑)ので、少し別の見方でお話ししたいと思います。
われわれは大学という教育機関にいますので、将来を担う子供たちにICTに興味を持ってもらうことも大事だと考えています。今JGN-Xを使って研究していますと、子供たち向けの講演を依頼されるので、いつもこんな話をしています。「今、JGN-Xでやっているのは、次のインターネットを作ること。今から興味さえ持てば、君たちが次のインターネットの発明者になれるよ!」と。そうすると、子供たちの目が輝いてくるんです。
日本発の技術で、世界の次のネットワークを作って行く。そんな人材を生み出していくということは、ものすごく大事なことだと思います。
───日本初の技術を生み出す人材の育成ですか?
福本:そうですね。子供たちも大学生も同じですが、「ネットワークも携帯も、普通に使える。だから、自分たちがやることは何もない」という感じで、自分たちで新しいものを作る気概が、ちょっと弱くなっていると思います。
でも、JGN-Xは実験に使うネットワークですから、学生は興味があれば、なんでもできる、ストレートにいえば遊びにも使えるわけです。楽しみながら使うこと、それが次のネットワークのアイデアにきっとつながると思います。大学生ぐらいまで行くとちょっと手遅れかなぁ、できれば私たちの話に目を輝かして夢を持つことができる子供のうちから、遊びながら使わせるということが、大事かもしれません。
───「鉄は熱いうちに打て」ですか?
福本:そういった意味でも、JGN-Xって象徴的なものとして、すごくいいものだと思っています。
───この中で一番若いのは、橋本先生ですね(笑)。実際、JGNを遊びながら使っていらした世代ではないかと思いますが、これからの先生の研究はどういう方向に進む予定ですか?
橋本:私が研究している「MidField System」。これはデモでお見せしたオーディオ・ビデオフォーマットを用いて実現する多地点間相互通信ですが、ビデオ通信ということで言えば、この10年で本当に身近になり、スマートフォンを使って誰でも簡単にできる時代になりました。
しかし、「MidField System」を数十カ所、百カ所と常時接続状態にしておけば、災害の際などトラブルがあればこちらでも相手先でもすぐにわかるし、それをどう復旧するかという部分については、研究開発の余地がまだまだ残されています。この復旧こそ、まさしく私がずっと開発してきたことにおいて重要なポイントで、「いかに復帰しやすくするか」「何十カ所のトラブルを多面的に、一気にどう復帰させるか」ということを研究開発の課題に取り入れていければと考えています。
こういった実験にあたって、今JGN-Xは、「MidField System」のようなアプリケーションレベルだけでやるのか、それともネットワークの方でやってみるのか、そんな使い方のチョイスが今できるようになってきています。そういう意味で、JGN-Xは本当にいろいろな実験のし甲斐がある、いい遊び場ですから、どんどん使っていきたいですね。
───JGN-Xは遊び場ということですから、面白くないといけませんね。
橋本:研究は、面白いと思えることは重要です。
柴田:本当にそうです。
福本:あとは、一緒にやってくれる人がいるともっといい。自分だけでやっていても、あまり面白くないんですよ。その点、JGN-Xを通じて全国の研究者と交流できます。
───先ほどお話の出た研究交流ですね。ヘビーユーザの先生方が、さらにJGN-Xを使いたいと言っていただけるのはうれしいです。では、山口室長からお願いいたします。
山口:今日はありがとうございました。JGN-Xというテストベッドは、医療でいうと臨床試験を行うためのツールだと考えています。研究開発からその実用化へのステップにおいて、実フィールドであるJGN-X上で実証実験を行うことで実用化につながる、詰めの開発にフィードバックしていくことができます。またその過程で、技術の社会への適性自体を評価できたり、プロジェクトを通じた研究者交流の促進に役立ったり、波及効果は非常に大きいものだと思っています。
今までのJGNは、線として役立つ試験環境の意味合いが強かった感がありますが、今後はアクセス系も含めた社会実証が行える視点にもさらに注力できればと考えています。高知の「電子カルテ」の話もありましたが、医療クラウドが高知にあれば、ネットワークを通じてそのクラウド環境をそのまま岩手でも使えるわけですね。1つの自治体や地域で先進的なアプリケーションを作れば、ネットワークを通じて、他の地域に広げていくこともできます。JGN-Xを通じて、そのような面的な展開を加速していくことにも、貢献していきたいと思います。
───例えばネットワークを通じて、医療クラウドを他の地域でも使えるということは、アプリケーションや研究の有効活用ができますね?
福本:はい、相互乗り入れがすぐにできます。
われわれICTの研究者だけでなく、高知県の医療現場からも「いいものを作ったら世界中で使ってもらえる。だから、岩手につながっているのはすごくいいことだ!」という発言が出てきています。
───研究開発したことが、ある地域だけで使われるのではなく、世界にも広がるというフェーズに近づいているとは、素晴らしい!
柴田:そうですね。
山口:JGN-Xはアメリカともアジアともつながっていますから、ぜひ海外と一緒に研究開発を行う国際プロジェクトを進めていただけるとうれしいです。そしてその中でぜひ、将来的な新世代ネットワークのコアになる技術、世界標準を作るという視点でプロジェクトを進めていただけたらと思います。
柴田:JGN2plusのときにイリノイとつなげ、少々大変でしたけれど(笑)、VRの中継をしたことがあります。これからは、 日本独自のユニークさや強みをグローバルにアピールしていけたら、インパクトがあるでしょうね。
───JGN-Xを通じ、日本発のアプリケーションや技術を多くの方に使っていただきたいです。特にTUNAMIという言葉のように、震災を体験された先生方の「大規模災害情報ネットワーク」や「電子カルテ」などの研究開発がグローバルにアピールされることを期待しています。
●座談会を終えて
「MidField System」のデモも含め、2時間があっという間に過ぎた座談会でした。
東日本大震災を乗り越え、南海トラフ巨大地震を含めた災害への対策の研究開発に携わる先生方の思いと姿が頼もしく、この座談会に参加することができて楽しかったです。
長時間、本当にありがとうございました。
【JGN-Xに関するお問い合わせ先】
jgncenter@jgn-x.jp